プロローグ 異世界への旅立ち 2

 あさくら号が消えてから数時間が経過し、日本近海で航空機や船舶の連絡が途絶えると言う事態が多発した4月1日。


遂に次元転移と言う名の大災害、後に転移災害と言う名称が付けられた天災が日本を襲って来たのである。




日本標準時間・午前7時30分。突如として、日本を含む地球全体で、謎の大地震が起こり、人々が恐怖に陥りパニックが起きていた。


 だが、その地震は通常のモノとは違っていた。


 地震計の針がピクリとも動かず、津波を観測する為に設置されて居る観測装置や警報装置も危険が無いとして動かずに居たのである。



特異な地震に見舞われてしまった鉄道の路線に備え付けられて居る全ての緊急停止装置が作動せずにいた。


 空の上では、全ての航空機に気流とは別の者と思われる有り得ない振動を伴う謎の振動が止まらずに居た。


 一瞬、操縦席に座る機長らは、長年の経験から気流等に嵌ったのかと脳裏に過ぎったが、それを止めようと操縦桿をしっかりと握りしめ、懸命に操縦するも奮闘も空しく、その振動は決して止むことは無かった。



また、日本近海各地の海上では、航行中の船舶すらも、通常の波の揺れとは違う振動に襲われ、パニックに陥ってしまうが、船長らが懸命に指揮を執る事で、事態の収集に努めようとして居る姿が見受けられて居た。


 陸海空それぞれの乗り物を操縦する人々は、管制官の指示で現場での停止と待機を命じられ、乗客への対応を取るが、乗って居る人々は恐怖のどん底に叩きつけられてしまう。



やがて日本を含む世界各地の国と地域、船舶と航空機、果ては、米国が中心となって世界中から出資した新型スペースシャトルや衛星軌道上の宇宙ステーションと人口衛星さえも、謎の光に包まれながら消えて無くなって行ったのだった。



この年、地球から日本と数カ国の国と地域、そして海上移動中の海軍、飛行中の空軍、軍事演習中の陸軍やその基地等の多くの土地が一斉に消えた。



 その中には、多くの民間所有の車両、船舶、航空機すらも巻き込まれてしまって居たのである。




 全ての事が終わると、世界最大の軍事大国と世界最大の領土を持つ国の軍事力消失による低下や欧州では飛び地の領土と軍隊の消失による混乱。


 消失災害による金融不安と安全保障問題が浮かび上がってしまう。


 更には世界人口最大の国では、近隣の貿易国の消失と中継国の消失による株価の暴落と混乱が起こり、海上に作った埋め立て地域の全てが消失してしまう。



更に国内では、失業が進み、暴動と略奪で混乱して行くのだった。


 この後、地球で無事だった国は、半世紀の間、世界規模での大混乱が続いて行く冬の時代と呼ばれる混乱期へと突入して行くのだった。


 だが、消えた国々に比べたら、まだマシなのかも知れない。



 特に消えた国家筆頭に祭り上げられる日本に比べれば・・・・・それは・・・・ずっと、ずっと良い方なのだ。



西暦2030年4月1日、同時刻・日本。それは突然起こった。


 各家庭の何所にでも有る何の変哲も無いパソコンは、海外とのネットの接続が不可能になり、金融と為替を取引する証券取引会社と個人投資家は、顔を青ざめた表情で、大混乱に成っていた。



このままでは、前代未聞の大損害に成り、証券取引会社は倒産し、個人投資家は破産して路頭に迷うだろう。


 それだけではないっ!!


