第17話 ハマール公爵




 湖のほとりに建つデカイ屋敷の裏手にある飛空艇発着場に降りると、そこには白い鎧をまとった5名ほどの赤髪の女性騎士が俺とティナを出迎えてくれた。


 女性騎士たちは俺の姿を見て一瞬驚きつつも、胸に手を当てる帝国式の礼をしてくれた。


 初対面の帝国人にちゃんとした礼を受けたのは、なにげに初めてかも。基本帝国人は地球人を見下してるからな。恐らくこの屋敷の主人ぽい美女を、俺が治療するということを聞いているんだろう。主人のために礼を尽くしてるってとこだな。


 そして隊長らしき女性が屋敷に案内しますと言い、俺たちをこの屋敷まで連れてきてくれた。


 俺は彼女たちの腕や目、そして耳や指などが欠損していることが気になったが、恐らくダンジョンで負傷して戦えなくなった子たちなんだろうと黙って彼女たちのあとをついていった。


 屋敷に着くと一階の奥の部屋のやたらと広い応接室に通された。

 そこには5人掛けのソファが広い間隔でコの字に配置されており、上座にはやたら豪華な3人は座れそうなソファが置かれていた。そして中央のテーブルに別の騎士が飲み物を置いていった。この屋敷は騎士しかいないのかね?


「ここでお待ちください」


「ああ、ご苦労さん」


 騎士たちが礼儀正しく再度帝国式の礼をして去るのを見届けた俺は、さっそくソファへと腰掛けようと上座へと向かった。


「駄目よコウ。そこは陛下の席でしょ? またうるさいわよ? 」


「でもさ、このソファの出来の違いから言ってあのクソジジイが上座だろ? なんか俺が家臣みたいじゃん」


 俺が上座にある、やたら豪華なソファに座ろうとしたらティナに止められた。


「みたいじゃなくて対外的には家臣なの。気持ちはわかるけど、飛空宮殿がもらえるんだから今日くらいはおとなしくしていてよ。リズとシーナも、ニーナにレミアだって楽しみにしてるのよ? 」


「うっ……くっ……仕方ない……今日は魔帝をおちょくるのはやめとくか」


 俺は今朝家を出る時の、みんなのあの楽しみにしてますと言わんばかりの表情を思い出し、おとなしくする事にした。


「ふふふ、ありがとうコウ。それよりウンディーネの様子がおかしいのよ。急に引きこもっちゃってて……」


「飛空艇ではあんなに元気だったじゃないか。どうしたんだろ? 疲れたのかな? 」


 飛空艇ではスライムの粘液を身にまとってくれて、俺とティナと3人で楽しんだばかりなんだけどな。

 いや、ウンディーネがしたいっていつも言うんだ。精霊虐待とかじゃないよ? ウンディーネに告白もされたし、お互い同意の上だから。告白って言っても魔力が好きって告白だったけど。あの食いしん坊め。


「わからないわ。飛空艇を降りるちょっと前に、急に無限水筒に入って静かになったのよ」


「まあ精霊は気まぐれだからな。そっとしといてやろうよ」


 ウンディーネもティナと共にだいぶ成長したからな。知能も中学生くらいにはなったから、思春期で情緒不安定なのかもな。精霊に思春期があるのかわからないけど。


 精霊って謎が多すぎてわかんないんだよな。精霊界からエルフの森と湖に来てるらしいんだけどさ。その存在は魔素の塊でもないんだよ。でもエルフにだけ見えるんだよな。契約前の精霊はただその辺をウロウロとしている丸い存在らしくて、そのうちエルフの魔力に釣られて集まってきて、その中からエルフは契約するそうなんだ。


