第243話  いりません!

アイシャは今日の合宿を終え。シャルローゼ先輩にライナを預け。女子寮にくつろいでいた。他校との顔合わせであった模擬レースを終わらせ。シャンゼルグ竜騎士校敷地内の施設を紹介された。明日からは本格的なシャンゼルク竜騎士校の生徒達との合同合宿が始まる。


アイシャは親友のパールとレインと一緒に仲良くおしゃべりをしている。


「しかし本当に凄かったよ。まさか狂姫の二投流をあそこまで使いこなすなんてね。竜騎士科も騎竜乗り科も双方皆口あんぐりあげて呆気にとられてたわよ。いい気味ね。。」

「そうね。アイシャに酷いことした竜騎士科の人達も懲らしめることができて私もスッとしたわ。でもまさか騎竜乗り科の人達もアイシャ達に攻撃仕掛けるなんて。どういうつもりなのかしら?。」

「さあね。私が見たところ竜騎士科と騎竜乗り科のいざこざにアイシャ達が巻き込まれた形みたいだったわね。」


レインは竜騎士科と騎竜乗り科双方にアイシャ達が敵対されているような気がした。


「それよりレインの方は大丈夫だったの?。」


アイシャは竜騎士科の模擬レースで敗北したことを心配していた。



「ああ、それね···。ガーネットが氷結竜に敗北したことがかなり堪えたみたい。氷結竜に言われた炎竜族の中で一番弱いと言われたことがかなりショックで。今は騎竜専用寮部屋で引きこもっているわ。でもまたケロッとして戻ってくるわよ。心配しないで。」


レインの表情は少し曇り。何処か陰りを秘めていた。アイシャ達に心配かけまいと懸命に大丈夫大丈夫と元気であることをアピールする。

暫く三人は談笑して花を咲かせる。


「それよりも私、ライナに申し訳ないことしちゃったなあ~。私だけ活躍して。ライナの活躍奪っちゃった。」


アイシャは自分が二投流の使いこなせるところを見せたくて。ライナの活躍の場を奪ってしまったことに少し負い目を感じていた。


「ライナは気にしてないと思うわよ。」


シャンゼルグ竜騎士校の竜騎士科と騎竜乗り科との組分けの模擬レースでアイシャの二投流の猛攻で竜騎士科と騎竜乗り科、騎竜もろとも倒してしまったことを気にしているようだった。


「そうよ。ライナがそんなことで気にする竜(ドラゴン)じゃないわよ。」

「それより食堂言ってみない?。バイキングやっているみたいよ。」

「バイキング?。何かのお祝い?。」


アイシャは不思議そうに首を傾げる。


「ここの寮の食堂はバイキング方式みたいよ。色んな料理が大皿に並べられていて。それを好きに取り放題なのよ。それに合同合宿だから費用は学校持ちで無料(ただ)よ。」

「そうなんだ····。」


アイシャは少し迷ったように考えこむ。


「ライナのことを考えているの?。」


パールは問いかけられアイシャはコクりと頷く。



「私だけ美味しいもの食べていいのかな?って。」

「大丈夫よ。ライナならシャルローゼ先輩のおじゃなくて家で豪華で豪勢な料理食べているはずよ。何せ王都の貴族よ!。」

「そうよ。ライナならシャルローゼ先輩のおしではなくて。所で楽しくやってるわよ。」

「·····そう···だね··。ライナならきっとシャルローゼ先輩の実家で楽しくやってるよね。うん、解った。一緒に食堂に行こう。」


アイシャは決心し。女子寮にある食堂に向かうことをきめる。


       女子寮専用食堂


わいわい がやがや

女子寮専用食堂ではピンクの制服を着たシャンゼルグ竜騎士校の騎竜乗り科の生徒達で賑わっていた。一部隅っこの席で食事をしているブルーの制服を着た竜騎士科の令嬢生徒もいる。

ピンクの制服を着た騎竜乗り科の令嬢生徒達はアイシャ達が目に入ると,談笑する声がピタリと止まり。一瞬でしーんと静まり返る。騎竜乗り科生徒一同はまるでアイシャ達を腫れ物を見るかのような冷たい目で凝視している。


「気にしないで食事をとりましょう。」


注目されることは解りきっていたので。親友であるレインもパールもアイシャも食事することに専念する。


バイキング方式で並べられた料理の大皿から料理をとって自分の皿へと盛る。そして三人は空いている食堂の席へと座る。アウェーの場所ではあるが。三人は注目される視線を無視したままもくもくと食事を続ける。

