第2話 新装備『ミラージュ改』



 —— 日本領 京都地域 死霊系上級ダンジョン 70階層 エインヘルヤル特殊部隊 ベルンハルト隊 隊長 初代皇帝ベルンハルト・テルミナ ——




「『アイスワールド《氷河期》』! ベルンハルト様! 」


「まかせい! ぬおおおぁぁぁ! セイッ! 」


《オオオォォォォン……》


 首のない馬にまたがり突進してくるデュラハンロードへ、ロンドメル……いやウォルフが氷の範囲攻撃スキルを放ち動きを止めた。そしてウォルフの合図に我はデュラハンロードとの間合いを一気に詰め、剣を横薙ぎに振るった。


 我の渾身の一撃はデュラハンロードの胴を守るアダマンタイト製の鎧の継ぎ目を見事に切り裂き、上半身と下半身を泣き別れにさせた。


「お見事です陛下! あっ、いえ、ベルンハルト様」


「うむ、その方らもデスナイトをよく抑えたの。まあしかし余裕じゃな……いや、余裕だな」


 我は剣を鞘に収めながら瘴気を消滅させ消えていくデュラハンロードと、その配下の10体のデスナイトの亡骸に視線を向けそう呟いた。


 蘇生により1ランク落ちたとはいえ、古代ダンジョンの最下層まで到達した我のパーティじゃからな。こんな70階層までしかない上級ダンジョンの、しかもS−ランク程度のデュラハンロードなど雑魚だな。


 しかし日本では不人気なダンジョンというだけあって、30階層までしか攻略が進んでいなかったとはな。


 おかげで31階層から攻略を始めねばならなかった。ホークⅡという便利な乗り物があるから短期間でここまで来れたが、そもそも帝国からもっと下層に進んだ経験のある冒険者を呼べば、階層転移で51階層から始めれたんじゃ。しかしそれはアクツが許可しなかった。


 我が文句を言ったら口調が偉そうだとか、我に『余』と言うなとか、配下の者に我を陛下と呼ばせるなとか怒涛の如く注文をつけてきおった。


 確かに言われてみれば皇帝以外の者が陛下だのと呼ばれるのはまずい。だから仕方なく我と言ったり配下の者には名前で呼ばせるようにした。


 まだお互いぎこちない部分もあるが、だいぶ慣れてきた。これなら次のダンジョンは下層からスタートできるだろう。まったく、アクツの奴は口うるさいしすぐ手が出るしでロクな男じゃないな。まあ我のような余裕のある大人になるには、あの男にはまだまだ人生経験が足らんか。生き返らせてもらった借りもあるし、生温かい目で見守ってやるかの。我は大人だからの。


「ベルンハルト様。魔石と宝箱の回収が終わりました。めぼしい物はダンジョン製の武器と、3等級の護りの指輪にポーションと停滞の指輪を2つという所でしょうか」


「上級ダンジョンではそんなもんだろうな。最下層でも2等級は出まい」


 他のダンジョンに比べ厄介な魔物が多い割には、死霊系のダンジョンで手に入るアイテムは美味しくないの。やはり【冥】の古代ダンジョンに行きたかったのう。


「確かにリッチなど厄介な魔物が多い割には、金にならない素材ばかりで萎えますな」


「早く屋敷を建ててメイドを雇いたいのですがな。英雄である陛……ベルンハルト様をあのような兎小屋に押し込めるとはアクツ公爵め、なんと不敬な……」


「よい、我は生まれ変わったのだからな。この時代ではただの平民だ。外では庶民の暮らしを体験できて新鮮な気持ちで過ごしておる。ちと寂しくはあるがな」


 10階層進むごとに外に出て休んでおるが、今の生活は気に入っている。宮殿で傅かれて生きるより遥かに楽で自由だ。好きな時に好きな場所に一人で行き、誰も我を知らず、頭を下げられることもない。こんなこと生前では体験できなかったことだ。


 ただ一つだけ足りない物がある。そう、我の生活に華が足りないのだ。


 生前は50人もの美女を後宮に控えさせていた。宮殿で働く侍女にも好きな時に子種を与えてやっていた。そんな生活から一変して、まったく女がいない生活となってしまった。


 休みの時にアクツから幻身のネックレスを借りて髪を金髪にし、帝国本土に行きアクツの領内で半魔人の女に声を掛けてやった。だが誰一人として我の誘いに乗ってくる者はいなかった。魔人の女は貴族だから手を出すなとアクツに言われていたから、仕方なく我が声を掛けてやったというのにだ。


