146話 アフターサービス
「この度はありがとうございました…!お礼を何度言っても言い切れません…!」
村長は地面を頭に擦りつけんばかりに頭を下げる。竜崎が精霊を忍ばせていたおかげで盗賊達は人質を捨て外へと逃げ出した。そのため村人達に怪我人はほとんどおらず、居たとしてもそれは竜崎達がくる以前に盗賊達によってつけられたもの。そんな彼らも今ニアロンによって検査、治療を施されていた。
「いえいえ。大きな怪我人がいなくて幸いでした。しかし、集めてみると凄い数いましたねこいつら」
専用機動鎧を脱いだソフィアは背後の荷台を見やる。機動鎧の予備パーツも全て降ろされ、代わりに詰め込まれているのは縛られた盗賊達。入り切らないので村からもう一台大きめな荷台を借りたほどである。
「ほどけぇ!」
「ちくしょう!」
ぎゃんぎゃん騒ぎまくる彼らに嫌気がさしたのか、ソフィアはマリアに指示をする。
「マリア、こいつら黙らせちゃって」
「はーい!」
まだ機動鎧に乗って遊んでいたマリアはまたもジャキンと銃口をせり出させる。照準が合わせられたことを知り、幾人かの盗賊は止めてくれ!と騒ぐが…。
「発射!」
ポムッ!ポムッ!
撃ちだされた何かは荷台内へ落ちるとモクモクと煙を発生させる。
「ゲホゲホ…ぐぅ…」
最初は咳き込んでいた盗賊達だったが、次々と寝息を立てていく。どうやら睡眠弾のようだ。
「流石キヨトから貰ったお香ね。効果は抜群だわ」
ソフィアはそうカラカラと笑った。
「ところで、機動鎧なんですがどういたしましょう。今買われます?」
ひとしきり笑ったソフィアは続いて村長にそう問う。すると彼は申し訳なさそうな表情に。それを察して彼女は先に切り出した。
「村の復興にお金回した方がいいですよね。ならこちらはお貸しいたします。勿論手数料や利息は無しで」
「!? よ、よろしいのですか?」
「はい。あとここいらを通る商人達にお願いしまして、この村では暫くの間は安く品物を売るようにしてもらいましたんで是非ご活用を。この件は王宮へとお伝えしますので、国や貴族から補填も出ましょう。村の様子が完全に治りましたら改めて機動鎧の代金を頂きに参ります」
「あ、ありがとうございます…!」
至れり尽くせり。サービス抜群のダルバ工房であった。
「こっちは終わったよ」
と、治療作業を終えた竜崎がソフィアの元に戻ってくる。だが、その目はどこかそわそわ。治療を手伝いつつその様子に首を傾げていたさくらとは対照的に、ソフィアはにんまりと笑う。
「キヨト、乗りたい?」
そう言い彼女が指さしたのは、特製機動鎧。
「乗りたい!」
少年の如く元気に返事をした竜崎。超わくわくな声である。おいでおいでとソフィアに手招きされ、勇んで駆けて行く様子を半ば呆れながらさくらは見送った。
「流石にちょっときついな…」
「体格差はしょうがないわよ。それにこれは機動性重視で小型に作ったものだし。それで機構の説明だけど、まずは…」
ソフィアの体に合わせて作られた機動鎧を無理やり着こみ、講釈を受ける竜崎。と、さくらはニアロンが微妙な表情を浮かべているのに気づいた。
「どうしたんですか?」
―いや、この後どうなるかを考えたらな…―
それ以上答えることなく、彼女は竜崎の体へと引っ込んだ。
「竜崎、出撃する!!」
ゴオオオオ…ボウッ!
彼はロボット物の主人公の如く空へと飛びあがる。先程まで捕まっていた子供達はそれを見て歓声を挙げた。
と、驚くべきことに竜崎は浮遊魔術や空中足場魔法陣を活かしアクロバットな空中機動を始めたのだ。
ボッ!グオンッ!ゴオッ!
