23話 基礎魔術学講師 オズヴァルド
「やあみんな!今日も元気かな?張り切っていこう!」
開始の鐘がなると同時に、エルフ族の教師であるオズヴァルドは陽気にそう挨拶をした。
「基礎魔術は魔力を原料として火を起こしたり、水を作ったりする魔術だからね!魔力は多いほどいい!そして!魔力の多さは即ち元気の良さ!元気いっぱい頑張ろう!」
さくらは今、このやけにテンションが高い教師の基礎魔術講座を受講していた。
事の発端は朝の出来事に遡る。
賢者が酔っ払い達を倒した圧倒的な魔術、実はさくらも気になっていた。相手を浮かせる技も面白そうだが、1番興味を引いたのはどこからともなく滝を起こせるあの魔術。上手くやればこのラケット武器に活かせるのでは?そう考えて竜崎にその旨を聞いてみた。
「あぁ。あれは基礎魔術の応用技だね」
「基礎?」
「あ、そうだよね。わからないか。うーん、教えたいけど授業始まっちゃうな…」
どうしよう、と考える竜崎。と、名案を思い付いたように手をポンと打つ。
「オズヴァルド先生の授業に出てみる?信頼できる先生だよ」
オズヴァルド。確か以前魔力切れを起こす竜崎を煽り、風呂場でも騒がしかったあの男性教師。ナディは嫌っているようだが、煽られた本人である竜崎の口から「信頼できる」と出たのが気になった。
「出てみます…!」
「お、じゃあ案内するよ。もし心配なら御付きにタマを呼ぶ?」
そして今に至るのだが…
「前回はどこまで話したっけ?復習といこうか!基礎魔術は全ての魔術に通じる!絶対怠ってはいけないよ~!皆が使いたい色んな魔術、精霊?ゴーレム?浮遊?召喚?強化?あれもこれもぜーんぶ!基礎魔術が根本にあるんだ!」
彼は大きな手振り身振りをつけ、ダンスを踊るようにおさらいを始めた。
そう。このオズヴァルドというエルフイケメン先生、終始ハイテンションなのだ。先程竜崎に紹介された際にも、やけに嬉し気にテンション上がりまくっていた。それが原因でこの騒ぎようなのかな、とちらりと他の生徒を窺ってみると、特に皆驚くことなく、寧ろノリノリで授業を受けていた。やはりこれが平常運転らしい。
隣の空き席で寝ていたタマもうざったくなったのか、何かあればすぐ来ますと言い残し教室外に出ていってしまった。
「さて!まずは基礎中の基礎、四属性の魔術を試してみようか!どれでもいいよ~、火でも水でも風でも土でも!やり方は簡単!まずは想像する。目の前にそれがあたかも存在するようにね!そしたら対応する術式を詠唱!文字式でも勿論構わないよ!」
次々と生徒達が成功させていく。至る所で火が上がり、風が巻き起こる。さくらはゴスタリアでニアロンに言われたことを思い出す。たしか彼女もまずは想像といっていた。
水、そうだナディさんが使っていた水精霊のような…。黒板に書かれている術式を詠唱しながらイメージを固める。
徐々にできていく。やがてポヨポヨとした水の塊ができた。
「おぉー!いいねー!」
丁度さくらの様子を覗き込んでいたオズヴァルドが軽く拍手をする。
「さて、次に移ろう!皆杖を出して!」
杖!? 思わずさくらが他の子達を見てみると、バックから懐から、指揮棒サイズの杖を取り出していた。
「杖で今出した魔術を操ろう!あ、他の人にぶつけないように気を付けてね~!」
どうしよう、杖なんてもっていない。この武器が杖代わりになるかな…と半分混乱しながらラケットを取り出そうとすると、オズヴァルドが救いの手を差し伸べてくれた。
「ん?さくらさん杖もってない?」
「は、はい…」
それを聞くと彼は自らの杖を取り出し、ペン回しをするように華麗に回転させ、決めポーズと共に彼女に差し出した。
「はい!これ貸してあげる!」
「あ、ありがとうございます…」
ちょっと芝居がかった人だけど、悪い人ではないということはさくらにもわかった。ただ、このテンションでずっと絡まれるのは…。
「あ、あのオズヴァルド先生」
皆が練習に集中しているのをいいことにさくらは思い切った質問をしてみた。
「ん?なんだい?」
「オズヴァルド先生って竜崎さんによく絡、話すってナディさんが言っていましたけど…なんでですか?」
「あぁ!だって彼は命の恩人だもの!話すたびにちょっと興奮しちゃうんだ!」
さらりと言ってのけるオズヴァルド。気になったさくらがもう少し踏み入ろうとすると―
ドゴォン!
何かの爆発音が響く。
カンカンカンカン!
