第21話 再戦






「この先ね……」


「ここしかねえよな……」


「この先ですね……」


「……そうだね」


 ティナたちと出会ってから3ヶ月半ほどが経とうとした頃。

 俺たちはとうとうダンジョンの出口に繋がる通路を見つけた。


 ほんと言うと昨日のうちにあたりはつけてあったんだ。でもみんな他の通路もちゃんと確認しようって、シーナなんて宝箱があるかもしれないからって。


 今さら1階層にある宝箱なんて誰も欲しく無いんだけどね。それでもその時はそうだねってみんなで宝箱探しをしたんだ。

 結局トラップしかなかったんだけどね。


 まあその夜はみんなで最後の夕食を食べてさ、ティナとリズとシーナがお礼だって言ってお風呂にバスタオル一枚で入ってきて俺の身体を洗ってくれたりしてくれたんだ。


 ティナに膝枕されながら頭を洗われた時は至福の時だったよ。

 みんなして俺の腰に巻いたタオルに隠された元気な息子をさ、真っ赤な顔してチラチラ見てたのがまた堪らなかったな。


 そして今朝はみんな初めて寝坊していた。

 俺も起きたらお別れだと思うとなかなかベットから出れなかったな。結局俺がみんなの部屋に行って起こして回ることになったよ。


 それからは朝食もゆっくり食べてさ、その時にティナとリズとシーナに渡した装備が入っている収納の指輪をそっとテーブルに置かれた時は泣きそうになった。

 彼女たちも辛そうな顔をしていた。いや、シーナは泣いてたっけ。


 まあ3ヶ月以上一緒に生活をしていたんだ。みんなで探索してみんなで戦って、みんなで食事をしてみんなでお風呂に……は最後の日だけだったけど。

 休みの日は魔物の革で作ったボールと骨で作ったゴールで、兵士用のテントでバスケットボールやったりこれまた骨で作ったジェ○ガをやったりして遊んだり、骨のサイコロで俺の作ったえっちなスゴロクやったりして凄く充実した毎日を送ったりしてた。


 俺は彼女たちが好きだ。1人だけじゃなくて3人とも好きだ。俺は彼女たち3人との生活が好きなんだ。


 でもこれで一旦お別れだ。

 本当は彼女たちとずっと一緒にいたい。けど彼女たちには帝国に残している大切な人たちがいる。


 奴隷制度なんてぶっ壊してやりたい。

 それができれば彼女たちも、彼女たちの大切な人もいっぺんに救える。


 でもいくらランクが上がったとはいえ、たった一人で世界を征服した帝国と戦えるとは思えない。世界を手に入れることのできるスキルだと言われても、どうやって手に入れるのかさっぱりだ。


 もしかしたら、まだほかのスキルと合体させないといけないのかも知れない。

 それよりもなによりも俺には外がどうなっているのかがわからない。


 外に出て情報を集めて必ず再会する方法を見つける。

 ウンディーネともお別れをしてたくさんの魔力水やらをあげたし、彼女たちを見つけることができるように一人一人に全ての魔力を使って『追跡』のスキルをも掛けてある。


 全国のストーカーが泣いて喜ぶほど彼女たちには俺の魔力がべったり付いている。

 キモイとか言うな。俺が一番そう思っている。

 でもだから大丈夫だ。また会える。


 彼女たちも強くなった。装備だって途中で手に入れたそこそこの物を身に付けている。




 エスティナ



 種族:エルフ族


 体力:B+


 魔力:A


 力:B+


 素早さ:A-


 器用さ:A



 取得スキル:【身体強化 Ⅳ 】.【スモールヒール Ⅲ 】.【鑑定 Ⅲ 】


 備考: 水の中位精霊 ウンディーネと契約





 シーナ


 種族:兎人族


 体力:B+


 魔力:B


 力:B+


 素早さ:A


 器用さ:B



 取得スキル:


【鑑定 Ⅲ 】. 【暗視 Ⅲ 】. 【鷹の目 Ⅲ 】.【身体強化 Ⅲ 】

【スモールヒール Ⅲ 】.【氷壁 Ⅲ 】





 リズ


 種族:猫人族


 体力:A-


 魔力:B


 力:A-


 素早さ:A


 器用さ:B-



 取得スキル:【身体強化 Ⅲ 】.【豪腕 Ⅲ 】.【風刃 Ⅲ 】.【風壁 Ⅲ 】.【探知 Ⅱ 】



 ステータスだって上がったし、スキルだって途中で鑑定と探知を見つけて覚えてもらった。

 Aランククラスになれば待遇もかなり良くなるらしいしな。

 俺も万が一の時のためにできる限りのことは彼女たちにした。

 きっと俺が行くまで元気でいてくれる。


 俺は自分にそう言い聞かせて彼女たちの別れの挨拶に耳を傾けた。


「コウ…… 色々ありがとう。再会できる日を楽しみにしてるわ」


 ティナが出口に繋がる通路を背にぎこちない笑顔で言う。


「コウ……お前はあたしたちの命の恩人だ。それだけじゃないけど、色々と感謝してる。その……結構お前のこと気に入ってたぜ」


 リズが鼻を掻きながら、照れ臭そうして顔を背けながら俺に最後の言葉を投げかける。


「コウさん……う、うざぎは……ゴウざんみだいな……ご主人ざまが……欲じが……ううっ……うざぎは……」


 シーナが涙でぐちゃぐちゃになった顔で俺がご主人様だったらと言う。


「俺はこのダンジョンで長い間独りぼっちだったんだ。やらなきゃいけない事があるのに心が何度も折れた。孤独に心が押し潰されそうになってた。でもそんな時にティナやリズにシーナという素敵な女性たちに出会えた。3人は俺の心の恩人だ。だから感謝をするのは俺の方なんだ。地上に出て、帝国に行く方法を探すよ。そしていつか必ず3人とまた一緒に生活したい。俺はティナとリズとシーナが好きだから。だから一旦ここでお別れだ」