およそ航空機ではできない細かな回転を組み合わせ、踊るように。その動きを見たマリアとソフィアは感心した声を出す。
「すごーい!」
「流石キヨトね。妬けちゃうわ」
さくらも思わず拍手を送っていたが…。
「…あれ?」
はた、と気づく。別に竜崎さんなら機動鎧がなくてもあの動きは出来るのでは…?だがソフィア達、何より竜崎本人が楽しんでいるようなのでそのツッコミは胸にしまっておくことにしたさくらだった。
少しの間あっちへ行ったりこっちへ行ったりぐるんぐるんと飛び続けた竜崎だったが、突如急に高度を落とし始めた。それを見て、ソフィアは呟いた。
「あー、限界ね」
「機体のですか?」
さくらのそんな問いに、彼女は首を振った。
「ううん。キヨト自身の」
ふわりと着地した機動鎧はそのままべしゃりと四つん這いに。ソフィアが駆け寄り兜を外してあげると、乗っていた竜崎は弱弱しい声を漏らした。
「酔った…」
あれだけ動けばそうなるだろう。憑りついているニアロンもグロッキー状態。
―まあこうなるよな…おえ…。で、感想は…?―
「すごい楽しかった…!」
変わらず目がキラキラしている竜崎。それを見てソフィアは吹き出してしまう。
「懐かしいわね、魔王討伐の旅路を思い出しちゃった」
「あの時も無理を言って乗せて貰ったなぁ。まさかロボットの操縦士になる妄想が異世界で叶うとは思わなかったし。同じように酔ったけど」
―あの時から全く変わってないのは良いことなのか悪いことなのか…。あー…気持ち悪…―
過去を懐かしみ和気藹々と話す彼ら勇者一行の面子だった。
壊した機動鎧の修理も終わり、気づけば日暮れ。盗賊達を乗せた荷台を自動車とタマによって引っ張ってもらいながら一行は帰路へつく。
「ふっふふ~ん♪」
終始楽しそうなソフィア。どうやら村1つを救った達成感だけではなさそうである。そう推測したさくらが探りを入れてみると…。
「こいつらを突き出せば賞金がたんまり貰えるのよ。御尋ね者もいるしね。この人数ならあの村に補填したお金を除いても充分にお釣りがくるわ。ダルバ工房の名声も上がるし、新作機動鎧のテストも出来たし、今日は最高ね!」
しっかりと損得勘定していたらしい。思わず苦笑いするさくらに気づかずソフィアは言葉を続ける。
「それに、良い労働力も手に入ったしね!少し人不足気味だったから助かったわ!」
「? どういうことですか?」
事情が呑み込めないさくらの質問に彼女はしっかりと答えてくれた。
「その盗賊達を引き取ってうちの工房で働かせるのよ。職人は力仕事だし、ぶつかり合いも多い。今回みたいに出先で喧嘩を売られることも多々あるの。だから腕っぷしが強く血気盛んなやつは常に欲しくて!」
「それ大丈夫なんですか…?」
「大丈夫よ、いつもやってるし。引き取ると国から補助金も出るしね。まずは腐った性根をぼっこぼこに砕くところから教育が始まるから問題ないわ」
なるほど、竜崎さんが言っていた「いつもの」とはこのことか。ようやく腑に落ちたさくらだが、それでも不安だった。
「でも…」
「もう何百人もそれで更生させてるから心配することはないわ。ね、ボルガ―!」
唐突に連れてきた職人の名を呼ぶソフィア。すると彼はビクリと体をおののかせ、震えながら口を開いた。
「さ、さくら嬢ちゃん…姐さんにその話をさせないでくれ…。あの時のことを思い出すだけでも全身にサブいぼが…」
先程盗賊相手に威勢よく大立ち回りをしていたはずの彼。それが今や小さく縮こまりビクビクしている。代わりにソフィアが詳細を教えてくれた。
「ボルガ―も少し前に暴れ回っていたやつの1人なのよ。とっ捕まえてうちの職人にしたの。いやー最初のほうは強情だったわー!教育担当の猛者達が手こずるほどでね。私が様子を見に行った時も怒り心頭で襲い掛かってきたのよ」
「無事だったんですか…!?」
思わずそう聞いてしまうさくら。すると彼女はにんまり。
「ええ勿論。どうやったか知りたい?まずは金玉を思いっきり蹴ってね…」
「さくら嬢ちゃん…!頼むから姐さんを止めてくれぇ…!!」
悲痛な声を出すボルガ―。かなりのトラウマとなっているらしい。流石に可哀そうになり、それ以上聞くことを止めるさくらだった。
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