第189話 マシュマロおっぱい

『さあ、今宵もやって参りました。風の止まぬ谷ウィンドヒルに行われるレース風車杯。わたくし実況務めさせて頂く。ハマネス・カボライと申します。そして解説には風の谷ウィンドヒルの村長であらせられるエエチチ・アップルパインさんに来ていただきました。エエチチさん宜しくお願いします。』


放送席の隣席にはアンデス風の民族衣装に身を包んだ30代の女性が座っていた。女性の胸元が驚歎するほどつきだされた膨らみがアンデス風の民族衣装に包まれている。風の谷ウィンドヒルの村長は若い女性であった。


『はい、宜しく。風の谷ウィンドヒルの風車杯は風の精霊の感謝祭も兼ねております。風の精霊様もさぞお喜びになるでしょう。』

『そうですか。では今日の風車杯の見所は何でしょう?。』

『そうですね。風車杯は歴史あるレースです。スリーマンセルのチーム制のレースでもあり。故に強豪の騎竜乗りもここぞとばかりに参加しております。風車杯では前回の優勝者であるチーム名KY来ているようです。』

『ずっと気になっていたんですが。チームKYのKY はどういう意味なんでしょ』か?。』


実況のハーネスは前回の優勝者のチーム名に不思議そうに眉を潜める。


「確か空気読めないという意味だそうです。」

「はあ、空気読めないですか。なんというか。あまりいい意味にはとらえられない言葉ですねえ。」

「そうですね。KYのチームである彼女達も実際空気読めない方達ですし。風の谷ウィンドヒルの止まぬ風のレースコースでさえも何の苦もぜずにゴールに到着しておりましたから。正にKYという名に相応しかもしれませんね。」


ウィンドウヒルの村長は前回の優勝者のレースを思い返す。


「なるほど。つまり風が吹いても気付かない。正に空気読めないですか。優勝者KY というチーム名も伊達ではないということですね。」


放送席で実況のハマネスも村長の言い分に納得するように相槌をうつ。


「ねえ、何か私達のことデスられていない?。」

「気のせいでしょう。」

「寧ろ誉めているんじゃない。」


スタート開始地点の会場にいる三頭の騎竜に乗る三人組の令嬢が口を合わせる。


「私達が空気読めないって失礼しちゃうわね。」

「ほんとね。私達はいつも空気読んでいるのにね。」

「私達は場の空気を和ませているのに」


KYのチームの令嬢達は口々に揃えて反論する。


(何言っている。あんたらスタート開始早々騎竜の背に乗って普通にお茶とお菓子を飲食しまくっているだろうが!。)


周囲にいる騎竜乗りの令嬢達はイラついた態度で眉間に紫波を寄せ。内心おもってはいたが、前回の優勝者なのであって皆口に出せないでいる。


「今日も私達の優勝じゃない?。」

「私達には風の妨害なんて効かないしね。」

「私達の騎竜、レア種気象竜には暴風なんて無意味だしね。」


KYの三人の令嬢が乗る騎竜は気象竜は天候を操ることが可能なレア種であり。風の抵抗もほぼ無効かできる。


········


KYでありDQNでもある彼女達を乗せる騎竜達は主人のレース中の振るまいに沈黙を保つつもかなりイラついていた。騎竜乗りの実力はあるのだが場の空気を読めない読まない。寧ろ迷惑を懸ける主人達に文句を言えずにいたのだ。優勝していなければ文句を言えるのだが。残念ながら優勝できるほどの実力を持っている騎竜乗りの主人であるからして余計に達が悪い。


『次に私が気になっているのは実はこのレースにあの風姫が来ているんですよ』

『なんと!?。風姫ですか!。あの風車杯を連続五連勝したという伝説の異端児。では相棒である疾風竜の風の悪戯も一緒なんですね。』

『ええ、ただ····、風姫であるセラン・マカダインのチームの中になんと!ノーマル種がいるんですよ。』


エエチチは放送席から見えるスタート開始地点にいる風姫セラン・マカダインがいるチームに怪訝な視線を向ける。


『ノーマル種ですか?。何かの間違いではありませんか?。風車杯は伝統ある歴史あるレースです。確かに風の谷ウィンドヒルは田舎にあたりますが。一般の騎竜乗りが出るようなレースではありませんよ。』


実況のハマナスは信じられないというような顔でスタート開始地点を確認する。


『事実です。私は何度も見て確認しました。前回は上位種を連れた腕ききの騎竜乗りでしたのに。』

『数合わせということでしょうか?。確かに風姫と風の悪戯の実力であれば一人一頭の力でこの風車杯を優勝することも不可能ではないでしょうが·····。』


実況ハマネスが風姫がノーマル種を連れているのは単なる数合わせではないかと思えた。彼女の実力ならはスリーマンセルのチーム制であろうと無かろうと。この風車杯を優勝することは可能である。


『そうですね。彼女の実力ならばこの風車杯を一人一頭で優勝することもできるでしょうが。矢張数合わせとしてノーマル種を入れるのはどうかと·····。ノーマル種は竜種の中でとても弱いというか最弱の部類ですし······。』


