第32話 皇帝 ゼオルム・テルミナ 前編

 


 ーー テルミナ帝国 帝城 寝室 皇帝 ゼオルム・テルミナ ーー





「ムニャムニャ……アルディス……もうこれ以上は一滴も……死んでしま……う……ムニャムニャ……」



 ドーーン


 ガタガタガタ



「んなっ!? なんじゃ! 何の音じゃ! 」


 余は突然地を揺るがすほどの音と振動にベッドより飛び起きた。そして窓へと向かいカーテンを勢いよく開けた。すると帝都の外れにある二つの軍基地から火の手があがっているのが余の目に映った。


 なんじゃ!? テロか何かか!?


 余がロンドメルによるテロを疑った次の瞬間。空から白い閃光が軍基地へと降り注いだ。


 ドーーーーン!


「なっ!? 砲撃じゃと! 飛空艦に襲撃されておるのか! 」


 バタバタバタッ


 ガチャッ!


「陛下! お休みのところ失礼致します! 現在皇軍基地及び帝都防衛軍基地が、複数の飛空艦と思わしきものより襲撃を受けております! 」


「まさかロンドメルの艦隊か!? なぜ帝都に近づくことを許したのじゃ! 帝都防衛軍は何をしておったんじゃ! 」


 余は慌てた様子で寝室に入ってきた、十二神将のミハエルへとそう怒鳴りつけた。


 信じられぬ! 警戒をしておったはずじゃのにここまで接近を許すとは! 火線の数からいって数十隻はおるはずじゃ。これほどの数の艦隊が、魔導レーダーやチキュウ製の電波式レーダーに映らぬなどあり得ぬ。まさか軍の者は帝都に敵が来ぬとレーダーの監視を怠っていたのではあるまいな。


「それがレーダーにはまったく反応が無かったと、複数の監視所から報告がありました。詳細は軍務尚書より謁見の間にて報告をさせますので、急ぎ御支度のほどお願い申し上げます」


「反応が無かったじゃと? どういうことじゃ……チキュウのレーダーならともかく魔導レーダーに映らぬとは……チッ、今行く。外で待っておれ」


「ハッ! 」


「誰か! 着替えを持て! 」


 余はミハエルを下がらせ、隣室にいる侍女へ声を掛けオリハルコンの鎧を着込み謁見の間へと向かった。


 軍基地を奇襲されたのは痛いのう。しかしロンドメルは足の速い船でやってきおるはず。戦艦と空母はおらんじゃろうな。となれば地下基地の艦隊で時間を稼ぎ、援軍をここで待つ方がよかろう。


 まあ2時間もしないうちにマルスとハマールの配下の者が、艦隊を引き連れやってくるじゃろう。まずはこの初撃を耐え、後からやってくるロンドメルの本隊を迎え撃たねば。


 やってくれるのぅロンドメル。まさかこれほどの奇襲を仕掛けてくるとは予想してなんだ。



 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「陛下! 」


「「「陛下! 」」」


「狼狽えるでない馬鹿者が! む? アインハルトはどうした」


 余が魔王対策のため1年前に一つ下の階に移設した謁見の間に入ると、十二神将にリヒテンを始め各省のトップと軍のトップである軍務尚書が集まっていた。しかしそこには帝城守備隊のトップであるアインハルトの姿が無かった。


「ハッ! ローエンシュラム侯は万が一に備え、帝城守備隊を編成中とのことです」


「フンッ! 今さらか? そんなもの普段から編成しておらねばおかしいじゃろ。使えぬガキじゃ。まあよい、それより軍務尚書よ。現状でわかっておることを報告せよ」


「ハッ! ご報告申し上げます」


 軍務尚書の説明によると、皇軍基地と帝都防衛軍基地は絶望的のようじゃ。兵舎と司令施設と駐機場の周辺を徹底的に砲撃されたらしく、誰も飛空艦に近づけぬようじゃ。これほど呆気なく最新型の艦隊と飛空要塞を鹵獲されるとはの。乗務員がいなければただの鉄屑と同じじゃ、そうならぬよう早期警戒網を張っているというのに防げなかったとはの。チッ、余が飛空要塞に乗り込む隙も与えぬとは。