 そしてエルフと魂で繋がって、エルフから魔力をもらい精霊魔法を行使できるようになる。そのうえエルフと一緒に成長する。成長すると知能も高くなっていく。


 確かに出会った時のウンディーネは小学校低学年くらいの知能だったけど、Sランクにあと一歩のところまでにティナが成長したら中学生くらいの知能になっていた。精霊魔法の威力もかなり上がってたしな。色々な物質を取り込んで身体を変化させられるようにもなってて、最近ではティナの身体のコピーを試みてたよ。ティナと同じことを俺としたいらしい。俺はなんだかワクワクしてるんだ。


「そうね、そうしておくわ。あら? ふふふ、ねえコウ、このソファフカフカよ? どこで買えるのかしら? マジックテントのソファをこれに買い替えていい? 」


 ティナはウンディーネのことはそっとしておくことにして、下座の魔帝と対面になる位置にあるソファに座った。すると思いのほか座り心地が良かったからか、ソファの買い替えをねだってきた。


「お? 確かにこれはいいな……しかも奥行きもある。この上ならお風呂上がりにみんなで寛げそうだね。うん、いいと思うよ」


「やった♪ 帰ったらオリビアに言って購入してもらうわ。ありがとコウ♪ 」


「これくらいいいさ。ティナが欲しい物はなんでも買っていいよ」


 いつもは給料で服とか買いまくってるんだし、俺に聞かなくても家の預金で買えばいいのに。


「駄目よ。私たちの家の物はコウと相談してから揃えたいの。アクツ家の長のコウにね♪ チュッ 」


 ティナは俺の腕を抱きかかえ、甘い声でそう囁いてほっぺにキスをした。


「そ、そうか? なんか照れるな……」


 俺はティナの言葉が将来お嫁さんになるからと聞こえてドキドキしていた。


「ああ……コウの照れた顔も可愛いわ」


「あはは、そ、それにしてもあのクソジジイまだ来ないのかな? 偉そうに重役出勤をかま……ん? 『探知』 ……魔帝じゃない? 」


「どうしたの? 」


 俺がティナの言葉に照れていると、屋敷の入口からこっちに向かってくるSランク以上はありそうな魔力反応があった。俺はてっきり魔帝が来たのかと思ったが、魔帝より少し少ない魔力とその質の違いから別人と判断した。


 そしてその魔力は俺たちのいる部屋の扉の前で止まり……


「ん? は? 殺気!? ティナ! 敵だ! ぬおっ! 『結界』! 」


「えっ!? 扇!? 」


 扉が開くと共に膨大な殺気と、1mはありそうな銀色の扇が俺たちへ向けて飛んできた。


 俺はまさかの不意打ちに、とっさにティナを抱き寄せ結界を張った。


 キィィン!


 パシーン! パシーン! パシーン!


 銀の扇は、俺の結界に弾かれたと同時に複数の風の刃を発した。しかし俺の結界はそれも全て防いだ。

 そしてどういう訳か扇はその場に落ちることなく、弾かれた勢いそのままに扉方面へと戻っていった。


 俺が扇を目で追っていたその時。


 扉の向こう側から紫色の胸元の大きく開いたドレスを見にまとった赤髪の女性が、身を低くして俺とティナのいるところへ突進してきた。そしてその女性は空中を飛ぶ扇を手に取り、フェイントを交えながら一気に俺との間合いを詰めてきた。女性の顔はどういう訳か愉悦に満ちた顔をしていた。


「ティナ、いいよ。雑魚だ。『滅魔』! オラァッ! 」


 俺はレイピアをマジックポーチから取り出そうとするティナの手を止め、結界のすぐ手前まで来て扇を振りかぶろうとする女へと滅魔を放った。


「あっ……がっ! あぐっ! 」


 俺のスキルを受けた赤髪の女は、身体強化していた状態から一気に力が抜けたからか、そのまま前方に転び結界に顔をぶつけた。

 俺は結界によって倒れることができず、空中で静止している女へと一歩踏み出しその顎を蹴り上げた。すると女はうつ伏せの状態から身体ごと宙に浮き、そのまま半回転して仰向けに倒れ気を失った。