 彼らの金を預かり、それを元手に投資を行なって居るであろう全国の銀行と信用金庫が、芋づる式に倒産に追い込まれる事に成る。



そして各銀行は、当然ながら各地域で様々な企業と融資取引をして居る。


 これも当たり前だが、取引して居る銀行と企業とは、一蓮托生な存在と成って居る。


 更にお金の流れが止まると、各地の工場・商業施設・運送業・農林水産・報道通信・娯楽施設・公共関連施設等の様々な活動までが、一つ、一つと言った具合に、順番に経済的に貧弱な企業や店舗の操業から止まって行くのだ。



混乱の主な中心都市は、東京・横浜・名古屋・大阪・神戸・福岡・仙台・札幌を主軸として、被害の広がりを見せていた。


 最初の苦情の標的と成ったのは、通信会社とプロバイダー会社と総務省に一斉に電話が掛かって来ており、その対応に社員や職員が追われていた。



 お次は交通関連会社と国土交通省に、自動車・鉄道・航空・船舶関連の苦情と対応の問い合わせが来ていた。


 先ず、航空機と船舶の対応を航空会社と海運船舶会社の対応を国土交通省が主導で指示を出していた。



同時に防衛省と海上保安庁も協力し、事に当たって居る。


 また、日本近海を航行中、又は遭難と座礁した船舶からの救難信号が発せられて居る。


 これに対して政府は、海上自衛隊の護衛艦と海上保安庁の巡視船を派遣し、速やかに救出するべく出動命令を出した。



次に防衛省は海上保安庁と共に日本近海の状況と警戒の為、空自と海自と共に偵察と警戒態勢を敷き非常時に備えた。


 また、外務省と防衛省は、外国との連絡を付けるべく、あらゆる手段の通信器を使って連絡を付けるべく協力体制に入ったのだ。


 そして、全ての部隊は臨戦態勢を取る様に命じられる事に成ったのである。



農林水産省には、食料の配給と物流統制を命じて、来年度の作付けを大幅に増やしつつ、作付け作業に必要な足りない人手は、政府が民間の派遣労働会社に、補助を出す形で就職希望者を募った。



また、各機械製品のを作っていた工場は、一部の工場を一時的に、野菜生産の工場にしたり、デパートやスーパーは、使われていない建物を使って、野菜やキノコ、魚貝類等の加工品の工場を始めた。



 他にも使える空き地と成って居る様な場所、又は空き家と成って居る建物を国の補助金を使って、食料の増産を急がせる事に成った。



この大混乱の最中で内閣は、各省庁と一緒に連携し、この未曾有の大混乱の原因を突き止めようと、日本の周囲の調査をし、その結果を見て次なる一手を打つ為の算段を決める判断材料とする事にした。



 全ての調査結果が判明する結果が出るのに、丸二日が掛かったのだった。



二日が経った午前12時丁度に日本政府は、連絡が付いた関係各国と地域の上級代表ら共に、日本が代表と成って一斉に全地域に対して各放送局を通して政府発表が放送された。



政府発表は民衆の人達に取って、信じ難い内容だった。



 何とっ!!日本列島を含む各諸島や地球に在った各地域は、異世界に転移し、孤立状態に成ったとの事だ。


 異世界に転移して来た地域は、以下の場所だった。



日本列島と周辺諸島地域、北方の地域には、ロシア連邦管轄のサハリン(樺太)、クリル諸島(千島列島)、ウラジオストク周辺、カムチャツカ半島の南半分。


 南方にはパプアニューギニア、インドネシア、ブルネイ、シンガポール、マレーシア。


 そして、タイ、ラオス、ベトナム、カンボジア、ミャンマー、東ティモール等が在るインドシナ半島は、半島丸ごと転移しており、一種の巨大な島か大陸と言った感じに成ってしまって居た。


 この地域の西には、ユーラシナ大陸と呼ばれる大陸の東南地方が北西に500キロ離れた所にあり、パプアニューギニアから東へ700キロ行った所には、亜人と呼ばれる人型の異人種の連合国家存在するのだ。