 帝国が誇る最強の艦隊が、一度も飛ぶことなく鹵獲されるとは悪夢じゃの。


 そして奇襲を許したことに関しては、どうやら本当にレーダーで捕捉ができなかったようじゃ。偵察機による目視でも艦影が確認できなかったらしい。目視でも発見できぬとは、いったいどうなっておるのじゃ。


「最後に攻撃を受けたのは帝都だけではなく、周囲の貴族たちと皇家直轄領。さらにはマルス公爵領と欧州の派遣軍基地に、ハマール公爵領の軍基地も攻撃を受けているようです」


「マルスにハマールのところもじゃと!? これほどまで広範囲のエリアへの奇襲が、まったく気付かれないなどいくらなんでもおかし過ぎるじゃろ! 帝都もマルス領も常に警戒機を飛ばしておったのじゃぞ! 」


「それが直轄領の軍を始めマルス公爵軍もハマール公爵軍も、敵影を発見できないまま近づかれたようです。恐らく敵の艦は、魔導レーダーと電波式のレーダーを無効化できる何かを使っているのではないかと思われます」


「レーダーを無効化じゃと? すてるすと言うやつか……チキュウのすてるす機は魔導レーダーで捕捉できるゆえ無視していたが、まさか魔導レーダーをも無効化できるとは……」


 ロンドメルめ……船体にアダマンタイトでも貼りつけでもしたのか? いや、希少金属であるアダマンタイトをいくら薄く加工したとしても、100mはある船体に貼り付けるほどの量を確保するのは不可能じゃ。余のところにも鎧3つ分しか残ってないくらいじゃからな。ならば何かほかの素材を開発したか?


「攻撃を受けているほかの領の者たちの被害状況はどうなのじゃ」


「それがどうやら魔導通信の中継基地を抑えられたようで、他領との連絡が封じられている状態です」


「チッ、電波式の通信機はどうなのじゃ。そっちも使えぬのか? 」


「はい。妨害電波を流されており使えません。現在無傷の皇軍地下基地より高速連絡艇を飛ばし、近隣の貴族家への出撃命令と、マルス公爵家及びハマール公爵家の状況を確認させに向かわせております。同時に第7艦隊も出撃させ、帝都上空の防衛にあたらせております」


「外部との通信を絶ったか。用意周到じゃのう。状況はわかった。帝都には超魔導砲を配備しておる。第7艦隊には戦闘機をあるだけ飛ばさせ、敵艦の索敵にあたらせよ。ノコノコとやってきたロンドメル艦隊を発見次第、超魔導砲と第7艦隊にて撃ち落とすのじゃ」


 帝都には6門の超魔導砲を配備しておる。レーダーが使えぬのなら大量の戦闘機によって目視させるまでよ。いくらなんでもそれなら補足できるじゃろ。どこから来ても撃ち落としてくれようぞ。


「ハッ! 全機索敵にあたらせ発見次第、第7艦隊と超魔導砲にて粉砕いたします! 」





 そして30分ほど経過し、余がロンドメルの奇襲艦隊が現れるのを今か今かと待ち構えていた頃。


 ドオォォォン


 ズウゥゥゥン


「な、なんじゃ! 何が起こった! 」


 突然の轟音とともに帝城が揺れたことで、余は王座から滑り落ちそうになるのを耐え軍務尚書に状況報告をするよう叫んだ。


「ハ、ハッ! お待ちを……私だ。司令室何があった。状況を報告せよ…………なっ!? なんだと! 馬鹿な! 」


「軍務尚書! 何があったのじゃ! 」


「ハッ! だ、第7艦隊は突然側面より砲撃を受け壊滅! 帝都城壁に配備しておりました超魔導砲も砲撃を受け、部隊との連絡が途絶えました! 」


「ば、馬鹿な……超魔導砲が……それに側面じゃと!? そんな低空にいたのを見つけられなかったのか! 」


 どういうことじゃ! 巡洋艦の射程などたかが知れておる。そんな距離にいた艦を、第7艦隊を一撃で壊滅させるほどの数の艦を見落としたというのか! 