「うおっ! なんちゅうヤラシイ下着を着けてんだこの女! 」


「大事なところが丸見えじゃない! 」


 俺の目の前には大股を広げてドレスがめくれ上がり、赤のガーターベルトに赤のレースのショーツ、しかも中央に縦の穴が空いている特殊なショーツを晒し白目を剥いている女が倒れていた。その縦に開いている穴からは、薄っすらと赤い繁みに包まれた女性の大事な部分が丸見えだった。


「すげえ……こんな下着があるなんて……」


「これは凄いわね……どこで売ってるのかしら? これがあればいつでもコウと……ハッ!? そ、それよりコウ? 同じ女として、このままはいくらなんでもかわいそうよ」


「え? あ、うん……そうだね……とりあえず捕らえるか」


 俺はティナの言葉に元気のない返事をして、女のめくれたドレスをゆっくりと元に戻した。そして尋問をするために空間収納の腕輪から隷属の首輪を取り出し、女の首に嵌め魔力を流し起動させた。あとは気がついた時に命令すればなんでも喋るだろう。


「しかしこの女……すげえ色気だな。ムチムチだしそれにこの扇。ミスリルか……さっき弾いた時に自動で元の位置に戻っていってたな。『鑑定』」


 俺は倒れている女の整った顔立ちと泣きぼくろ、そして大きな胸とムチムチの太ももを眺めつつ扇が気になったので鑑定をした。




【嵐刃の銀扇 】英雄級


 ミスリルでできた扇


 特殊効果: 1.対象に接触した際に、投擲時に込めた魔力量に応じた数の風刃を発動する。2.投擲した際に所有者の元へと戻る。




「英雄級の装備だった。風刃の追加攻撃と、投擲した時に所有者の元に戻るんだってさ。この間竜系の上級ダンジョンのボスを倒して手に入れた槍と同じだな」


「刺客の割にそんないい物持ってるの? ここは陛下の直轄地だし、外に騎士たちもいたのに変じゃない? 」


「確かにあの魔帝が放った刺客にしてはお粗末だな。そもそも俺に魔人をあてても意味ないのはわかってるはずだ。うーん……とりあえずこの女も鑑定してみるか。『鑑定』 」




 ラウラ・ハマール


 種族:_人族


 体力:S


 魔力:S+


 力:S


 素早さ:S+


 器用さ:S+



 取得スキル:【身体強化 Ⅴ 】.【 暗視Ⅴ 】.【 探知Ⅴ 】.【スモールヒール Ⅴ 】.【鑑定 Ⅳ 】.【 隠蔽 Ⅳ 】.【危機察知 Ⅳ 】.【火球 Ⅴ 】・【炎槍 Ⅳ 】・【豪炎Ⅳ 】.【灼熱の地獄 Ⅳ 】.【豪腕 Ⅳ 】.【地図 Ⅳ 】.【追跡Ⅴ 】