東南アジアから北へと向うとアリューシャン列島、ハワイ諸島とミッドウェー諸島、ウェーク島、マリアナ諸島のアメリカ領が散らばる様にして転移して来て居る。


 その東と北側には、幾つかの無人島が点在している。



 転移災害で異世界に飛ばされたアメリカ各地域の主張している軍幹部らは、臨時政府をホノルルに置いたアメリカ臨時政府は、調査開始し問題が無いと判断されれば、そのまま入植を始める予定である。



その他に台湾が以前と変わらずに沖縄の与那国島の西側にあると与那国島の役場から連絡をして来ていた。


 スリランカ、ジブチとソマリア、イギリス領であるフォークランド諸島が現在の所、インドネシアから更に西へと行った外洋の海で孤立し、各島々が混乱していると各国の臨時政府がインドネシア政府経由で連絡が有った。


 また、地球各地に点在するEU所属国の離島がフォークランド諸島沖の近くに転移していて、イギリス軍とEU所属各国陸海空軍が間の悪い事に、フォークランド諸島と転移して来た離島で、単独の演習や合同演習をしていた際に転移に巻き込まれて居たと言う災難に見舞われていた。



更に数年前から移動中の軍艦が行方不明になる事件の被害艦もこの地に同時に現れたのだから、更に笑えない事態である。


 同地の人々は日本からの強力な無線電波やモールス信号を受信すると、日本に対して生存や救援を求む等の内容の返信を送り、これらの事態に対処する為、日本政府主導の下で、これ等の対策と問題に協力しつつ、共に立ち向かうの事を決め合ったのであった。



さて、福井県の敦賀港を出発した民間のフェリーあさくら号は、新潟県の新潟港を目指し、能登半島沖を進んで居た。


 昨夜の未明に福井県の敦賀港を出発し、一晩掛けて能登半島沖の輪島市の沖合い数十キロを航行していた。



 そして・・・・・・・最悪の事態が起きてしまった。


 それは・・・次元転移が船の周辺にも小規模な物が発生したのだ。


 船内は突然に停止したフェリーの船内は、ガタガタと音を立てながら揺れていた。



艦橋にある操舵室では、通信士が船長の命令で、付近の港等に救助を訴えたが通信が繋がらなかった。


 そして、遂に周囲が真っ白に光輝きあらゆるレーダー等からあさくら号は、忽然と日本近海から消えて行ったのだった。



 この後に、日本は歴史的な激動の時代が始まる序章に過ぎない事を全ての国民達等が体感して行く事に成るである。




誠に小さな島国が、時代の転換期を迎え様として居た。


 それは・・・地球でも転移した先の異世界でも、東洋の果てにある小さな島国である。


 その小さな島国は、人口増加に伴う為に農地を宅地や工場へと作り替え、その食料自給率を他国からの輸入に頼って居る国である。


 だがしかし、それとは別に一世紀以上を掛けて身に付けて来た技術力や知識が食料生産を補う物産を他国に輸出する事で、食料を買い入れるだけの大金を手にして居る。


 そんな食料事情の悪い国には、地球でも有数の経済と軍事力を持った大国であり、先進的な技術と民主体制を持つ国で在りながら、この国の一番の欠点であり、世界に唯一誇れる法が有った。



 それは・・・平和主義と戦争放棄である。



この楽観主義で、奥手臆病な性格と空気を読むことに長けた島民族達には、特に長けた特技として知られて居るのが、素材加工生産品と改良生産品。


 更にはマニアックな研究とメディアコンテンツを造ると言った凝り性な所があり、それらの発展の陰で、農地の激減や人口増加と言った社会問題等が在る中。


 国内には満足な食料自給率を持って居ない小さな大国でも在る我が国は、事あるごとに、他国の争いを静観し、他人事の様に感じて居て、外国で起こる戦争、紛争に関わりを持ちたくない小さな島国たる名は日本国と言い。


