第19話 擬装







「『滅魔』 『氷河期』 はい、いいよー! 」


「はい! 」


「おうっ! 」


「奥のバジリスク狙います! 」


 俺は地竜とバジリスクに滅魔を放ち、その場に崩れたところで氷河期で頭以外の部分を凍らせた。

 いつもは足だけ凍らせるんだけど、今はエスティナたちのランク上げ中だから念には念を入れて凍らせている。


「凄い……このレイピア……地竜の首に簡単に突き刺さって凍ったわ……」


「おお〜、すげーこの双剣! サクサク斬れる! これが英雄級かぁ」


「た、鷹の目のスキルもこの魔弓も凄いですぅ。兎の魔力でも突き刺さりますぅ」


「役に立って良かったよ。俺が持ってても使わない装備だからね」


「それにこの風竜の胸当てと風竜のマントもとても軽くて動きやすいです」


「あたしもこの黒竜のビキニアーマーっていうのか? 伝説級って聞いた時はびっくりしたけど、軽いし蒸れないし動きやすいしですげー気に入った! 」


 俺もリズのそのV字カットのお尻が気に入ったよ。

 くぅぅぅぅ! ムチムチプリプリサイコー!


「兎もこの聖女のローブとっても軽くてお気に入りになりました! 護りのサークレットもズレないですし不思議ですぅ」


 シーナは素早いんだけど耐久力が低そうだから、完全防備の後方支援にしたんだよな。露出が少ないのは残念だがこれは仕方ない。それでもシルクのような艶のあるローブを、内側から突き上げているお胸様の存在感はダントツだ。



 今日は俺たちは朝早くからこの41階層で新装備の訓練兼40階への階段探しをしていた。


 おとといに彼女たちと出会い俺のマジックテントに招待したあと、お風呂上がりの嬉し恥ずかしのイベントを消化してからは、ワンピースとTシャツ短パン姿に着替えたエスティナたちと一緒に料理を作った。

 というか俺は見てるだけだった。

 3人とも料理ができて俺の出る幕はなかったんだ。


 3人とも施設で生まれで帝国公認の奴隷商に連れて行かれるまでは、エスティナ以外は施設でほかの子供たちと共同生活をしていたらしい。

 エスティナはエルフなのでエルフの里の老人たちに育てられ、精霊と契約ができるようになるまで里で暮らしていたそうだ。そこで一通りの家事を覚えたと言っていた。

 そして30歳になった頃、下位精霊と契約ができたので専属の奴隷商人が迎えに来たそうだ。


 エルフの成長は30歳までに人間でいう18歳くらいの見た目になる。そこからは老化がさらにゆっくりとなるらしく、寿命はだいたい700歳くらいらしい。かなり長い寿命だが、その分出生率は相当低いそうだ。


 確かに停滞の指輪をはめたら5000年とか生きるもんな。世界のバランスってやつなんだろう。



 それから皆で食事をしたんだけど、あまりの美味さに俺は絶句したね。今までなんの素材かわからず、なんの調味料かも知らないで作ってた俺の飯はもうねこまんま以下だと思い知らされた。


 食事中は誰一人として話をしなかった。

 彼女たちは2日ぶりの食事らしくて、上品な印象を持っていたエスティナでさえ凄い勢いで食べていた。

 この子はもしかしたら食いしん坊かもしれないと思ったよ。

 リズとシーナも相当お腹が減っていたらしく、風呂上がりのジュースを飲んだ時からもうお腹がグーグー鳴って凄かったらしい。


 俺はそんな彼女たちからそっと目をそらして、黙々と目の前の料理を食べていた。


 そして食事が終わって彼女たちとこれから地上に出るまでパーティを組むことを正式に決め、俺がパーティリーダーとなった。

 エスティナは俺に迷惑掛けて申し訳ないと言ってたけど、リズとシーナはこのマジックテントで寝泊まりできるって大喜びしてた。

 俺も内心でこんな美女たちと同棲できるって大喜びしていた。


 それからはパーティリーダーとして、メンバーを守る義務があるからとなんとか理由付けて、俺が宝箱から手に入れたり骸たちから頂いたりして集めたスキル書や装備を並べ、彼女たちに好きなのを選んでもらった。