 生前はあらゆる女が我の子種を欲していたというのに信じられん。街で見た目の良い女を連れている男は皆軟弱そうだった。あんなのに比べればどう見ても我の方がたくましくて良い男だとうのに、この2700年の間に帝国の女は軟弱な男が好きになったとでもいうのか? 魔人の血が入っているというのに信じられん。


「それは私もです……半魔人のおなごを抱いてみたいと声を掛けたのですが、鼻で笑われてしまいました」


 ふむ……帝国一の色男と持て囃されていたウォルフも我と同じようだ。


「私もです……生まれて初めて女性に馬鹿なの? と言われました」


 リチャードが悔しそうにしておる。その知性でバイエル男爵家を伯爵家にまでした男にとって、女に馬鹿呼ばわりされるのは屈辱だろう。


「私は抱いてやると言ったらいきなり頬を殴られました。正直なぜ殴られたのか理解できません」


 エーリッヒはストレート過ぎだの。さすがに我でもいきなりそれは言わん。


 周囲を見れば十二神将の者たちも苦悶の表情を浮かべている。


「貴様たちもか……髪と目の色しか変えていないというのに理解できん」


 我も話し方がジジイ臭いと若い女に言われ斬ってやろうかと思ったが、アクツの魂縛の呪いが発動して斬れなかった。あれは苦しかったの。魂が締め付けられるのもそうだが、女に言われた言葉もの。


 だから話し方を変えたりもしてみたが、今度は偉そうだとかなんとか言われ手でシッシとされた。我が半魔人に声を掛けてやっているというのに、偉そうとはどういうことなのだ? 今の時代の女は理解できん。2700年前は少し話したあと股を開けと言えば、恥ずかしがりながらも嬉しそうに開いていた女ばかりだったというのに……これが時代の流れか……


「1200年前の愚帝の馬鹿皇子に苦しめられた、ルーベルト・マルス殿らも愛人ができないと嘆いていましたな」


「しかし平民出身のクリス殿の部隊の者たちは、早々に恋人を作ったと聞きました。彼らも1800年前の者たちです。これはどういうことでしょうか? 」


「クリスのとこの小僧と小娘どもか……認めたくはないが若さではないかの」


 もはやそれしか考えられぬな。


 クリスらは見た目はアクツと同じくらいの年齢だ。それに比べ我らもルーベルトたちも、その倍は歳を重ねているように見える。今の時代の若い女は、たとえ軟弱でも若い男が好きなのだろう。


「若さですか……確かに我らも十二神将も若いとは言えませんが……しかし現状を維持するのであれば停滞の指輪があればできますが、若返ることだけは……」


「伝説の時戻りの秘薬でもない限りは難しいですな」


「そうなるとやはり財力ですな。金さえあれば女はなびいて来ましょう」


「金か……【魔】の古代ダンジョンで狩った竜は全て公爵家に納めさせられたからの。アクツの命令でダンジョンで得たアイテムも一旦公爵家に納めねばならぬ。となれば魔物の素材を売るしかないの。しかしこの死霊系ダンジョンでは魔物を倒しても素材が少ないからの……最低でも離宮程度の屋敷を建てなければならぬことを考えれば、【竜】の上級ダンジョンに行きたいの」


 金といってもただのきっかけだ。認めたくはないが今の時代では歳を食っている以上、金がなければ若い女はなかなか引っ掛からぬのだろう。我に女が出来ぬのがその証拠だ。


 だが一度引っ掛かりさえすれば我の魅力に気づき、離れられなくなるのは間違いない。そう考えれば、やはりこんな稼げないダンジョンよりは竜の素材が取れるところがいいのう。


