ガナット・レティー 2
現在、俺たちが受けている依頼は二つある。
一つはジノリプトスという二足
いま俺たちが取り掛かっているのはもう一つの依頼で、
明水露鉱石はこの水牢洞窟の岩壁に多く含まれていて、採取するにはとにかく岩を砕くしかない。
そんなわけで俺たちはこうしてつるはしを振っているのだが、採掘を始めて七日間全く成果がない状態だった。
「えー、どっちなの? バドだってさ、なんでこんなに出ないか知りたいでしょ、知りたいよね?」
「それはまぁ、そうですが…」
「でしょでしょ? ほら、なんでか考えようよ」
「いえ、ですから。散々話し合った結果、結局分からなかったわけで……」
ナチにグイグイと詰め寄られ、バドはもともと小さかった声がさらに小声になってしまう。
その声量に比例して、縮んでいた身体もさらに小さくなっていく。
バドがなんでリトルジャイアントと呼ばれていたのかは知らないが、恐らくこの気の弱さがリトルの由来なんじゃないかと思っている。
まぁリトルの由来はどうでもいいとして、このままだとバドからジャイアントの要素がなくなってしまいそうだ。
ナチの質問攻めも単にサボるための口実な気がするし、そろそろ止めた方がいいだろう。
「ナチ、その辺にしとけよ。バドが困ってるだろ」
「えー、なにがよ。わたしは意見を聞いただけでしょ」
俺が見かねて注意をすると、ナチは不満げに唇を尖らせた。どうやら自分の問題点を自覚していないらしい。
立場が上の人物から意見を求められるというのは、やり方を間違えると結構な攻撃力を叩き出してしまう。
ナチの聞き方なんてまさに悪い見本だ。さっきのは意見を求めたんじゃなくて、同意を強要しただけだと分かっていない。
もっともナチ自身は、自分がバドより立場が上だなんて思っていないのだろう。
パーティーメンバーであれば全員対等、上下関係なんてあるわけない。そんな考えを自然と持てるのがナチの良いところであり、悪いところでもある。
その悪いところは、まさにこういう形で発揮されるわけだ。
そこら辺のことも含めあとで注意しないといけないが、いまはバドのフォローが先だろう。
このままだと空気が悪いし、作業効率も駄々下がりだ。
「しかし、よくずっと数えてたな。俺なんて20回で数えるのやめちゃったよ。さすがバドだ」
「え、いや、そんな……。根気だけはある方なので」
「いやいや、大したもんだよ。その根気を誰かさんに分けて欲しいな」
俺は小さくなっているバドに、取って付けたような賞賛を送る。
さすがに安易すぎたかなと思ったが、バドは照れたような笑いを浮かべると、鼻息荒く元気につるはしを振りかぶった。
どうやら作戦は成功したらしい。
バドが俺に気を使ってくれただけという可能性もあるが、その辺は深く考えないないようにしよう。
なんにしても少しだけ空気が軽くなった。取り合えず、目的は達成したといっていいだろう。
そうやって俺が状況の改善にホッとしていると、こちらを射抜くような鋭い視線でナチが睨みつけてきた。
俺が反射的に目を逸らすと、その鋭い視線は俺を飛び越えバドに突き刺さる。
「ちょっと、誰かさんって誰よ? てか、あんたらなんで数えてるの」
「あ、いやその、すみません……」
ナチに矛先を向けられたバドは慌てた様子で謝りながら、照れ笑いを苦笑いに変化させる。
せっかく原寸大に戻っていたバドが再び小さく縮こまり、辺りを包む空気も重さを取り戻してしまった。
いや、むしろ悪化したと言っていいだろう。
この状況に俺がどうしたもんかと頭を悩ませていると、俺たちから少し離れたところで腕を組み、ひとり仁王立ちをしていたオルトが口を開いた。
「正確には、いまので35回目だったけどな」
「だから、なんで数えてるの? もっと集中しなよ」
オルトがどこか他人事のようにバドの言葉を訂正すると、ナチは岩壁に向き直りながら不満げに言う。
するとオルトは「ふっ」と鼻で笑ってさらに続けた。
「集中って、ナチには言われたくねぇなー。ちなみに昨日は31回で一昨日は27回だったぞ、着々と最高記録を更新してるな。大したもんだ。なんなら初日から教えてやろうか?」
その笑いをふくんだオルトの言葉で、重い空気の中にピリッとしたものが混ざり込む。
俺が『また一戦始まるかな?』なんて考えていると、案の定ナチがつるはしを肩に担いだまま今度はオルトを睨みつける。
オルトとナチは本気で仲が悪いわけじゃない、と思うのだが、なにかというとすぐに喧嘩始めてしまう。
いつもこんなふうにオルトが喧嘩を売り、ナチがそれを言い値で購入するのがお決まりの流れだ。
「は? なに適当なこと言ってるのよ」
「いやいや、適当じゃねぇって。暇で暇でしょうがなかったからな、ずっと数えてたんだ」
「はぁ? 暇ってなによ」
「暇は暇だろ、退屈だったからって言い換えてもいいけどな」
俺ならビビリそうな――というか、実際ビビッていたナチの眼光を向けられても、オルトは意に介さずしれっと答えた。
その表情や言葉の響きには、わざと怒らせようと適当なことを言っているような印象があった。だがしかし、実際には違うのだ。
わざと怒らせようとはするが、適当なことは言わない。
正論でおちょくる、それがオルトの通常攻撃だ。
俺は多少耐性が付いているが、ナチには毎回クリティカルヒットしてしまう。だからなのか、オルトはいつも正論でナチをからかうのだ。
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