「そ、それが確かに突然側面より砲撃されたと報告が……お、お待ちください。緊急の連絡が入りました……私だ……なに! 姿を見せた!? せ、戦艦級に空母もいるのか!? 」


「戦艦に空母じゃと!? 」


 奇襲じゃから高速巡洋艦だけかと思っておったら戦艦に空母まで……空母などという図体のがデカく足の遅い船をなぜ発見できなかったのじゃ。


「ハッ! 敵は突然姿を現し、この帝都上空に集結しているとのことです。現状確認できた艦数は戦艦10、空母2、 重巡5、巡洋艦20ほどで、いずれの艦にもロンドメル公爵家の紋章を確認したとのことです」


「それほどの艦隊が突然現れたというのか! いったい何がどうなっておるんじゃ……」


 信じられぬ……飛空艦に魔導レーダーと電波レーダーに捕捉されない何らかの仕掛けをし、さらに目視でも見つかることなくここまで接近するとは……ロンドメルは何か特殊な装置を開発したのやもしれんな。

 ロンドメルめ、化学兵器を隠れ蓑にこんな物を開発しておったとは。脳筋のくせによくここまでものを作ったものじゃ。やはりチキュウの科学者の力かのう。余もチキュウの科学を利用して、強力な兵器を作ったつもりじゃったが使う前に制圧されるとはの。


 見事なもんじゃ。いや、余がマヌケだっただけかの。


 どうやら余は、あんな小僧に負けるはずがないと慢心しておったようじゃ。もう年かのう。


「「「へ、陛下……」」」


「フンッ! ロンドメルにしてやられたわ。間もなくこの帝都に上陸してくるじゃろう。奴の目的は余よ。文官らはここを出て屋敷でおとなしくしておれ。奴も文官には手を出さぬじゃろ。後が大変じゃからな。軍務尚書は地上戦の指揮をせよ」


「ハッ! 援軍が来るまでこの帝城へは一兵たりとも入れません! では! 」


 余の命令に文官と軍務尚書は謁見の間を出て行った。


 リヒテンも逃したいとこじゃが、宰相ゆえ外に出れば捕らえられるか殺されるじゃろ。艦隊が上空にいる状態では逃げ切るのは無理じゃろうな。ならばここにいた方がまだ安全じゃ。


 ロンドメルは余を自らの手で殺そうとするじゃろう。昔、余がそうして加護を得たことを話したからの。ならば加護を得る確率を高めるために、帝城を砲撃することなく余を直接殺しに来るはずじゃ。


 マルスとハマールの領地も襲撃を受けてるとなれば、そっちの援軍は期待できそうもないのう。近隣の貴族らの援軍はあまり期待できぬしの。ロンドメルが必死に調略をかけておったからの。


 皇軍と帝都防衛軍が壊滅したと知れば、裏切るか日和見するじゃろ。余が即位する時もそうじゃったからな。魔人らしいといえば魔人らしいのう。


 それならばロンドメルがやってくるまでここで待つほかないの。しんどそうじゃが仕方あるまい。ロンドメルを殺せばこの戦いも終わりじゃ。


 しかしその前にほかの客が来そうじゃの。


 この状況になっても現れぬとは、やはり動くつもりか。


「さて、リヒテンよ。アインハルトは来るかのぅ」


「ローエンシュラム侯爵は来ますでしょうな。陛下のお命を狙いに」


「じゃろうな。絶好の機会じゃからな。確か奴と配下の者は【時】の古代ダンジョンの55階層に到達したと言っておったの」


「はい。我々と相性が最悪のあのダンジョンで、記録にある過去最高の58階層にもう間も無く到達するようです。なかなかに優秀でございますな」


「ただのドMじゃろ」


 魔族に特攻のある聖属性のスキルを撃ちまくる上に、笑いながら人をいたぶって殺す天使どもを相手によく心が折れぬものじゃ。あの魔人より残酷な者たちが、本当に天使なのか疑問じゃ。


