第13話 サタン




「じゃあコウ君、行ってくるわね」


「ええ、楽しんできてください」


 俺は悪魔城の入口でブランド物のワンピースに身を包み、満面の笑顔のを浮かべているアルディスさんにそう答えた。


 彼女の後ろには恋人たち全員とカーラにニーナ。そして雪華騎士までがよそ行きの格好で立っている。


「レミア、コウのことお願いね? この人は私たちがいないと何にもできないから。ちゃんと着替えさせてあげてね? 」


「はい。旦那様のことはお任せください」


「たった2日だろ? そんな心配しなくても大丈だって」


 着替えくらいできるってのに。まあティナや恋人たちに甘えて毎回着替えさせてもらっている俺も悪いんだけど。でも朝とお風呂上がりの時に、ズボンを履かせてもらうついでに悪魔棒へ口でご奉仕をしてもらうのがやめられないんだよな。最近は我が家のそういったローカルルールをメレスもリリアも覚えて、今では全員が当たり前のようにしてくれるし。


「帰ってきたらたっぷり甘えさせてやっからよ。寂しいって泣くんじゃねえぞ? 」


「よく言うです。コウさんがティナさんたちとダンジョンに入っていた時に、会えなくて寂しいって泣いていたのはリズさんの方です。夜もベッドの上で一人で身体を慰……」


「だぁぁぁぁ! シーナ! テメェなに口走ってんだよ! コ、コウ! 違うからな? アタシはそんなことしてねえから! 」


「ああ、わかってるよ」


 そうだったのか。今度リズが一人でしてるところを見せてもらおうかな。


「フフフ、コウ君は愛されてるわね。メレスロスもコウ君の話ばかりなのよ? 」


「お、お母様。皆の前で恥ずかしいわ」


「今さら何よ。深夜に転移装置なんて物を使ってまで会いにきていた癖に。ゼオルムが探知のスキルを掛けないよう、朝まで相手をしていたママに感謝して欲しいわ」


「あ……ありがとうございますお母様」


「フフッ、いいのよ。おかげで私もゼオルムに気付かれずにここに来れるようになって、こうして女同士で遊びに行けるんだしね! 」


 アルディスさんはあの湖を出れた事が嬉しそうだ。


 どうもクリスマス辺りから魔帝が帝城に缶詰になっているらしくて、その隙にこうして転移装置で遊びに来てるんだよね。


 そう、実はアルディスさんにメレスとリリアが深夜に転移装置を使い、俺のところに通っていたことがバレちゃったんだ。


 クリスマス前からアルディスさんのウンディーネが気付いていたらしいんだけど、しばらく見て見ぬフリをしてくれてたみたいなんだよね。


 でもクリスマスの日に魔帝が家にしばらく帰れないと宰相から連絡があり、チャンスと思ったアルディスさんがメレスに転移装置の事は知っていると言って自分も使えるように脅し……いや頼んだみたいなんだ。


 それでクリスマスパーティの準備をしていたら湖に呼ばれてさ、魔帝には絶対内緒というのを条件でアルディスさんも使えるようにしたってわけだ。そしてそのままうちのクリスマスパーティに飛び入り参加して、朝までエルフたちと大騒ぎしてたよ。


 彼女はもの凄い酒豪でさ、俺がお見合いパーティも兼ねてるって伝えたら、パーティに呼んだラウラと一緒に酔っ払いながらエルフの男女を強制的にくっつけてた。その時に抵抗する男のエルフを何人もぶっ飛ばしたりして大変だったらしい。


 らしいというのは、俺はその場にいなかったからだ。


 ティナたちとラウラや悪魔城で働くメイドたちにプレゼントを渡した後、ティナから順に一人づつ呼び出してプレゼントとは別に指輪を渡してたからな。


 マジックアクセサリーの指輪じゃない。普通の指輪をだ。まあ日本円で一つうん百万もするやつだけど。


 それをもう少し待っていてくれって言いながら、恋人全員に海辺で右手の薬指にはめて渡した。彼女たちは俺の言葉の意味をしっかり理解してくれて、それはもう嬉しそうな顔ではめられた指輪を胸に抱いていたよ。オリビアなんて泣き出しちゃって大変だった。