続けざまになにかの金属音が校内に響き渡る。
なんだなんだとざわつく教室内。と、タマが飛び込んできた。
「オズヴァルド先生!練習場でなにかの異常があったようです!」
「ようし。みんな、どうやらひと悶着あったらしい。すこし席を外すね」
そういい教室を飛び出していくオズヴァルド。残された生徒達はポカンとしていた。さくらはタマに聞いてみる。
「さっきの音ってなんですか?」
「あれは応援を呼ぶ鐘です。なにか問題があった場合に鳴らされるのですが…」
何人かの生徒が野次馬根性で見に行こうとする。本来なら止めるべきなのだろうが、気になったさくらもついていくことに。タマは仕方なしにその護衛を買って出た。
ドゴォン!ドゴォン!
練習場に近づくほど戦闘音が苛烈になっていく。
「ここを曲がれば見えるよ!」
先頭を走っていた生徒の合図に合わせて、建物の陰から顔をのぞかせる。
そこで暴れていたのは、以前目にした7~8m級の大型ゴーレム、しかも20~30体ほどはいるか。絵面は完全に大戦争の幕開けである。幸い誰かが障壁を張っており、訓練をしていた生徒達は裏に隠れ難を逃れていた。
4,5人の教師がその対応に動いている。ゴーレムを駆け上がったり、魔術で抑えつけたりしながら核である札を剥がしていく。それが出来そうにないゴーレムは次々と壊されていく。
その中で一際目覚ましい活躍をしている教師が2人。軽やかに空中を飛び回りながら他とは比べ物にならない速さで片付けていく。一度も地に足をつけることなく魔法陣を足場にしたり、ゴーレム自体を蹴って移動するその様は砂埃によって高機動を表す軌跡が描かれるほどだった。
「あれって…」
「うん、間違いない!」
その二人はオズヴァルドと竜崎である。剛腕の一撃を受け流すように躱すオズヴァルド。上手く誘導し同士討ちをさせる竜崎。その隙を逃さず散開した2人はそれぞれ札を剥がす、あるいは的確に打ち抜いていく。巧みな連携プレーが繰り広げられていた。
あっという間に最後の一体となり、2人は同時に着地する。それと同時にゴーレムはガラガラと音を立てて崩れ去った。
「お見事、オズヴァルド先生」
「ふふん!リュウザキ先生も流石です!」
彼らは障壁の裏に戻る。他教師も全員避難したことを確認し、竜崎が何かを召喚する。
未だもうもうと立ち昇る土煙の中に呼び出されたそれは、軽く飛び上がり、ズンと地面を響かせた。途端に空を覆っていた土煙が全て地に落ちる。何事もなかったような青空が広がった。
「ノウムだ…。土の上位精霊の…!」
そこにいたのは巨大な丸い岩石。自由自在に動き回り、四方には巨大な目がついていた。竜崎に礼を言われ、消えていった。
それと同時に障壁も消える。どうやら万事解決したようだ。
さくら達は思わずオズヴァルド達に駆け寄る。
「オズヴァルド先生!何があったんですか?」
「ん?君たち来てたのか! ちょっとゴーレムの術式に間違いがあったみたいでね。暴走したんだ」
竜崎のほうを見やると、彼はこの事件の犯人と思しき生徒たちを叱っていた。
「駄目だよ、教員の許可無しに巨大ゴーレム呼び出すのは。せめてイヴ先生とかに術式確認してもらってからにしなさい」
どうやら独断での召喚らしく、監督役も誰かの助手に頼んでの行動のようだ。目の前で大暴れする制御不能のゴーレムで肝を潰されたのか、中には泣きかけている生徒もいた。
「ほら、こことここが入れ替わってる。あ、ここは文字間違えてる。お、ここは上手くできてるね」
専門外のはずなのに的確に添削をしていく竜崎。
「これに懲りたら今後はしっかり先生の許可と確認をとること!あと反省文も書かなきゃいけないかもしれないからね」
しょぼくれる生徒達を彼はそれ以上強く叱ることもなく、解散させた。それを確認し、タマが走り寄る。
「ご主人!お怪我はございませんか?」
「お、タマ。さくらさんも。どう?オズヴァルド先生の授業」
「意外とわかりやすいです。杖も貸してもらえましたし」
「それは良かった。あ、そうか杖も買わなきゃね」
タマを抱え上げ撫でまわしながら竜崎はオズヴァルドを労った。
「オズヴァルド先生もお疲れ様、良い動きだったよ。あの躱し方格好良かったし、やるねぇ」
竜崎に褒められ、照れながらも胸を張るオズヴァルド。もし彼が獣人なら尻尾ブンブン振っているんだろうな、と傍目にもわかるほど喜んでいた。
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