第180話 芽生える気持ち

「ありがとうございます!。おかげ様でお嬢様の心も晴れました。」


至高竜メリンは煌びやかな角をはやしたカチューシャのついた頭を丁寧に下げお礼を告げる。


ギャア·····

(いいえ····)


俺はぎこちない竜顔で言葉を返す。

これで本当に良かったのかだろうか?と疑問を感じる。


一着にゴールインし。ゴージャスエレガントカップを無事優勝することができた。俺とアイシャお嬢様はレースの帰り仕度をする。


「ああん~~♥️。ライナ様♥️ライナ様~♥️。矢張貴方様は素晴らしいですわ~♥️。(すりすりすりすりすりすり)」


ギャアラギャアガアギャアラギャガアギャア

(レース終わったんですから離れて下さいよ。)


マーガレットお嬢様は相変わらず俺の巨体に抱き着いたまま自分の胸を擦りつけてくる。

はあ~、やっとレースが終わったのに···。

マーガレットお嬢様が積極的に胸を押し付けら擦られると何だか自分自身がジョークグッズにされているような気分になる。ジョークグッズは前世の頃よく俺もお世話になった。しかし俺自身がジョークグッズそのものになるのは正直勘弁して貰いたい。


「それではお嬢様、駄竜。私は一足先に帰りますね。」


がらがら

カーラさんは何処からか用意したのか。荷車を引いて帰る挨拶をしてきた。

大きな荷車には多量のレースコースの一部である金貨の川の金貨を積めた袋とダイヤモンド森林の欠片が包んだ袋と黄金竜の破壊された欠片の一部である金塊を包んだ大風呂敷が荷車の荷台の上にこんもりと納められている。カーラさんは荷車を引いて満面な笑みを浮かべている。


ギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャアガアギャアラギャアラギャガアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアラギャガアギャア

(カーラさん。気になっていたんですけど。大丈夫なんですか?。レースコースの一部である金貨やダイヤモンド、黄金竜の一部である金塊を勝手に持ち出して。また衛兵につかまりますよ。)


俺はカーラさんの前科を知っているので心配になってきた。

そんな言葉にフッとカーラさんの唇は何処か小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。


「大丈夫ですよ。駄竜。ここの成金貴族が主宰するゴージャスエレガントカップはレースが終わったらレースコースはそのまま放置されるのです。設置したレースコースを回収したり解体したりしません。何でも設置したコースを回収するのは成金貴族としてのプライドが許さないとかなんとか。たからレースコースを回収したり解体したりとかしないのですよ。レースコースの材料の一部をそのまま持ち帰っても問題ないのですよ。毎年ゴージャスエレガントカップ開催のレース後には一般庶民や商人達がレースコースの跡地に金目の材料をめぐって奪い合いになるくらいですから。私はレース中に拝借致しましたので。そんな気苦労もしなくてよいのですけどね。それではお嬢様、駄竜、これにて失礼。」

ガラガラ


カーラさんは荷車を引く。

「バイバイ、カーラ。」


····················

アイシャお嬢様は元気よく手を振る。

カーラさんはペコリと丁寧に一礼し。金、ダイヤモンドの積まれた荷車を嬉しそうにひいていく。

ガラガラ

カーラさんの後ろ姿はあっというまにレース会場の外へとで消えていった。

なんというか。たくましいというかふてぶてしいというか図々しいというか。相も変わらずカーラさんである。


「マーガレット・ベルジェイン。優勝おめでとう。流石ライナね。」

「おめでとう御座います。ライナ様。」


黒揚羽をモチーフとしたゴスロリドレスを着飾る小柄の令嬢と曲がりくねった羊角を生やす盲目のように閉じた瞳をするメイドが目の前に現れ優勝の賛辞を送る。


ギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアギャアギャア

(ありがとうございます。パトリシアお嬢様、ナーティア。)


俺は素直にお礼を言う。


「ふふ、まさかレースコースのダイヤモンドの森林を燃やしたり。黄金竜の像の首をへし折ったりするとはおもわなかったわ。ふふ、相変わらず面白いわね。ライナは。」 


パトリシアお嬢様の魅惑的なパープル色の薄紅の小さな唇がふふと軽い笑みを浮かべる。


ギャアラギャアガアギャアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアギャアギャア····

(主催者であるパトリシアお嬢様には本当に申し訳ないことをしました。。本来レースコースを破壊するのは正直俺としては不本意なんですが。レースの進行の障害なったので仕方なく····。)


