64話 盗賊脱獄②


「「「はっ…?」」」



大頭を含めた盗賊達は、何を言われたのかが理解できなかった。竜崎にとって絶望的であろうこの状況、それに対して返ってきた言葉が、まさかの呆れ声だったのだから。




「ど、どういうことだ!?」


ようやく脳が処理を終え、目の前にいる英雄が絶句している理由は敗北感からくるものではなく、失笑によるものだということ気づいた大頭おおかしらは食って掛かる。しかし竜崎はそれを気にせず、近場の空いた椅子に腰かけた。




―聞こえなかったのか?お前ら馬鹿だって言ったんだ―



そして、ニアロンは更に煽る。怒りで武器を構え直す仲間を諫め、大頭はもう一度聞いた。



「どういうことだ?俺達に嵌められたのはお前の方なんだぞ?」



すると竜崎は、どこから話すべきかを考えているように腕を組んだ。




「問い返すようだけど…20年前の戦争をその目で見たことはあるかい? 別に兵として戦っていなくてもいい、戦場泥棒や死体漁りでもこの際構わないけど」



「あぁ、良い儲けだったぜ」



懐かしむように頷く大頭。竜崎は淡々と続ける。




「そうか、なら数多の戦場を見てきたはずだけど…」



「勿論見たぜ。草木一本も残らず、ゴーレムの破片や死体で埋め尽くされた地獄をよ。そこから鎧やら金品を剥ぎ取るのは手間だったが、楽しいモンだったぜ」



思い出し笑いをする大頭。それを聞いて竜崎はちょっと嫌な顔をしつつも、説明を加えた。



「知ってるなら話が早い。あれらは全部が全部、私達『勇者一行』がやったわけではない。いくら高位精霊や魔神達に嫌われていた当時の魔王でも、保有戦力は強大だった」



当時を回顧するように語る彼。そして、大頭を見据えた。



「各地に広がる戦火を私達が一手に引き受けるのは物理的に不可能でね。間に合わない戦場は他の実力者達に任せるしかなかったんだ」



「…何が、言いたい…?」



「その実力者達、もちろん中には亡くなった方や別な活動をしている方もいるが…。彼らは今、どこにいると思う?」



逆に問いかける竜崎。そして、そこまで言われて推測がつかない大頭ではなかった。



「まさか…!!」



うち学園はその実力者達、又はそれに準ずる才能を持つ者を教師として迎えている。『アリシャバージルに力あり』の所以、そういうことだよ。あまり『学園』を舐めるな」




彼にキッと睨まれ、大頭は反射的に学園がある方向へと首を動かすのであった。














「さくらちゃん逃げて!」



同時刻。怪我をしたネリーに肩を貸しながら、逃げるモカとアイナ。だがどう見ても、魔猪の群れからは逃げきれない。



さくらは皆を守るため武器を手にしたが、手も足もガクガクと震え、まともに動かない。津波のように押し寄せる魔獣達に対抗する術なんて考えつかないが、竜崎から貰った武器の性能を信じるしかなかった。




そして、鼻息荒い魔猪の群れは、学園の門をくぐり――!!




ガキイイインッ!!



「「「「ブフッゥ…!?」」」 



「へっ…?」





―だが、魔猪達は門の前で止まった。否、止められたのだ。立ち尽くすさくらの前には、障壁魔術が。



何が…起こったの? 理解が追いつかない彼女だったが、その肩がポンと叩かれた。




「早く教室内に。制服のバッジがついている限り、そこが一番安全だから!」



「「「「オズヴァルド先生!?」」」」







そこに立っていたのは、エルフ族のイケメン講師、オズヴァルド。手慣れた手つきでさくらを下がらせる。



「あら、面白いことになってるわね。私達も参加させて?」



更にぞろぞろと集まってきたのは、学園に残っていた教員の一部。そしてさくらも見知った顔ぶれが集まっていた。



ゴーレム術講師イヴ、魔法鉱物学講師ログ、剣術指南役ジョージ、召喚術講師グレミリオとメルティ―ソン。



彼女達はさくら達を守るように、魔猪と追いついた機動鎧達に立ちふさがった。






「おいおい、随分なお出迎えじゃねえの」


「たった数人で抵抗する気なのか?1分持たないだろうよ!」



障壁の向こうでは騎士達をなぎ倒し勢いづいた脱獄者達が息巻いている。更に、障壁自体には魔猪達が苛立ったように何度も何度も激突を繰り返していた。



機動鎧に乗った200人+巨大魔猪50匹以上 vs 学園の教師陣6人。 どう見ても、不利なのは後者であろう。




しかし、教師の誰もが怖がることもなく、戦闘準備を。 内、ジョージがオズヴァルドへ号令をだした。



「ではオズヴァルド先生、よろしくお願いしますぞ」



「えー!皆さん参戦するんですか?」




何故か不貞腐れるオズヴァルドが障壁を消し、猛ったイノシシ達は競走馬の如く一斉に放たれた。


それと同時に、機動鎧に乗った盗賊達も蹂躙せんと一斉に襲いかかる。…しかし彼らは気づかなかった。




相対する6人程度の教師陣。その全員が、不敵な笑みを浮かべていることに――。












「だが、伝説のお前がいなければ…!」



一方の監獄。顔面蒼白となった大頭は、一縷の望みを託すように竜崎を睨む。しかし彼は、寂しそうに首を振った。



「そもそも…皆勘違いしている。私は異世界から来たというだけの、ただの一般人だ。魔術の才も、英雄の資格も何もない。私がこの世界にもたらしたものなんて、ちょっと生活が楽になる道具とか機動鎧の発想とかだけだよ。それも全部ソフィア発明家がいなければ実現すらしなかったし…」



自らの至らなさを責めるように言葉を紡ぐ竜崎。 そして、更に続けた。



「力の全ては、この世界に来てからニアロンや賢者、勇者に教わったものだ。たまたま予言で自分に白羽の矢が立って、それが見事成し遂げられてしまっただけ。ほとんどの敵は勇者や賢者が倒したし、私がやったことは精々彼女達の身の回りの世話ぐらい。伝説の肩書を頂戴する器じゃないさ」




そう自虐気味に締める竜崎。するとニアロンは、彼を叱るようにペシンとはたいた。




―よく言う、高位精霊達との唯一の契約者が。 それに、お前も色々と救ったろ。オズヴァルドやメストなんて最たる例じゃないか―



アリシャ勇者に比べるとね…」



―比べるな、死や絶望が待ち受けていた彼らの未来を切り開いたんだぞ。なんでお前は誰かと自分を比べて卑下したがるんだ―





勝手に始まった2人の夫婦喧嘩を見せつけられる盗賊達と、侍らされていた女看守達。全員が揃って唖然としているのに気づき、竜崎は恥ずかしそうにゴホンと一つ咳払い。



「話が反れちゃった…。ともかく、私一人捕えたところで意味はない。学園の教師は私よりも強いからね」



―全員と本気でぶつかり合ったことはないから、正確にはわからないだけだろ。お前は充分強い。私もいるし、大体の連中には勝てると思うぞ―




竜崎の言葉にツッコミを入れるニアロン。そして、大頭に向けてヘッと鼻を鳴らした。



―まあ、たかが盗賊の集合体。あいつらなら苦戦もしないだろうよ。 というか、こうして話している間にきっと全滅させてるぞ―


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