視線の的になっている故おしゃべりする余裕もない。

三人はもくもくと食事を続ける。しかしその場にピンクの制服を着た二人令嬢生徒が現れる。


「隣、いいかしら?。」


突然声をかけられるとは思っていなかったアイシャとレインとパールは少し戸惑い困惑する。

その声の主に警戒を覚えながらもどうぞと空いている前側の席をゆずる。


「ありがとう。」


二人はそっと向かい合わせの席に座る。

間のある空気が三人と二人の間に流れる。


「そんなに警戒しないで。貴女達と一緒に食事をしてみたかったの。自己紹介を遅れたわね。私は騎竜乗り科一年のオリン・ナターシスよ。こっちはクラスメイトのラム・カナリエ。」

「宜しく····。」

「どうも私はアイシャ・マーヴェラスです。」

「私はパール・メルドリンといいます。。」

「レイン・ルポンタージュよ。宜しく。」


二人は軽く会釈するが。まだ警戒を解いてない。アイシャの方は純粋に彼女達のことを受け入れているようだったが。二人はまだ騎竜乗り科の令嬢生徒のことを警戒していた。


「それより貴女の模擬レース凄かったわ!。まさか狂姫の二投流を扱えるなんて。殆どの騎竜乗りが狂姫のラチェット・メルクライの二投流を会得することを断念したと聞いているわ。」

「そうなんですか?。確かに特訓は厳しかったけど。耐えられないという訓練でもなかったような···。」


アイシャにとって学園長、狂姫ラチェット・メルクライの特訓が厳しいものであったが。耐えられないものではなかった。確かに特訓そのものはかなりきつかったけど。アイシャにとって苦にならなかった。何故アイシャが狂姫ラチェット・メルクライの猛特訓に耐えられたかはそれは元ギルギディス家のご息女である母親ネフィス・マーヴェラスが関係していた。


「それにしても貴女のノーマル種凄いわねえ。上位種並みの加速スピードで飛行するんだもの。」


オリンはアイシャの騎竜を素直に褒める。


「そうなんです!。ライナは凄い竜なんです!。いつもライナのおかげで私レースで勝ちまくって。本当は今日の模擬レースでもライナを活躍させるつもりだったんですけど。私が全部活躍奪っちゃって。本当は凄~く物凄~く強い竜なんですよ!ライナは!。」

「そ、そうなの····」


自分の騎竜が褒められて有頂天に悦ぶアイシャは思わず止め止めなくライナの凄い所を熱弁する。

あまりのアイシャの迫力にオリンも少したじたじになる。


「うん、解る。あのライナというノーマル種。とても強い竜(ドラゴン)。私にも解る。」


隣で聞いていたラムも深く同調する。


「そうなんです!。ライナはとても強いノーマル種なんです!。」


自分の騎竜が評価されてアイシャはとても気分が晴れやかになる。

パールとレインはホッと胸を撫で下ろす。どうやらこの騎竜乗り科の二人はアイシャにとって無害のようである。ピリピリとした空気から騎竜乗り科から悪印象持たれているのではないかと二人は疑っていた。

でも杞憂に終わりそうである。

カツカツカツカツ


「ちょっと、御免遊ばせ!。」


突然アイシャの前に一人のピンク色の制服姿の令嬢生徒が前に出る。銀髪のくるくるしたカール髪を両耳から垂れ流し。でんと突き出るような大きな胸の膨らみを前にさらし。見た目からして高飛車な性格の令嬢がさも偉そうな態度でアイシャに声をかける。後ろには取り巻き二人がカール髪の銀髪の令嬢を前に立てるかのように後ろに静かに控えていた。

あっ、なんかこれ既視感ある。

アイシャはこのパターンが何処か見覚えがあった。


「私、騎竜乗り科二年の王都一の財をなすエレフォニアバビィリオン家の娘エレンセ・エレフォニアバビィリオンと申しますわ。以後おみしりおきを。」


何処からか取り出した羽根扇を唇にパタパタさせ。オホホと高飛車な笑いを浮かべる。



「はあ、そうなんですか·····。」


唐突に自己紹介をされ。アイシャは困った顔を浮かべる。親友のパールとレインも何だろうこのデジャブ感と言った感じで静かに静観していた。

同じ騎竜乗り科の生徒であるオリンとラムは何処か険しげに眉を潜めている。



「私、貴女に感銘を受けましたわ!。あんな最弱で矮小で脆弱な底辺中の底辺であるノーマル種を扱いながらもあの伝説の狂姫ラチェット・メルクライの二投流を扱えるなんて。本当に凄いことですわ。」



