92話 規定に則った武器

「乗せられちゃいました…」

さくらは参加要項が書かれた紙を持ちながら竜崎の元に来ていた。


「まあまあ。さくらさんには充分な実力があるからいけるよ。実は私からも推薦していたし」


竜崎も共犯だったようだ。もう…とさくらは溜息をつく。


とはいえ、さくら自身出場することに緊張こそあるが、別に拒否したいわけではなかった。寧ろネリー達の期待を受け、やってやる!という気持ちであったのだ。とあるルールを見るまでは。


「神具、流石に使えないんですよね…」


彼女が気落ちした理由は、とある一文。

『本人の力に依存しない強力な武器等の使用禁止 例:第三者によって作られた魔術札、古代技術使用の武器など』


一応学園長に聞いてみたが、やはり神具の鏡は使用不可らしい。そりゃ相手にぶつけただけで魔獣だろうが大男だろうが有無を言わせずぶっ飛ばし、上位精霊の一撃を簡単にはじき返すような鏡だ。普段の戦闘ならまだしも、正式なルールがある試合での使用はズルになるのは薄々わかっていた。


いうなれば実力勝負の定期テストでスマホを持ち込むようなことか。一発退場は確実である。



「精霊石や魔導書、杖とかは問題なく使えるから、それで参加するしかないかな」


「精霊石は使えるんですか?」


「魔術補助用の道具だし、それを活かすも殺すも使用者の腕次第だからね」


ということは、精霊石や杖をメインに戦っていく竜崎の戦闘スタイルを真似るしかないということか。しかし、ここで一つ気になることが。


「でも、杖って確か…」


以前杖を売る店に行った時のことを思い出すさくら。異世界から来た身では市販の杖は使えなかったのだった。


「あ、そうか…」


竜崎も失念していたらしい。頭を悩ませる彼をニアロンが動かす。


―マリアに作って貰っていただろ。とりあえず工房に行くぞ―





「あの杖ですか?あー…ちょっと無理かもしれません」


マリアのその一言に、当てが外れたさくら達は愕然とする。


「以前さくらさんの服を爆散させてしまった時に内部構造の異常を見つけちゃって、今一旦バラしちゃったんですよね…」


「どうしよう…」


確かに杖がなくとも魔術は使える。それは竜崎から教わっているし、さくら自身もそれで使っている。だが杖があれば詠唱短縮や魔力消費軽減になるのも事実、つまりはその分不利になるということ。神具つきの専用武器が使えない現状、このハンデは大きい。


一応神具だけ外せないかを聞いてみるが…。

「鏡の部分だけを取り外すには一回壊さなければいけませんし、新しく作るしか…」


とのことである。あの時はたった一日で作ってくれたが、丁度立て込んでいるらしく、工房の裏は忙しそうな職人が走り回っていた。とても頼める雰囲気ではない。



―清人の杖でも使うか?―

妥協案として残ったのは、竜崎のを借りること。長杖なんて使ったことはないが、背に腹は代えられない。



「あら、どうしたの?」


そこに現れたのはソフィア。竜崎達は彼女に今までの出来事を説明する。



「じゃあ鏡を使えなくしたらいいんじゃない?確か殺傷力を無くした専用武器なら問題なく使えるでしょ?」


「そうだけど…。できるのかい?そんなこと。板でも貼るのか?」


「そんなことしたら武器の重さ大幅に変わるし、すぐ壊れるわよ。鏡部分を障壁で覆えばいいのよ」


どうやって?と首を捻るさくらとマリア。しかし竜崎だけ反応が違った。


「シールドシステムか!」


「ふふん、ようやく気付いたわね」


大人2人はパァンと手を打ち合った。



「「しーるどしすてむ?」」

声を揃えて問うさくら達。竜崎が嬉々として答えてくれた。


「元の世界でロボット物やSF物を見てた時から気になっていたんだけど、障壁を自動展開する機構があれば良いなって思っていてね。ソフィアに試作してもらっていたんだ。必要な時だけ障壁で盾を作れば大きな盾を装備しなくてもいいし、何より半透明のエネルギーシールドって格好いいから!」


若干早口、かつ説明になっていない彼の説明はさておき、ニアロンが代わりに教えてくれた。


―竜崎の杖から障壁を出したのは覚えているか?あれのことだ―


そう言われ、さくらは思い出す。以前サラマンドの攻撃から傭兵を守った時のこと、エアスト村でトンネルを作った時のこと。竜崎が手放しているのにも関わらず、杖を中心に障壁が張られていた。あれがそうだったのか。




「ちょっと借りるわね」

ソフィアに武器を渡し、1時間ほど。改良されたラケットにはさらに術式や小さな機構が取り付けれられ、中央部にある鏡の部分には確かに障壁が張られていた。


「多少は重量増えちゃったけど、精霊石の魔力を使うからさくらちゃんの魔力とは関係なしに暫く張り続けられるわよ。その分強度は控えめだけど、代表戦程度ならばしのげるはず」


「これなら盾扱いになるから問題なく認められるよ」


竜崎からもお墨付きが出た。これで武器の問題は解決できたようだ。


規定上仕方のないこととはいえ、神具の力を封じ込められただの精霊石付き鈍器になったテニスラケットを見て、さくらは少しもやもやした気分になった。

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