 備考: テルミナ帝国 公爵





「え? あれ? ハマール? 公爵? この女が? 」


「ええ!? この人がハマール公爵!? 」


 俺は鑑定結果に驚愕した。まさか公爵本人が俺たちを襲ってくるなんて……


「ハマール公爵やらマルス公爵やらは、俺が古代ダンジョンを攻略したの知ってるはずだよな? 」


「ええ、そう言ってたわね。スキルまでは知らないみたいだけど」


「まさか俺のスキルを試したかった? 身体を張って? 」


 いやまさかそんな訳ないか。一歩間違えれば公爵自らが死ぬリスクがあったんだ。わざわざ本人が試すなんてことあるわけない。


「ハマール公爵はかなりサディスティックな戦闘狂らしいからあり得るかも……」


「あり得るの!? 」


 俺はティナの言葉に驚愕した。戦闘狂ってそんな馬鹿なのか? それにサド!? 確かに女王様ルックとか似合いそうだけど……


「う……ん……いたた……えっ!? 首輪!? 」


「ようお目覚めか? 命令だ。自死を禁ずる。俺たちへ攻撃することを禁ずる。質問には嘘偽りなく答えろ」


 俺がティナの言葉に驚いていると、気を失っていたハマール公爵の目が覚め、顎を押さえながら身を起こした。そして自らの首に首輪が嵌っていることに驚いているようだった。


「なっ!? まさか隷属の首輪を私に!? うっ……力が……これは……魔力が無くなっている? いったい何が……」


「さあな。魔力切れだろ。お前ハマール公爵だろ? いや、鑑定したから知ってるんだけどさ。質問だ。なぜ俺たちを襲った? 」


「これが魔王のスキル? 【魔】の古代ダンジョンにあると言われていた世界を手に入れられる力……あぐっ! あぐああぁぁぁ! 」


「お前馬鹿なのか? 自分で隷属の首輪って言ってたじゃねえか。質問に答えろって言ったのに、それを無視するから首が絞まったんだよ」


 ハマール公爵は俺を無視し、俺のスキルの分析を始めた。案の定首輪が発動しハマールの首を締め付けた。


「ス……あぐっ……そうよ……ラウラ・ハマール……公爵よ……ひぐっ! ス……スキルを知りたかったのよ……あっ……緩んだ……ゲホッゲホッ……ハァハァ……な、なにこれ……私が……この私が人族のこの男の奴隷に? ……ああ……魔力が……胸の魔石からしか感じられないわ……そう……魔力を吸収するスキルなのね……帝国軍や十二神将が瞬殺されるわけだわ……これは勝てない……つまり私は抵抗できずこの男に支配される……今まで男を支配してきたこの私が……この命をこの男の一言で奪われようとしているのね……ハァハァ……こんなの初めて……これが支配される側の気持ち……ああ……イイ……イイわ! 堪らない……堪らないわ! 」


「え」


 質問に答え首輪が緩んだハマールが、徐々に恍惚とした表情になり両手で自分の大きな胸を服の上から揉みしだき始めた。そして普段から聞き覚えのある単語を発するようになっていくのを見て、俺はドン引きしていた。


「あら? もしかして目覚めちゃった? 」


「ええ!? 」


 どうやら俺はドSだったハマールをMに目覚めさせてしまったらしい。

 いや、こういうの見るのはシーナだけで十分なんだけど……



「待たせたな魔王……ぬおっ!? な、なんじゃ! なぜ部屋が荒れ……ハマール? なぜここに来てるのじゃ? それにそこで何をして……なんじゃその首輪は……」


「会うのは初めてだな魔王、私がアルスト・マルスで……なっ!? なぜ部屋が荒れてるのだ!? それにハマール!? 」


「おいっ! 魔帝! この女をなんとかしろ! いきなり襲い掛かって来てドMになったぞ! 」


 俺が途方に暮れていると、ちょうど魔帝と見たこともない赤髪のちょび髭オヤジが部屋へと入ってきた。

 どうもこのちょび髭のダンディな男がマルス公爵らしい。俺はそんなことよりもと、魔帝にハマールの処理をするように叫んだ。


「な、なんじゃと!? ハマール! この戦闘狂が! 魔王のスキルを試したのか! 」


「ハマール……まさかここまでとは……それにドM? 確かこの世界てマゾヒストとかいう意味だったか……いや、ハマールは逆のはずだが……」


「申し訳ありません陛下……十二神将を瞬殺したというスキルをどうしても知りたくて……この全てを奪われる感覚……ハァハァ……陛下……私は公爵位を返上しこの男の下僕となります。どうかお許しくださいまし……ああ……この首輪が無ければ……ううっ……この無力感が堪らないわ……ハァハァハァ……」


「はあぁぁ!? 」


 何を言ってんだこの女!? 頭おかしいだろ!


「ちょ、ドMはシーナだけで十分よ! もういらないわよ! 」


 ティナ違う! そこじゃない!