 リズにだけはビキニアーマーの性能を根気よく説明して着てもらえることに成功した。俺の顔がニヤけたのは気付かれていないと思う。多分。


 そしてアクセサリーや装備の鑑定した結果を彼女たちに教えると、みんな目を見開いて驚いていた。

 やっぱりこの装備はテルミナ帝国の人間から見ても相当凄い物のようだ。

 そのままあげるって言ったんだけど、貴族に奪われるだけだからもらえないって言われたよ。

 主人より優れた装備を身に付けてたらそりゃそうなるか。


 そうそう、彼女たちのステータスなんだけど、鑑定の許可をもらったので見せてもらった。

 メンバーの実力を把握しておくのも必要だからね。


 彼女たちのステータスはこんな感じだった。



 エスティナ



 種族:エルフ族


 体力:B-


 魔力:B


 力:C+


 素早さ:B


 器用さ:B




 取得スキル:【身体強化 Ⅲ 】.【スモールヒール Ⅰ 】


 備考: 水の下位精霊 ウンディーネと契約






 リズ


 種族:猫人族


 体力:B


 魔力:C-


 力:B


 素早さ:B


 器用さ:C-



 取得スキル:【身体強化 Ⅲ 】.【豪腕 Ⅰ 】.【風刃 Ⅰ 】





 シーナ


 種族:兎人族


 体力:B-


 魔力:C+


 力:C+


 素早さ:B


 器用さ:B-



 取得スキル:【鑑定 Ⅰ 】. 【暗視 Ⅰ 】. 【鷹の目 Ⅰ 】.【身体強化 Ⅰ 】

【スモールヒール Ⅰ 】.【氷壁 Ⅰ 】



 まあBランクってとこだ。


 スキルはエスティナとリズが身体強化を持っていた以外は、何ももらえなかったそうだ。

 シーナは種族特性を活かした危機察知や広範囲探知要員として使われていたらしく、所持スキルは0だった。だから俺は遠慮するシーナに俺が勝手にスキル書を渡して無理やり覚えてもらった。


 エスティナは精霊との兼ね合いで四属性のスキルは覚えられないそうなので、生命維持を優先した。

 リズは双剣使いなので遠近両方の攻撃ができるように、シーナには弓を使った経験があるそうなので弓を持たせてそれに合うスキルと防御系の装備で固めた。


 さすがのリズも遠慮していたが、装備は奪われてもスキルは残るからね。

 ほかにも色々とスキル書はあったけど、まずは今回覚えたスキルをマスターしてからじゃないと器用貧乏になると言われてこれだけにしておいた。

 手当たり次第覚えて中途半端になっていた俺は耳が痛かった。



 ひと通り装備とスキルを配った後は、気になっていた奴隷制度のことを少し聞いてみた。

 するとどうやらあの隷属の首輪をはめられるのは、エルフと戦闘奴隷の獣人だけらしい。

 一般のテルミナ人の獣人奴隷や、貴族や商人の下働きをしている奴隷には付けないそうだ。あくまでもダンジョンで力を付けた獣人の反乱を防ぐものらしい。

 首輪も結構高価で、一般人がそんなにポンポン付けられないと言ってた。


 そして奴隷は法で守られていて、虐待したり勝手に殺したりすると罰せられるそうだ。これは過去に奴隷の反乱が何度も起こったことからの教訓らしい。

 奴隷同士の結婚も主人の許可があれば許されており、財力のある者はむしろ自分の奴隷を増やすためにお見合いまでセッティングしたりするそうだ。


 ただ、エルフだけは自由がない。能力が高く数が少ない種族なので、国が徹底的に管理している。

 年齢が高くなったり、精神が壊れたり、治らない傷を負って戦えなくなると専用の施設に入れられる。

 これは別名養殖場と呼ばれており、男は薬漬けにされ子供を作るマシーンとなる。生殖能力が無くなるまでずっとだ。


 過去に一度だけ物好きな人族とエルフの間に子供ができたことから、人族との間にもハーフだが子供ができることが確認された。しかしそんな物好きはそうそういないし、無理やりやろうものならエルフは牙を剥く。養殖場ではエルフ同士だから、種族を絶やさないために我慢してやっているだけなのだという。


