第10話 得たもの
「う……ん……朝か……いや夜か? やっぱ朝? 」
俺はふかふかの高級羽毛布団から身を出し、リビングへと向かった。
そしてポットのスイッチを入れてお湯を沸かしている間に洗面所へと行き、人が10人は並べそうなほど広い洗面台の蛇口に手を当てて水を出し顔を洗った。
そして横に置いてあるふかふかのタオルで顔を拭き、なんの材質でできてるかよく分からない歯ブラシに歯磨き粉っぽい物をつけて歯を磨いた。
その後6帖はありそうな広いトイレで用を足して手を洗いリビングへと戻り、沸いたお湯を紅茶っぽい葉に通し高級そうなカップに注ぎソファへとどっかりと座った。
「う〜ん、いい香り。紅茶の善し悪しはわからんが快適な朝? 夜? まあどっちでもいいや。しかし優雅だわ〜」
しかしこのソファいいな。このままベッドにしても快眠できそうだ。欲を言えばテレビとネットが欲しいんだけどな〜。あったらあったでこのリビングの雰囲気には合わないが……
え? 俺はダンジョンにいたんじゃなかったかって? アレは全部夢オチだったのかって?
おいおい、俺は命を懸けて戦ってドラゴンを倒したんだぜ? あんなのが夢……だったらいいなぁ。
まあ残念ながら昨日起こったことは全て夢じゃなくて現実だ。そして俺は未だにダンジョンの最下層にあるボス部屋の宝物庫にいる。
宝物庫にはいるが、この部屋は宝物庫じゃない。この部屋はなんとテントの中なんだ。
いやぁ〜ヴリトラを倒して宝物庫で外に出れないことに途方に暮れたあの後にさ、もう寝ようと思って普通のマジックバッグや特級マジックバッグを漁ったのよ。こんなダンジョンの下層に来るくらいだから、野営セットが絶対あると思ってさ。
そしてテントテントなるべくいいやつって念じたら、なんか変なデカイ箱がたくさん出てきたんだ。
鑑定したらマジックテントって表示されたから、ああこれは魔道具ってやつなんだなと思って箱の上面にある魔法陣に魔力をとりあえず通してみたんだ。そしたらバシュッ! って音がして一気に人が5人は寝れそうなテントが展開されたんだよ。
すげーすげーカッコイイとか思って眠気とか吹っ飛んで、鑑定そっちのけでほかのテントも展開したら黄金の布のテントとか白銀の布のテントとか出てきたから、10人くらい入れそうな一番豪華そうな黄金のテントに入って中の広さを確認しようとしたんだ。
んでテントの中に入ってたらびっくり! そこは王の部屋だった。
いや、何言ってるかわからないと思うけど、テントの中は家だったんだ。余計わからないか。
つまりテントの中は空間が拡張されてるみたいで、中は見た目より全然広くなっててさ、そこに家が1つ入ってたって感じかな?
テントに入ると最初に40帖くらいのリビングがドーンとあって、そこには調度品やらソファやらイスやらテーブルやらが配置されているんだ。そして20帖くらいの部屋と10帖くらいの部屋が全部で10室あって、ベッドも寝具も誰のかわからない着替えまで置いてあってさ。服のデザイン的に中世っぽいんだけど、下着とか新品のがあってなぜかゴムのトランクスなんだよね。もう時代がめちゃくちゃ。
んで広いキッチンには冷蔵庫があった。デカイ箱の中にワインやら食糧やら山ほど入っていて、冷気が出てたから冷蔵庫で間違いないと思う。恐らく時間停止機能付いていると思う。さらに電気キッチン、恐らく魔道具なんだろうけどそんなのもあったし、水は蛇口に魔力を少量流すと出てきたんだ。
さらにさらに、トイレには前向きでまたがる洋式便器が2つあってさ、一つは用を足す用でもう一つは真ん中にだけ穴が空いていて、何かと思ったらなんとお尻洗浄用の便座だったんだ。マジビックリした。それはもう噴水のようにぶっとい水が噴射するんだもん! 点ではなく面で攻めてくるとはね。この発想は無かったわ。
これは間違いなく現代から異世界に行ったやつが作ったと思ったね。それで時を経て便座に後ろ向きに座るスタイルから前向きに座るオマルスタイルになったんだと思う。なんだか先進的な感じすら覚えたよ。
ただ、ドアに鍵が付いてないから大をしている時に誰かがドア開けたら俺のお尻が丸見えなんだよね。まあ開ける人とか誰もいないから気にすることはないんだけど。
次に浴室なんだけどこれが凄い! 50人はいっぺんに入れそうな浴槽にドラゴンの置物があってさ、それに魔力を通すと口から絶えずお湯が出るんだよ! これ王族のテントだろと思ったね。浴室はもう一つあったんだけど、明らかに広さとグレードが違ってたから使用人とかお付きの人用なんだと思う。
もう俺は大興奮でさ、急いで外に出てほかのテントをしまって全力結界を張ってきたよ。
ちなみにしまう時もテント入口の魔法陣に魔力を通すだけだった。楽チン♪
そしてテントに戻ってきて全裸になって風呂に入った。ドラゴンの頭の置物は複数あったから、広い浴槽なのにあっという間にお湯が溜まったよ。石鹸ぽいのもあったしもう言うことなかったよ。
そしてお風呂で疲れを癒して冷蔵庫から冷たいワインを出してそりゃもう極楽極楽でさ、そのまま寝室に行ってなぜか新品のように綺麗なベッドと寝具に包まれて寝たんだ。
そして今に至るってわけ。
やべえ……異世界の技術ナメてたわ。これは現代以上だろ。水は水属性の魔石からだと思うけど、いくら出しても止まる気配がないんだよな。魔石を交換するようなところも見当たらないし。もしかして永久機関?