 アインハルトは最下層に神がいるだのなんだのという迷信を信じおるようじゃが、そんなものがダンジョンにいるはずないじゃろ。才能があってもまだまだ夢見るガキじゃの。


 余がそんなことを考えていると、廊下を進みここへ向かってくる複数の魔力反応が探知に掛かった。


「やはり来たか。分かりやすい奴じゃの。リヒテンは余の私室へ下がっておれ。十二神将よ、少し運動しようかの」


「「「ハッ! 」」」


「陛下、ご武運を」




「失礼します。陛下。ロンドメル軍は帝都に上陸しました。制空権は奪われ、上空からの戦闘機の援護により防衛軍の地上部隊は壊滅の危機にあります。ことここに至っては援軍到着までお隠れいただきたく」


「あの世にか? 」


 70~80名ほとの帝城守備隊の兵士を引き連れ、完全装備姿で謁見の間の入口に現れたアインハルトにそう言って笑いかけた。


 相変わらず長ったらしい赤髪にパーマなど掛けてスカした男じゃ。1人だけ白い全身鎧に真っ赤な花の絵など描きおって。こういうのをチキュウではナルシストと言うんじゃったか。気持ちの悪い男じゃ。


「お戯れを……私は陛下を安全な場所までお守りするべくここへと来たのです。一族の私をお疑いになるのですか? 」


「ククク……アインハルトよ、下手な芝居はやめよ。貴様のことは幼い頃からよく知っておる。血筋にこだわる貴様が、余とメレスを殺したがっていることくらいお見通しじゃ。血を汚した余を殺し、メレスも手にかけたいのじゃろ? 」


 アインハルトは代々皇帝を輩出するローエンシュラム家の血筋に対し、異常なほどのこだわりを持っておる。皇帝になるのに血筋など関係がないと言うのにのう。


 確かに武に関してはローエンシュラム家の遺伝子は優秀じゃ。余がそうじゃし、余のひ孫もアインハルトも才能豊かじゃ。しかし皇帝を選ぶのはデルミナ様じゃ。過去にローエンシュラム家以外からも選ばれておる。血筋などにこだわっても意味がないのじゃ。


「……陛下にはお見通しでしたか。これ以上ローエンシュラム家の血を汚されぬよう、私がこの手で断ち切らせていただきます。メレスロスもすぐに陛下のもとに送りますゆえ、先に魔界にてお待ちください」


「メレスには最強のぼてーがーどがついておるからの。貴様では手が出せぬよ。まあその前に余によって貴様は死ぬからの。どちらにしても無理じゃな」


「フッ、確かに陛下はSS+ランクとお強い。しかし老いには勝てません。この数を相手に勝ちきれるか見せていただきましょう」


「余はまだまだ若いからの。超余裕じゃ」


 余はそう言って笑い、アインハルトの連れてきた兵を見渡した。


 確かアインハルトとその周りにおる3人はS+ランクじゃったの。その他は守備隊の兵であればAからS-ランクのはずじゃ。ローエンシュラム家とロンドメルとオズボードの派閥の家の者ばかりじゃの。ほかの者は城の入口の警備に回したか。


 十二神将の武力とアインハルトとその取り巻きの能力は同じくらいかの。ならばアインハルトと取り巻と20人ほどは余が相手をするかの。


「強がりを! 包囲して殲滅せよ! 『アイスワールド』! 」


「「「ハッ! 」」」


「ヌルいのぅ。『インフェルノ』! 十二神将よ円陣を組むのじゃ! 」


「「「ハッ! 」」」


 アインハルトが余らを凍らせるべく放ったスキルを、余は灼熱の炎で相殺した。そして十二神将に円陣を組み包囲に対処するよう命令じた。


「アインハルトよ! 余に反逆した罪を死をもって償うのじゃ! あとで家族も送ってやろう。じゃから安心して死ぬがよい! 『フレイムランス』! 」


「『アイスランス』! グッ……」


「未熟じゃのう……ほれ、まずは右腕じゃな」


 アインハルトは余が放った50本にも及ぶ炎の槍を相殺しようと同じ数の氷の槍を放ったが、余は炎の槍の軌道を少しズラした。それによりアインハルトは相殺に失敗し、背後にいる兵たちもろとも炎の槍をその身に受けることになった。