「フクオカにある上級ダンジョンはアクツ殿が攻略済みとはいえ、竜はおりましょう。ここを攻略した後に行かせてもらえるよう交渉しましょう」


「こうしている間にもクリス殿たちは魔獣系ダンジョンで稼いでいますぞ。早くここを攻略して我らも稼げるダンジョンに行きましょう」


「攻略済みの上級ダンジョンに行かせてもらえるかはわからぬが、我らの性活のためだ。我がアクツと交渉しよう。そうと決まればあと10階層駆け抜けるぞ! 」


 仕方ない。配下のシモの面倒を見てやるのも我の努めじゃ。稼がせて大量の女に囲まれた生活をさせてやらねばな。我には見せ金があれば十分だがな。


「「「「「「ハッ! 」」」」」


 こうして士気の上がった我らは、休憩をすることなくホークⅡに乗り下層へと向かったのだった。


 次のダンジョンで稼ぐために。




 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




「今から新装備の試作品の実証実験を始める。これが成功すれば阿久津公爵軍にとって大きな力になるだろう」


 鹿児島の移民街近くの山中で、俺は迷彩服に身を包み集まった勇士たちに向けこれから実施する実験の大切さを説明した。


「「「「はいっ! 」」」」


 実験部隊の勇士である三田と鈴木と田辺。そして親友の三井ことミッチーも目を輝かせている。


 皆がこの日を心待ちにしていたからな。みんないい笑顔だ。


「では小型化した『ミラージュ改』の実証実験を始める」


 そんな期待に満ちた友たちに俺は大きく頷き、空間収納の腕輪からミラージュ改を取り出した。


 そう、これはロンドメルが反乱時に飛空艦にまとわせていた、あの姿も魔力も消すことのできる装置を小型化したものだ。


 ロンドメル軍からこの装置を回収して以降、俺は魔道科学研究所で最優先で小型化させる研究をさせていた。


「「「「おお〜これが! 」」」」


「装置自体はまだ少し大きいが、ランク持ちの人間なら運用は可能だろう」


 装置自体は小型化したと言っても人間ほどの大きさがある。そしてその装置からは、大人が10人は入れそうなほどの大きさの透明なシートが繋がっている。


「まずは俺がこのシートの中に入るから見ていてくれ」


 俺は装置を背負い、目を輝かせて見ている友たちにそう言ってシートの中に入った。そして装置を起動した。


 すると背中から装置が起動する振動が伝わってきた。音はほとんど聞こえない。敵地で使う予定だからな。姿と魔力を消せても音が大きいんじゃ使えない。研究員たちは頑張ってくれたようだ。


「わっ! き、消えた! 」


「こ、ここにいたのに見えなくなった! 」


「『探知』……は、反応がない! 」


「マジか! すげえ! よくやった阿久津! これで俺たちの夢が叶えられる! 」


「どうやら成功したみたいだな」


 俺は目の前で視線を彷徨わせている皆の反応を見て、実験の成功を確信した。


「実験は成功した。だが俺は思うんだ。いくら実験で成功しても、実戦で通用しなければ意味がないと。皆もそう思わないか? 」


「「「「はいっ! 思います! 」」」」


「ではこれより実戦での検証を行う。これは軍の任務だ。三井は本日特別に補佐官として任命する。ついてきてくれるな? 」


 俺はこの中で唯一軍と関係のない三井に、大義名分を与えるために補佐官へと任命した。


 肉屋の倅だった三井も今では移民街のスーパーだけではなく、飲食店も複数オープンさせた企業の社長だ。金持ちなうえに俺の親友ということもあり、かなりモテモテらしい。さっそくケモミミハーレムを築いて幸せいっぱいなようだが、ここは軍のために協力してもらわないといけない。