俺はふかふかのソファに埋もれながら、このハイテクな超豪華テントに心を奪われていた。
「ああ〜これでネットが繋がって女の子がいたらなぁ。そんな生活が送れるならここから出たくないでござる。ダンジョンなんか歩きたくないでござる」
ハァ〜、そうは言ってもいつかはやらなきゃならない。みんなの仇を討たなきゃならない。
俺はニートモードに入りそうになるのをぐっと堪え、みんなの顔を思い出して気持ちに喝をいれた。
「うっし! やるか……まずはマジックバッグもそうだけど、あのボス部屋に転がっていた骸から追い剥ぎしないと。結構いい装備持ってんだよな。やっぱ精鋭とか英雄クラスの人たちだったんかな」
そう、あのボス部屋には俺が通った壁沿い以外にもあっちこっちに骸が散乱していた。恐らく100体以上はあるんじゃないかと思う。肉体はダンジョンの掃除屋のスライムが処理しちゃうけど、マジックアイテムは残る。狙いはマジックバッグに入っているスキル書だ。
スキルは強力だ。同じランク同士で身体強化スキルⅡ以上を持ってる奴と持ってない奴とじゃ勝負にならないし、どんなに弓の練習をしても、身体強化と鷹の目という視力が格段にアップするスキルに暗視まで持ってる奴に勝てるわけない。
ネット小説みたいに剣術スキルとか剣から何か飛び出すスキルとかは無いが、腕力を一時的に上げるスキルはあるらしい。身体強化と併用して使うととんでもない威力が出るとかなんとか。
そもそも魔物が強過ぎる。素で身体強化スキル使ってるようなのばっかりだ。口から火を吐く火蜥蜴みたいなのもたくさんいるらしいし、そんなの相手にスキル無しで戦うとか無謀だ。
スキルは初級ダンジョンの中層辺りの宝箱から出るようになるらしい。初級ダンジョンがだいたい20階層くらいらしいから、10階層のボスの討伐報酬辺りからなんだろう。千葉の俺たちのいたダンジョンならレッドキャップと呼ばれる赤帽子のゴブリンのボスがいる部屋だな。それを倒したらオーク登場だ。
という訳で今日はボス部屋で志半ばで散った勇者たちの遺品を回収して、俺がその意思を受け継いでいこうと思ってる。地上に帰りたいという意思をね。
そんな感じで俺はこの広いボス部屋を堂々と歩き回り、骸さんたちに手を合わせてから遺品を頂戴していった。まあもの凄い数が集まったよ。マジックポーチやバッグ類は部屋の隅っこで食糧と念じて全て外に出した。手が凄いことになったけど我慢だ。
俺は浄化のネックレスに魔力を込めて手や装備の汚れを取り除いた。これはダンジョンでは必須のアクセサリーだと思う。
ポーション類も劣化しているので取り出した。が、ちょっと試したいことがあるので中身だけドバドバ捨てて、瓶とコルクっぽい蓋だけ残した。これは洗って再利用するつもりだ。ちょっと量が多いからコツコツ捨てて洗っていこうと思う。千本以上あるしな。
そしてテントに戻り戦利品の確認を行った。魔力が上がったから鑑定は使いたい放題だ。
魔力補充用の魔石もあるしね。どんどん使って熟練度を上げていきたい。
さて、どんなスキル書が入ってるかな。初めて見る指輪もあったし、魔道具出てこいと念じたら鍵みたいなのとか色々出てきた。
鑑定が楽しみだ。
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