第86話 権力の代価


セシリア・サウザンドが住む寮は寮ではない。サウザンド家所有の別荘がこの学園敷地内に存在するのだ。学園の敷地内に別荘建てていいのか?と思われるがサウザンド家の権力は学園内でも融通が効くらしい。何でもサウザンド家の先代当主がアルナビス騎竜女学園に長年融資していたからだそうだ。アルナビス騎竜女学園に融資してくれる貴族は7大貴族と王家の一族、そして金と権力を持った数ある有数の貴族である。この中にハフバーレン家も入っている。ハフバーレン家は金や権力よりも寧ろコネを重視された貴族である。学園側が彼らに大きく出れないのはコネ相手である得意先に学園の物資の補給を遮断する力を持ち合わせているからなのだ。権力がある7大貴族と有数の貴族であり。大金の力を持つ商家のハーディル家とはまた違って厄介な貴族である。


サウザンド家の娘であるキリネは姉とは一緒に暮らしてはいない。一緒に暮らしたくなくて普通に学生寮から通っているのだ。といってもアイシャお嬢様達が住む寮よりは豪華ではあるが····。


「ここだよ。」


ブラウン色の髪と瞳を染めた男装した少女が

豪邸の前に立つ。


ギャギャアラギャガアガアギャ····

「こんな森の奥に家を建てるとは·····。」


サウザンド家の別荘はあのセシリアお嬢様とイーリスお嬢様と出逢った塀を抜けた森の奥の奥にあった。


「何年ぶりですかねえ。もう2年もキリネとはこのサウザンド家の別荘には足を踏み入れたりしていませんから。」


キリネの相棒である幻竜ラナシスは今だけは竜の姿ではなく。普通に人化したミステリアスな品のよい4本角の大人の女性になっていた。キリネと一緒にラナシスさんもセシリアお嬢様に頼んでくれるそうだ。少しでも交渉に有利生を持たせたい。


ギャアラギャガアガアギャアガアガアギャアラギャガアガアギャアラギャギャ?

「よくこんな辺鄙な所に家を建てたなあ。訓練とかで間違って壊されないのか?。」


この森でも令嬢生徒達や騎竜が訓練して使っていた筈。


「それは大丈夫だよ。魔法具で結界を張っているから。外部からの物理的攻撃も魔法攻撃も効かないような作りになっているから。」


キリネは門戸にあるインターホンの役割を持つ魔法印壁に手をかざす。


ポオッッ

魔法印から光が放たれる。


「どちら様ですか?。」


別荘にいるサウザンド家メイドと思われる女性の声が魔法印から聞こえてきた。


「僕だよ。キリネ・サウザンド。姉さんに逢いにきた。」

「キリネお嬢様!?。た、大変です!。セシリアお嬢様!。キリネお嬢様が戻って参りました!。」


魔法印から発したサウザンド家のメイドとおもわれる女性の声は遠くで慌ただしく駆け出していく。


「はあ~!本当に逢いたく無いんだよね。」


キリネは力を抜けたため息を吐いて本当に嫌そうにしていた。

ガラガラン

金属製の門戸の梯子の戸が開かれ。そこから快活そうな感じのメイドの娘が現れる。


「よくぞお戻りになられました。」


サウザンド家のメイドどおもわれる娘は満面な笑みで出迎える。


「姉さんに用があって来ただけだよ。用がすんだら直ぐに出ていくから。」


キリネは素っ気ない感じで返事を返す。


「それでもキリネお嬢様がこの邸に来て頂いた事態が奇跡です。」


サウザンド家のメイドの娘はとても嬉しそうだった。


「どうぞ、キリネお嬢様。セシリアお嬢様がお待ちです。」


メイドの娘は邸に入ることを促す。


「それよりも用があるのは僕もだけど。この騎竜のライナもなんだけど。」


キリネは俺を紹介する。

ガア

「どうも。」


俺は軽く首を下げ頭を上げ下げする。


「このノーマル種もですか?。」


サウザンド家のメイドの娘は怪訝というか疑わしげな眼差しを向けてくる。

相も変わらずノーマル種は貴族やその関係者に人気がない。


「ライナはアイシャ・マーヴェラスの騎竜なんだよ。」


キリネは堂々とまるで自分の騎竜を自慢するように説明する。


「マーヴェラス家の騎竜なのですか····。何と不憫な······。」


サウザンドのメイドは憐れみ帯びた視線を俺に注いでくる。

うん予想通りの反応です。もう馴れました。

極当たり前なノーマル種の反応に俺は諦め感丸出しに納得する。


「いっとくけどライナは凄いんだからね。エレメント種やエンペラー種やレア種にも渡り合ったんだから。」


ムキになったキリネは俺の戦績をメイドに伝える。


「またまた、キリネお嬢様。ご冗談を·····。」


サウザンドのメイドの娘は全く持って俺の戦績を信じていなかった。


「もういいよ!。早く姉様に逢わせて!。」


キリネは全く信じて貰えことに業を煮やしメイドを急かさせる。


「では邸にお入り下さい。ノーマル種のライナさんもどうぞ、この邸はノーマル種やレア種一部のロード種やエレメント種くらいのサイズなら入れますから。」


サウザンドの別荘もとい豪邸は確かに広かった。竜のサイズでエンペラー種とロード種、エレメント種の一部除いなら入れる大きさである。広大な廊下を通りセシリアお嬢様の部屋に通される。