 エルフにはダークエルフもいるが、エルフとダークエルフの間には子ができないそうだ。

 これは精霊同士の相性が悪いかららしい。

 かといってエルフとダークエルフは特に仲が悪いわけでもないが、エルフは貴族のダンジョン攻略用の戦闘奴隷。ダークエルフは商人の護衛兼戦闘奴隷という役割分担になっていて、接点がほとんどないそうだ。


 ちなみにファンタジー特有のドワーフだけど、テルミナ大陸にはいないそうだ。古代文明時代にはいたらしいが、神の怒りに触れた人族と共に滅んだんだって。人族は少数生き残ったが、ドワーフは駄目だったみたい。残念だ。


 まあこうして色々奴隷制度のことを聞いて、一般の獣人に関しては書物に書いてあったような虐殺などもなく思ったよりは酷くはないと思った。

 むしろニート特別雇用法で、無理やりダンジョンに入れられた俺たちの方が酷い扱いを受けていると思えたよ。日本シネ。


 きっとテルミナ人からしたらよく働く馬を飼ってる気分なんだろう。お見合いの斡旋もそうだけど、獅子とか虎とかの強い種の獣人と番いにさせて増やして育てて売ったりもするらしいからな。

 自分たちと同じ言葉を話して、意思の疎通ができる人間によくここまでできるよな。嫌悪感しかない。


 けど、それでも貴族の奴隷になるよりは遥かにいいだそうだ。

 国営の冒険者ギルド所属の冒険者の奴隷になるのも大変らしいが、法で守られている以上まだいいらしい。

 法を破ってもモミ消し捻じ曲げる貴族の奴隷は、奴隷たちからは大外れと思われているそうだ。


 まあ実力の伴わないダンジョンに連れてきて、奴隷を盾に逃げる奴らじゃな。

 あの赤髪の女は刃鬼と同じだ。逃げることを許可しないという強制性がある分もっとタチが悪い。


 エルフに関しては強制的に貴族の奴隷の道しかない分、本来なら待遇がかなり良いらしい。それでも貴族にも色々いるわけで、エスティナは伯爵と侯爵の2つの貴族に仕えたがどっちもハズレだったと言っていた。




「それにしてもアクツさんのそのユニークスキルは凄いですね。竜種がまったく動けなくなるなんて……」


「なー! 麻痺のスキルなんてあったとは知らなかったぜ! 」


「ホントですぅ! アクツさんのスキルは凄すぎですぅ! 」


「あはは。最初は大変だったけど、熟練度を頑張って上げたら竜にも通用するようになったんだ」


 まあ俺も麻痺のスキルが存在しているかどうかは知らんけど。



 俺の滅魔のスキルなんだが、彼女たちと今後のことを色々話した結果かなりヤバイことがわかった。


 そもそもこのダンジョンは【魔】の古代ダンジョンという名前らしい。


 古代ダンジョンと呼ばれるものには 【魔】と【時】と【冥】の3つがあり、それぞれ最終階層のボス部屋にはかなりレアなスキルがあるらしく、帝国の貴族がこぞって挑んでいるそうだ。

 特にこの【魔】の古代ダンジョンは純粋な戦闘力を要求され、魔王と呼ばれる最下層のボスはもちろんのこと、ダンジョン全体の難易度が高いらしく過去に攻略した者は一人もいないそうだ。


 攻略者がいたというのは、それこそ伝説や神話の時代の話らしい。

 その伝説や神話では、スキルを手に入れれば世界の全てが手に入ると言われているそうだ。


 そんなダンジョンの下層にあった骸たちは、まさに英雄級の者たちだったんだろう。

 そりゃいいアイテムだらけなわけだよ。


 まあ神話の時代にあったというスキル名なんて誰も知らないとは思うけど、一応今まで日本語で発声していたのを無詠唱にすることにした。テルミナ語を覚えちゃったから、ついうっかり言ったりしたらまずいしな。