アイシャは褒めているようで自分の騎竜がけなされていることに少しムッとなり不機嫌になる。


「わたくし、エレフォニアバビィリオン家は何頭もの上位種を所有しているのですのよ。」

「そうですか····。」


アイシャは少し冷たく返事を返す。本心では早く会話を終わらせたかった。


「家が貧乏でノーマル種しか買えなかったことに関して心中お察し致しますわ。でも、もう大丈夫。わたくしが貴女の騎竜乗りにふさわしい騎竜を見繕って差しあげますわ。特別に上位種の騎竜を譲って差し上げますわ。エレメント種、ロード種、エンペラー種、レア種、どれでも家から一頭差し上げてもよくってよ!。うオホホホ。」


エレンセは再び羽根扇を口元にパタパタさせ。猿?のような笑いをする。


「エレフォニアバビィリオン家って。王都有数の財力を持つ貴族よ。何頭もの上位種の騎竜を所有しているって噂よ。」


他の席で食事をとっていた騎竜乗り科の令嬢生徒達はひそひそと小声で話す。

エレンセという令嬢に皆注目が集まる。


「それで貴女はどんな騎竜がご所望かしら?。エレメント種、ロード、エンペラー種、レア種。上位種ならどれでもありますわよ。」


パタパタ

銀髪の耳から流れる銀髪カール髪の令嬢エレンセは気前よくアイシャに騎竜を譲渡することを提案する。


「お断りします!。」


アイシャはキッパリと返事を返す。


「はっ!?。」


エレンセは目が点になり。驚きのあまり持っていた羽根扇を落としそうになる。


ざわざわざわざわ

周りにいた騎竜乗り科の令嬢達が騒ぎだす。あの王都一に財力を持ち。何頭も上位種の竜を所有しているエレフォニアバビィリオン家の提案をノーマル種の他校の一年が蹴ったのである。エレフォニアバビィリオン家の上位種は能力的にも種族的にも優れている。その騎竜でレースで出場すれば確実に優勝もできる竜(ドラゴン)を。何の躊躇いも遠慮もせず彼女は拒否したのである。


あり得ないと食堂にいる騎竜乗り科の令嬢生徒全員が目を疑う


「な、なな、何ですの?。折角私が優れた騎竜を差し上げると言ってるのですのよ!。」

「いりません!。私はノーマル種のライナがいます。それで充分です。」

「何を言っているの?。あのノーマル種は種族的にも能力的にも低いでしょうに。断然上位種の騎竜にすればレースも有利にすすめられますわよ。」

「いりません!といったらいらないんです!。私は幼い頃からライナと一緒にレースを頑張ってきました。ライナはレースではとても強いんです。何度も優勝しています!。ですからいりません!。」

「それは貴女が強いからですわ。狂姫ラチェット・メルクライの二投流を扱えれば。あんな最弱のノーマル種を騎竜にしてもレースで勝ち上がることができるでしょうに。貴女はきっと自分が強いことが解らず。ノーマル種を騎竜にしていることで錯覚しているのですわ。いえ、そうに違いありません!。」


エレンセ・エレフォニアバビィリオンはそう断定判断する。

アイシャの体がぷるぷる震える。ふつふつと怒りがわいてくる。ノーマル種のライナ馬鹿にされただけでは飽きたらず。ライナを手放してその代わりに上位種の騎竜に乗るように言われたのだ。


