第149話 水精の誘(いざな)い




真珠色の独特な髪と瞳を輝かせ。ふっくらなボリューム感溢れる胸の膨らみを揺らす令嬢パール・メルドリンは笑顔で裏庭にある自分お手製の白薔薇の花壇を手入れしていた。大好きな親友に誉めて貰いたくて子供の頃から端正込めて育てているのだ。下心があると想われてもしかたない。大好きな親友のためなら彼女はどんな努力も惜しまない。


「ふんふん♪ふん♪」


ジョオ~~

上機嫌に鼻唄を鳴らしジョーロで丁寧に白薔薇の花壇に水を注ぐ。


ズズズズ


突如パールの背後の何もない裏庭の芝生から水溜まりがにじみでる。夢中に鼻唄を唄いながら白薔薇の花壇に手入れするパールにはその後ろに異様な気配に一切気付いていなかった。

その芝生の草からにじみ出た水溜まりはあっという間に大きく膨れ。ぬるっとぬめった液状が高く伸びる。人の背丈に伸びた液体は少しずつ輪郭が露になる。水液に色合いがまし。美しき肢体が姿を晒す。それは美しい女性の肢体であったが。しかし下半身だけはまるで長い魚の尾っぽのような形をしていた。液状から定まった女の肢体は髪と瞳の色はパール・メルドリンのように同じ真珠色に輝いていた。服のようなものは一切着ておらず。つきだす2つ大きな胸の膨らみにはシンプルに2つの貝殻だけが覆って隠しているだけだった。


「えっ!?。」


パールやっと後ろの気配に気付き振り返る。

下半身が長い尾っぽをくねらせるように直座し。胸を貝殻で覆う以外はほぼ素肌である彼女にパールは目をしばたかせ驚く。

同じ真珠色の髪と瞳を宿し。下半身が魚の尾っぽをした美女はニッコリと微笑む。


「お迎えにあがりました。次期女王パール王女様。」


バシャン!

ジョーロが落下し水が飛び散る。水音ともにパールの姿は液体になったかのように水玉となって消え去った。


カラカラ


花壇には水だけ抜け。空となったジョーロだけがとり残された。



     マーヴェラス邸中庭


昨日炎竜族のゴタゴタからほぼ夜逃げ当然に帰ってきた俺とアイシャお嬢様達はマーヴェラス邸の庭でくつろいでいる。

休日、連休なのに全然休んでいない。レースに出場したり。ガーネットの家族との結婚騒動に巻き込まれたり。ほんと踏んだり蹴ったりな連休だった気がする。ただそのおかげで新技をあみだすことができたのだが。だがこの新技よくよく考えると欠点だらけである。真下の地脈に龍脈がないと扱えないのだ。レースが開催される場所に偶然にも龍脈があるわけでもなく。結局のところ強力ではあるが。特定の場所でないと扱えないというほぼレースでは役に立たない新技なのである。レースコースに偶然龍脈が当たる確率は宝くじを当てるほど難しいに違いない。だから新たにあみ出した新技でも即戦力として考えないほうがいいだろう。

客人?(竜)として迎えられた銀晶竜ソーラさんもまだマーヴェラス邸内に滞在している。いつ帰るのですか?と聞いても来るべき時が来たらとはぐらかされる。何やら銀晶竜ソーラさんにも事情があるようである。


マーヴェラスの中庭の芝生を仰向けになりながら寝っ転がり空を眺める。

満天の大空には大きく白い雲が2つ重ねるようにくっついている。


何だかあの2つの大きな白い雲がおっぱいにみえるなあ~~。

俺はそんなしょうもないことを考えている。


中庭のガゼポ内にはマーヴェラス伯爵と客人である銀晶竜ソーラさんとアイシャお嬢様が三人で囲みお茶会をしている。


メイドのリリシャさんとカーラさんは二人で中庭の花壇の手入れをしていた。


「パール!パール!何処にいるのですか!?。」

「奥様、落ち着いて下さい。先ずはマーヴェラス家にご挨拶を。」


突如声を張り上げる叫び声がマーヴェラスの邸内に響く。

もう片方の声は聞き慣れた声である。パールお嬢様の相棒のレイノリアだ。


「この声は?」

「パールのお母様の声だ。どうしたんだろう?。」


マーヴェラス家の父娘はパールの母親が突然来訪してきたことに首を傾げ。困惑しながらも玄関へと出迎える。

俺も邸内に入れないので柱をぐる~と回ってから玄関へと向かう。


マーヴェラス邸の玄関では凄い剣幕でパールお嬢様の母親が扉前に仁王立ちしていた。その他にもレイノリアと門番をしている庶民出のベテランの騎竜乗りシェーク・リストライトさんもいた。


「どうかされたのですか?。」


マーヴェラス伯爵が出迎える。


パールお嬢様の母親オパール・メルドリン女爵はマーヴェラス伯爵だけキッと鋭い視線を浴びせる。マーヴェラス伯爵はびくっと震えたち畏縮してしまう。


「パールは何処!?。メルドリン邸内捜してもいないのよ。」

「パールなら来ていませんよ。何かあったのですか?。」


オパール女爵のただならぬ態度にアイシャお嬢様は不安そうに眉を寄せる。


「はい、アイシャお嬢様。パールお嬢様が行方不明なのです。いつもお手製の花壇の手入れをしていたのですが。いつの間にかいなくなってしまって。残ったのが、この愛用のジョーロだけなんです。」