 この国は隣国での対立にさえ無関心な国民である名は日本人と言う。



 例え近隣の領海で紛争が起きても戦争反対を言い続け無視を決め込み。


 全ての五感を閉ざして嵐が過ぎ去るのを黙って見過ごし、自らの殻に閉じ篭るだろう。


 ひょっとしたら領土・領海・領空を少しくらい失っても構わないから、平和に事を済ませるべきだと思うと、声高に訴える愚か者かも知れない。


こんな日本国と日本人がもしもだ、この国が戦乱の耐えない世界へと放り出されたのなら、その世界で日本が世界に訴える事とは何なのか、その答え求めて人々は手探りで、その長い道をゆっくりと歩き続けるだろう。



 小さな大国であり、新たな時代の世界的なリーダーとして・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





  アースティア暦 1000年・3月31日・ユーラシナ大陸・コヨミ半島・コヨミ皇国・南西国藩・加古島市・南西山城城下の嶋津義隆屋敷にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


日本が転移する1日前のこと。



 コヨミ皇国の国体制は、昔の日本の江戸幕府や室町幕府の体制に近いかも知れない。


 国家元首であるコヨミ国皇を頂点にして、各地方には大名諸侯が治める藩が置かれ、最低1カ国の地方州国を中央政権が諸侯に任じて治めさせて居る。



 それ以外の領地は天領として国皇の直轄地としていた。



 コヨミ皇国はこの世界最大の大陸であるユーラシナ大陸の最も東に位置する半島であるコヨミ半島を本領とする王制国家で、国皇の意味は皇帝に近い意味を持っている。


 詰まり、日本の天皇と同じ意味を持って居た。



古から代々女子に受け継がれる特異な力を持った姫である先読み巫女と呼ばれる姫が必ず生まれ、この国の後を継ぐものは、姫の婿になるか、姫を巫女として近くに置き、血筋を絶やさない様に勤めなければ成らなかった。


 中には女帝として立った皇族も居たと言う。


 そして、現在の皇国は国家存亡の淵に近い所まで来ていた。



ローラーナ帝国。この世界では唯一無二の覇権帝国とし君臨して居るのと、それらに抗う者達の中で共通に、こう呼ばれて居る。


「帝国」と・・・・・・・・・・・



 その帝国と長い年月の間、戦い続けて居るシベリナ連合。



 その主要国の一つであるコヨミ皇国は、帝国の刃が皇国の喉元にまで到達しようとして居た。



近年、シベリナ連合の加盟同盟である南のドラグナー皇国(おうこく)が落ちた今、次なる標的はと、連合の内で、最も攻め易いコヨミ半島だろうと言われていた。


 皇国は内陸から半島にかけて領土を持つ国で、騎士に順ずる武士と言う者達が武装して居る事以外は、特にこれと言った特徴の有る軍隊を持って居ない皇国は、半島に押し込められれば、逃げる先は海しかない。


 海から逃走となれば、230万人は居るといわれる皇国民は、逃げ出せないと言う訳である。



国内では、2人の皇太子と3人の皇女が居るが、その内の血筋と力が強い暦紅葉皇女を帝国の第五皇子であるゾイザル・セイダル・ローラーナに、嫁と言う名の人質として差し出そうと言う動きがコヨミ皇国の西側諸侯を中心にして出ていた。


 これに一番に反発したのは、名前を上げられた紅葉皇女本人である。



紅葉は、この案の発案者である相州国藩主の北条正成や賛同者の北越国藩主の永尾憲重、飛膳国藩主の龍泉寺貴信、比護国藩主の鍋島直美らを謁見の間に呼び付ける。



 その彼らが居並ぶ中で、他の諸侯や大臣らが見て居る目の前でボコボコにした揚げ句、男は頭を剥げにし、服を切り刻み丸裸にし、鍋島直美に関しては丸裸にして星都市内の彼女の屋敷を潰したりと容赦が無かった。