俺は長首を下げ弁明じみた謝罪をする。

ゴージャスエレガントカップの豪華なコースを破壊するつもりはなかったが。強敵のスキル封じや通行妨害されて仕方なく破壊したまでである。好き好んでレースコースなど破壊したりしない。俺はクラッシャーなのではないのだから。


「サルマニア婦人が嫌々表彰式をしたのは今でも目に浮かぶわ。」


パトリシアお嬢様はくすくすと嬉しそうに微笑む。

やっぱ嫌がっていたんだな·····。あれ。

表彰式の時、授与担当していた貴婦人が賞状やトロフィー、賞金を渡すのをかなりいやがっていた。

嫌ですわ嫌ですわこんな品性品行を弁えぬノーマル種なんかに渡すなんて絶対嫌ですわ!とだだをこねてまわりを困らせていた。仕方なく他の運営の係りに半場強制的に賞状とトロフィーを渡して何処かに連行されてしまった。最後まで本当に嫌そうな顔していたな。寧ろ俺を敵視しているようだった。俺何かしたかなあ?。

うーむ、心辺りが···········有りすぎるな、ふっ。

俺はそのまま思考をフリーズし賢者モードに入る。


「まだ主催者としての仕事が残っているからここでおいとまするわ。また逢いましょう。ライナ、アイシャ、後マーガレット・ベルジェイン。」

「ああん♥️ライナ様ライナ様ライナ様ああ~~ん♥️。」


マーガレットお嬢様は体を密着させ。熱心に自分の胸を俺の体に擦りつけている。


「さっきから彼女。大丈夫なの?。」


パトリシアもマーガレットお嬢様の大衆面前でもはばからぬ奇行に心配になる。


ギャアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアギャアギャアラギャアガアのラギャアギャアギャアガアギャアギャアラギャアギャアギャアガアラギャア

(心配しないで下さい。パトリシアお嬢様。彼女はアッチの世界でトリップしているだけです。戻って来られないので気にしないで下さい。)

「それ!本当に大丈夫!?。」


パトリシアお嬢様は俺の突っ込み所満載の発言にパープルの小さな眉を寄せて狼狽える。



「ま、まあ良いわ。次の機会にまた貴方のレースは見たいわね。貴方のレースはあきがないもの。」


軽い挨拶してパトリシアお嬢様とナーティアが離れていく。

二人がさった後に一人の令嬢と一匹の騎竜が近づいてきた。


「優勝おめでとう。マーガレット・ベルジェイン。」

『さすがだな。ライナ。』


人化しないまま煌輝竜アルベッサが俺達に優勝の祝福の挨拶をする。隣には見馴れぬ美しい美女を連れていた。


ギャアラギャアガアギャアラギャ?

(ありがとうアルベッサ。其方の方は?。)


アルベッサは俺の言葉に不思議そうに長首を傾げる。


『何をいっているんだ?ライナ。俺と一緒に戦っていたレカーリヌだろう。』


えっ?あの白粉厚化粧顔の令嬢が彼女なの?。白粉の厚化粧顔はきれいにとられ。すっぴんの素顔はモデルやアイドルでもいけるほど美しく綺麗な出で立ちだった。彼女の周りが少女漫画のように無駄にキラキラと輝いているような気がする。

化粧とると本当に美しい令嬢になるんだな。本当にこの世のものとは思えないほどの美形である。家の学園令嬢生徒も美人揃いであるが。彼女の場合は次元というよりは作品違いのキャラなような美しさがある。後方で待機する純白の乙女達の顔は厚化粧のままである。