 テルミナ語を意識しなければ大丈夫なんだけど、外に出たら日本語を話せるテルミナ人がいないとも限らないからな。


 スキル名もそうだけど、詳しい効果とかはかなりヤバイと思う。皇族あたりは知ってる可能性が高い。

 なんでかっていうと、滅魔は吸収と譲渡のスキルの合成魔法だと知ってるっぽいからだ。

 でなきゃ皇族以外の者をこのダンジョンに立ち入らせるわけがない。だって世界を手に入れられるスキルなんだしな。どうやって世界を手に入れるかわからんけど。


 たとえヴリトラを倒して吸収を手に入れても、譲渡のスキルを手にいなきゃ意味がない。そのうえ空気に譲渡するという発想も必要だ。譲渡のスキルは恐らくまた別の高難易度ダンジョンにあるんだろう。

 ヴリトラのとこにあった骸は恐らく皇族なんじゃないだろうか? だから譲渡のスキルを持っていた? ヴリトラに挑む前に使わなかった理由がわからんが。


 滅魔は魔石に譲渡しているうちはたいしたことないスキルだ。空気に譲渡して初めて竜を倒せる。

 ヴリトラを倒し吸収のスキルを手に入れ、譲渡のスキルと空気に譲渡するという発想。この全てを揃えられないもしくは、揃えるのに時間が掛かると思っているんじゃないだろうか?

 その間に皇族以外が手に入れたなら抹殺するとか?


 皇族に知られたら全力で俺を殺しにくるかもしれん。絶対に知られてはならぬ。


 そういうわけで、エスティナたちにはユニークスキルの麻痺スキルだと思わせておいた方が良さそうだと判断した。

 ちなみに隷属の首輪を外したスキルは『解錠』という、どんな鍵でも開けることができるというユニークスキルということにしてある。存在するかしらないけど。


 まあ俺の嘘八百が通用するのも、ユニークスキルのスキル書は滅多に見つからないからだ。

 どんなユニークスキルがあるのかその全てがわかっているわけでは無いらしい。

 それなら彼女たちがそう信じればまた隷属の首輪をはめられて、俺の存在が帝国に知られた時に俺のことを話せと言われても苦しむことはないだろう。

 俺も麻痺スキルは別に秘密にする必要はないよと言ってあるしね。


 あとは念のため隠蔽のスキルをとにかく上げるしかない。早くⅤに上げないと。



「麻痺のユニークスキル……確かにそう見えますね。ですがここまで強力ですとあまり知られない方がいいと思います。無断鑑定は刑罰対象ですので、貴族にだけ注意しておけば大丈夫だと思いますが隠蔽のスキルを上げれるだけ上げた方がいいかもしれませんね」


「そうそう、鑑定はなぁ。もしも勝手に貴族を鑑定なんかしたらその場で殺される事もあるからな。でもそのスキルは確かに帝国に知られたらヤバそうだ。あたしは何をされても喋んないけどな」


 え? だからあの時あの赤髪の女はキレてたのか……

 顔は見られてないと思うけど、外に出る前に知れてよかったわ。

 ていうか無礼討ちとかあんの!? 帝国やべぇわ〜。


「兎も絶対話したりしませんです。アクツさんは恩人ですから」


「一応隠蔽のスキルは毎日欠かさず使っているけど、これには弱点があるから言うほど強力なスキルじゃないんだ。だから聞かれたら言ってもらって構わないよ。俺をかばうことで3人に苦しんで欲しくないんだ」


 まあ戦闘機やミサイルには通用しないからな。

 結界だって現代兵器にどこまで対応できるのかわからないんだ。このダンジョンには魔力を伴った攻撃しかしてくる魔物しかいないしな。

 今度エスティナたちに魔力を込めないで攻撃してもらおうかな? 怖いけど。


「アクツさん……」


「な、なんだよくせえセリフ吐きやがって! あたしの尻をずっと見てるくせに似合わないんだよ! 」


 ぐっ……気づかれてたか!