「ハッ! 阿久津公爵様の補佐官として実験にお付き合い致します! 」


 三井は喜んで補佐官に就任してくれた。やはり俺たちは同類だな。


「うむ、では行くぞ。目標は移民街の北の女性専用の野天風呂だ」


「「「「ハッ! 目標移民街北の女性専用の野天風呂! 」」」」


 こうして俺たちは風呂を覗……軍の崇高な任務を達成するために、極力実戦に近い状況が作れる野天風呂へと向かった。


 この野天風呂は移民街の獣人女性たちに人気で、暖かくなってきたこの季節でも夕方になると多くの若い女性が入りに来ることで有名だ。


 当然そんな野天風呂を覗こうとする勇者も多い。しかしこれまで自警団の厳重な警備を前に、多くの者が捕まり悲惨な末路を辿ってきた。


 そんな難攻不落の場所で通用してこそ実戦で使えるというものだ。そう、これは軍の未来のために必要なことなんだ。


「阿久津……夢が叶うな」


 山の中を移動中、三井が俺にニヤリと笑ってそう語りかけてきた。


「ああ、中学の時は失敗したからな」


 あの時は女子たちにボコボコにされたうえに、朝まで教師に正座させられたな。


 だが成長した俺たちは同じ過ちを繰り返さない。科学と魔導の融合により生み出されたこの素晴らしい装置があれば、俺たちはあの時の夢を叶えることができるんだ。


 ロンドメルよ、お前は嫌いだったがこの装置を作ったことだけは褒めてやる。俺が有効活用してやるからゴブリンに生まれ変わって見ていてくれ。


 それからしばらく山の中を移動し、目的地近くにたどり着いた。山の上の方からは温泉の湯気が見える。


「この辺でいいだろう。ここから先は女性自警団の警備が厳しい。皆、ミラージュのシートの中に入れ」


 俺は歩みを止め、再びミラージュ装置を取り出して皆にシートの中に入るように言った。


 皆は静かにうなずいた後、ニヤける顔を必死に隠しながらシートの中へと入っていった。


 そして俺たちは静かに、そして素早く野天風呂のすぐ近くまで移動した。


 途中探知のスキルを発動している自警団の女性が俺たちの目の前を通り過ぎたが、まったく気づいていないようだった。そのことが更に俺たちの胸を熱くさせた。



 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「おお〜……」


「これは……」


「すごい……おっぱいがいっぱい……」


「阿久津……俺……俺……」


「ミッチー泣くな。涙でこの絶景が見えなくなるだろ」


 野天風呂のすぐ横。木々に囲まれた場所で俺たちは絶景を前に感動していた。


 見渡す限り全裸の女・女・女。野天風呂が大きいこともあり、50人ほどの全裸の女性がそこにはいた。


 猫人族に犬人族。そして兎人族に狐人族に狸人族と多種多様な獣人の女性たちが温泉に浸かり、または温泉から出てタオルで隠すことなく体を冷ましている。


 噂通り若い子が多い。これは覗きをしようとするやつが後を絶たないのも頷けるな。


「あっ! あの子は三井さんの店のアルバイトの子じゃないか? 意外と胸が大きいな」


「おっ!? あの子! ケモミミクラブのミフィーちゃんじゃないか? ああ、あんなかわいい子の裸を俺は……」


「お、おいっ! うさぎ耳のあの子! グラビアアイドルのヘルメちゃんじゃないか? すげえ……なんというダイナマイトボディ……」


「あの子はうちの社員の……あんないい身体してたのか。今度食事に誘ってみようかな」


「なんという楽園だ……みんな、もっと近くに行くぞ」


 俺は湯気で奥の方が見えなかったので、思いきってこの先の木などの遮蔽物のない場所へ移動することを提案した。


 先ほど自警団に気づかれなかった事から、皆は黙って頷き俺の後をついてきた。


 そして俺たちは野天風呂全体が見渡せる場所へと移動した。


 周囲には隠れる場所は一切ない。だが湯に浸かっている女性や、身体を洗っている女性たちは誰一人俺たちの姿に気づいていない。皆が無防備に俺たちの前でその裸体を晒している。


 うおっ! あの子は足をあんなに大きく開いて……けしからん! けしからんぞ!


 俺は近くの温泉の横にある石に腰掛け、身体を冷ましている豹人族のモデルのような体型の女性の股間を凝視し興奮していた。


 横では三田や鈴木に田辺や三井も、それぞれが好みの女性の身体を凝視している。


 そして女性たちは次から次へと入れ替わっていき、その都度俺たちは新たに来た若い女性たちをの身体を堪能した。


 そうして小一時間ほど天国にいると、3人の犬耳の小学生くらいの女の子がこちらへと近づいてきた。後ろからは姉と思わしき高校生くらいの女性が、少女たちの後をついて来ている。


 一瞬俺たちの中で緊張が走ったが、姉らしき女性も少女たちも俺たちの存在に気付くことなく目の前で仲良く湯に浸かっていた。


 俺はロリコンの三田がお湯をかけ合って遊んでいる少女を凝視しているのを見て見ぬふりをしつつ、犬耳をピコピコさせて湯に浸かっている姉の方を眺めていた。


 犬耳もいいな……でもレミアの角もいいんだよな。あの角を後ろから掴みながら是非エッチをしたい。


 俺が犬耳の女の子の耳と胸を眺めながらそんなことを考えていると、少女たちが掛け合っていたお湯が俺たちの方へと飛んできた。


 だがこのシートは防水仕様であり、そのことは皆にも話してある。そのため誰一人として焦ることは無かった。


 しかし


「え? お湯が浮いてる……」


「あ、ほんとだ! 浮いてるぅ! 」


 しまった! 面積が広すぎたか!


