186話 家畜の助け出し方

「先生達まだかな?」

「手こずってるのかも」


飛び出ていった竜崎達を待つさくら達、少々時間がかかっているようだ。そもそも二人で五人の逃げる泥棒を捕らえるなんて普通では難しい内容ではある。


しかしそこは歴戦の竜崎と天才オズヴァルド。いとも簡単に片付けるはずだが…。


「ギャウウ!」

「えっ!何!?」


突然森から響き渡る獣の猛り声。そして次には、竜崎達が飛び込んでいった辺りからバキバキバキと木々が折れる音が響く。何かがこちらへと向かってきているようだ。


身を寄せ合い、シルブ達の裏に隠れるさくら達。何が出てくるのかこわごわ様子を窺っていると…


「こんな奥の手持ってたんですね!」

「これはやはり…!」


森から飛び出してきたのはオズヴァルドと竜崎。泥棒確保は済んだらしく、すぐ後ろには気絶させられた泥棒達が浮かされ引っ張られていた。


そして彼らの後ろから現れたのは、熊のように巨大な兎。ただし可愛らしい姿ではなく、凶暴なる肉食獣のような出で立ちである。


「よし、森を抜けたしここいらで」

「はーい!」


竜崎達は盗賊を近場に放り投げると、その場で急回転。


「「せーのっ!」」


怪物なんのその。2人は巨大兎へ同時に攻撃をしかけ、的確に急所を突き一瞬のうちに討伐した。ただ単に森の中で仕留めたくなかっただけらしい。その見事なコンビネーションにさくら達は思わず拍手してしまった。




「リュウザキ先生、これはやはり賢者様の報告にあった…」


「多分そうだよね…花束といい、間違いなさそうだ」


―そこで伸びている盗賊達に直接聞いてみるしかないな。まあ後でいいだろ―


倒した猛獣の死骸を検分しながら、竜崎達は意味深な会話を交える。だがニアロンの言葉にとりあえずそこから離れ、砦の方へと向かった。


「もう一仕事といこう。家畜たちを取り出さなきゃ」


先程オズヴァルドが叫んだ通り、砦の地下には盗まれた家畜たちがいるらしい。それを助け出さずに帰るわけにはいかない。竜崎の言葉に入口を探そうとするさくら達だが、彼はそれを止めた。


「数多そうだし、面倒だから直接取り出そう」


「え?」

直接とはどういうことなのか。どこかにある入口から一匹ずつ取り出す以外にどんな方法があるのか。首を捻るさくら達を余所に、竜崎は詠唱、召喚した。


「ノウム達、来てくれ」


竜崎が呼び出したのは土の上位精霊数体。軽く指示を出すと、彼らは砦の近くでくるくる回転し始める。


「何を…?」


シュルルルと地面を擦りながら回るノウム達を横目に、さくらは竜崎に何をしているのか問おうとする。だがそれよりも先にノウムが鳴いた。


「ググググ」


「範囲、深度問題なし。砦が崩れる心配もなさそうか。ノウム、『地面をこじ開けて』」


命を受けたノウム達の半数は一斉に瞳からビームを照射。それらは地面に着弾すると、瞬く間に足元を砂へと変える。残った半数がその砂を操り退かすと、大穴の底に居たのは大量にひしめきあう家畜達だった。数的に他の村からも盗んでいたらしい。


「荒業…」


思わずさくらはそう呟いてしまう。いくら面倒だからって地下空間を無理やり掘り出すとは。ノウムの力もさることながら、竜崎の選択に呆れてしまった。



しかし、これだけではただ家畜が見えやすくなっただけ。結局地上に連れてくるには階段を使わなければいけないのでは?そう訝しむさくらを余所に、竜崎は指示を出す。


「オズヴァルド、あとお願い」


「お任せあれ!」


家畜で満杯の地下へと飛び降りたオズヴァルドは何かを詠唱、そのまま家畜達の背を次々と撫でていく。すると…


「モウウ」

「メエエ」

「フゴゴ」


家畜達の体はふわっと浮き上がり、地下室から出てくる。まるでシャボン玉のようにふわりふわりと

屋根まで飛んだ。


「え!?え!?」


数十匹の動物が空中浮遊しているその異様さにさくら達は困惑。竜崎は笑いながら教えてくれた。

「オズヴァルド先生の浮遊魔術だよ。ここまで出来る人はそうはいないんだ」


と、穴の底から浮いてくるオズヴァルド。元気に報告を行った。


「これで全部みたいですよ!」


「有難う、そしたらさくらさん達も村に運んでもらっていい?」


「はーい!」


軽く返事をしたオズヴァルドはさくら達や兵達にも浮遊魔術をかける。兵の1人は驚いた声をあげた。

「こ、こんな同時に浮遊魔術を出来るなんて…!てっきり賢者様達だけかと…!」


するとオズヴァルドは満面の笑みを浮かべる。

「当然!私はリュウザキ先生と同じく、賢者様から指導を受けた身ですからね!」


と、そこに竜崎達が補足を入れる。


「オズヴァルド先生は私よりも数倍魔術に長けてますよ」

―こいつはミルスパールを以てして『天才』と言わしめたからな。召喚術関係に何故か疎いが―


ニアロンの言葉を聞き、さくら達は唖然とする。火の上位精霊なりゴーレムなり召喚獣なりをいとも簡単に呼び出した彼が、『疎い』と言われるとは…。他の魔術に比べてという意味合いなのだろうが、衝撃的である。しかも魔力量もとんでもないときた。まさに魔術を使うために生まれてきた人物である。




ふとさくらはあることに気づく。竜崎と捕まった泥棒達だけ浮いてないのだ。


「あれ、竜崎さんは?」


「ちょっとやることあるから先に帰ってて。オズヴァルド、ゆっくり運んであげてね」


竜崎に頼まれ、快諾したオズヴァルドは浮き上がらせた家畜達と人を一斉に動かした。


「いやっほー!」

はしゃぐネリー。それもそのはず、満天の星の下で牛たちと共に空を飛んでいるのだ。まるで絵本やおとぎ話にでもありそうなシチュエーションに、さくらも少し楽しくなってしまう。

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