「う、兎は見られても平気です! お、お礼ですし……」


「いやははは! さ、さて! 階段はどこかな〜? あっ! あっちかも! ほらっ! みんな急ごう! 出口は近いぞー! 」


 俺はシーナの言葉をしっかり記憶にとどめつつ、皆から離れるのだった。

 お願いしたら胸揉ませてくれるかもとゲスなことを考えながら……





 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢





 ーー 【魔】の古代ダンジョン 41階層 水精霊の湖のエスティナ ーー





 アクツさんたら必死にごまかしちゃって。可愛い人ね。


 私はリズをえっちな目で見ていたことを指摘されて、必死にごまかしながら地竜とバジリスクをあっという間に回収して先に進むアクツさんをとても可愛く思えた。


 昨日も私とシーナの胸をチラチラ見ていてとっても恥ずかしかったわ。

 亜人の身体をえっちな目で見るなんて、ほんと物好きでおかしな人。


 でも見た目も好みだし命の恩人だし、優しいし私たちを差別しないから嫌じゃないんだけど、今まで物としか見られてなかった私はどうしていいかわからないのよね。




「あっ! ごまかして逃げやがった! 」


「ふふっ、面白い人。エルフなんかを綺麗だとか言うし。あれだけ見た目の良い人に言われたらお世辞でも嬉しいものね」


「え!? ああ……エルフは違うんだっけ? まあブサイクじゃねえよな。あたしたちを助けてくれた時はスゲーカッコよかったし、なによりめちゃくちゃ強いしな」


「ふぇっ? アクツさんは強くてカッコいいですよ? 」


「シーナ違うよ、顔の作りの話だ。エルフは顔が整ってるのしかいないから、少し個性がある顔立ちが好きなんだよ。たまに獣人に惚れるエルフがいるんだ。まあ、あたしとシーナは強い男が好きだからあんまり見た目はカンケーねぇけどな」


 失礼しちゃうわ。 私の美的感覚はおかしくないわよ。あの眉と鼻と口の絶妙な配置の良さと、時折チラリと見えるあの鼻の中から出ている黒い1本の毛。初めて見た時は衝撃を受けたわ。だって鼻の中からあんなに長い毛がでるのよ? それもたった1本! あのアクセントは芸術的と言ってもいいわ。

 19歳のリズにはまだまだわからないのでしょうね。それに……


「あら? 私は獣人の男は粗野だし毛深いから好みじゃないわ。ここに来る途中で見たこの世界の人族もまあまあ顔がいいのがいたけど、アクツさんには及ばないわね」


「へえ〜エスティナはアクツ狙いかぁ。あたしも遊ぶ相手にはまあいいかな」


「う、兎はどうせ相手されないですぅ……獣人ですしぃ」


「そ、そんなんじゃないわよ。私は見たままの感想を言っただけよ……」


「ひひひひ、そうかいそうかい。わからないことがあったら経験豊富なあたしに相談しな! 」


 え? リズが経験豊富なんて初めて聞いたわ。この子施設から出てずっと貴族のところにいたのにそんな暇あったのかしら?


「ふえ? リズさん経験ありましたっけ? 同じ施設でしたけど、男の人を殴ってる姿しか見たことないですぅ」


「あっ! こらっ! シーナの知らないところで色々やってたんだよ! そんな堂々とやるわけねーだろ! 」


 あら? どうも怪しいわね……ウンディーネ? どう思う? …… あら? やっぱり?