 特に女性に対しての嫌がらせは、ある意味、源頼朝の妻である北条政子のした事並みに恐ろしい事かも知れない行為をしてのけたのである。



そんな事をしでかした紅葉は、兄達と両親からは叱責は言われなかったが、政府の大臣と諸侯から姫様ならやり兼ねないと言われてしまう。


 いや、もう、手が付けられないほど怒ってらっしゃる事は間違いないから、人質の件は廃案だろうと言われていた。


 しかしながら、諸侯の手前で在るからと、父である力仁国皇に言われて、紅葉は国皇の代理として南方視察を名目に、コヨミ皇国首都である皇都・星都市を追い出され様に出立させられて居た。  



コヨミ皇国の主な主要都市には、城塞が建てらており、その城下には、日本の戦国時代にも在った平時における城主屋敷も存在して居る。


 この南西山城も名前の通りに南西山に城を築城された場所である。



 紅葉はこの南西国地方を治めている嶋津義隆下へと預けられ、ほとぼりが冷めるまでの間、嶋津義隆の屋敷の一角に押し込められる様に滞在させられて居た。



そして、その日の夜の事である。



 紅葉は人知れず城内の屋敷を抜け出して、北東の海岸沿いにある岬で海を眺めていた。


 このユーラシナ大陸の東方にある海は、この世界でも太平洋と言い、この異世界でも最大の海である。その太平洋が見える岬で黄昏ていた。



「はあ~、今回はちょっとやり過ぎたかも知れないわね・・・・・でも、あの好色皇子のゾイザルの下に嫁に行く位なら、絶対に自決するわっ!!」



「でも・・・・・・・・」



そう、紅葉には5歳の時に、気の合う親友が出来ていた。


 それも相当に固い絆で結ばれた関係である。


 互いに危機が訪れた時に、何れかが助けに参じる。


 自決は最後の最後。それまでは戦場での命つき果てるまで戦う。



 敵討ちは絶対に厳禁っ!!



 武運拙く故国が敗戦し袂を別った時は、互いに堂々と戦う。


 故国が再び友好を結ぶ努力を互いに惜しまない。


 そして、帝国を何時の日にか打ち倒し、世界に平和を取り戻す。



 願わくば同年同月同日にこの目的の喜びをわかち合おうと決めていた。



 その誓いは、三国志の桃園の誓いに近いものであったと言う。


 それを願った年の暮れに、ドラグナー皇国が帝国の手に落ちたのである。



 一番の恐怖の対象であるドラグナー皇国第一皇女のヴァロニカ・サークラ・レアモンとの縁が絶たれ、その妹で紅葉に取っての悪友でも有ったアルビィーヤ・サークラ・レアモンも敵と成ってしまったのであった。



それ以後の親友の関係は、ズタズタと成り、紅葉に取って9歳の年は、楽しかった少女の日々の終わりでもあったのだった。


 彼女の親友達は、それぞれの道を歩み、一つだった大河は複数の支流と成って別れて行ったのである。



 そんな訳が有る為に、簡単には自決が出きないのであった。



「あの誓いを・・・・それを言い出したであるわたしが、真っ先に破るのもね・・・・・・」



眩しすぎる人口の明かりが無いこの地は、地球の都会では見る事が中々無い夜空であり、満天の星空は輝き、この戦乱が収まらない世界が嘘のようで、美しくキラキラと輝いていた。