解説のウィンドヒルの村長エエチチは何とも言えない微妙な表情を浮かべる。


俺、デスされているなあ~解っていたけど····。

俺の緑の竜顔が悟りを開いたように達観した態度で二人の実況解説の放送に聞き耳立てている。


「ねえ、聞いた?。風姫が来ているらしいみたいね。」

「チームの中にノーマル種を連れているらしいわよ。」

「全く私達のことなめているかしら?。」


実況解説の放送を聞いていたKY のチームの令嬢達は不機嫌になる。


『主人よ。風姫と風の悪戯から出ている以上。油断なさらぬよう。』


彼女達の気象竜の一頭が主人の驕りぶった態度を嗜めようとする。


「大丈夫大丈夫、風姫なんて軽く倒しちゃうから。」

「五連勝なんて直ぐに黒星に変わるわ。」

「ノーマル種を数合わせに入れるチームなんて楽勝よ。」


KYの三人組の令嬢は五連勝も果たしている強敵である風姫に対しても軽く余裕をみせる。

KY 三人組の令嬢の騎竜、気象竜は三頭とも深い落胆のため息をもらす。


グー グー


「モルス、起きて!!。」


スパーコンッ!!☆


アイシャお嬢様が地土竜モルスの頭部におもいっきり紙に束ねたものを打ち込む。


『はっ!?。えっ?えっ?。ここは何処?。私は誰あ~れ?。』


地土竜モルスは紙を束ねたものに叩かれ。寝ぼけたように首をキョロキョロ見回し最後に首を傾げる。

記憶飛んでんじゃねえーかよ!。大丈夫かよ!。

俺は地土竜モルスの状態に心配になる。

地土竜モルスはレース中眠る癖がある。その対応策に考えたのが紙を束ねたもの。つまりハリセンで頭をはたくことである。提案したのは俺である。実際ハリセンは効果はあった。叩かれたモルスは直ぐに目を覚ましたのである。

ハリセンは痛みを与えるよりは音がよくでるので眠気覚ましにはもってこいなのである。ただ相手は竜(ドラゴン)なので鉄製の方が良かったのではないかと思えたが止めといた。ハリセンを鉄製にしたらほぼ鈍器である。


セランお嬢様とアイシャお嬢様は各々疾風竜ウィンミーと地土竜モルスに股がっている。俺の背中にはアーニャお嬢様を乗せている。



「それじゃ、アイシャ、アーニャ、飛び立つ準備をして。」

「「はい!。」」


アイシャお嬢様とアーニャお嬢様は背中にドラグネスグローブの嵌めた掌を竜背につき。身を低くする。

いよいよアーニャお嬢様のあの雲のような軽さを秘めた爆乳の感触が味わえるのだな。

俺はわくわくと期待に胸を膨らませる(胸だけに)。

アーニャお嬢様の爆乳がゆっくりと俺の鱗肌に触れる。

ぴと ふわっ

ギャ?

(えっ?。)

・・・・・・・・・・・

俺は一瞬固まった。

数秒間フリーズした後直ぐ我に返る。


〘感触が!?弾力が!?無いっ!!だとっ!?。〙


俺は一瞬錯覚に陥っているのではないかと戸惑う。

確かにアーニャお嬢様の爆乳が俺の背中に触れている感覚はある。

しかし感触と弾力が一切感じられないのだ。

アーニャお嬢様の雲のような軽さを秘めた爆乳があまりの柔らか過ぎて感触も弾力も感じないのだ。

恐るべし!。これが真なるマシュマロおっぱ~いというものなのか!?。

俺の背中に触れるアーニャお嬢様の豊満な膨らみに感動というよりは電気を走ったかのような衝撃を覚える。


「ライナ、どうかしたの?。」


アイシャお嬢様はそんた俺の様子に心配そうに声をかける。


ギャラギャガアギャラギャギャアラギャガアギャギャアギャ

(あ、いえ、大丈夫です。少しぼーとしてしまっただけです。)


俺は心配するアイシャお嬢様に自分が正常であることを伝える。


フォンファ~

風の谷ウィンドヒルのレース会場にファンファーレがなる。


「気を引き締めて、レースが始まるわよ!。」


セランお嬢様のかけ声にアイシャお嬢様とアーニャお嬢様二人はきゅっと唇を締め。身を引き締める。

周囲にいる騎竜乗りを乗せた騎竜も興奮し翼を広げ荒ぶる。

そうだ。レースに集中せねば。アーニャお嬢様の爆乳の感触と弾力が背中に感じられなくてもレースに支障はない。

俺は気を取り直し風車杯のレースに集中する。


『さあ、風車杯が今正に開始されようとしています。それでは皆様、声を合わせて風車杯ならではのスタート合図をいたしましょう。』


実況ハマナスはまるで会場にいる観客に誘うかのように放送する。

会場の観客席に座る観客が揃って口をあける。どうやら風車杯のスタートの合図は観客も参加するようだ。

どうせGO何たらに決まっているのでどんなスタート合図でも対応できるように俺は翼を広げ身構える。


観客全員が一斉に口に息を吸い込み。口を大きく開けスタートの言葉を発した。


『『『GO‼️シュート!!。』』』


ギャアああああーーーーーーーーーーー!

(それは別のスタート合図だああああああーーーー!)


バサバサバサバサバサバサバサバサッ


ノーマル種の突っ込みの咆哮とともに風の止まぬ谷、風の谷ウィンドヒルの大空に騎竜達の翼の羽ばたく音が鳴り響く。

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