「それよりもマーガレット・ベルジェイン。貴女の傍にいる令嬢は誰かしら?。もしかして其方の方がノーマル種の本来の主人なのかしら?。」


純白の乙女のリーダー、レカーリヌは俺とアイシャお嬢様が親しくしていることに俺達の関係を鋭く察する。


「はい、私はライナの主人でアイシャ・マーヴェラスと申します。」


アイシャお嬢様は丁寧に貴族の社交辞令の挨拶する。


「貴方がそのノーマル種の主人ですの?。」

「是非、そのノーマル種をわたくしに譲ってくれませんこと!?。」

「シャルロッテの騎竜、崇高竜を倒してしまう程の実力のノーマル種なんて貴重ですわ!。」

「金貨200枚いえ、神竜銀貨20枚でどお?。」


他の純白の乙女の騎竜乗りの令嬢達がアイシャお嬢様に俺との買い取りの交渉を始める。 


「こ、困ります。ライナは私の大切な家族なんで·····。」


アイシャお嬢様は眉を寄せ困った顔を浮かべながら断りを入れる。


「貴女達止めなさい!。その方達の絆は本物よ。金で買えるような関係じゃないわ。失礼よ。」

「「「は、はい、も、申し訳ありません。レカーリヌ様。」」」


他の純白の乙女達のメンバーはリーダーの一言に謝罪し素直に身を引く。


「連れが失礼したわ。私はレカーリヌ・ソファーレ。ソファーレ伯爵家の娘よ。」

「いいえ、ありがとうございます。私も一応伯爵家の娘なんです。没落していますけど·····。」

「へえ~貴女もそうなのね。気が合いそうだわ。」


何故か家のアイシャお嬢様と純白の乙女のリーダーレカーリヌは意気投合していた。


「まさかノーマル種に敗北するとは侮っておりました。」

「あ~あ、お菓子食べ損ねちゃったよ。」

「あんな美しくもないノーマル種に敗北するなんてキィ~屈辱です!。」

「やっぱ近く見てもいいオス竜ね♥️。ちょっと近くでいいことしない♥️。」


純白の乙女達の他の騎竜達は皆人化していた。白翼竜シルクは白髪と白目の気品ある男性。琥珀竜メノウは琥珀色の髪と瞳の子供ぽい少女。水晶竜クリスは水晶の角を生やし。いかにプライド高そうな美女。魅華竜のハリアは種族どおりピンクの髪とローズ色の角を生やす露出度のたかい服装をしている。


ギャガアギャアラギャアガアギャアラギャアラギャガアギャアラギャ

(いえ、結構です。魅華竜とはあまりいい思い出がありませんので。)


俺は丁重に魅華竜ハリアの誘いを断る。

俺はセリシアお嬢様の騎竜、魅華竜ソリティアの誘惑に理性が耐えられなかった頃の記憶から蘇る。


「あら?他の魅華竜と関係があるのかしら?。」


魅華竜ハリアは興味津々に俺に聞いてくる。


ギャ ラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャア

(いえ、魅華竜にソリティアっていう方がおりまして。色々ありましたので····。)


俺は言葉を濁しそれだけ答える。


「まあ!?。貴方がかの有名な男好きである魅華竜に男嫌いのトラウマを植え付けたという噂のノーマル種のライナなのね!。魅華竜族の中でも貴方の噂で持ちきりよ。」


魅華竜ハリアは嬉しそうに何故だが有名人と遭遇したかように歓喜している。

ええ~!、魅華竜族にそんな噂たっているの?。俺は全然トラウマを植え付けた記憶が全くもってないんだが。言われようもない噂に俺はおもいっきり竜顔をしかめる。


「レカーリヌ様。馬車のご用意ができました。」


がらがら

純白の乙女達の使用人が幾つもの豪華な馬車を引き連れ現れる。


「ありがとう。私達は中央大陸の王都に帰るわ。もしよかったらいつか遊びに来てね。」

「はい、いつかライナと一緒に中央大陸のレースにも出るつもりです。」

『その時はライナ、また俺とレースをしよう。』

ギャアラギャアガアギャ

(ああ、望むところだ。)


純白の乙女達と別れの挨拶するとアルベッサはパッと光を放ち人化する。人化するとやさぐれたおっさんのようだった。

何か竜と人間形態の印象が大分違うんだが。

純白の乙女達とその騎竜は各々の豪華な馬車に乗り込む。

そういえば中央大陸にはどうやっていくんだっけ?。やっぱ船かなあ?。

俺は海を越えた大陸の行き方を知らなかった。


「それじゃ、アイシャ・マーヴェラス。王都でまた逢いましょう。」

「はい、レカーリヌさんもさようなら。」


純白の乙女達とレース会場で別れる。


「うほっ、うほっ、ライナ様♥️ライナ様♥️ライナ様ライナさまあ~~ん♥️。」


すりすりすりすりすりすり

ギャラギャアガアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャ

(ちょ、ちょっと。マーガレットお嬢様。ほ、本当に離れて下さいよ。みんな見ていますから。)


