第147話 龍天に昇る



ガアガア

何だ?これは·····。


ライナも意識は朦朧としていたが。地面が透けてマグマの底が黄色の巨大な運河が流れていた。

これは·····龍脈?。

獄炎山の前で気にも止める余裕はなかったが。矢張これはどう見ても俺の世界でゆう龍脈というものだ。実際には視覚できるものではないが。この世界は異世界であり。物理的法則を超越しているのだから龍脈が見えていても可笑しくはない。それだけではない。龍脈が真下に視覚或いは現れた同時に赤い光の粒子がより活性化活発化したのだ。火の精霊の密度がより濃くなっており。火の精霊達は何故か真下のマグマの底から透けて見える龍脈に呼応しているようであった。

火の精霊と龍脈が共鳴しているのか?。でも何故?。


《ライナさん。聞こえますか?。》


えっ!?。

突然ライナの頭の脳裏に声が飛び交う。


《ソーラです。貴方に直接思念を送っております。銀晶竜は遠くから思念を飛ばして意志疎通ができるのです。》


ギャア·····ギャギャアギャ

「それは····凄いですねえ。」

「ライナ?。」


突然ライナが独り言を呟いたのででレインは眉を寄せ困惑する。


《あまり時間はありません。相手の炎竜族はそんなに待ってはくれないでしょうから。簡潔に述べます。どうやらライナ様は精霊を使役できるだけでなく。スフィアマナン(世界の通り道)を視覚できるようです。》


スフィアマナン(世界の通り道)?

俺は竜の長首を傾げる。


《貴方が視覚に底が透けてみえていて。巨大な黄色の運河のようなものが見えているはずです。それがスフィアマナンと呼ばれるものです。スフィアマナンは世界のエネルギーが流れゆく場所。何箇所かこの世界に存在します。それで何故私が貴方に思念を通して意志疎通をはかったのかは。どうやら貴方は精霊を使役できるだけでなく。もしかしたらスフィアマナンも使いこなせられるかもとしれないと思いに至ったからです。プロスいえ、神足る竜は世界に繋がりを持ち。スフィアマナンの力を得て。自然を超越した万物の力を振るうことができました。ですから貴方にもスフィアマナンを扱えるのではないかと思ったのです。》


どうやらソーラさんが逢いにきたプロスペリテという名の騎竜はマーヴェラス家にいた神足る竜で間違いなさそうである。言葉を少し濁していたが。ここではっきりした。しかもソーラさんは神足る竜が扱ったとされるスフィアマナンも俺が扱えるというのである。


はあ。でも俺は神足る竜じゃないから精霊使役できてもスフィアマナンが扱えるかどうか。


精霊が使役できても龍脈とも呼べるスフィアマナンを扱えるどうか解らない。何せスフィアマナンは世界そのもののエネルギーの流れというのだ。壮大過ぎて俺としては手に負えん。


《神足る竜ほどとは言いません。そこに充満する火の精霊とスフィアマナンが流れ出る力を合わせて使ってみてはどうでしょうか?。火の精霊は貴方に力をかそうとしています。スフィアマナンと火の精霊を掛け合わせることができれば。例え相手がレア種並みの強豪の炎竜族といえども。勝機はあると思いますが?。》


銀晶竜ソーラさんの提案に俺は困ったように竜の眉間をよせる。


でも俺はまるっきし使い方しりませんよ。


世界の万物の力など到底扱い方などしるよしもない。


ただ解っていることはスフィアマナン(世界の通り道)とは十中八九龍脈であるということ。そしてスフィアマナンの流れている黄色の粒子は紛れもなく俺が扱う気と同じ性質であることだ


《扱い方はスフィアマナンの集める方法は貴方が扱っている特別な力と同じ要領ですよ。》


どうやらソーラさんは俺が扱っている気の存在にも気付いているようだ。


《後は火の精霊にどんなイメージをもつかうかというだけです。》


イメージ?。


《火の精霊には明確な形はありません。どうあるべきか?どう扱いたいか?。それを念じるだけでいいのです。あのレア種の炎竜族の竜(ドラゴン)に勝つほどの巨大なイメージを火の精霊に与えれば或いは勝てる可能性があります。しかし炎竜族は火属性は効きません。それを覆すほどの巨大な力のイメージが必要です。》