レイノリアがパールお嬢様の愛用のジョーロを見せる。


「ああ~何処に行ってしまったの?。パール。」


オパール女爵は顔を覆い悲嘆する。

毅然な態度したオパール女爵でも矢張娘がいなくなったことが心配なんだろう。俺も何とかしたいけど竜(ドラゴン)だしなあ。別段鼻が効くわけでもないし。


「すみませんが。その愛用のジョーロというものを見せて貰えませんか?。」


突然話を割って入るように銀晶竜ソーラさんが前に出る。

オパール女爵はその見知らぬ騎竜を怪しげな冷たい視線を向ける。


「誰ですか?。」

「銀晶竜のソーラさんだ。マーヴェラス家で客人として迎えている。」

「銀晶竜ですって!?。何故北方大陸の希少な竜種がこんな所に?。」

「それよりもジョーロをお借りしたいのですが。」

「あ、はい、ここに。」


メルドリンがパールお嬢様の愛用のジョーロを見せる。

銀晶竜のソーラはその空のジョーロをそっと手に触れる。

ふぉおおお


「これは···水精の名残がありますね。水、いえ···これは····海水?。人魚の転移魔法でしょうか。」

「人魚?。」


ふるふるふる

オパール・メルドリン女爵の身体が震えだす。


「あんの阿婆擦れどくされ魚女(ぎょじょ)がああーーーーーーー!!。」


突然パールの母親オパール・メルドリンが猛々しくも強烈な怒声を放つ。女品さとはさもかけ離れた姿に他一同は口をあんぐりと開けたまま絶句する。


「メルドリン!シェーク!。犯人は解ったわよ!。戦の用意よ!。あんの阿婆擦れど腐れ魚女に目にもの見せてやるわ!。」

「お、落ち着いて下さい!奥様!。」

「戦争だなんて相手は海の支配者ですよ。ここは穏便に。」


メルドリンも門番のシェークも怒り狂ったオパール・メルドリンを何とか抑えて落ち着かせようとする。


「どうしたのかねオパール婦人。貴女らしくない。」

「うるさい!甲斐性なし!。」


グサッ

マーヴェラス伯爵は何かの一撃を喰らったかのようにそのまま肩を落とし。力なく蹲ってしまった。


「いったいどうしたのですか?。パールが何処にいるか。パールのお母様が検討をついているようですけど。」


アイシャお嬢様の言葉に真剣な面持ちでレイノリアに声をかける。


「はい、どうやらパールお嬢様はさらったのはパールお嬢様の先祖の従姉妹にあたる。東方大陸の海域を支配する人魚族の女王のようなのです。」


人魚?。確かパールお嬢様は人魚を血を引いていると聞いてはいるが。

パールお嬢様が真珠色の独特の髪と瞳を宿しているのは人魚の血を引いているからだとアイシャお嬢様から聞かされていた。


「メルドリン家は人魚の血を引くことになったはじまりは先代のメルドリン家の党首アルバス・メルドリンと先代人魚の女王だったセレスラヌ・アビラニス様が恋に落ち。メルドリン家に嫁いだことでメルドリン家は人魚の血を引くことになったんです。人魚は長命ではありますが。セレスラヌ・アビラニス様は魔法で人間となり二人は結ばれました。しかしセレスラヌ・アビラニスの妹にあたるサラス・アビラニス様は女王の正統後継者は姉であるセレスラヌ・アビラニスだと言い張り。その血の繋がりを持つメルドリン家に毎度パールお嬢様を次期女王後継にせがんでくるのです。」


ギャアギャアラギャアガアギャアラギャアギャ?

「でもパールお嬢様は人魚じゃないだろ?。」


人間が人魚の女王になれないと思うが。


「はい、しかし魔法で人間を人魚にすることも可能なので。問題ないと。姉の血筋こそ正統な女王継承者だと。しかし奥様はメルドリン家の跡取りと騎竜乗りを目指しているので何度も断りを入れていたんです。」

「それが強硬手段をとってきたということだ。」


レイノリアと門番のシェークは困った顔を浮かべる。

なるほど。つまりパールお嬢様は人魚達のお家騒動に巻き込まれてしまったということか。

ん?何かこの流れ嫌な予感がする。


「解ったわ!。私、パールを取り戻してくるね!。」


アイシャお嬢様はでんと胸のはり自信満々に宣言する。


やっぱり·······

何となくアイシャお嬢様が親友を助ける流れになりそうだなと思っていたけれど。案の定そうなってしまった。

はあ~全然連休になってないよ····。


最早ドラゴンウィークじゃなくてドラゴンワーキングだよ。


「アイシャ·······。」


パールの母親であるオパール女爵は意気込むアイシャお嬢様に少し落ち着き取り戻す。


「私も一緒に行きます。人魚の国があるアラバリア海域に案内します。」


レイノリアが案内役をかってでる。


「解ったわ。シェーク貴女も付き添ってあげて。貴女も人魚達と面識があるから警戒もされないでしょうから。」

「了解しました。奥様。」

「では私もいきましょう。人魚族の竜族とは少し面識もありますから。」


銀晶竜ソーラさんも前に出る。

こうして俺とアイシャお嬢様とレイノリアと門番のシェーク、何故か銀晶竜のソーラさんまでもがアラバアリア海域にあるという人魚の国に向かうことになった。

そういえば一応人魚にも胸があるんだよなあ~。

もしかしたら胸を押し付て貰える機会があるかもしれない。



俺はそんな淡い期待を秘めやる気が出てくる。

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