15話 剣術指南役 ジョージ

「はい、到着っと」


練習場に帰ってくる。流石に訓練は終わっていたらしく、別の授業が行われていた。


「よーしよし。調査隊帰還所のとこには一人で帰れるか?ありがとうねー」

乗ってきた竜を労い、帰還させる。


「ちょっと中途半端な時間だな。少し休もうか」

授業の邪魔をしないように横切ろうとしたが、鎧姿の教師がそれに気づいた。


「おや、リュウザキ先生でしたか。確か調査隊の派遣でしたかな?」

務めていたのはジョージ。以前に剣術指南役の一人としてニアロンから紹介されていたことを思い出し、さくらは授業風景を窺ってみる。30人ほどの生徒が剣を振る練習をしており、打ち合いも行われていた。


「はい、少し臨時で呼ばれまして。大事は過ぎたので先に失礼させていただきました」


「素晴らしい解決速度ですね。流石は伝説の一行!」

心の底から賞賛するジョージ。


「いえいえ。人不足だったらしいんですよ。それで私に白羽の矢が立っただけです」


「なるほど、そうでしたか。しかし貴方の力で解決したのは事実なのでしょう?謙遜なさらずに。おや、確かそちらはさくらさん。こんにちは」


「こ、こんにちは」

緊張気味に挨拶を返す。ジョージははにかみ、再び竜崎に聞く。


「もう調査隊実戦参加で?」


「いえ、見学ということで。こちらに来たばかりですから」


「ほうほう。そういえばどこからいらっしゃったので?」

その問いにさくらがどう答えるべきか悩んでいると、竜崎がさらりと答えた。


「エアスト村からです。まあ、少し複雑な経緯ですが」


「左様でしたか。さくらさん、不躾に尋ねてしまい申し訳ございません」

丁寧に謝罪をするジョージ。人が出来ていることはさくらにも分かった。


「しかし、来て早々に見学とはいえ調査隊同行とは、余程の才ありということですか。おや?もしかして先日の練習場の件は」

「えぇ。さくらさんです。すごいですよ彼女の力は」


「なんと!吾輩感服いたしました。素晴らしい才能の持ち主だったのですね!」

想定外の持ち上げられ方をされ困惑するさくら。しかし教師2人から褒められ悪い気はしなかった。



「ジョージ先生、全員の打ち合いが終わりました」

と、彼の助手役が声をかけてくる。


「おぉ、これは失礼。そうだ、さくらさん。一試合だけで構いません。模擬戦にお付き合いできませんでしょうか」


「帰ってきたばかりですから…」


「やります!」

竜崎が断ろうとしているところを遮るように声をあげるさくら。


「おや、引き受けてくださるのですか?」

一応竜崎の顔を窺う2人。


「大丈夫?」

心配げに聞く竜崎に大きく頷くさくら。それを見て彼はゴーサインを出した。


「よし、じゃあやってみようか」

許可が出たことを確認し、ジョージは生徒達に召集をかける。



「ちなみにどのような武器をお使いに?」


これです、とラケットを見せるとジョージは首を傾げる

「はて?これは専用の武器ですかね。見たことのない代物ですが… なるほど、むしろ好都合です」


彼は集まった生徒達に向き直り、講釈を始めた。

「皆さんはこれまで剣対剣の練習を行ってきましたね。弓や槍など、動きがある程度わかれば対応できる方もいるでしょう。では、動きがわからない場合はどうすれば?相手が見慣れぬ武器を持っていたり、独特な戦い方をする相手と戦う場合がいずれ訪れるかもしれません。その際は切り結びながら動きを見極めなればなりません。そこで一つ、模擬戦を致しましょう。こちらの方にご協力していただきます」


紹介され、ぺこりと挨拶をするさくら。と、生徒の中に昨日の訓練に参加していた子がいたらしく、ざわざわとなる。


「え、昨日の爆発音ってあの子がやったの?」


「ほんとほんと。すっごく地面が抉れてたんだもん。リュウザキ先生が慌てて駆け出すほど木も吹っ飛んだんだよ」


「信じられなーい…」


早速、敵うわけないといった空気が流れる。それを見てジョージは笑う。

「うむうむ、そうです。そのような事前情報も重要です。それで相手の強さを予測し、対策をする。またその逆に、噂に過ぎず実は全く予測外れの攻撃を仕掛けてくるということもあります。全ての可能性を考えなければいけないのは大変難しいことですが、それができれば一気に勝率はあがります」


もちろん模擬戦なのでそこまで危険なことをしてもらわないようにお願いしますが、と宣言しながらさくらに頼むジョージ。元々任意の技ではなく、あの機能は封印されているため当然了承する。