巨大な力のイメージですか····。

火の精霊とスフィアマナン(世界の通り道)と掛け合わせるだけでなく。爆炎竜スプロスにまかす程の巨大な力のイメージはしなくてはならない。

俺は考え思考する。


スフィアマナン·····龍脈·····龍····か·······。


俺はふと前世の幼い頃みた夢を思い出す。


山頂から真っ白な美しい白龍が天に昇って行く神秘的な夢である。

それは力強く気高く雪のように真っ白な鱗を身に宿す美しい真っ白な白龍であった。幼い頃の俺はその美しくも気高い優美で真っ白な雪のような色合いの白龍に見とれ。幼いながらも忘れずに心に強く印象に残っている。ずっと見続けながらあの白龍は天高く頂上へと昇り。何処へ向かうのだろう?とそう想いを過らせながら夢の中でみとれていた。


············よしっ!。

俺は火の精霊にどのようなイメージを与えるかを決めた。


ありがとうございます!。ソーラさん何とかやってみます。


《どうやら何をイメージするか決まったようですね。貴方にプロスいいえ、神足る竜のご加護がありますように。》


そしてソーラさんの思念が途切れる。

俺はスッと竜の長首を獄炎山リプカフラマの火口上空に鎮座する爆炎竜スプロスに向ける。


『どうした?。長く呆けていたようだったが。諦めたのか?。所詮ノーマル種が我等炎竜族には足元にも及ばんのだよ。』


爆炎竜スプロスは豪胆に胸を張る。


ギャガギ·····ギャアラギャアガアギャガアギャアラギャ·····

「そうだな·····。確かに俺じゃあんたに勝てそうにないや·····。」

「ライナ·····。」


ライナの諦めを宿す言葉にレインは悲壮に満ちた顔で肩を落とす。


『そうだ!。ならば棄権することだ。これ以上やればレインお嬢様に怪我をさせてしまう。ノーマル種、貴様も分相応であることをやっと理解できたようだな。』


爆炎竜スプロスは満足した様子で腕を組み竜の顎が何度も頷く。


ギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャガアギャガアギャアラギャギャ

「嗚呼、俺ではあんたを倒せない。ならばあんたを倒せるドラゴンで倒せばいい話だ。」


ぴくっとスプロスの竜の眉間が不快げに寄る。


『なに?何をほざいている!。ノーマル種!?。』


意味不明なことを言い出したノーマル種に爆炎竜スプロスは怪訝な態度で睨みつける。

俺の竜口はニヤリと不適な笑みを浮かべる。


ギャアギャガアギャ

「龍(りゅう)は天まで昇るものだ。」

『ああ?。』


ライナはスッと鉤爪の竜の素手をゆっくり撫でるかのように空を切らせ掌を返す。

それはまるで舞いを踊るかのようであった。

しかしライナの行動は単なる舞いではない。より強い火の精霊の力とスフィアマナン(世界の通り道)を掛け合わせるために精霊の力とスフィアマナンの気、双方を練り込ませる必要性があった。


ギャああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああああああああ~~~!!。


神経を集中しながら呼吸を整える。

膨大な赤い光の粒子がライナの元へと集まる。

それと同時にマグマの底から黄色の粒子が吹き出し。ライナの緑色の鱗に覆われた竜身に注がれる。


『何だこれは········。』


獄炎山の火口で見下ろしていた爆炎竜スプロスはノーマル種に膨大な数の火の精霊とマグマの底から溢れ出る黄色の粒子の流れに唖然とする。

赤い光の粒子と黄色の光の粒子が螺旋を描くようにライナの身体を包み込む。



『これはどうしたことでしょうか!?。あのノーマル種の元に膨大な数の火の精霊様達が集まりだしています。マグマの底からも何やら黄色の光が溢れてだしてもいますし。こんな現象見たことありません!。』