 そんなことがあった後だから、その夜は全員と激しくてラブラブの性なる夜を過ごした。久しぶりに全員のお尻を並べて突いて回ったよ。いやぁ壮観だった。それにティナもリズもシーナもオリビアもメレスにリリアまで、みんな子供が欲しいって言って大変だったなぁ。


 仁科や飯塚たちはどうしてたかって? パーティで獣人やエルフたちをナンパしまくってたらしいんだけど、ガッつき過ぎて相手にされず泣く泣くニート連隊の失恋部隊と夜の街に繰り出していったと聞いてる。強さを見せないと異世界の女の子を落とすのは難しいと言っておいたんだけどな。


 まあそんな仁科たちとは違い、幸せな夜を過ごして使い過ぎて痛くなった腰を撫でながら起きると、西塔のメレスの部屋でアルディスさんとラウラが酒瓶に囲まれながら酔い潰れてたよ。


 それからアルディスさんはずっとここに居座っているというわけだ。ラウラも三日くらいいて、俺と映画を観に行ったりメレスとアルディスさんと温泉に行ったりしてゆっくりしていた。


 けど一昨日帝城に急に呼ばれたらしく帰っていった。俺も呼ばれたけど、もちろん無視した。


 ラウラが帰る時に寂しそうな顔をして、また来てもいいですかとか聞くからもちろんと言って頬にキスしたら満面の笑みを浮かべて帰って行ったよ。ほんと可愛い女になったよな。アルディスさんといる時なんて、少女みたいな笑みを常に浮かべてるし。


 しかしあのラウラがまさかあんなに変わるなんてな。見た目も若返ってさらに美女になったし、もう半裸で狂気の笑みを浮かべ銀扇を手に俺に襲い掛かってくることもない。何より下着をちゃんと着けている。そこだけ少し残念だけど、変われば変わるもんだ。いったい彼女に何があったんだろうな?


 それでラウラを送り出した後もアルディスさんは、メレスとティナを引き連れて街で遊びまわっていてさ。昨日になって突然大阪のユニバーサルランドと千葉のネズミーランドに、俺の恋人たちと行きたいと言い出したんだ。


 どうも普段は離れて暮らしているメレスとティナたちの関係を心配したみたいなんだ。それで親睦を深めようと、うちにいる女性たちだけで一泊二日の旅行を企画したらしい。


 そういうことならと、俺は東日本総督府に連絡して施設とホテルを貸し切らせた。もちろんもともと来る予定だった領民には十分な補償をした。俺のイメージをこれ以上悪くしたくないしな。


 んで12月29日の今日。


 早朝から悪魔城の入口でみんなを送り出してるってわけだ。


 ああ、カーラはティナとリズが無理やり研究室から連れ出した。なんだかんだあの二人が一番カーラを気に掛けてるよ。


 でも魔帝もこれだけ嫁さんが家を空けてるのに気づかないのかね? 魔道携帯でこまめに連絡しているとは言っていたけど、気付いたらまたうるさそうだな。帝国側の空域を警戒させておくか。


 俺がそんなことを考えていると、ティナが時計をチラリと見てアルディスさんへ顔を向けた。


「アルディスさん、そろそろ飛空艦に乗り込まないと。開園に間に合わなくなるわ」


「あら、もうそんな時間なのね。それじゃあ『第一回 阿久津公爵家後宮候補親睦旅行』に行くわよ! 」


 アルディスさんは片腕を天高く上げながら、後ろにいる皆に向かってそう言った。


 後宮候補って……アルディスさんにニーナとカーラは違うんだけどな。魔帝に聞かれたら発狂されかねないからやめて欲しい。


「よっしゃ! 遊びまくってやるぜ! 」


 リズは昨夜からネットでアトラクションを調べたりして、楽しみにしていたからやる気満々だ。


「兎は新しくできたハリーポッカーのアトラクションを最初にやりたいですぅ! ニーナと一緒に遊びまくりますですぅ! 」


 シーナは以前一緒に見た映画のアトラクションが楽しみなようだ。ニーナも姉と一緒に遊びに行けて嬉しそうにしている。こうして見るとホント清楚系の美人姉妹だよな。中身は二人ともアレだけど。


