第37話 集結
「フォースターよくやった! お前マジ有能! 」
俺は15mほどの小型の飛空連絡艇から、6名ほどの人を引き連れて降りてくるフォースターたちを笑顔で出迎えて労った。
フォースターの後ろには2人の女性兵士に支えられて歩く30代くらいの綺麗な女性と、その女性そっくりの中学生くらいの女の子がお互いの身体に手を回しつつゆっくりと歩いていた。
あの2人が荒川さんの奥さんと娘さんだろう。
「ハッ! ありがとうございます。優秀な部下のおかげです」
「限られた時間の中でよくやった。これは気持ちだ。救出に参加した者に渡してやってくれ」
俺はそう言って空間収納の腕輪から小袋を2つ取り出し、直立不動の姿勢をしているフォースターへと渡した。中には小金貨が10枚ずつ入っている。まあ日本円にしたら今の相場だと300万くらいだ。帝国では100万くらいの価値だけど。
「ありがとうございます。部下も喜ぶと思います」
「あの2人か。もうすでに嬉しそうだな」
俺は荒川さんの奥さんたちから距離をとって警戒している3人の男性兵士のうち、2人の顔がニヤけたのを見逃さなかった。
「私の従兄弟の次男と三男坊たちでして、口が達者な者なので潜入要員として使っています。それにしてもこれほど早くこの基地を制圧なされるとは……私の判断に間違いが無かったことを実感しております。あまりにも何も無くなっており多少困惑をしている部分もありますが」
「俺は無限に入るマジックアイテムを持っているからな。既に回収したよ。飛空艦隊を無傷でな」
飛空艦隊に戦闘機、各種車両に整備用機材に燃料の魔石と、これでかなりの戦力アップになった。置く場所もないし動かす人材もいないけど。
「飛空艦隊を丸ごと収納できる物をですか……それだけで強力な質量兵器になりますね」
確かに対空砲を潰して、大岩を街の上空から落とすだけで壊滅させることはできるだろうけどな。しないけど。
「んなエグい使い方なんてしねえよ。それより……貴女が荒川さんの奥さんと娘さんですね? 俺は以前桜島のダンジョンで荒川隊長に助けられ、今回慰霊祭を主催した阿久津といいます。今回は貴族のゴタゴタに巻き込んで申し訳ありませんでした。隊長は今ここに向かってきていますので、もう少しお待ちください」
俺はフォースターの横を通り過ぎ、怯えている母娘の前に立ちデビルマスクを外して頭を下げて詫びた。
「あ、あなた様があの阿久津男爵様なのですか? 夫を助けてくださっていたあの……お、夫は無事なのでしょうか? 私たちのために何かをさせられるようなことを、ここの基地の貴族様が言ってました。てっきり阿久津男爵様に何かご迷惑をお掛けしたのかと……一族ごと処罰されるものだとばかり……」
「荒川隊長が慰霊祭に参加した際に、奥さんと娘さんが人質になっていることを知りました。そしてすぐに味方の帝国人に奥さんたちの救出を頼み、俺はモンドレット子爵に宣戦布告してこの基地を制圧しました。安心してください。もうお二人に危害を加えるようなことをする人間はここにはいません。ここの指揮官も捕らえています」
俺はそう言って怯える2人を安心させた。この基地に捕らえられている時にあった、たくさんの飛空艇も兵士もいないことに気付いたのだろう。2人は周囲を恐る恐る見渡して驚いた表情で俺を見つめていた。
奥さんは恐らく荒川さんが自分たちを助けるために、俺へ危害を加えたかもしれないと思っていたんだろう。それに失敗して荒川さんが殺されたのかもしれないとも。そして家族である自分たちも、俺に処刑されるのではないかと怯えていたんじゃないかな。
まあ同じ日本人でも地球を征服した国の貴族になっちゃったし、特警を派手に潰したしね。そう思われても仕方がない。世界中で貴族やその兵士たちは、現地人を虫を殺すくらいの感覚で殺してるみたいだし。評判の悪さは折り紙付きだ。
「わ、私たちのために子爵様と戦争を……」
「いずれ潰すつもりだったので気にする必要はありませんよ。ああ、そうだ。荒川隊長と魔道通信で話します? 」
「は、話ができるのですか!? ぜ、是非お願いいたします! 」
「できますよ。でしたらあそこにテントを用意してありますので、中でゆっくり休みながら話してください。ナルース! セシア! お二人をマジックテントに案内してくれ! 他の者たちは中継機の設置を頼む」
俺は、俺以外には気安く接しやすさを感じさせるダークエルフの女性2人を呼び、荒川さんの奥さんと娘さんをマジックテントに案内するように言った。
