199話 迎え撃つ④

「大将首が動いて良いのかの?」


そんな一言に、魔王はピタリと足を止める。発言主は何故かにやつく賢者。それに乗じるように、ラヴィは魔王を引き止めた。


「そうですよ! リュウザキの奴も魔王様にはどっしりと構えていてと言っていたのですから!」


必死な彼女だが、魔王はラヴィを優しい声で宥めた。


「ラヴィ、そうはいかない。我が力を揮わなければ危険分子達は更に増長し、その分民からの信頼は潰える。『魔王ここにあり』と味方にも敵にも示す必要がある」


そこで言葉を切った魔王は、ラヴィにスッと近づき彼女の頭を撫でた。


「それに、この程度の反乱で我が討ち取られるとでも?」


「―。あ、いえ!そういうことではなく…! 幾度となく同じような反乱を退けてきた魔王様のお力は疑いようありませんが、危険なのは変わりないのですから…!」


少しホウッと惚けていたラヴィだったが、慌てて言葉を継ぐ。そのしどろもどろさを軽く笑いながら、魔王は彼女に指示を出した。


「そうか、なら命令だ。『お前はこの場に留まり、その子さくらを守れ』」


流石に主からの命令とあってはそれ以上抵抗することができず、ラヴィは渋々諦めた。


「はい…。 ですがどうかお気をつけて!」


「勿論だ」


そう言葉を返すと、魔王は自らの翼をバサリと開く。その大きさ、片翼だけでも人を包めるほどに大きい。そのまま軽く羽ばたくと、彼はふわりと浮き上がり空高くへ浮かび上がった。



「さて…好都合だ」


眼下を広く見渡せるほど高く飛び上がった魔王は、大きく弧を描きながら空を舞う大木たちに向けスッと手を伸ばす。そして、そのまま薙ぎ払うかのように腕を振った。


すると飛んでいた木は空中でピタリと静止。続いてバキバキと音を立て割れ始めたのだ。


「えっ!?一体何が…!?」


驚いてしまうさくら。そんな彼女にラヴィが説明をしてくれた。


「魔王様は『念魔術』の使い手だ。視界に入るものならば、あの木のように自由自在に操り壊すことが可能なんだ。その分どの魔術より習得が難しい代物でな。私が知る限り、あれを使えるのは魔王様と賢者殿だけだ」


「つまり、サイコキネシスですか…?」


元の世界でたまに聞くその単語をさくらは思わず口に出す。とはいえそれが登場するのはゲームやアニメ、そして手品の時だけ。実際に目にするのは初めてである。


「そういえばリュウザキの奴も同じことを言っていたな。やはりそちらの世界ではそう言うんだな」


ラヴィの言葉から、竜崎も同じ感想を抱いていたようだ。『魔王』の名に相応しい力を持っているというのは伊達ではない。




裂かれた木の破片達の先端はまるでの恐ろしいほど鋭く尖り、数百を超える槍に。


「数を減らさせてもらうぞ」


パチンッ


魔王が鳴らした指の音を合図に、空中に留まっていた即席の木槍は一斉に落下していく。それは丁度森を抜けた魔獣達の第一陣へと降り注いだ。


ドドドドドッ!


槍は勢いよく魔獣達に突き刺さり、次々と仕留めていく。


それだけではない。地面に突き刺さった槍はまるで巨大な漏斗のような形を地面に形成。どうやら魔王の念力によって硬化しているらしく、魔獣達の巨体がぶつかってもびくともしない。


突き刺された魔獣の死骸も相まって邪魔くさい壁となり、広がって走っていた魔獣達は狭い出口に押し寄せるしかなくなった。


「これで大分狩りやすくなったか」


恐らく反乱側は数で押しつぶす作戦だったのだろう。だがこうなってしまえばその作戦も台無しである。


魔王はふわっと地に降りると、竜崎と勇者の元へ。


「リュウザキ、勇者と共に敵の本隊を少し叩いてきてくれ。我は上空から援護をする」


「良いのか?今離れたら…」



「…わかった、気を付けて。 アリシャ、行こう」


魔王の言葉から何かを悟った竜崎は勇者と共に、足止めを食らっている魔獣達の元へと駆け出していった。

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