「私は明日行く予定のネズミーランドが楽しみだわ。夢の国というくらいだから期待してしまうわ」


 メレスも夢の国というキャッチコピーが気になったみたいで、ネズミーランドが楽しみっぽい。エルフと獣人がたくさんいるここの方が、よっぽど夢の国してるんだけどな。


「ふふふ、全部貸切だからゆっくり回れるわね。ほら、カーラ。立ちながら魔道回路の設計図なんて書いてないで行くわよ」


「あ、ちょっとティナ……」


「いってらっしゃーい」


 俺はデビルキャッスルの甲板に停泊中の、特別仕様の飛空艦に向かう皆をレミアと一緒に見送った。


「さて、リビングでゆっくりするかな。あっレミア、耳かきしてくれよ。朝からカサカサいってて気持ち悪いんだよね」


「はい。喜んで」


「じゃあ戻ろっか」


 そう言ってレミアの腰に手を回し、悪魔城へと戻っていった。


 メイドたちは年末休みを与えて数が少ないから、リビングには俺とレミアだけだ。久々に彼女の柔らかいお尻を満喫できそうだ。




 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




「あ……旦那様そ、そこは……」


「あっと、ごめんごめん。手が滑っちゃって」


 俺はレミアのメイド服の短いスカートに入れていた手を引っ込めてそう謝った。


 柔らかい太ももを触ってたら、つい奥の方にある下着の上も撫でていたようだ。うん、不可抗力だな。


「ふふふ、もういけない旦那様です」


「いやぁ、つい触り心地が良くてさ」


「そう言っていただけるのはとても嬉しいです。私などの身体で良ければお好きになさっていただいて結構ですよ」


「そんな風に言うもんじゃないよ。レミアは魅力的な女性だよ。だからつい手が滑っちゃったんだ」


 ほんと献身的で働き者の女性だよな。性格も大らかだし、メイドたちに姉のように慕われてるし。獣人やニートに元自衛隊の人たちから結構モテるみたいなんだよな。そりゃこんだけ綺麗で性格が良くて、ムチムチしている身体の女性を見てほっとく男がいるわけないよな。


 最近は紫のレースの下着を身に付けたりして、癒し系の顔とのギャップに俺もドキドキしてる。清楚そうな子ほどえっちだっていうしな。レミアもそうなのかな? でも恋人がいたことは無いと言ってたしな。


 チルやポーラは早い段階で彼氏作ったり別れたりを繰り返してるのに、レミアとニーナだけ告白されても断ってるらしいんだよね。それでも挑戦者は後を絶たず、クリスマスの日には男どもからすごい数のプレゼントもらってたようだ。


 ニーナもシーナそっくりの体型に成長して、ムチムチ巨乳青うさぎになってきたしな。見た目は真面目で清楚そうに見えるから、かなりモテるらしい。確かに昼は真面目だけど、夜は匂いフェチで年中一人で発情してる子なんだけどな。そんなニーナももう少しで18か、早いもんだな。やっぱ将来が心配だな……


「ありがとうございます旦那様……はい、お耳のお掃除は終わりました。最後にお耳を吹きますね? 」


 レミアはそう言って唇を俺の耳に近づけ……そしてそのまま俺の頬にキスをした。


「あれ? 」


「あら? ふふふ、私も手が滑ったようです」


「そっか、それじゃしょうがないな」


 俺は恥ずかしそうに頬を染めるレミアに起き上がりながらそう答えた。


 くうぅぅ! 可愛い! 


 これはやっぱ俺に気があるよな? ティナたちがいる時はこんなことしないもんな。二人きりだから積極的になった感じ?


「ふふっ、旦那様とこれだけ長い時間二人きりだと、少し緊張してしまいます。仕事なのにおかしいですよね」


「そんなことないさ」


 俺はそう言ってレミアの肩を抱き寄せた。


「あ、旦那様……」


 嫌がってない。それどころか俺の胸に頭を預けてくる。


 巻き角が俺の頬に軽く刺さって痛いがそれがなんだ! これは間違いないだろう。レミアは仕事の関係以上の気持ちが俺に対してある。この2年以上もの間。近すぎて手が出しにくかったレミアと今夜もしかしたら……憧れのメイドと旦那様のイケナイ関係に!


