第40話 勝利と思惑

「アイシャっ!!。」


ゴール地点に降り立つノーマル種の騎竜の元にパールが嬉しそうに駆け寄る。

他の一学年令嬢生徒達も決闘に勝利したノーマル種の騎竜のもとに集まりだす。

アイシャはライナの背中から飛び降りる。


「アイシャ!。」


パールは嬉しそうに真珠色の瞳を輝かせる。


「パール!私勝ったよ!。」


アイシャは金髪を靡かせ満面な笑顔を浮かべる。


「おめでとうアイシャ!。」

「ありがとうレイン!。」

「当然だ!。我に勝ったのだ。エンペラー種などに遅れをとらん!。」


レインは祝福の言葉を投げ掛け。ガーネットは魅惑的な赤ドレスに包まれた膨らみを前にだしてふんぞり返っていた。


「凄いわ!貴方のノーマル種何処で手にいれたの?」

「魔法を打ち消すなんて凄いわ!!。」

「貴女のノーマル種とても強いのね!。」

「一体貴女のノーマル種どんな力なの?魔法ともドラゴンのスキルとも違うし。」


感激する一年令嬢生徒達に質問責めにされ。アイシャは困った顔を浮かべる。

俺は竜のくちばしから息を吐き安堵の竜の顔を浮かべた。

一先ずはエンペラー種と競争して何処まで自分達が通用するか理解した。しかしまだ油断は禁物だ。上位種の騎竜は種族だけでなく個の種類によってもスキルや能力にも違いがあるのだ。

レア種の次に強いと言われているエンペラー種だがそのエンペラー種の枠内の竜種によっても能力や力の違いの差があるのだ。


「そんな····私達がただのノーマル種の騎竜と没落した貴族に敗けるなんて·····。」

「お嬢様······。」


少し離れた所でマーガレットは顔面蒼白しなから校庭にへたり込んでいた。

至高竜メリンは人化のメイド姿に戻っていた。 


「マーガレット・ベルジェイン!。」


カーネギー教官が怒気をこもった声がかかる。

しかしカーネギー教官の頭上には💢マークがついており。口許は笑みを浮かべているものの。目は完全に笑っていなかった。


「は、はい!何でしょう?」


カーネギー教官の怒気を秘めた威圧感に圧され。マーガレットはびくつきながらも恐る恐る言葉を返す。


「確かに私は騎竜の妨害行為は認可はしたが。校庭をここまで破壊しろとは言ってないんだがなあ······。」


ゴゴゴゴゴ

校庭一面が穴だらけになっていた。手入れされた芝生さえも見る影もなく無惨に荒れ果ている。


「も、申し訳ありませんですわ!。ここは私のポケットマネーで全力で弁償しますわ!。」

「そう言う問題じゃない。このことは父親であるベルジェイン侯爵に報告しておくからなあ。」

「っ!?。」


マーガレットは父親であるベルジェイン侯爵の名がでて一気に青ざめる。


「それだけは···それだけは···お許しくださいですわ!。」


ベルジェイン侯爵は娘には甘いが。叱るときはしっかりと叱る常識人である。しかも叱るときはとてつもなく恐ろしいのである。


「はあ~、だから言わんことでないです。」


人化に戻った至高竜メリンは主人の来るべき末路に深いため息を吐いた。


「るぅ、ロロ、あのドラゴンさん勝った!。」

『そうですねえ。私もしっかり見ましたよ。』

「あのドラゴンさん凄い!とても凄い!。」


ロロの深縁色の鱗に覆われた背中に引っ付いたまま長い白い尻尾を揺らし。真っ白な獣耳がぴんとはねる。

ロロは嬉しそうなルゥを背中に乗せ竜のくちばしが微笑む。


「アイシャ・マーヴェラスのノーマル種、エンペラー種に勝っちゃたね。」

『そのようですね。』


鶏冠に四本角が生えている竜、幻竜ラナシスは深く頷く。


「本当に面白くなるねえ。マーヴェラス家が本来共にいるべき騎竜ではなく。ただのノーマル種を騎竜にして学園の上位種の騎竜達とレースをする。それだけでも奇蹟なのに決闘にも勝つんだから。」