「な……何が起こったのじゃ……あのハマールが……男をいたぶるのが趣味のあのハマールがなぜじゃ……」


「なんと恐ろしい男だ……あのハマールをこれほどまで変えるとは……オリビアが籠絡されたのも納得だ……オリビアもハマールのように夜は首輪を……」


「してねえよ! なに勘違いしてんだよ! オリビアとは何もねえよ! いいからこの女をなんとかしてくれよ! 」


 なんだよこのちょび髭ダンディは! 魔帝並みに抜け作じゃねえか!


「さあ、この無抵抗な私を……ああ……その圧倒的な力で支配してくださいまし……ハァハァ」


「お前は黙ってろ! 魔石の魔力も抜くぞ! 」


「魔石……死……ああ……私の命は貴方の気分次第でいつでも奪われるのね……ハァハァハァ……ああ! 堪らない! この死との隣り合わせの感覚! ダンジョンでの戦闘よりもゾクゾクするわ! もうあそこが疼いて堪らないわ! 私の身体も命も全てを奪って! 」


「な、なんだこの女怖い……ティナ〜もうやだ帰る! 」


 もうやだ! なんで到着早々こんな変態女に絡まれてんだよ! もう帰る!


「凄いわね……ドSからの反動かしら? シーナを超えてるわ……え? だ、駄目よ! 帰ったら飛空宮殿がもらえないわ! まずは一旦落ち着きましょう! とりあえずハマール公爵は外に出てもらうわ。貴女がいると話しが進まないのよ。さあ、行くわよ」


「あ……何を! 私はご主人様と……ち、力が……ご主人様ーー! 」


「ハマール……あそこまで狂っておったとは……」


「私は夢でも見ているかのようです……」


「勘弁してくれよ……」


 俺はドッと疲れが押し寄せてきてソファに座り込み、ティナによって引きずられていくハマールを見送った後に天を仰いだ。




 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




「……すまぬの魔王。ハマールは戦闘狂じゃからの。今日のことは黙っておったのじゃが、いったいどこで嗅ぎつけたのか……」


「もういい……何もなかった……それでいい」


「あらためてアルスト・マルスだ。オリビアが世話になっているようだな。最初傲慢な態度をとったことは許してくれ。あの子も反省し魔王に心底屈服しているようだ。どうか可愛がってやってくれ」


「マルス公爵だったな。オリビアには世話になっている。優秀な子を寄越してくれて感謝してるよ。もう初対面の頃のことは忘れた。今じゃ桜島に無くてはならない人材だ」



 ハマールを別室に押し込み、騎士に見張らせてティナが戻ってきて魔帝たちとやっと話せるようになった。お互いハマールのドM狂乱振りは見なかったことにし、触れないことで合意した。


「そうか。あれは根は素直な子なんだが、帝城での出世争いに気が強くなっていき、とうとう笑わなくなってしまった。あの子に笑顔を取り戻させてくれて感謝している。さすが【魔】の古代ダンジョンを攻略した魔王だな。それとエスティナだったか? オリビアと仲良くしてくれているそうだな。我々に思うところがあるはずなのに……感謝している。あの子には友達がいなくてな。仲良くしてやってくれ」


 へえ〜そんなだったのか。今からは想像ができないな。確かに初対面の時はカリカリしてて、余裕がなさそうだった気がしたな。


「私を酷い目にあわせたコビールはコウが、娘はこの手で殺したわ。私は自分と関係ないことで恨むほど暇じゃないし、貴方達と違って人種差別をしない主義なの。それにオリビアはいい子よ。コウに完全に屈服しているから信用できるわ。それにとても優秀。友達にならない理由がないわ」


 ティナとオリビアが仲良くなるのは意外だったけどな。ティナはネチネチしてないからな。いつも前向きでさ、そういうところも本当に好きなんだ。


「そうか……まったくエルフらしい物言いだ。水精霊の湖のエルフはサッパリしている」


「寿命が長い分、些事に関わってられないだけよ。コウのことで頭がいっぱいなの。他のことはどうでもいいわ」


「クククク……魔王はエルフにモテるのぅ。特殊な美的感覚のエルフにはのぅ」


 この野郎……遠回しに不細工だってまた言いたいのか!?