 俺がレミアの太ももに手を伸ばし、ゆっくりと撫でながらそんな期待をして股間を硬くしていると、リビングにおどろおどろしい魔道通信の呼び鈴が鳴り響いた。


 デロローン♪


 デロローン♪


「あら? この音は……」


「ゲッ! 帝城からかよ……とうとうバレたか? ああいいよ、俺が出る」


 俺は魔帝からの映像通信だと思い、テレビの横にある通信機に出ようとするレミアを制した。


 普段なら無視するけど、出なきゃ艦隊を派遣してアルディスさんとメレスを探しに日本に来そうだしな。


 どうやってアルディスさんのことを誤魔化すかな。


 俺はそんなことを考えつつ、ソファーから立って通信機の受信スイッチを押した。


 その瞬間。通信機の画面に50歳ほどに若返り白髪とシワが無くなり、真っ赤な髪をたなびかせている魔帝の顔が映し出された。


 くっ、コイツはやっぱイケメンだ。永遠の敵だな。


『フンッ! 待たせおって! すぐに出んか発情魔王! 』


「いきなり掛けてきて文句言ってんじゃねえクソ魔帝! なんの用だよ、俺は忙しいんだよ」


 レミアとキスとそれ以上ができそうな雰囲気だったのに邪魔しやがって。


『余に比べれば遊んでいるようなもんじゃろ! 余は帝城に軟禁されて愛する妻と娘の元に帰れぬのじゃぞ! クリスマスをシングルベルで過ごした余に比べれば、魔王など遊んでおるじゃろうが! 』


「お、おう……」


 なんだコイツ血涙なんか流しやがって……怖え。


 そういえばクリスマス前に電話してきた時にプレゼントを買ったとか、トナカイを用意させているとか言ってたな。メレスには内緒じゃぞと気持ち悪い笑みを浮かべてもいた。


 それがオジャンになったからキレてんのか。


 でもまあこの様子なら、アルディスさんがいないことに気づいてなさそうだな。あの屋敷の侍女は全員メレスとアルディスさんの味方だしな。うまく誤魔化せているようで安心した。


『年末年始も帰れるかわからぬというのに……余の家族サービスが……あのエロフが欲求不満になったらどうするのじゃ。いくら若返ったとしても耐え切れるかわからぬ』


「あ〜それは大変だな。で? 用件はなんだよ」


 俺はこのままじゃ延々と愚痴を聞かされそうなので、適当に相槌を打って早いとこ用件を言うように促した。


 早く切りてえ……あーあ、レミアが気をきかして席を外しちゃったよ。ほんとこのクソ魔帝は疫病神だよな。


『フンッ、一昨日の余の招集に応じなかったじゃろうが。じゃから皇帝である余が自ら連絡してやったのじゃ。まったく、世話の焼ける男じゃ』


「行くわけねえだろうが! 反乱鎮圧の時に頭にテメエの汚ねえ靴下を乗せられたことを忘れてねえぞ! 二度とテメエの臣下の振りなんかするか! 」


 善意で顔を立ててやろうとすりゃ余裕で仇で返しやがって!


『あの程度のシャレすら受け入れられないとは面白みのない男じゃのう。ククク、まあ良い。特別に余が召集をした内容を話してやろう』


「な、なんだよ。気持ち悪い顔しやがって」


 すげー嫌な予感がする。なんだ? 何を企んでる?


『ククク、魔王よ。初めて会った時に、余の先祖が魔界から以前いた箱庭世界へ侵攻した話をしたのを覚えておるかの? 』


「あん? なんだよいきなり……確かアデンだったか? 神々が神兵を育てるために実験場として作ったその箱庭世界を侵略しようとしたけど、現地人が滅ぶ寸前に勇者召喚をして返り討ちにあったんだよな? その後どういう訳か勇者がいなくなり、再侵攻して先住民である人族の男を滅ぼたんだったな。んで人族の女を犯し半魔人を量産して、エルフと獣人を奴隷にしたんだろ。最悪だなお前ら」