「さ、誰が挑みますかね?」

挑戦者を募るジョージだったが、噂に気圧され誰も手を上げない。仕方なしに指名をしようかと自慢の八の字髭を捻っていた彼だったが、1人だけ手を上げた。


「先生、俺が行きます。どうせ選ばれるでしょうし」


「おや、見透かされていましたか。とはいえ君が適任でしょう」

少年は仕方なさそうに、しかし、強敵と戦えることにわくわくしながら立ち上がり模擬剣を引き抜く。どうやらこの授業の最優生徒らしく生徒からの信頼も厚かった。


「やっちゃえー!」


「お前なら勝てるぞー!」


黄色い声援を背に受け、位置に着く少年。それを聞き、アウェー感を感じるさくらに竜崎はアドバイスをする。


「とりあえず深呼吸して、そうそう。まずは落ち着いて相手の剣の動きを捉えて。大振りの一撃を鏡で受けることが出来ればさくらさんの勝ちだよ」


背中を優しく押され、さくらも位置につく。それを確認しジョージが声を張り上げる。

「敗北条件は枠外に出ること、又は参ったと言ったらです。では、始め!」



「はああああ!」

開幕隙を狙うように突っ込む少年。すんでのところで躱すと、反撃の暇を与えないように直ぐに距離をとり動きを窺っている。


じりじりと距離を詰めてくる。それに押されさくらは少しづつ端に追いやられ始める。


「はっ!」

「えいっ!」

「てりゃあ!」


隙を見つけ次第攻撃をしかける少年。慌てて逃げるさくら。なんとか全部避けることができたが、とうとう追い詰められてしまった。


「覚悟ぉ!」

勝機とみて大振りの一撃を繰り出す。さくらは竜崎の教えを思い出し、合わせるように鏡を当て返した。


「えーい!」


ぶつかった瞬間光が弾け、少年が高く吹っ飛ばされる。

「うわああぁああ!!?」


手をばたばたさせながら枠外まで山なりに飛ばされる。落下地点に移動していた竜崎にうまく受け取られた。


「勝負あり!」

同じく助けに来ていたジョージが賞賛する。


「おみごと!相手の隙を引き出してからの一撃!いい勝利でした。攻める側もお見事でした。相手に思考させる隙を与えぬ初撃、そしてすぐさま距離をとり警戒。対策がしっかりとできていました!」


拍手をするジョージ。それに合わせ全員が拍手する。



「さくらさんお見事!やるねぇ」

竜崎が出した手に合わせハイタッチをする。部活の試合で勝った時のような清々しさがさくらを包んでいた。



「先生達、お手本みせてよ」

せっかく追い詰めていたのにたった一発で逆転されたのが納得いかないのか、不満げに要求する少年。生徒達も見たい見たいと盛り上がる。


「なんと、そう来ますか…面白いですね! リュウザキ先生はよろしいですか?」


「ええ。構いませんよ」


「ありがとうございます。ではいつも通りに…」

2人とも位置につき、武器を構える。ジョージは自慢の剣を、竜崎は杖を。助手役が合図をする。

「では、始め!」


ガキィン!!


開始の声とほぼ同時にぶつかり合う両雄。その勢いに全員の目が奪われた。

「―お見事、では続けざまにいきますよ」

「っく…。ええ、どうぞ」

竜崎を弾き、ジョージが猛攻をしかける。当たれば当然死ぬであろう重い一撃が次々と繰り出される。竜崎も杖で押さえ弾いて何とか凌ぐが次第に追いやられる。


「ふむ、ここいらで良いですかな」

「では、反撃を」


と、竜崎が杖で大きく剣を弾くと反撃を開始した。まるで槍や薙刀の如く振るう。細身の杖が真剣と良い勝負をしている異様な絵面だったが、時折聞こえてくる杖が風を切る音は重厚な武器のそれだった。


「くっ…相変わらず重いですね」

「賢者直伝ですから」


今度は竜崎が押し始める。中心に戻ったところで2人が突如離れた。

2人揃って詠唱を始める。ジョージは剣に魔力を、竜崎は杖の先に。


「「はあああああ!」」


光輝く剣と幻妖に揺らぐ杖が大きくぶつかり合う。


ガッギイイイイン!!


2人を中心に衝撃波が発生する。ビリビリと肌を震わせたそれは、力のぶつかり合いの大きさをその場にいた全員に否応もなく分からせた。



「こんなものですかな。満足いたしましたか?」

双方武器を収める。そんな彼らに絶賛の拍手が送られる。


驚くことに2人とも疲れた雰囲気は一切なく、息切れもしていなかった。


「リュウザキ先生、ありがとうございました」


「いえいえ」


「いずれ本気でぶつかり合いたいものですな」


「できれば純粋な力比べが理由で戦いたいですね」


「違いないですな」

はっはっはと笑いあう2人。余裕綽々といった様子だった。




生徒達にお礼を言われながら竜崎達はその場を後にする。


「さて、今日は次の講義あるから急がないと。あまり代理の先生に任せすぎちゃうと怒られちゃう」

少し足早になる竜崎だったが、ふと歩調を緩めさくらを労わる。


「続けざまに色々あって疲れたでしょう。休んでいていいよ。タマに来てもらおうか?」


「え、いえ。大丈夫です」

そう?辛かったら遠慮せず言ってね、と気を配りながら彼は再び足を早めた。


まるでこれが日常だと言わんばかりに平然と動く彼にさくらは舌を巻くしかなかった。

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