『増えます増えます。』


実況務める炎竜族のメラとバーナーはノーマル種ライナの引き起こす未知の現象に絶句する。

観客席で観戦する炎竜族の村の者達もノーマル種が引き起こす不思議な現象に皆口を揃え呆気に捉え。視線全てがノーマル種ライナに釘付けになる。


「まさか···!。これはスフィアマナンなのかっ!?。馬鹿な!?。神足る竜でもないものが。扱える筈は···。」

「お父様······。」


村の年長者である業炎竜ボルゲンはライナが地面から吹き出す黄色の粒子に見覚えがあった。


「ライナ······。」

「何か凄い······。」


息を飲みながら姉妹のガーネットとルビーはノーマル種ライナの姿を見とれる。


「ライナ?。」

「······。」


アイシャは純粋な透き通る青い瞳を自分の相棒であるノーマル種に向ける。

隣に瑠璃色の髪を流し。灰銀色の角と瞳をした銀晶竜ソーラの口許に微かな笑みが出来上がる。


サアアアアアア

大気中の赤い光の粒子とマグマの地面から沸き上がる黄色の光の粒子が混合し混ざりあう。

ライナは己の双方の竜の素手を高々に掲げる。ライナの三本の鉤爪の両の掌を上下に空中に置き。掌と掌の間が開く。その間に狙いを定めるかのように獄炎山リプカフラマ火口上空に鎮座する爆炎竜スプロスの姿に狙い定める。


『よく解らんが。ノーマル種どうやら貴様はまだ諦めていないようだな。どうやら本当に痛い目に合わせなければ解らないようだ。レインお嬢様に怪我させないように貴様だけは爆炎で焼きつくしてくれる!。』


スプロスは竜の雄叫びを上げ。赤目が光る。火の精霊をライナの元に集め爆発させようとしたが。何故かスプロスの指示に火の精霊は従おうとはしなかった。寧ろ獄炎山リプカフラマの全ての火の精霊達がノーマル種であるライナに加勢しているようであった。


『馬鹿なっ!!。何故だ!?。我等炎竜族の方が他の竜種よりも火の精霊に愛されている。加護も他の竜種よりも強く与えられている!。なのに何故我等を差し置いて。火の精霊様が下等なノーマル種に与するのだ。』


爆炎竜スプロスは火の精霊達が下等なノーマル種を贔屓することが理解できなかった。


ギャ嗚呼嗚呼嗚呼ーーーーーーーー!!


ライナを雄叫びをあがる。

火の精霊とスフィアマナン(世界の通り道)の気を充分に練り込ませた上下の掌を高々に掲げたまま、ライナはその上下に置いた鉤爪の掌を一気に180度回した。


ぐるりん!


ギャアああああああああーーーーーーー!!

「炎龍天昇(えんりゅううてんしょおおおおおおおおおお!!)!!」


ギャアアアア~~アアアア~~~っ‼️

ギャアああああ~~ああ~~~~~~‼️‼️

ギャアああああ~あああ~~~~~‼️‼️

ギャアアアアアアアああああ~~~‼️‼️


突然マグマの底から長い胴体をうねらせ巨大な炎を纏った龍が這い出る。炎を纏った龍は熱く滾るマグマから連続的に続くように現れ。計四体の炎を纏った龍が螺旋を描くように天高くスプロス目掛けて物凄いスピードで突き進む。


『馬鹿なっ!?。龍だと!!。』


スプロスが突然ライナの周囲のマグマの底からから這い出た炎の龍に驚愕する。


ギャアああああああああーーーーーーー!!


高々に昇る四匹の炎を纏う龍は順番にスプロス目掛けて飛び付く。四体の炎を纏った龍は螺旋を描きながら順番にスプロス目掛けて襲い掛かる。

『ガ、があああああーーーーー!。』

『ギャアあああああああああーーーーーーー!!!。』


炎を纏った龍はスプロスに順番に噛みつき。スプロスの身体はその反動で上空へと高々に押し上がる。

爆炎竜スプロスは断末魔のような呻き声をあげる。


ぐわああああああーーーーーー!