マーガレットお嬢様は大衆の面前でありながらも胸の擦りつけるだけでなく。腰を前後にくねらせ始めた。例えるなら発情した犬に前足をおき。その足に犬がしがみついて腰をひくひくさせるあれである。

もう末期症状になっているではなかろうかと俺は本当に心配になってくる。

学園に帰るまでこの状態が続くのだからかなりしんどい。


でもまあこれで今後マーガレットお嬢様と関われなければいいことだからこれで万事解決かな。

俺はうんうんと竜顎を頷き勝手に納得する。


    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇

      


がらがら

豪華に装飾が施された馬車内に一人の令嬢と人化した騎竜が座っていた。

ビックバーンな膨らみと盛り上がった幾つもの銀髪ロール流す令嬢は唇を閉じたまま馬車の窓の外をおぼろげに眺めている。そんな彼女の姿をドレスを着たルビー色の角を生やす赤髪の女性が心配そうに見つめている。

  

「·········。」

「お嬢様。元気を出してください!。次がありますよ。」


崇高竜アミルの主人であるシャルロッテ・マドワーゼルは意気消沈したかのように馬車の中で落ち込んでいた。当然であろう生涯のライバルであるマーガレット・ベルジェインに再び敗けたのだから。ただ敗けたのではない。相手があのノーマル種に乗って出場して敗けたのだから主人のプライドはズタボロであろう。


ガラガラ

·······················


「·········。」

「アミル、観ましたか?。」


突然落ち込んでいた筈の主人であるシャルロッテの唇が開き言葉が発っせられる。


「何をですか?。お嬢様。」


突然言葉を発した主人に崇高竜アミルは戸惑う。


「わたくしの宿命のライバルであるマーガレット・ベルジェインがゴージャスエレガントカップにゴールINした瞬間、絶叫とともに一瞬とても清々しいほどの開放感溢れる素顔を晒していましたのですわ。」

「そ、そうですね····。彼女の咆哮というべきか。奇声というべきか嬌声というべきか。雄叫びのような絶叫は私も正直とってもびっくりしましたよ。」


令嬢とは思えぬ奇声というか喘ぎ声というべきか。崇高竜アミルもそんな上品さも気品さにかけ離れた彼女の姿に正直絶句して暫く固まっていた


「その時、わたくしは目撃したのですわ。」


シャルロッテの唇が何処か弾んでいた。


「何をです?。」


崇高竜アミルは何故か主人の頬がほんのりと薄く赤色に染まっているように感じた。


「マーガレット・ベルジェインはあのノーマル種の背中に自分の胸をおもっいきり擦り付けていたのですわ!。」

「そ、そうなのですか·····。」


確かにあのマーガレット・ベルジェインがノーマル種の背中に自分の胸を押し付け擦り付けていた。その時以上な加速していた覚えががある。胸を擦り付けて加速するのはあのノーマル種の特有の加速飛行など察した。


「わたくしはその時思ったのですわ。わたくしのライバルであるマーガレット・ベルジェインがあんな恥もなく。大胆に一心不乱にあのノーマル種の背中に自分の胸を擦り付けている姿が見て······わたくしは····わたくしは·········。」


シャルロッテは両手の指を絡ませ。紅の唇はうっとりと艶を帯びる。

崇高竜アミルはそんな主人の姿にごくりと緊張した面持ちで息を飲む。


「何て····何て·······気持ち良さそうなの♥️。」


「·····················はっ?。」


崇高竜アミルのルビー色の瞳が点となる。

シャルロッテの顔は上気を発したかのようにピンク色に頬を染まり。うっとりした表情を浮かべる。熱を帯びた瞳の奥にはもうここにはいない平凡な緑色の鱗をおびたノーマル種の姿を捉えていた。


その時ライナは知らなかった·····。


ここにまた新たな変態の令嬢を生み出してしまったことを·········

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