87話 エルフの弓術
竜崎と勇者はそのまま道補整のお手伝いをすることに。
「私達もお手伝いしましょうか?」
アイナが代表してそう進み出る。
「気持ちはありがたいけど、大丈夫だよ。ゆっくり見学していて」
竜崎はそう言いながら大岩、土の上位精霊ノウムを何体も呼び出していた。
「あれ、竜崎さん、ノウムの形がいつもと違うんですけど」
さくらが気づいた通り、いつもとノウムの見た目が違う。彼が時たま呼び出していたのは丸い形のだったが、今呼び出されたのは円柱形。
「ノウムは岩石を纏っているから形の個体差がかなりあるんだよ。今回はこっちの子のほうが都合がいいんだ」
円柱のノウムは横倒しになっているが、それでもなお人の身長を越える大きさ。そんな彼らを竜崎は連結させていく。
「よし、これでいいかな」
出来上がったのは道いっぱいに広がった長い円柱の棒、いや柱。
「ノウム達、お願い」
「グゴゴゴゴゴ」
竜崎の指示を聞き、ノウム柱はゆっくり転がり始める。
「これって…」
「そう、ロードローラ―だ。本来なら馬や竜で専用の車輪を引っぱってもらうんだけど、なにせこの道広いからね。ノウムを使えばその場で土も補充できるし、なにより一回で押し固めが済むんだ」
前回のトンネル工事もそうだが、もう土木工事の仕事だけでも充分に食べていけるのでは?なんで彼が教師をやっているかわからなくなるさくらだった。
ゴロゴロゴロと大きな音を立てて転がるノウムに勇者達はついていく。聞くと、道中に獣除けの魔術をかけたり、取り除かれていない樹や石がある場合に備えるらしい。
完全にやることを失ったさくら達がどうすればいいか迷っていると、竜崎が融通を利かせてくれる。
「作業が終わるまでエルフの国を探索してきてもいいよ。 あー…でも少し心配だな」
―私がついていくか?―
悩む竜崎。そこにエルフの女兵が立候補してきた。
「リュウザキ様、そういうことであれば私がご案内しましょうか?」
「お願いしていいですか?」
「はい!お任せください!」
ビシッと敬礼を行う彼女。彼に託されたのが嬉しいようだ。
「さあ、どこに行きましょう?」
ガイドのお姉さんのような彼女の問いにネリーは真っ先に手を挙げる。
「はーい!エルフの国でしか食べられないものってありますか?」
相変わらず食い意地が張っている。呆れるさくら達だったが、エルフの女兵士はにこやかに答える。
「ありますよ。では僭越ながら、私のお気に入りのお店にご案内します!」
「なにこれぇ!色んな果物の美味しいところだけ集めたみたい!」
「こちらは神樹ユグドルの実を使っているんですよ。国外では絶対に食べられない、自慢の一品です。これを食べに各国の貴族達もおいでになったりするんですよ」
まさに特産品ということらしい。普段は静かに食べているモカやアイナも興奮気味なのが見てとれた。
「もぎたてが一番美味しいのですけど、私達も中々食べられる機会が無いんですよねー」
これよりもっと美味しいのか。思わず生唾を飲み込む。ネリーに至っては想像してしまったのか、食べながらよだれを垂らしている。
「さて次はどこに行きます?」
今度はモカが手を挙げた。
「エルフの皆さんの訓練風景が見たいです」
案内役の彼女が副隊長を務めているという駐屯地にさくら達は来ていた。とはいってもそこまで仰々しいものではなく、数十名のエルフ兵達が周囲の警護をしたり、農業の手伝いなどを兼ねながら鍛錬を積む地域密着型の兵営だった。
「あれ副隊長? そちらの子達は?」
「リュウザキ様と来た見学の子達ですよ。皆の練習の様子が見たいって」
「へぇー。じゃあちょっと気合入れましょう!」
「構えっ!射れっ!」
ヒュンヒュンヒュンと矢が風を斬る音。
次いでストンストンストンと的の中心に当たる音。
「「「「「おぉー!」」」」
一発も外さない彼らの腕前に思わずさくら達は唸ってしまう。学園で幾度か弓の練習をしている生徒達を見たことがあるが、ここまで見事なものは滅多にみたことない。曲がりなりにも国を守る兵達の実力が窺える。
「そういえば、ダークエルフと普通のエルフの違いって何なんですか?」
この国にいるのはほとんどが肌の白いエルフだが、ちょこちょことダークエルフが混じっているのだ。さくらはそれが少し気になっていた。
「それはですね…」
「ダークエルフとは、エルフと魔族のハーフのことさ。それより血が薄くなると元の肌色に戻るがね」
「あ!隊長!私の台詞盗らないでくださいよ!」
そこにいたのはダークエルフの男性魔術士。もう、と頬を膨らませる彼女を宥めながら笑う。
「はは、すまんな。ちょっと出しゃばってみたくなってな。ついでに言うと、ダークエルフは魔術の適正が生まれつき高い。だから私みたいに弓兵より魔術士になる場合が多いんだ」
そう言われ、他のエルフ兵を見てみる。確かに弓を扱っているのは全て白いエルフ。数少ないダークエルフ達は軒並み魔術士のローブを纏っていた。
「そういえば、御供竜?を使っての弓術は担い手が減っているって以前竜崎さんから聞いたんですけど、それが理由だったりするんですか?」
「それもあるが、魔術を付与した特殊な矢の普及や、難易度の高さが災いしてね。じわじわと減っていっているんだ。それでもまだまだいる。うちの副隊長はかなりの使い手だぞ」
先程のお詫びとばかりに目で促す隊長。ようやく怒っていた彼女は少し機嫌を直した。
「行きますよ―!」
竜に乗り飛んだ副隊長は、空中に投げ上げられた的に矢を当てていく。横から、上から、一回転しながら。極めつけに竜の高度を地面スレスレまで落とし、地上に備え付けられた的を射抜き上空に舞い戻るというタッチアンドゴーも披露してくれた。
流鏑馬よりも確実に難易度が高いであろう技をいとも簡単に繰り出す彼女にさくら達は拍手が止まらなかった。
「小型竜を観測手として使うのもありますよ。お見せしましょう!」
竜から降りてきた副隊長は得意げ。と、そんな彼女に申し訳なさそうに兵の一人が進言する。
「副隊長…それが…、先程の轟音で小型竜達が皆驚いてしまって。暫くは…」
「轟音? あぁ、勇者様の…」
耳が一時聞こえなくなるほどの爆裂音はしっかりと国内にも影響を及ぼしていたらしい。がっくりとうなだれる副隊長だった。
「そうだ、さっきこんな募集が届いたんだ。この子達を連れて行ってやったらどうだ?」
そんな彼女を案じてか、懐から一枚の紙を取り出した隊長は、その手紙を近場にいたさくらに渡した。
「神樹の実収穫手伝い?」
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