「もう話すことはありません!。お引き取り願います。私はノーマル種であるライナしか乗るつもりはありません!。」


アイシャは冷淡にエレンセの申し出を突き放す。


「んまあ~、なんて態度ですの。此方が親切に上位種を差し上げると言っているのですよ!。」

「大きなお世話です!。」

「キィー何て不遜な態度ですこと。親の顔が見てみたいですわ。」



地団駄を踏み鳴らしエレンセは憤慨する。


「ちょっと、エレンセ様の親切を無下にするとはどういうつもりですの?。」

「エレンセ様が心優しく気遣って下さっているのに!。」


今度はエレンセの後方に控えていた取り巻き二人が喰ってかかる。

アイシャはこの三人の対応することじたい嫌になってきた。


「ライナ様の悪口を言っているのは何処のどなたですの!。」


突然アイシャの口論中に割り込むように声が飛び交う。ぷるんと胸の膨らみが弾み。耳から流れるロールの金髪が揺れる。


シュタ

見事な身のこなしでアイシャとエレンセの間に着地する。


「な、な、何ですの!?。」


突然の目の前に現れた令嬢にエレンセは眉を寄せ戸惑う。


「貴女、今、ライナ様を馬鹿にしたですわね。ライナ様の悪口や馬鹿にすることは私が許しませんわ!。」


スッと立ち上がり。ぷるんと己の胸を張り。腰に手をあて仁王立ちする。


貴女も昔してましたけどね·····


静観していたレインとパールもその突然の来訪者に冷めた視線をむけ内心そう呟く。


アイシャとエレンセの間に入ったはのマーガレット・ベルジェインであった。

マーガレットはエレンセに激しく睨みを効かす。


「貴女、ライナ様の素晴らしさを何も解ってないですわ!。」

「な、何を言っているのですわ。ノーマル種なんて何処の貴族も自分の騎竜にしたりしませんわ。レースに出ようものなら確実に敗けますわよ。」

「確かにただのノーマル種ならそうです。しかしライナ様は違います!。ライナのあの凛々しい筋肉のついたゴツゴツした鱗肌が私の胸の疼きを晴らしてくれるのですわ!。それはどんなノーマル種に勝る至上の至福なのですわ。ライナ様のあのゴツゴツした粗目の鱗肌の背中に私の胸を擦ると···んもう~堪らないのですわ♥️。」


マーガレットは頬を染め。うっとりとした表情でノーマル種ライナのことを褒め称え熱弁する。


「さっきから彼女。ノーマル種のレースのこと言ってないわよねえ?。」

「ええ、何か抱き心地?みたいなこと言っているような···。」


突如として現れた他校の令嬢生徒に騎竜乗り科のみんなは皆???を頭に浮かべる。



「はいはい····お嬢様。今は取り込み中なので。話に割り込まないで下さいねえ····。」


ガシッ ずるずる

至高竜メリンはマーガレットの襟首を掴み。ほぼ引きずるように自分の主人であるマーガレットを手慣れた様子で運んでいく。


「ちょ、何ですの?メリン。邪魔しないで欲しいですわ!。今私はこの解らずやのぽんぽんちきにライナ様の素晴らしさと気持ちよさを伝えなくてはいけないのですわ!。放すのですわ!。ちょ、ちょっと、メリン。」


ずるずるずるずる

そのままマーガレットは至高竜メリンによって何処かへ引きずられ運ばれていった。


····················。


暫く場に沈黙の空気が流れる。


「ということなんで。貴女の申し出をお断りします!。」


アイシャは真剣な眼差しでエレンセを睨む。


「きぃー、わたくしを恥をかかせたことを後悔させてあげますわ!!。行きますわよ!。皆さん。」


ひするほど怒りあらわにし。取り巻き二人を連れエレンセは何処かにいってしまう。


「何よ。あれ?狂姫の二投流が使えるからって調子こいてない?。」

「そうね。強いといっても騎竜があれじゃ。まともに戦えないでしょうに。」

「折角エレンセ様の申し出を断るなんてノーマル種の乗り手は何処まで私達騎竜乗り科を馬鹿にすれば気がすむのかしら?。」


話を一部始終聞いていた食堂の席に座る騎竜乗り科の面々はアイシャがエレンセの上位種の譲渡の申し出を断ったことに更に険悪となる。


「はあ、」


アイシャはため息を一息漏らし。再び食堂のテーブルの席につく。


「本当にご免なさいね···。」


オリンは関係なくとも騎竜乗り科の非礼を詫びる


「いえ、気にしていませんから··。」


アイシャは気を取り直し再び食事を始める。


「貴女がノーマル種の乗り手ですの!!。」


と思ったらまた食堂に怒鳴り声が響く。

またかとため息を吐き。アイシャは怒鳴り声がした方向に視線をむける。

そこにはブルーとピンクの制服ではなく。しろと金縁のついた少し豪華な制服を着た令嬢が立っていた。

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