 ほんと可愛い子ね。ふふふ……


「ふええ!? そ、そうだったんですか? 知らなかったですぅ。リズさん大人だったんですね」


「ああ、男と女のスイも甘いもの経験済みさ! そうだな。アクツがあたしの身体に興味があるならお礼にヤらせてやるかな。ウシシシシ!」


「ふふふ、そうね。でも私はそういうので経験するのは嫌かな。どんな形でもちゃんと愛し合ってがいいわ。せめて現役のうちはね」


 どうせ施設に入れられたらそんな経験できないし。

 現役のうちはちゃんと恋したいわ。

 でもまあ無理よね。私はエルフだから。


「ふええ、みんなおとなですぅ……」


「かあ〜っ! 恋とか言ってると男に騙されるぞ? 男なんてこっちが抱いてやるくらいの気持ちでちょうどいいんだよ」


「ふふふ、そうね」


 ふふふ、可愛いわね。



 それにしてもアクツさんのあのスキルは凄いわ。ゴーレムなどの魔法生物には通用しないんでしょうけど、アクツさんの強さは麻痺スキルだけじゃないものね。

 ステータスはSランク以上とは教えてもらったけど、私の知るSランクの動きじゃないわ。それに飛翔のユニークスキル持ち……このスキルはかなり珍しいんだけど、魔力が相当ないと使いこなせないわ。それをアクツさんは自由に飛び回っている。恐らくS+の壁を超えSSの領域に到達した英雄クラス……


 そして私たちに貸してくれたアクセサリーと装備の数々。どれも上級ダンジョンの最下層か、古代ダンジョンでしか手に入らないものばかり。


 まず私には英雄級武器のミスリルのレイピア。これは刺突した部分を凍らせる特殊能力が付いているわ。


 そして防具にはこれも英雄級の風竜の胸当て。エメラルドグリーン色の革の上から植物の柄が金で装飾されていて、とても軽くて耐久性があるうえに、弱めだけど矢を逸らす程度の風のシールドが出現する特殊能力が付いてるとんでもない装備。


 最後にこれも英雄級の風竜のマント 。防御力が高く、体温調節機能が付いていて風のシールドが自動で発生するらしいわ。このどれもが貴族が見たら奪い取ろうとするレベルの装備よ。


 それでも私は精霊との兼ね合いで装備できるものが限られているからこのくらいで済んでるけど、リズのアーマーは伝説級なのよね。確か黒竜のビキニアーマーて名前だったかしら? 黒竜なんて上級ダンジョン最下層のボスとしても滅多に出ないレアドラゴンよ。


 その黒竜の革だけでもレアなのに、それにダンジョンドロップ品独特の特殊能力が付いているみたいなのよね。確かアーマーが覆っていない箇所も同等の防御結界が張られて、しかも自動修復に体温調節機能まで付いてると言ってたわ。


 剣も英雄級の双剣で牽制用だけど、風の刃が飛び出る代物だったわ。

 ブーツも疾風のブーツといって素早さが上がる特殊能力がついていて、前衛で動き回るリズにはピッタリの装備ね。


 シーナも魔弓という伝説級の武器を装備している。これは増幅された魔力を矢として放つ強力な弓らしいのよね。さらに護りのサークレットという伝説級の防具。これは見た目は銀のサークレットで中央に青い宝石がはまっていて、そこに魔力を通すと周囲2mに結界が発生するというとんでも装備なの。


 さらに英雄級の聖女のローブという光沢のある白いローブで、これは着ているだけで魔力が微量だけど回復するうえに、弱いけど自動で結界が展開するらしいわ。


 それに全員に余ってるからとスキル書を並べて好きなのどうぞとか言うし、浄化のネックレスと護りの指輪に祝福の指輪。さらには超レアな力の腕輪に魔力の腕輪。極め付けに超超レアな収納の指輪までポンと渡してくれたわ。

 これ上級貴族でももってる人なんて少ないのに……

 しかも護りの指輪と祝福の指輪は3等級! 皇族並みの装備よこれ!


 もうどこでこんな装備を手に入れたのかしら?

 しかもこれらを私たちにあげるとか言い出すし。

 私たちを心配してくれてるのを凄く感じるし嬉しいけど、とてもじゃないけどこんなもの貰えないわ。

 貴族に全部没収されるだけですもの。

 だからスキル書だけ有難く使わせてもらうわ。


 この装備は将来アクツさんがニホンでパーティを組むときに、仲間に与えればいいと思う。

 今は私たちが借りているだけ。


 首輪が無くても私たちは奴隷だから……

 私たちは人間ではなくテルミナ帝国の所有物だから……


 この運命からは永遠に逃れることのできないのだから……








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る