『キリネ、今日は機嫌がとても良いのですねえ。』

「そう?僕はいつでも機嫌が良いよ。」


キリネは少年のような無邪気な笑顔を浮かべる。


『·······。』


幻竜ラナシスは長くサウザンド家に遣える騎竜である。キリネの母親の代からの長い付き合いである。だからこそいつも無邪気な笑みを浮かべているキリネの笑みがそれが本物かどうかも判別することが出来ていた。いつも無邪気な少年のような笑いを浮かべているが。内心大半は心から喜んでいるのはそう多くはない。ただアイシャ・マーベラスのノーマル種のライナとの出逢いに限っては心から喜んでるようだった。だがそれはどちらかと言えば相手の不幸に関しての事柄にであり。キリネが本当に喜んでいる理由、それはアイシャ・マーベラスの没落した貴族の不幸、そしてノーマル種を騎竜に対しての偏見、差別に対してである。キリネの心は歪に歪んでいる。それは家族関係とサウザンド家の厳格な他者を蹴落とす教育から来ている。キリネがサウザンド家を嫌うのは父親であるアイゼン・サウザンドの貴族として他者を蹴落として成り上がるというやり方から来ていた。だが子供のときからその教育を施されたキリネは相手の不幸に対しての愉悦心、同情心からくる喜びを感じるのだ。今ライナが決闘で勝ったことは確かに心から喜んでいる。だが彼等が不幸な境遇でも幸せであるならばきっとキリネは歪に妬み嫌い敵意を剥き出しになるかもしれない。だがラナシスはあのノーマル種ならキリネを変えてくれるかもしれないとふと思った。無意識的に精霊が集まるノーマル種のライナ。彼ならばキリネの心を溶かしてくれるのではないかと。精霊が慕っているということはそれほど心が純粋であると言うことだ。(純粋の意味にもよる)精霊が慕うドラゴンはこの世界では二匹、妖精竜と大いなる竜だけである。マーヴェラス家の代替わりするかのように現れたあの騎竜ならきっとキリネを変えてくれるのではないかと幻竜ラナシスはそう想えた。



校舎屋上から黒薔薇ドレスの少女の小さな唇がつり上がる。


「凄いわ!ナーティア!。あのアイシャ・マーヴェラスのノーマル種は掘り出し物よ!。」


パープル色の髪を靡かせ。パトリシアは小柄な身体をくるりと嬉しそうに一回りダンスをするかのようにターンを決める。


「そのようです····。」


羊のような曲がった角を生やすメイド姿のナーティアは淡々と無表情に返事をする。


「いいわ!あの騎竜欲しいわ!絶対に欲しい!。」

「·······。」


パトリシアは小柄な身体が酔いしれるように躍り回る。

パトリシアのステップが止まり。くるり振り向きナーティアに視線を向ける。


「ねえ?ナーティア、もし、あのノーマル種と戦ったら勝てるかしら?。」


パトリシアの妖美を秘めた視線がナーティアに向けられる。ナーティアは少し間をあけて口を開く。


「普通に勝てませんね。あのような魔法もスキルも打ち消す力を持っあドラゴンなど規格外です。対処しようがありません。」


ナーティアはキッパリと返事をする


「じゃ、普通じゃない方法をとったら?。」

「········。」


暫く二人の間に数秒間の沈黙が流れる。

パトリシアはいやらしげな流し目をナーティアに送る。


「·····勝てると思います。」

「その解答を待ってたのよ。嗚呼、楽しみだわ。ロード種だけでなくあんな珍しいノーマル種を手にいれる機会に恵まれるんだから。やっぱ卒業しないまま学園に止まって良かったわ。」


パトリシアは小さな唇が何か企むように不適な笑みを浮かべる。


「マウラ、観た?。」

「はい、観ました。アイシャ様が勝ったようです。」

「違う!あのノーマル種ライナだったかしら。エンペラー種の攻撃を打ち消したのよ。凄いわ!。」

「そう··ですね······。」


セーシャは好奇な目で興味津々にアイシャの騎竜であるノーマル種のライナを教室の二階の窓から凝視していた。

マウラはアイシャ・マーヴェラスが決闘で勝ったことは悦ばしいと思う。しかしそれと同時にあのアイシャ・マーヴェラスの騎竜であるノーマル種ライナにセーシャが興味を持つことを悦ばしとは思っていない。アイシャ・マーヴェラスは大切なネフィス様の最愛の娘である。しかしマウラはノーマル種のライナは正直アイシャ様には相応しくないと思っている。本来アイシャ・マーヴェラスの傍にいる騎竜はあのような下等なノーマル種ではなく。最も気高くも全能で大いなる騎竜なのだ。騎竜を寿命で亡くなり。マーヴェラス家が没落したとはいえそれでもあのような下等なノーマル種ではないのだ。確かにエンペラー種と渡り会えるだけの力はあるようだ。それでもノーマル種は所詮ノーマル種だ。上位種でもなければマーヴェラス家の偉大なドラゴンでもない。本来の騎竜の変わりにはならない。マウラはセーシャがノーマル種ライナに興味を持つことを危惧する。そしてノーマル種の騎竜がアイシャ・マーヴェラスの騎竜であることも危惧する。





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