 何百年も使ってきたスキルじゃ。軌道を変えることなどわけないのじゃ。


『『『エアカッター』』』


「おっと! アダマンタイトの盾は便利じゃのう」


 アインハルトに追い討ちをかけようと剣を構えると、側面から無数の風の刃が飛んできた。余はとっさにマジックポーチからアダマンタイト製の盾を取り出し、それらを全て受け無効化した。


「小細工を! 」


「馬鹿め。これが戦術というものじゃ」


 余は激昂して斬りかかるアインハルトのミスリルの剣をオリハルコンの剣で受け、弾き返したあとにアインハルトとS+ランクの3人の取り巻きへと斬りかかった。


 アインハルトとその取り巻きとの戦闘中にほかの兵も横槍を入れてきたが、余はその全てを跳ね除け斬り伏せた。アインハルトらも言うだけあり強かったが、何百年と戦ってきた余にたかが100年程度戦っていただけのアインハルトたちが敵うはずもなく、余の剣により次々と斬り伏せられていった。


「ぐっ……まさかここまでとは……バケモノめ……」


「フゥ……貴様が弱いだけじゃ。その程度で余を殺そうなどとはの。自惚れ過ぎじゃ」


 余は乱れた息を整えた後に、右腕を切断され鎧が半壊し身体のあちこちから出血しているアインハルトにそう答えた。アインハルトの側には取り巻きの3人と、戦闘に巻き込まれた20ほどの兵の骸が転がっている。


 さすがに現役でダンジョンに挑んでおる者たちじゃ。まあなかなか手強かったの。


 しかしやはり年かの。思ったより体力の消耗が激しいのう。伝説の時戻りの秘薬が欲しいところじゃの。魔王なら持っておると思うんじゃがくれんかのう。


「まさかこの数を相手に圧倒するとは……SSランクの伝説級とはいえ、ここまで力の差があったとは……」


「デルミナ様の加護を受けるということはそういうことなんじゃ。勉強になったのう。ならばもう死ぬがよい」


 余は青ざめるアインハルトへ間合いを詰め、胴へと剣を横薙ぎに振り抜いた。


「クッ……ガハッ! こ、この……私が……こんなとこ……ろで……」


「余を年寄りとみくびったのが災いしたのう。血統などくだらんものに執着なぞするから判断を誤るのじゃ。先に魔界に還っておれ」


 余は胴と下半身が泣き別れになり事切れたアインハルトにそう告げ、まだ生き残っている残党を十二神将とともに掃討していった。




「終わったか」


「ハッ! 殲滅完了致しました」


「チッ、ルーベルにヘンデルにクリストフがやられたか」


 Sランクも多かったからの。いくら十二神将でも室内であの数相手では仕方あるまい。とはいえ、ちと痛いのう。


 それから祝福の指輪とポーションで回復をしていると、この謁見の間に向かってくる大量の魔力を感知した。


「ぬ? もう来たか……チッ、臆病者が。消耗させたあとに討つつもりか」


 余は探知に現れた300近くの魔力反応に舌打ちをした。


 ロンドメルのことじゃから余に対抗して作った十二魔将とかいうを引き連れ、雌雄を決しにくると思っておったんじゃがの。甘かったようじゃ。


 この慎重さはカストロの策じゃろな。あの脳筋の手綱をうまく握っておる。


「武のロンドメル家の兵じゃ。帝城守備隊レベルのランクがあると見て間違いなかろう。余から離れるでないぞ? お互いに連携して対処するのじゃ」


「「「ハッ! 」」」


「ロンドメルもやってくるはずじゃ。ここで雌雄を決するぞ」


「「「ハッ! 我らこの命尽きるまで陛下をお守りいたします」」」


「うむ。その忠誠にはいずれ必ず報いると約束しよう」


 よい男たちじゃ。魔王に倒された前任者よりは弱いが、忠誠心は上よの。前任者であれば、ここでロンドメルの息子とオズボードの一族の者が裏切っておったじゃろうな。


 魔人で命惜しさに裏切らぬ者は貴重じゃて。全てが終わった後には領地でもやるとするかの。


 その前にロンドメルとその兵どもを片付けねばな。


 まったく、余がここまで追い込まれるとはの。もう年かのう。



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