「コウ…… わ、私も……いえ……待ってるから……」


「ば、ばっか……好きとか言ってんじゃねえよ……しかも3人ともとかよ……まあいいけど……早く来いよな……」


「ゴウさん……うざぎも……うざぎもゴウざんが……うざぎを買いに……待っでまず……おねがいじまず……」


 俺はどさくさにまぎれて告白をしながら、彼女たちに頷いて出口に行くようにと促した。


 ティナたちは俺に待っていると、そう言ってゆっくりと出口へと向かっていった。


 このダンジョンの出入り口には山の中腹ということもあり兵士たちはいないそうだ。


 ここは島なので出入りをチェックしやすいというのもある。

 なので兵士たちは山を降りたところにいるそうだ。

 そう、俺たちと自衛隊がこのダンジョンに入る前に集まっていたあの場所に。


 念のため俺は今夜遅くに闇に紛れてこのダンジョンを出る。そしてゲートキーで一気に自宅に戻るつもりだ。


 ティナたちと出てもしも外で警備をしている帝国の……確か子爵の領兵だったか?  そいつらに見られたら、ティナたちに迷惑が掛かるからな。


 俺は何度も振り返りなかなか進まない彼女たちの後ろ姿をずっと見送り、彼女たちの姿が見えなくなった時に元来た道を戻った。



 やっと戻ってこれたこの階層に……


 この1階層に自衛隊や馬場さんや浜田の遺体は無かった。

 それはボス部屋以外は1年か2年置きの周期で、各階層がランダムにその姿を変えるからだ。


 その時に通路にあった遺体や遺品はダンジョンに呑み込まれるそうだ。


 だからこの1階層の道はだいぶ変わっていた。でもなんとなくこの辺だってわかる。


 この先に……だってここに来るまでにほとんどヴェロキラプトルと火蜥蜴に出会わなかった。


 この階層に来てから聞こえるんだ。 みんながまずはここで仇を討ってくれって。


 みんな、遅くなってごめん。途中孤独で何度も心が折れそうになっちゃってさ、でもなんとかここに戻ってきたよ。


 俺はスキルの地図に表示された、昨日みつけた広場へと向かっていった。


 そしてその広場にたどり着き中央まで歩くと、広場にあった無数の穴からヴェロキラプトルが飛び出してきた。そしてその後ろから火蜥蜴もゾロゾロと続いている。


 あの時より大群でのお出迎えか。


 俺は魔鉄の両手剣を構え広場の中央に立ち、全方位から襲い掛かってくる数十匹のヴェロキラプトルを迎え撃った。


「いいぜ、かかって来いよ! あの時の俺とは違うことを見せてやるよ! 『滅魔』『灼熱地獄インフェルノ 『灼熱地獄』 『灼熱地獄』 」


 俺は全方位に滅魔を放ち、それにより動きが鈍くなったヴェロキラプトルに熟練度Ⅳレベルの灼熱地獄を放った。


 今の俺ならこれほどの数のヴェロキラプトルが相手でも、体内の魔石から魔力を一気に抜き出し即死させることができる。

 でもそれじゃあなにか違う気がする。コイツらをそんな楽に死なせてやるかよ。


 俺が灼熱地獄を全方位に放つと、ノロノロと走っていたヴェロキラプトルは足もとから燃え盛る炎に呆気なく燃やされていきその身を黒焦げにしていった。


「びびってんじゃねえ! 」


 俺は灼熱地獄の範囲から逃れ、足を止めて棒立ちしている生き残りのヴェロキラプトルに向かって走りだした。そして片っ端からその首をはね飛ばしていった。


 ヴェロキラプトルは断末魔の声をあげる間も無くその首を地に落としていき、その後ろから俺を包囲しようと近付いてくる火蜥蜴にスキルを放った。


「ノロノロ歩いてんなトカゲ! 『氷河期』 」


 俺はこの広場全体を凍らせるほどの魔力を込めたスキルを放った。

 すると俺を中心に全方位へ地を這うように氷が張っていき、その氷に触れた火蜥蜴は足から胴、頭部と一気に凍っていった。


「ここに来るまでにも下の階層でさんざん狩ったが……数がいてもこんなもんか……くそっ! こんなもんなのかよ! こんな程度の奴らに俺は! みんなは! 馬場さんや浜田たちは! 三田や鈴木に田辺たちはお前ら程度の奴らに喰われて……くそっ! オイッ! クソダンジョン! もっと寄越せ! まだ足らねえんだよ! お得意の突然魔物を転移させてくるやつはどうした! 早く連れて来いよ! 」


 俺は弱くて無力だった2年前を思い出し、そのやるせない気持ちをダンジョンの意思とやらに八つ当たりした。


 しかしダンジョンは静かで、俺の周りには黒焦げとなりその黒い魔石をさらすヴェロキラプトルと、誰も欲しがらないであろう火蜥蜴の群れの汚い氷像があるだけだけだった。


 俺があの時理不尽だと思った暴力は、既に理不尽ではなくなっていた。


 その後も夜になるまで延々と1階層を飛び回り、ヴェロキラプトルと火蜥蜴を一匹残らず狩っていった。


 どの魔物が仲間を殺したのかわからない。ならこの1階層にいる魔物全てを殺せばいいと思いながら……





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