炎の龍は一匹目が爆炎竜スプロスに噛み付くと消え。二匹目が噛み付くと消え。三匹目が噛み付くと消えを繰り返し。最後に残った四匹目の炎の龍がスプロスを大きな龍の口で噛み付いたまま更なる上空へと押し上げる。

爆炎竜スプロスの身体を炎の龍の噛み付きにより高々と上層へおしあげられる。一番高い天空まで到達すると炎を纏った龍はふっとその姿は消え失せる。爆炎竜スプロスの赤い鱗の身体は抵抗さえも与えず。真下へと真っ逆さまに無造作に落下していく。



ひゅううううう~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~································ドシャっ!。


岩肌に鈍い音がなる。肉ひだが強く打ち付けつけらるようないやな音だ。


「ライナ·······。」


レインお嬢様は召還魔法のようなライナの引き起こした炎の纏った龍を出現させた現象にただただ呆然と見つめることしかできなかった。


ガーネットの兄大丈夫かなあ?。もし死んだら死活問題だぞ!。

炎を纏った龍を放った技の後のことを俺は心配する。

爆炎竜スプロスの状態を確認しようとする。

これほど大事になるとは思わなかった。ただ龍が出てきて最強の炎竜族である爆炎竜スプロスを倒してくれればよかったのだが。ここまでの大技になるとは思わなかった。一匹じゃなくてよりにもよって四匹まで出るなんて。

ライナは新しくあみだしてしまった強力な新技に罪悪感を覚える。


ズズっ ドシっ。

スプロスはゆっくりと赤い竜の身体を起こし立ち上がる。

良かった!。生きてた!?。


俺のくちばしは緩み深く安堵する。


爆炎竜スプロスはジロリと赤い炎を宿す獰猛な竜瞳をライナに向ける。


ライナはギョっとそんな強烈な眼光に畏縮してしまう。


『完敗だ···ノーマル種·····。』


一瞬ライナに闘争的な竜瞳で宿していたが。何か事切れたかのよう物静かになる。

全てを悟ったようにふっと深紅のくちばしに笑みがこぼれる。



『私の····敗け········だ···。』


ふっ   ドサッ!


スプロスは一言そう呟くと力抜けたようにそのまま岩肌の地面へと崩れる落ちる。気絶したかピクリとも動かなくなった。

バァサッ!

俺はとりあえず態勢を立て直し。翼を広げ獄炎山リプカフラマの火口へと向かう。

レインお嬢様は何故か放心状態で何も言ってこない。


バァサッ バァサッ

俺は無言のお嬢様を背負い。獄炎山リプカフラマ火口上空へと向かう。

獄炎山リプカフラマ火口上空に辿り着き。活火山であるが今は噴火せず。大人しく火口の底は静かにマグマで煮えたぎっている。

俺はおもいっきり熱い息を吸い込み翼を広げ雄叫び上げる。


ギャアああああーーーーーーーーー!!!。

(勝ったどおおおおおおおーーーーーー!!)


ギャアああああーーーーーー!!!。


俺は獄炎山リプカフラマ火口上空で勝利の雄叫びを放つ。


··················································


そんな光景をしんと静まりかえって見ていた炎竜族の村の者達は暫く沈黙保ち。モニターに写るノーマル種を黙りながら直視していたが。ふっと何か吹っ切れたかのようにどっと歓声が沸き上がる。


キャああーーーーーーーーー!!

わあーーーーーーーーーーー!!

わあーーーーーーーーーーー!!


『今宵ブレス・オブ・ファイアはノーマル種ライナが勝利をおさめましたあーーーー!。』


キャああーーーーーーーーー!!

わあーーーーーーーーーーー!!

わあーーーーーーーーーーー!!


歓声が止めどなく沸き上がり。炎竜族の皆は矮小下等と見なすノーマル種に揃って勝利を称え熱援を送った。




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