 俺はシートに大人5人が入ったことにより、水が溜まる部分を作ってしまっていたことに今さら気付いた。


「リリにココ。どうしたの? 」


「おねえちゃんあそこ。お湯が浮いてるの」


「あそこって……ええ!? 何? なにかあるの!? 」


「この落ち葉も投げてみるね? えいっ! あっ! やっぱり浮いてる! 」


「ま、まさかゴースト……ダンジョンからゴーストが出てきたの!? リリにココ! 離れて! 誰か! トレジャーハンターかデビルバスターズの人はいませんか! ゴーストらしき物がここに! 」



『あ、阿久津さんマズイです! どうしましょう!? 』


『馬鹿! 動くな三田! 動けば本当にゴーストだと思われる! 」


『でも田辺、このままじゃギルドの人に攻撃されるぞ! あ、人が集まってきたぞ! 』


『あ、阿久津どうする? このままじゃ囲まれるかもしれないぞ! 計画は失敗だ。撤退するなら早い方がいい』


『くっ……まさか子供にバレるとは……皆、退却だ。このままゆっくり後ろの茂みまで下がるぞ。念のため仮面を被れ! 茂みまで下がったらもう一度ミラージュ改を起動して、皆で木々に紛れて逃げるぞ! 』


『『『『了解! 』』』』


 俺は落ち葉がくっついていることを承知で、女性たちに囲まれる前に後方に下がることを選択した。そして皆には事前に用意させておいた仮面を被らせ、ゆっくりと後退した。



「あっ! 動いた! やっぱりゴーストよ! 早く! ゴーストが街に行く前にここで! 」


「ゴーストごときならあたしに任せな! 『風刃』! 」


「私も! 『火球』! 」


 しかし駆け寄ってきた獅子人族と狐人族の女性が、それぞれ俺たちに向けてスキルを放った。


 マズイ!


 俺は彼女たちが放ったスキルがこちらへ向かってくるのを見て、このままではシートを切り裂かれるか燃やされると思い咄嗟に結界を発動した。


 俺の結界を見たことのある者は少ない。バレることはないだろう。


「なっ!? 弾かれた!? 」


「まさかレジストされた!? これはただのゴーストじゃないわ! 自警団を呼んで来て! 剣で攻撃しないと! 」


「だ、誰か自警団を呼んできて! 」


「みんな下がって! スキル持ちはその魔物を囲んでくれ! 自警団が来るまで私たちで時間を稼ぐよ! こんな危険な魔物を街に行かせるわけにはいかないんだ! 」


 しかしスキルを弾いたことで余計に警戒させてしまい、さらに大ごとになってしまった。


『阿久津さんもダメです! 』


『阿久津さん! 逃げましょう! 』


『阿久津! 逃げよう! 』


『ここまでか……煙幕を張る。後ろの茂みで合流してまた隠れるぞ。もしも合流できなかったら四方に散って逃げる。いいな? 』


 このままじゃ追い掛けて来そうだ。全力で走るが、万が一の時は散って逃げるしかない。全員捕まるよりはマシだ。


 俺たちの身体能力なら逃げ切れる。三井も俺の親友ということが知られているから、攫われないよう無理やり古代ダンジョンに連れて行ってランクを上げさせてある。C-ランク程度だが、ここにいる女性たちや自警団員よりは高いランクだから逃げ切れるだろう。


