311話 対、大群スライム
―いたのか? どんなだ?―
「小さいスライム達が合体して大きくなるっての。まあ今の状況とは逆だけど」
ズルズルと攻めてくるスライムの大群の真ん中で、ニアロンとそう駄弁りあいながら竜崎はくるくると杖を回す。
「ちまちま倒していてもすぐ仲間呼ばれて、気づけば合体しちゃう。だから、良い倒し方があるんだ。はい、お願い」
と、竜崎は小さくどこかを指さしながらニアロンに杖を手渡した。赤い光を湛えたそれを見て、彼女は得心したらしい。
―なるほど、王道技だな―
「シルブ、フロウズ! 大きいスライムを細切れにしてくれ!」
「ケェエエン!」
「―――!!」
主の声に、攻撃を仕掛ける上位精霊達。先程と同じように巨大スライムは砕かれ、刻まれ地面へと落ちる。そして、すぐさま溶けると細かなスライムとなり這いずりだした。
「はっ! 無駄だ無駄だ!」
高笑いする謎の魔術士。と、その時だった。
「そぅらっ!」
ニアロンが勢いよく何かをブン投げる。それは、竜崎から渡された杖。思わず怯みガード体勢をとる謎の魔術士だが、杖の行き先は彼の元ではなく…。
ザンッ!
「うし、狙い通りだ」
先程竜崎が落とした、火の精霊石群のど真ん中だった。
「―!? スライム!あの杖を奪え!」
何かを予感した謎の魔術士は、火の精霊石付近に纏わりついていたスライムに指示を飛ばす。が、時すでに遅し。
カッ! ボウッ!
地面に刺さった杖は赤く発光し、それに呼応し火の精霊石は発火。周囲にいたスライム達はたちどころに蒸発し消滅する。
直接止めに入ろうにも、精霊石の火が柵のようになり接近不可能。謎の魔術士が歯噛みする暇もなく直後、杖から止める暇もなく即座に赤い光の柱が聳え立った。
「グオオオオン!」
召喚されたのは炎を纏う巨大なトカゲ、火の上位精霊『サラマンド』。精霊石の補助もあり、短縮召喚で呼ばれたというのに力強い烈火を放っていた。
「チッ…!リュウザキ貴様…! は…?」
舌打ちをし、謎の魔術士は竜崎を見やる。しかし、唖然と言うように言葉を詰まらせた。何故なら…竜崎は背を向けその場から走り去っていたのだから。
「さくらさん、荷物をしっかり抱えて!」
「えっ!はい!」
竜崎が走った先は、岩の上で格闘していたさくらの元。言われた通りにしたさくらを、彼はさっと抱き上げた。
「シルブ! フロウズ!」
牽制をしていた二匹の上位精霊を引き寄せ、その力でドーム状になっているこの場の天井付近まで飛び上がり、自らの周りに防御陣を作り出す竜崎。そして、猛っていたサラマンドに向け命令を飛ばした。
「サラマンド! 装置以外、手あたり次第燃やし尽くせ!」
「グオオオオオッ!」
一際強く咆哮せしめたサラマンドは、精霊石から沸き立っていた炎を吸収。力を即座にチャージする。そして―。
ドオオッッ!
燃え盛るその身体からこの場全体へと放たれたのは強烈な炎の波。勢いよく燃え広がっていく猛火はサラマンドを中心に、竜崎が居た位置も、さくらが居た岩も、入口に至るまでの悉くを呑み込み、メラメラと音を立てる真紅に染めあげた。
ドジュウウ…
業火に焼かれ、地を埋め尽くしていたスライム達は軒並み蒸発、消滅していく。羽虫が火に飛び込んだ時のようにプチプチと音を立てて。
先程のような大型スライムならばあるいは耐えられたのかもしれない。しかし、今はその全てが小型。火の化身による純粋な魔力火焔により、復活の隙すら窺う事能わず消し飛ばされてしまった。
「クソがぁ…」
間一髪、装置の真上に転移、退避した謎の魔術士。しかし、時すでにその場全ては空気すらも焦げるほどの高温。呼吸すらままならず、詠唱が紡げない。
この中で唯一無事であるのは、竜崎達が作り上げた上位精霊二体による防御陣の中のみ。そこだけ適温の空気であり、さくら達は眼下に広がる業炎を落ち着いて眺めることが出来た。
「うわぁ…」
思わず声を漏らすさくら。先ほどまで岩が幾つか転がっているだけの不毛地帯だったその場は、もはや生物が生きていけないほどの灼熱地帯に。自身が隠れていた岩が見えないほどの炎に覆われている。
ゾっとする光景の中、竜崎は微笑んだ。
「合体される前に全体攻撃、ってね」
…いやこれ全体攻撃(味方も攻撃対象)では…? 内心そう思ったさくらだが、口に出すのは耐えた。
「…でもこれ、どうするんですか?」
スライムは全ていなくなったとはいえ、未だ下では炎が燃えている。魔力が込められた炎だからか、火種となるものが無くとも暫くは消えることは無いようである。
このままでは着地が出来ない。空中戦としても、さくらを抱いている以上竜崎が不利となるのは明白だが…。
―それは問題ない。シルブ!―
ニアロンの呼び声に、竜崎達を包んでいたシルブは離れる。と、空中で静止し…。
「ケエエンッ!」
地面すれすれ…つまり火の元へと飛び込み、大きく回転し始めたではないか。風が起こり、火は次々と巻き込まれ消火されていく。
と、出来上がったのは赤と緑が輝き合う炎渦巻く風の球。シルブはそれを、装置の上に載っていた魔術士へと吹き飛ばした。
「クッ…!」
直撃を食らう魔術士。が、なんとか詠唱出来たのか装置の横へと転移し難を逃れた。しかし、小汚いローブには火による焦げが追加されていた。
着地し、さくらを同じく岩陰に隠した竜崎は、サラマンドから杖を受け取り謎の魔術士へと歩を進める。
それに従うように、シルブ、フロウズ、サラマンドは魔術士を取り囲んだ。
―どうだ?先程よりも状況が悪くなったぞ?―
「大人しく投降しろ」
杖を突きつける竜崎達。しかし、謎の魔術士はギリリと歯ぎしりをした。
「…楽に殺してやろうとしたのに…。もう容赦しねえぞ…!」
ヒュンッ!
瞬間、転移する魔術士。竜崎から少し距離をとり、怒り心頭の様子で懐を探る。取り出したのは…縄に縛られたネズミの束と、あの謎鉱物から出来た注射器であった。
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