 この皇女と言う生まれに対して憂鬱な感情を抱いて居る彼女は、常にイライラして嫌な事をされるとその報復は計り知れないのである。



 心の中では皇女と言う身分を捨てて、普通の女の子に成りたいと願って居るが、そうも行かないのが現実である。


 其処へ近衛隊長にして、一番に付き合いの古い友人の1人である加藤絵美里が現れた。



「探しましたよ。姫様。」



「何だぁ、絵美里か。」



 絵美里の方へと視線を向けた紅葉の表情は儚いものだった。



「明日は龍雲海方面の防衛の要たる嶋津水軍の視察です。周りの者達を黙らせる為の方便上のご公務とは言え、そろそろお戻りに成られないと体調にも支障を来しますよ。」



「ねぇ、わたしは、この先、何時まで、いえ、後どれくらい貴女やまだ会える事の出きる友達と一緒に馬鹿をやってられるかしら?」



「えっ?」



「はぁ、堅物の貴女に分かる訳けも無いか・・・・・・・・」



彼女はそう言うと岬の在る崖の途切れるギリギリの位置まで歩き出した。



 東には加古島市と南西山城の篝火の灯りが微かに輝いて見えて居る。


 空には月も上がって居て、とても幻想的であった。 



「今日は良い月ね。あっ、そうだわ。冗談半分に星読みでもしましょうか。」



「姫様、例えお戯れでも皇家の尊く神聖なお血筋に備わっているお力を御ふざけ半分に使うのは、お止めください。」



「気晴らしよ。気・晴・ら・し。ホンと堅いわね絵美里は・・・・・・・」



 紅葉は地面に広がる芝生の上に座りこむと、目を閉じて感覚を研ぎ澄ませてみる。


 コヨミ女皇族の直系には代々超能力的な力が備わって居て、一般の国民には星読みお告げと呼ばれている。



 皇族や力の知る臣下や皇族に近しい者達には、先読み力と呼んでいた。


その力とは、予知と読心能力である。



 力の度合は天性の才であり、個々人によって違うが、直系だけは別格に強いとされて居る。


 特に時々に黒い瞳が赤く染まる時、その力が強力に発揮される。


 それを戦場で使えばどなるのかと言うとだ、かなりのチート過ぎる能力と言えるだろう。


 白兵戦では相手の動きを逸早く予知と読心で読みつつ先手を打ち続けたり、戦場ではコンピュータやGの名が付くロボット世界の戦術予報士も真っ青な事を言い当てたりと考えるだけで恐ろしい。



 しかし、覚醒状態の力の扱いが未熟だと、意識が保てずに要る為、意識が飛んでしまって居る。


 この力の厄介な所が、もう一つ在るのだ。


 それは皇女の家系は、代々見合いや諸侯貴族から選ばれるのではなく、皇女の力に由って選ばれた男子を婿に迎えて居ると言う事実である。


 これは先読みの力を悪用されない為に一族の血脈が本能的に無害無欲の男子を見付けさせて居るからであると言われて居る。


 だだ、皇女に見初められた男子は身分の例外なく結婚を無理やりさせられてしまうのであった。


 (独身や素行など、その他の問題も考慮された上で、予知で選ばれるので変な者が選ばれる心配が無い。)



 皇女に見初められ、相手と成る男が一人きりの所を狙って訪れた皇女は、子孫を残す為に男の寝込みを襲うと言われている。


 この時の皇女自身は力のせいで覚醒率100%の状態となっているので、正気を失っており、相手の男はその赤い目の眼力のせいも有ってか、抵抗すら出きずに、そのまま皇女の魅惑に酔いしれたまま抱かれてしまうのである。