『『『『りょ、了解! 』』』』


『それじゃあ合図とともに走るぞ。シートは俺が回収する。カウント開始。3、2、1……今だ! 』


 俺はカウントダウンを終えた瞬間、シートから手を出して弥七からもらった煙玉を地面に叩きつけた。そしてその瞬間、全員が茂みへと駆け出した。


「うおっ! なんだ!? 毒を吐いたのか!? 離れろ! 」


「違うわ! 今一瞬人影が見えた! それにこれはダークエルフが使っているのを見たことがあるわ! 人よ! アレは魔物なんかじゃない! 覗き魔だったのよ! 」


 俺は女性たちが騒ぐ声を聞きながら、急いでシートと装置を空間収納の腕輪に入れて煙にまみれて皆の後を追った。


 しかし俺が茂みに逃げ込むと、前方でちょうど騒ぎを聞きつけた自警団と三田たちが鉢合わせとなっていた。一瞬固まった三田たちだが、すぐにお互い頷き合ってから計画通り四方へと散っていった。


「ま、待て! そこの仮面集団! 逃がさないわよ! きゃっ! なっ、なにこの煙!? 」


 そんな三田たちを追おうとする自警団に対し、俺は援護のために煙玉を投げつけた。


 そして俺は隠者のマントを羽織り、三田たちとは別の方向へと全力で走った。



 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「逃げ切った……か。皆は大丈夫だろうか……」


 野天風呂のある山を降りたところで、俺は自警団から逃げ切ったことに安堵していた。


 公爵が覗きで捕まるわけにはいかないからな。


 まさかあんな形でミラージュの欠点が露呈するとはな。お湯しかないと思って油断しすぎたな。


 さて、ここからどうやって帰るか……飛ぶわけにも金色に輝くゲートも出すわけにもいかないからしばらく歩くしかないか。


 俺は少し休んだのちに、姿や魔道具を見られないよう歩いて人がいないエリアへと向かうことにした。


 三田たちは大丈夫だろうか? 万が一捕まった時はなんとか刑を軽くするから、仲間の名前を出さないよう言ってあるので心配ないとは思うが……頼む、逃げ切っていてくれよ?


 そう三田たちの心配をしていた時だった。


 マナーモードにしてポケットに入れておいた携帯が震え、着信が入ったことを知らせた。


 俺は三田たちからの生存報告かと思い携帯の画面を確認した。しかしそこには三田たちの名前ではなく、レミアの名前が表示されていた。


 なんだ? レミアは今日は休みのはず。何かトラブルねもあったか?


 俺は絶賛トラブル中の自分のことは横に置き、探知のスキルを発動し周囲を警戒しながらレミアからの電話に出た。


「もしもし? レミアどうした? 何かあったのか? 」


《旦那様。ご無事ですか? 》


「ん? なんのことだ? 俺はピンピンしてるぞ? 」


 レミアがなぜ俺の心配をしているのか理解できなかった。


《それは良かったです。自警団に捕まっていたらどうしようかと……》


「!? じ、自警団に捕まる? 俺が? ハハハ……何を言ってるんだよレミアは……」


 なぜ自警団なんて言葉がレミアの口から!? ま、まさか!?


《私……見ていたんです。今日は移民街にいる友人と野天風呂に一緒に行っていて……そうしたら脱衣所で温泉で騒ぎが起きているのが聞こえて……見てしまったんです。旦那様の結界のスキルと、一瞬でしたが仮面をしたお姿を……》


「!? 」


 レミアがあそこにいた!? そして俺の結界のスキルを目撃した!?


 まさかそんな……いや、レミアは俺の結界のスキルを見たことがあったんだった。


 前にレミアがメイド長として家とメイドたちを守るために強くなりたいというから、古代ダンジョンでティナたちと一緒にランク上げをした事がある。その時にレミアを守るために、俺は何度も結界のスキルを発動した。


 失敗した。咄嗟にとはいえ、結界のスキルを使うべきじゃなかった。でもあのままだったらシートが切り裂かれ、その切れ端を現場に残すことになった。やむを得なかったんだ。でもまさかレミアがあそこにいたなんて……せめてレミアの裸を見てから……いや違う! ティナたちに話されたらマズイ! ここはごまかすしかない!


「結界のスキル? 仮面? 見間違いじゃないか? だいたい俺は覗きなんてしないぞ? 」


《そうでしたか。それは大変失礼致しました。でも旦那様? 確か今日は鹿児島の街で三田さんたちと飲まれるご予定でしたね? 》


「あ、ああ。それがどうしたんだ? 」


《はい。三田さんですが……先ほど自警団に職務質問を受けていました。ご一緒ではなかったのですか? 》


「え……」


 三田ぁぁぁ! 捕まってんじゃねえよ! いや、職務質問なら近くにいたから疑われてる状態か。大丈夫だ。アイツは俺のことを話したりしない。したら左遷してやる! 


