第8話 大阪の女 1

そう、あてのない旅なのだが、少しのやりたい事があった。目的の一つはパンガン島のフルムーンパーティーに行く事だ。

当時はインターネットも未発達だったのだが、パンガン島のフルムーンパーティーは満月の夜に世界中からパーティピープルが集まるクレイジーなイベントだと調べていた。日本でもクラブや音楽が好きな僕にはうってつけだった。カオサンロードからパンガン島へ、これが第一の目標だった。

そんな思いを胸にカオサンロードでダラダラ過ごす僕にまた運命的な出会いがあった。

泊まっていた安宿「Marry V」の一階はレストランというか休憩スペースになっていて、宿泊者が朝食をとったり、コーヒーを飲んだり憩いのスペースになっていて、僕も本を読んだりと毎日利用していた。

日本人はその時は僕だけだと思っていたのだが、その日は日本人に見える女の子が向かいのテーブルに座っていた。

久しぶりに見かけた東アジア人の女性に興味が湧いたし、あわよくばなんて邪な考えもあり話しかけてみることにした。

「ここの宿、どうですか?僕の部屋とか壁に蟻が歩いてたりしてあんまりなんですよねー」

日本語で軽く話を振ってみたら、驚いて顔で答えてくれた。

「あ、日本の人だったんですね!何人だろうって考えてて。珍しいじゃないですか、ここで日本の人って。」

日本人だった。茶髪のパーマがかかったロングヘアにタンクトップ、ショートパンツ。

歳の頃は20代前半だろうか?背は低めで程良い肉付きの子だった。僕は細い子が好きなのでそこは違ったんだけど、否が応でも気持ちは昂ぶった。久しぶりの女性、日本語の会話、話したい事が沢山あった。

「ここのゲストハウスには珍しいよね、日本人宿とかにはいるみたいだけど。」

僕は絶対に日本人宿には泊まらない事にしている。何が楽しくて外国に来てまで日本人でつるんでなきゃならないのか、そんなのは旅ではないとの持論からだ。

「タイに来たら、絶対ここに泊まろうと思ってたんです。寺裏で1番安いゲストハウスらしくて。」

彼女も似たような感じらしかった。

「私は地元は大阪なんです。1年くらい働いて、お金を貯めたらすぐ海外を放浪して、また日本に戻って仕事してお金貯めてってやっめます。」

彼女は旅においての大先輩らしかった。

「へー、すごいね!色々な国に行ってるの?」

「30ヵ国くらいは行きました。私、少数民族が好きでその村とかで暮らしたりするんです。」

話を聞くと思ったよりもレベルの高い子だ。

僕も奥手な方でグイグイいくタイプでも無いので、他愛のない話をして別れた。どのくらい泊まっているかは聞いたので、また会った時に電話番号でも聞こうかなと考えていた。

「僕の部屋は13号室、角の部屋なんで。よかったら今度ご飯でも行きましょう。」

「私もノープランでここにはまだ泊まっていると思うので是非。」

ここから意味もなく、ロビーで過ごす時間が増えた。彼女に偶然を装って会えるように。

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