ぶっちゃけ話を言えば、出来ちゃった婚が多いのである。



「えっ、これは!」



 絵美里は、自分と紅葉の周りを囲む様に様々な色をした小さな精霊の光の塊が、まるで蛍が舞うかのように揺ら揺らと舞っていた。



 そして、その光は海へと広がりつつあった。



「精霊達が騒いで、舞い踊って居るだとっ!?」


「これは只事ではないですよっ!!姫様っ!!」


「・・・・・あれ?って姫様??」



紅葉の目が完全に赤く染まって居た。



目の点が正気では無い物と悟った絵美里は、思わず黙り込んでしまう。



「異界より太陽の御使い国、現れる。御使いの友たる国々も共に現れ、これら者共に世界の脅威に立ち向かい、暴虐の徒を打ち倒さん。」



「先読み巫女と御使い国に住いし民の怠惰な青年供に世界の命運を背負いこれに立ち向かうだろう。」



「そして、二人の未来の先には沢山の友に囲まれて幸せな日々に成る事だろう。」



全てを言い終えると紅葉はパタリと倒れた。



「ひっ、姫様ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」


 絵美里は大慌てで、星読み力で覚醒した事により倒れてしまった紅葉を駆け寄り、すぐさま身体を抱き寄せた。



「あ・・・あれれ・・・・・・・・絵美里?」


「・・・・わたし・・・今まで・・・どうしてたの?」



「ああっ、良かった正気になられて・・・今、星読みのお告げのお力のせいで、意識が飛んで居られたのですよ。」



「そう、それで私は何て言ってたの?」



「はい。姫様は、異界より太陽の御使い国、現れる。御使いの友も共に現れ、これら者共に世界の脅威に立ち向かい、暴虐の徒を打ち倒さん。」


「先読み巫女と御使い国に住いし民の怠惰な青年共に世界の命運を背負いこれに立ち向かうだろう。」


「そして・・・・・二人の未来の先には沢山の友に囲まれて幸せに成るだろうと告げられました。」



無意識の中で言った筈の予言の内容を聞かされた紅葉は、落ち着た表情をして居た。



「絵美里。それは多分、もう直ぐ私に取っての運命が来るのよ。」



「運命・・・・・・ですか?」



「そう、その青年は多分、わたしのこれから先の運命の時を共にする人よ。」


「そして、このアースティア世界の命運も共に決まる。更にわたしの親友達も、私の下へと帰って来るのよ。」



「でも、そんな・・・今のお告げは・・・私には意味が分かりません。」



「絵美里、見て東の海を空の虹色の輝きを・・・・・・これは・・・何かが起こるわ。」


「それに皇家の巫女の力で告げられた予言での男関係のお告げは、必ず当たると言われて居るのは知って居るでしょう?


「その確率が100パーセントと言われ、確実に高いわよ。」


「お母様の時も、その日の内に皇国軍の旗本だったお父様をそのまま押し倒して3日くらい抱かれて居たって兄さま達や私達姉妹に何時も自慢して居るもの。」



「はっ?!あーっっ!!アレって、もしや・・・・・・・・・・・・・」と紅葉に国皇夫妻の事を言われた絵美里は、時折見かけたる窶れた国皇とツヤツヤニコニコの皇后の姿を思い起こして居た。



(そういば、仁国さま。時折、御窶れになられて時は、葛葉さまニコニコの笑顔で艶々になられて居たっけ?ままっ、まさかっ!!あれって・・・・)



 コヨミ皇族の皇女が起すという婿選びのお告げ、毎回毎回、大騒ぎになると言う話である。



 皇女選んだ婿が如何成る出自であろうとも皇族に迎える。


 これが皇国の皇室法の絶対の法と成って居た。

 

 だが、それは婿に選ばれる殿方は、永遠に奥さんの尻の下に敷かれる日々の始まりを意味して居た。



「うーんっとっ!何だかスッキリしたわね。」



「これで枕を高くして眠れるわ。それじゃ寝ましょ、絵美里。」



 絵美里が紅葉の両親事で過去を振り返って居た隙に、紅葉は絵美里の腕から離れ立ち上がり、回れ右で城へと戻って行く。


 そんな紅葉にハッとした形で気が付いた彼女は、慌てて我に返り、その後を追いかけて行くのであった。



「あっ、姫様ーっ、何の前触れも無く、突然、帰えらないで下さよーっ!!」



こうして二人は、大地に舞う精霊達が、ざわつく中を滞在先である南西山城へと戻って行ったのである。



 そして・・・・明日、紅葉を中心としたコヨミ皇国の者達の運命を決まる日に成ろうとして居た事をまだ知らずに居るのであった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 






 

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