 平和だったかどうかは知らないけど、ある日突然魔界の住人に侵略されて人族の男は皆殺しになり女は犯され子を生まされたんだ。やっぱこいつらは魔族だわ。


『勇者のせいでこちらも相当数を減らしたからの。それに魔界にはもう戻る土地がなかったからの。生き残るために血を薄めてでも数を戻す必要があったんじゃ』


「ああ、それだ。前から疑問に思ってたんだけど、なんでそんなに急いで数を増やす必要があったんだ? アデンの箱庭世界は征服したんだろ? 数が減ったとはいえエルフも獣人も奴隷にできるほどの力はあったわけだ。それなのに血を薄め能力を下げてまで増やす必要がなんであるんだ? 」


 占領した世界だ。何も人族の血を入れて能力を落とさなくても、ゆっくり魔人の純潔種を増やす余裕があったはずだ。それなのに急激に増やす必要がどこにあったんだ? 


『追手が来ると思ったからじゃろうのう』


「追手? 勇者……のことじゃなさそうだな」


『うむ。魔王よ。余ら魔人はの、魔界で魔王サタンとの戦争に負けたのじゃよ。それゆえアデンに落ち延びて来たのじゃ』


「サタンて……マジか」


 サタンて確か堕天使ルシファーのことだよな? それと戦争して負けてアデン世界に落ち延びてきたってことか。


『うむ。アデン世界を征服した際に、魔王サタンは追手を差し向けて来たのじゃ。それゆえ早急に数を増やさねばならなかったと文献には書かれておる。現にアデンを征服したばかりの頃は魔素が濃く、ケルベロスやキマイラなどの魔界の魔獣のほか、サキュバスやヴァンパイアなど強力な悪魔もやって来たようじゃ。それによりさらに数を減らしたと伝え聞いておる。魔人の数が増え、アデン世界の魔素が薄くなってからはガーゴイル程度しか現れなくはなったがな。じゃがまあそのせいで余らも、あの世界を捨てなければならなくなったのじゃがの』


「なるほどな。どうりでコビールとか大の大人が俺を悪魔だなんだと言い出すわけだ。魔界からの追手だと思えば恐ろしくもなるか……ん? ちょっと待て。なんでそんな話を今するんだ? まさか……」


『うむ。イギリスとフランス領に、偵察用の悪魔のインプとゲイザーが現れての。恐らくサタンへ余らがこの世界にいることが伝わっておるじゃろう』


「なっ!? ふ、ふざけんな! お前らが魔界行って玉砕してこい! 地球は関係ねえだろうが! 魔界の悪魔を連れてくんじゃねえ! 」


 冗談じゃねえぞ! 征服された挙句に悪魔まで連れてこられて、地球人が一体何したってんだよ!


 魔人が狙われてるなら魔人だけが戦えばいい。地球人に迷惑かけんじゃねえよ!


『それじゃとオリビアも行くことになるのう。いいのかのぅ? サタンはしつこいからの。魔人がチキュウに残っている限り狙い続けるじゃろうのぅ』


「ぐっ、それは……くそっ! 初めて会った時に俺の力が帝国の未来に必要だって言っていたのはこの事かよ! テメェ、ハメやがったな! 」


 コイツは悪魔の追手がいずれ地球にやってくるのを知ってたんだ。最初から俺のこの能力を悪魔に向けさせるつもりでいやがった! 俺に追手を片付けさせるつもりだったんだ! 


 やられた! 魔帝が何かを隠しているのには気付いていたってのに、これは完全に予想外だ。てっきりダンジョンが氾濫か何かを起こすものだとばかり思っていた。魔物がダンジョンから出てくるなどその兆候はあった。だから領民を鍛え、全ての日本のダンジョンにギルドの人間を配置したってのに、まさか悪魔が侵攻してくるだなんて思いもしなかった。


『オリビアを見初めたのは魔王じゃろう。余は何もしておらぬ。ククク、恋人と故郷と守るものがおるならば戦うしかなかろう魔王。それにたとえ魔人が一人もいなくなったとしても、これほど濃い魔素がある世界じゃ。サタンが放っておくとも思えぬ。魔界の門を閉じなければ、過去にアデンに現れた悪魔などとは比べ物にならないほど強力なのがやってくるやも知れぬの。どうする魔王? チキュウで暴れ回る悪魔どもを見て見ぬふりをするのかの? 奴らはまず最初に魔人を狙うじゃろうのう。オリビアが危ないのう』