セシリアお嬢様は優雅に椅子に腰掛け。白銀の髪を靡かせて読書をしていた。

椅子近くある小型のテーブルにはワインとケーキが添えられている。未成年や学生がお酒飲んだら駄目だろうとツッコミ入れたかったが。セシリアお嬢様は歳を誤魔化しもといサバ読みして学園に通っているから問題ないのだろう。ただ学園内の飲酒が許可されているかどうかは知らんが。

その後ろでは天井にまで昇る長窓にお尻をつけてよっかかり。肌を露地するほどの薄着のドレスを纏う角を生やした美女ソリティアもいた。ローズ色の髪と湿ったルージュの唇に薄着のドレスからあふれ溢れおちるその豊満で豊かな二つの膨らみが何とも言えない色香を漂わす。


「貴女が来るのも珍しいわね。サウザンド家に戻る気になった?。」


優雅に椅子に腰掛け読書をしていたセシリアお嬢様はニッコリと微笑を浮かべる。

僅かに口筋が緩んでいるところから相当キリネが来訪したことが嬉しいようである。


「なるわけないでしょ!姉様!用件があって来ただけだよ。本当に用件あるのはライナだけど。」


ドシドシ

キリネの視線に俺はゆっくり竜の脚を上げセシリアお嬢様の前に出る。


ギャアガアギャアラギャギャギャアラギャガア

「セシリアお嬢様。貴女にお願いあって参りました。」


俺は形式ばった口調で話す。

俺はなるべく粗相ないように礼儀に気を付ける。


「何かしら?。」


ノーマル種である俺が直に頼みにくることにキリネの姉セシリア・サウザンドは興味深そうに此方を見ていた。


ギャアラギャガアガアギャアラギャギャアラギャガアガアギャアラギャギャア?

「セシリアお嬢様。二年のエリシャ・ハフバーレンという令嬢を知っておりますか?。」

「エリシャ・ハフバーレン?。知っているわ。とても上品で上っ面が上手い令嬢でしょう。」


上っ面が上手いってそんな暴言吐いていいのかよ?。プライベートなセシリアお嬢様の素はとてもストレートというか毒吐きだった。


ギャアラギャギャアラギャガアガアギャアラギャガアガアギャアラギャガアガアギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャ

「エリシャ・ハフバーレンのハフバーレン家はこの学園の物資の補給の分野を担当しているわ。画材や教科書、道具も全てハフバーレン家と繋がりがある者達からの支給品よ。」


そこまでハフバーレン家はこの学園に影響力を持っていたのか。ハフバーレン家に学園が強く出れない理由がこれでようやくわかった。それでもだからと言ってエリシャ・ハフバーレンとその三つ子の騎竜を放ってはおけない。学園内の校則、罰則が通用しないのならそれ以外で戦うしかない。


「お願いに参ったのはそのエリシャ・ハフバーレンにセシリアお嬢様が決闘して貰いたいからです。」


セシリアお嬢様は俺の申し出にブロンド白銀の眉をつり上がり。意外そうというよりか不思議そうな顔を浮かべる。


「決闘?。何故と言いたいけれど。やっぱりあのシャービト族の娘と緑森竜が関係してそうね。」


察しのよいセシリアお嬢様は直ぐに俺の願いが合同訓練の授業で問題起こった件だと気付く。

やはり場数踏んでいる貴族令嬢なのだろう。状況を察することに長けている。


「はい、シャービト族のルゥと緑森竜ロロとは親しい友人です。そしてあのエリシャ・ハフバーレンという令嬢はわざと対闘訓練でルゥの緑森竜のロロさんに大怪我をさせました。」


俺の説明に黙ってセシリアお嬢様と聞き耳を立てていた。後ろで興味深そうにセシリアお嬢様の騎竜、魅華竜ソリティアがその様子を静観している。


「親友であるシャービト族のルゥはあのエリシャ・ハフバーレンの三つ子の騎竜に襲われています。キリネに助けられ。その日は難を逃れましたが。エリシャ・ハフバーレンという令嬢は執拗にルゥ達を害をなそうしています。」

「姉様!。協力して!お願いだから。」

「私からも協力をお願いします。セシリアお嬢様。」


キリネとラナシスは礼儀正しく頭を垂れ懇願する。

セシリアお嬢様は椅子に腰掛けたままブロンド白銀の眉を上げ困った顔を浮かべる。


「悪いけど。私には何の利も益もないわ。シャービト族のルゥと緑森竜ロロに助ける義理もないし。お金の頼みでもマーヴェラス家の財政難は7大貴族なら当然知っているわ。でもそうね······。」


セシリアお嬢様は指を下唇に添え不適な笑みを浮かべ。考えを巡らしていた。

キリネから教えられたが。キリネの姉さんであるセシリアお嬢様が何か悪企みをするときは口元に指を添えるのが癖らしい。


「では賭けをしましょう。」

ギャアラギャ?

「賭けですが?。」


俺は意外そうに竜顔を浮かべる。

強突張りで守銭奴であん畜生なセシリアお嬢様だからもっと足元みた無理難題を吹っ掛けてくると思っていたからだ。


「賭けは簡単よ。私の相棒の騎竜、魅華竜ソリティアの誘惑に勝てばいいのよ。」

ギャ!?

「なっ!?。」


俺は竜瞳を見開き絶句する。

後方に長窓によっかかって控えていた魅華竜ソリティアは妖しげに湿ったローズ色の唇をゆっくりと舌舐りする仕草をした。

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