《ふふふ、旦那様。三田さんは騒ぎがあった野天風呂近くで職務質問されていたのです。街から遠い野天風呂でです。旦那様。ご心配なされないでください。エスティナさんたちには言いませんから》


 あ〜こりゃ完全にバレてるわ。下手に否定したらティナたちに話されるかもしれないな……レミアなら秘密にしてくれるだろうし、ここは恥の上塗りをせず素直に認めるか。


「そ、そうか……頼む」


 俺は観念して野天風呂にいたことを認めた。


《男性ですもの。女性の裸を見たいと思うことは正常なことです。ですが覗きはいけませんよ? もうしないでくださいね? 》


「はい。すみませんでした」


 俺は恥ずかしさに死にそうになりながらも素直に謝った。


 でもレミアの口調はは怒ってるわけではなさそうだ。


 昔、憧れていた近所のお姉さんもこんな風だったな。


《ふふふ、旦那様は素直で可愛いです。旦那様……私、今一人なんです。先ほどの騒ぎで温泉に入りそびれてしまいました。去年の暮れに公爵家専用にした天草市の温泉……連れて行ってもらえせんか? 私と二人きりで温泉に入るのはお嫌でなければですが……》


「行くっ! 今すぐ行くっ! 」


 俺は思ってもいなかったレミアからの誘いに、飛び上がりながら即答した。


 マジか! レミアから一緒に温泉に入りたいと誘いを受けるなんて! 


 ただ一人悪魔城のプライベートエリアを24時間自由に出入りできるレミアなら、俺の尻にある呪いの紋章のことは知っている。一緒にお風呂に入っても問題ない。


 とうとうレミアのあのムチムチの身体を拝めるのか!


《ふふふ、では移民街近くの人気の無い場所でお待ちしております。旦那様なら私を見つけて頂けますよね? 》


「ああ、レミアの魔力ならすぐ見つけられるよ」


《嬉しい……旦那様。やっと二人きりでゆっくりできますね》


「うん! うん! 」


 俺はレミアの色っぽい声に、携帯を耳に当てながら大きく頷いた。


 そしてでんわをきった瞬間。静かにしかし大急ぎで移民街へと向かい、全力の探知でレミアを見つけた。


 レミアは普段のメイド服とは違い黒のワンピース姿で、俺が現れると満面の笑みで迎えてくれた。


 そして俺たちはそのままゲートで天草市にある公爵家専用の温泉へと向かった。


 温泉に着くとレミアに先に入っていてくださいと言われ、俺は速攻で服を脱いで温泉で彼女が来るのを待った。


 少しすると脱衣所の扉が開き、小さなタオル1枚で大きな胸を隠しながら顔を真っ赤にしているレミアが現れた。  


 俺の目はレミアの身体に釘付けになり、その視線にさらに恥ずかしそうにしながら彼女は湯掛けをしてから俺の隣へと入ってきた。


 俺は緊張している様子のレミアに世間話をしてリラックスさせたあと、湯に浸かりながら彼女を後ろから抱きしめその大きな胸と尻を心ゆくまで堪能した。


 レミアは恥ずかしそうにしつつも俺が手を動かすたびに色っぽい声を漏らし、最後はレミアの方から俺にキスをしてきた。


 そしてそのまま温泉の中で、俺は彼女の初めての男になった。


 レミアの胸は柔らかく、まるで手が吸い込まれるようだった。そして岩に手をつかせて後ろから打ち付ける度に、尻がたゆんたゆんと波打って最高に気持ち良かった。


 まさか覗きがバレたあとにこんなご褒美が待っていたなんてな。


 まさに災い転じて福となすってやつだな。そう、今日覗きに行ったことは運命だったんだ。きっとレミアと愛し合うために神様が俺に覗きに行けと仕向けたんだ。


 俺は災いの渦中にいる三田のことなんてすっかり忘れ、レミアにヒールを掛けながら何年も妄想していたその身体を心ゆくまで味わうのだった。

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