「ぐっ、この疫病神が……その魔界の門はどこにあんだよ。速攻でぶっ壊しに行ってやるから場所を教えろ」


 魔帝の策にまんまとハマったのはムカつくが、オリビアとリリアとその家族が狙われる危険があるならやるしかねえ。悔しいが恋人と恋人が大切にする人たちを危険に晒すくらいなら、魔帝の思惑通りに動いた方がマシだ。


『今探しておる。しかしまだ見つかってはおらぬ。欧州領のどこかに複数はあると見ておるがな。まとまった数の悪魔が侵攻してくれば特定することも可能なのじゃが……まあいずれにしろ見つかり次第魔王には知らせる。魔王しか魔界に繋がる門は壊せぬゆえな』


「使えねえな。欧州って探す範囲が広くねえか? 本当に見つけられんのかよ……って、ちょっと待て! 今俺にしか壊せないとか言ったか? どういうことだ? 今まではどうしてたんだ? 」


 俺にしかって言うことは滅魔で消滅させることができるんだろう。けどそれなら今までアデンの箱庭世界ではどうしてたんだ?


『うむ。代々帝国皇帝になった者が壊しておった』


「え? じゃあ俺だけじゃねえじゃねえか……ハッ!? まさか! 」


 魔帝がいるのに俺だけってことはまさか……


『ククク、魔界の門はサタンが信仰しておる、魔神バランの力によって作られる門じゃからの。同じ魔神であるデルミナ様にしか壊すことはできぬ。つまりデルミナ様の加護を得た者しか壊せぬのじゃ』


「ぐあぁぁ! ふざけんなこの呪い! どこまで俺を呪えば気が済むんだよ! 」


 雪華騎士やレミアたちと露天風呂や海水浴ができないどころか、魔界の門を唯一壊せる存在だあ? 呪われてる……間違いなく俺は呪われている!


『ワハハハハ! 魔王がダメージを受けておる姿は愉快じゃのぅ。今日この事を告げるのを心待ちにした甲斐があったというものじゃ』


「うるせぇぞクソ魔帝! それもこれもテメェがアッサリ殺されるからだろうが! デルミナに言って加護を戻してもらえよ! こんなのいらねえんだよ! 」


 全部コイツのせいだ! 魔人が地球を侵略しようと思わなきゃダンジョンが現れることもなかったし、魔帝が死ななきゃ俺にこの呪いが移ることも無かった。俺にとってコイツらの存在自体が呪いだ。


 いや、オリビアとリリアとラウラは違うけど……帝国が侵攻して来なきゃティナたちとも出会えなかったし、俺はずっとただのニートだったけど。


 ぐぬぬぬぬ!


『ククク、それはできぬ。加護が無ければデルミナ様の御神託も聞けぬからな。魔王も早くお声が聞けるように毎日祈るのじゃぞ』


「誰が呪いを与えた奴に祈るか! というかそもそも魔神バランってのは誰だよ! いったい魔界に何匹魔神がいんだよ! 」


『バランはデルミナ様を魔界から追い出した魔神じゃ。デルミナ様がおっしゃるには、魔界にはもともと三柱の魔神がおったそうじゃ。その中で圧倒的な力を持つシヴァという魔神が魔界を治めておったのじゃが、しかしある日突然その魔神シヴァが消滅したそうじゃ。それによりその後継者争いに魔神シヴァの配下であったバランとデルミナ様が争った。と言っても神同士直接争うのは禁じられていたらしくての、眷属同士の代理戦争になったのじゃがな。そこでバランは魔神シヴァを失い、途方に暮れておったシヴァの眷属であるサタンら複数の魔族を取り込み、さらにサタンを使い中立を宣言していた吸血鬼族を力づくで従わさせた。そして魔人族と戦わせたそうじゃ。それにより魔人族は敗れ、デルミナ様と共にアデンへと落ち延びたんじゃ』