俺に呼ばれた2人はわざわざ闇精霊で身を包み、俺の前に影のように近づき片膝をついた状態で闇から現れた。
「「御意にございます 」」
「いちいち芸が細かいんだよ……ん? どうしたネル? 魔力水くれって? 20本も? ああ、みんなで飲むのね。いいよ、ネルもいきなり使用頻度が上がって大変だな。はい、お疲れ様」
俺が顔を伏せ忍者ごっこをしている2人に呆れていると、2人の闇精霊の『ネル』が基地の照明を使った影絵で魔力水をおねだりしてきた。この子たちはほかの精霊と違い夜に動きが活発になって、夜によく遊びにくるんだよね。まあ魔力水目当てなんだけど。
俺は悔しそうな顔をしているナルースとセシアをよそに、ネルに魔力水をあげた。ネルたちは大喜びで契約主をほっぽって、後方の仲間のところへと飛んでいった。
多分せっかく忍びっぽくキマッたのに、自分たちの精霊が台無しにしたことが悔しいんだろう。精霊は空気なんか読まないからな。ご愁傷様。
「お、お屋形様……ネルがいなくなってしまいました。これではくノ一としての活動が……」
「今度はお屋形様かよ。どこの殿様なんだ俺は……ネルは魔力水飲んだらすぐ戻ってくるから早く荒川さんの奥さんを案内してくれ」
男からは主君で女の子からはお屋形様って、俺はいったいダークエルフたちには何者に映ってるんだ?
「ぎょ、御意……」
「あ、阿久津男爵様……その……ありがとうございます……」
「いえ、かなり遅い厨二病を患ってますし割と重症化してますけど、俺以外には優しくていい子たちなので安心してください。さあ、通信で無事を伝えてあげてください。荒川隊長はお二人をすごく心配されてましたから」
俺はナルースたちを見て、ちょっと引きつった表情をしている荒川さんの奥さんにそう言って無理やり安心させた。
「は、はい。本当にありがとうございます」
「あ、阿久津男爵様ありがとうございました」
「迷惑を掛けたのは俺の方ですから。フォースターは管制塔でうちの艦隊の誘導を頼む。ギルド警察隊も使っていい。レオン! 誘導用の人を出してフォースターの指示に従ってくれ! 」
俺は奥さんと娘さんの感謝の言葉にいたたまれない気持ちを覚えたが、あと1時間もしないうちにうちの軍が来るのでフォースターに誘導を頼んだ。桜島のように適当に着陸したらあちこち壊しそうだからな。ここはまだ壊れてもらったら困るし。
「ハッ! お借りいたします! 」
「おうっ! フォースターの旦那、よろしくなっ! 」
「こちらこそよろしく頼む。では20名ほど借りたい。管制塔に誘導するための機材があるのでそれを……」
俺はレオンがしっかりフォースターの指示を聞くのを確認し、次に後方で控えるヤンヘルへと目を向けた。
「ヤンヘルたちは艦隊が来るまで引き続き基地の警戒を頼む。街から戻ってくる非番の兵士たちは見つけ次第殺せ」
「御意! 」
俺は建物内にいる子爵の兵を掃討し基地の警戒をしているヤンヘルたちに、引き続き警戒をするように指示をした。
この基地にはなぜか男の兵しかいないみたいだしな。なんとなく理由はわかるけど、まあ遠慮する必要はない。
そして1時間ほど経過した頃。南の空に飛空艦隊が現れた。
黒一色に塗装されたその船体には、2本の禍々しい角が生えた悪魔の頭部に、その上から今にもその首を切り落とそうとしているクロスされた二本の剣が銀で描かれていた。
そう、阿久津男爵の家紋だ。
めんどくさいからギルドの紋章と統一したんだよね。帝国の上位貴族への嫌がらせでもある。魔帝が喜んでるのは理解できないけどな。まあいよいよ魔界からのお迎えが来るんだろう。次の皇帝はマルス公爵でいいんじゃないかな。今から魔帝の葬式に盛大なパーティを開く準備でもしておくかね。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「コウ! 無事で良かった! んっ……」
「おっと! ティナ……みんな見ているよ」
俺は飛空戦艦旗艦が着陸すると同時に飛び出してきたティナに、思いっきり抱きしめられキスをされた。俺はティナの尻を揉みながらそれを受け入れた。
「そんなの気にしないわ。でも本当にもぬけの空ね? スキルで? 」
「ああ、奇襲して離陸前の飛空艦隊を兵士ごと処理した。無傷の状態で空間収納の腕輪に入れてあるよ」
「そんなに入るのこの腕輪!? とんでもないアイテムね。でも置き場所が無いわね。飛空宮殿も改装が終わったのに持って来れない状態なのにどうするの? 」