「陛下? コウは顔だけじゃないわ。帝城でのことを忘れたのかしら? 私たちを守るために、奴隷から解放するために命を掛けてくれたのよ? 私たちのために帝国を敵に回して勝った人なの。惚れない女なんているのかしら? 」


「ぐっ……ぬぬぬぬ……まあ、そのことだけはな……認めないで無くもない」


 わはははは! ざまぁ!ティナに言い負かされてやんの! でもお前なんかに認めてもらいたくなんかないけどな。そんなのには一銭の価値もねえし。


「ははは、私もその話を聞いて肝が冷えたぞ。たいした男だ。帝国軍と十二神将を倒し陛下まで……到底真似はできん」


「まあその話はいい。信じない貴族も多いしな。それより治療する子は? 」


 俺は早く本題に入ろうと帝城での話を打ち切った。ハマールが戻って来る前に早く終わらせたいんだよ。


「うむ。この屋敷の2階におる。が、その前に余の娘メレスロスの出生と、その呪いに関して説明しておかねばならぬ」


「娘!? 確か若いって言ってなかったか? 最近作った子なのか? さすがドスケベだな」


「メレスロス……」


 ん? ティナは何を考え込んでるんだ?


「今でも現役じゃが、もう子は作っておらん。メレスロスが生まれたのは今から200年と少し前よ。しかし見た目はエスティナとそう変わらん。少し上に見えるくらいじゃ」


 ティナより少し上くらいと言ったら22~25くらいということか? 人族に近いなら寿命も100年くらいには短くなってるだろう。生まれてすぐ老化5分1の3等級の停滞の指輪をはめたとしても計算が合わないな。40歳くらいの見た目になってそうなもんなんだが。


「そうか、若くて美人ならまあいいや。で? 出生は半魔人との子だろ? あとは呪い? 病気のことか? 」


「違う……よいか? これから話すことは他言無用じゃぞ? 」


「なんだよ。別にしゃべらねえよ。対価はもらうんだ。俺は半魔人共と違って約束は守る。早く言えよ」


 なんだよもったいぶりやがって。俺は早くその美人と会いたいんだよ。あのハマールの変態の口直しを早くしなきゃ、口裂け蛇目のドM魔人女が夢に出てくる。間違いなく悪夢確定だろ。


「うむ……そうじゃな。実はな……メレスロスは……エルフとの子なのじゃ」


「は? エルフって……お前ら魔人はエルフを性的な目で見れないんじゃなかったか? 何千年もそう教育されてきたって……」


「まさか! 数百年前にいた物好きな帝国人て陛下のことだったの!? 」


「え? あっ! そう言えばそんな話を聞いたことがあるな……」


 確かダンジョンの書物だったかティナからだったか……確か魔人に長年植えつけられた価値観では、エルフや獣人に対しては家畜に性的興奮をするようなもんだったよな。それなのに数百年前に、エルフとくっ付いた物好きな帝国人がいたと言っていた。マジか……あの変人て魔帝のことだったのかよ……うん、納得。


「う……うむ……そのような目で余を見るでない! 理由があるのじゃ! なぜエルフと魔人の間に子ができないように教育をしたかの理由があるのじゃ! 」


 魔帝はティナの信じられない物を見る目と、俺の弓なりに笑っている目を見て必死に言い訳をし始めた。


 理由ねえ……まあ確かに同じ人型で美形だ。獣人はまあコイツらは獣と同じとかふざけたこと言ってるから洗脳しやすかったとしてだ。エルフは無理がある。


 その理由を聞けるならまあ聞いてやるか。






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