「あ〜頭の良い魔神とサタンにいいようにやられたってわけか。そりゃ魔界の全種族と戦って勝てる訳ないよな」


『うむ、サタンは魔界の魔獣を操ることもできたらしいからの。撤退に次ぐ撤退で領地を全て奪われたと伝え聞いておる』


「チッ、結局は俺しか魔界の門は壊せねえし、その門もまとまった数の悪魔が侵攻してこないと場所が特定できないってことか。で? まとまった数ってのはどれくらいの数なんだ? こっちに来る前に防げそうなのか? 」


『わからぬ。余と父が皇帝の間にやって来たのは、C+ランクのガーゴイルが数百匹ほどじゃった。しかしそれはアデン世界の魔素が薄かったからじゃ。この魔素の濃いチキュウに、どれほどの数がやってくるかは予想ができぬ。より強い悪魔が同じ数でやってくる可能性もあるのぅ』


「C+か、大したことねえな。ただそれより強いとなるとBランクか……それが数百とかだと厄介だな」


 ガーゴイルって確か石でできた飛行系の悪魔だったな。その程度なら飛空艦隊で対応できる。だがBランククラスがその数で来ると厳しい。


『うむ。そのうえ濃い魔素の中で生まれた魔界の悪魔は、下級悪魔でも様々な特殊能力を持っており強い。ガーゴイルも岩を飛ばす特殊能力があり、飛空戦艦も墜とされておる』


「まあ通常の飛空艦は前方にしか魔力障壁を張れないからな。主砲や対空砲を潜り抜けて、上下左右や後方から接近攻撃されたらそりゃ墜ちるだろうな」


 重巡洋艦は後方も障壁を張れるが動きが鈍いので、さらに墜とされやすい。全方位に障壁を張れる飛空要塞以外は接近されると厳しいよな。戦闘機で倒せればいいんだけど、魔銃じゃC+ランクの魔物相手じゃ火力不足だしな。


『うむ。まあすぐには大軍で攻めては来ぬじゃろう。魔素の濃さは知られておるからの。来るなら数を集め一気に征服しにくるはずじゃ。ククク、こんなに早くやって来てくれるとはの。ラッキーじゃのぅ』


「どこがラッキーだ! こっちは超絶不幸で大迷惑なんだよ! 頭おかしいんじゃねえか? あ、今更か」


『なんじゃと! 余の頭のどこが……いや、好きに言わせてやるかの。ククク、魔王がいればサタンなぞ恐るるに足らぬからのぅ。デルミナ様もお喜びになろう。いや、愉快じゃ! ワハハハハ! 』


「くっ……ムカつく! テメェも軍を出せよな! 俺ばかりにやらせるならサタンの代わりに滅ぼしてやるからな! 」


『わかっておる。ご先祖様の無念を晴らすため余も全力で戦うつもりじゃ』


「絶対だぞ! そもそもお前らが連れてきた悪魔なんだからな! 責任持って最前線で戦えよな! 」


『うるさいのぅ。やると言っておるじゃろうが。では伝えたからの。しっかりと戦いの準備をしておくのじゃぞ。ククク、ではの』


「くっ……本当にムカつく! 」


 俺はニヤつきながら通信を切る魔帝に、唇を噛み締めながら悔しがった。


 くそっ! でもこれは断れねえし逃げれねえ……絶対に門を壊す時に魔帝を魔界に放り込んでやる! 覚えてろよクソ魔帝!


 俺はニヤついた顔で俺にとんでもない役目を負わせた魔帝に、必ず復讐することを誓うのだった。


 魔帝の野郎。もう今年も終わるって時に、とんでもない爆弾を落としていきやがって!


 こうしちゃいられねえ。まずは至急領地を守る態勢を整えないと。悪魔の大軍がやってきてからじゃ遅い。日本の防空態勢と住民の避難態勢を整えるのが先だ。


 そのあとはカーラに防衛のための兵器を作ってもらわないとな。攻撃兵器は研究所で解析が終わった超魔導砲に換装すればいいだろう。なんとか小型化して戦闘機にも積みたいな。


 とにかくまずは防御だ。俺が行くまで耐えてさえくれればいい。


 そう考えた俺はさっそく東日本と南日本総督府に魔導通信を繋ぎ、正月休みを返上して動くように指示を飛ばすのだった。

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