「大丈夫だよ。置き場所はできるからさ」
問題は簡易整備でもできる人材と搭乗員なんだよなぁ。
「コウ! 」
「コウさん! 」
「おっと! 2人もか…………心配されるほどのことでも無かったんだけどな」
俺は遅れて着陸した高速飛空艇から出てきたリズとシーナにも抱きつかれ、2人の尻を撫でながら濃いキスをした。
「あたしは心配なんかしてなかったけどな! 空からここを見て笑いが止まらなかったぜ! 子爵の飛空艦隊どころか兵士もいねえし! やっぱあたしのカレシは無敵だよな! 」
「兎は心配でしたですぅ。もしものことがあったらって。なのにリズさん船の中でモニターを見て大笑いしてたんですぅ。ギルドの皆も出番が無くなったって笑ってましたですぅ」
「あはは、出番はこれからだよ。小さい領地みたいだけど、制圧しないといけないからね。さて、3人は皆を整列させてくれ。俺は荒川隊長とここの司令官との用事を済ませてくる」
「荒川さんにやらせるのね。わかったわ」
「わかった! みんなを集めとく! 」
「頼むよ」
俺はそう言って旗艦から元自衛隊員たちを連れてやってくる荒川さんの元へと歩いて行った。
「阿久津男爵……妻と娘を救っていただきありがとうございます……子爵と戦争を行ってまで助けていただいたことに私は……私は……」
「違いますよ荒川隊長。俺が隊長を巻き込んだんです。本当に申し訳ありませんでした」
俺は涙を流しながら頭を下げる荒川さんと、後ろで同じように頭を下げる隊員の皆に迷惑を掛けたことを謝罪した。
「そんな……私は男爵を暗殺しようとしたのです……そんな私を、家族を戦争を決意してまで救っていただいたこのご恩は一生をかけても返しきれません」
「やめてください。俺の甘さが招いた結果なんです。俺が自分の復讐を優先させて、モンドレットを生かしておいたのが失敗だったんです」
俺は帝城に乗り込み魔帝と契約した時に、政治家たちを集めるのに日本の管理者だったモンドレットを利用した。それからモンドレットを殺る口実がないまま、ここまでズルズル奴を生きながらえさせてしまった。俺に敵意を持っているのがわかっていたのにだ。その結果がこれだ。
敵意がある相手に口実なんて必要なかった。もっと早く奴を始末するべきだった。
もう二度と同じ過ちは繰り返さない。敵対する奴らは徹底的に排除する。そのためにはもっと力が必要だ。俺だけ強くてもいずれ詰む。だから数という力が必要なんだ。それを今回俺は手に入れる。
「そんなことはありません。阿久津男爵はたった1人で仲間の仇を討ち、大切な人たちを守ってこられた。1人で全ての人を救うなどできるはずがありません。そして結果として私も家族も救われたのです。阿久津男爵は失敗などしていないのです」
「荒川隊長……ありがとうございます。それでもお詫びにプレゼントを用意してます。奥さんと娘さんの顔を見たあと少し時間をください。ここの司令官のザビンとかいう男と、指示をしていた男女を捕らえていますので」
「司令官とあの男を!? 」
「はい。隊長のご家族を拉致して殺そうとした奴らです。四肢を折って司令室に監禁しています。隊長に権利があると思って生かしておきました。顔も見たくないというのであれば配下の者に処分させますけど」
家族を攫われ傷付けられ、自らも死を覚悟しなければならない状況に追い込んだ相手だ。荒川さんが殺す権利があると思って生かしておいたけど、顔も見たくないというのであれば監視している者たちにやらせるさ。
「…………私にやらせてください」
「でしたらまずはご家族のところへ行きましょうか」
自分が受けてきた仕打ちを思い出したのだろう。荒川さんは拳を握りしめ、低くほろ暗い声でザビンたちを自ら処理することを望んだ。
俺は荒川さんに頷き、汚い血で汚れる前に家族と再会するように勧め、マジックテントの場所へと歩いて行った。
そして15分ほどしてマジックテントから出てきた荒川さんは、笑みすら浮かべている様子でケジメを付けますと言って司令室のある建物へと隊員を引き連れ入っていった。
俺はそれを見届けて飛空戦艦の前に整列した、阿久津男爵軍の元へと向かうのだった。
モンドレット子爵領を、俺たち魔族を狩る者たち《デビルバスターズ》で蹂躙するために。
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