メタル相撲
重さは衝突時のパワーに直結する。この基本的な事実に誰かが立ち返ったとき、角界に力士メタル化ブームが巻き起こるのは必然であった。
メタル岩力山とメタル大牙海が土俵に金属の拳をついた状態から、同時に立ち上がった。今まさに鋼鉄の巨体がぶつかり合わんとしている。
話は変わるが、『毛抜』という歌舞伎をご存知だろうか。歌舞伎十八番の一つである。詳しい説明は省くが、ひとりでに動く毛抜きの怪は、実は天井裏の磁石が原因だったという展開で知られる推理小説チックな歌舞伎だ。「そんなに磁力の強い磁石がその時代にあるのか」というツッコミは野暮である。
メタル大牙海はこの原理を利用し天井裏に巨大な電磁石を仕込むことで、メタル岩力山の巨体を浮かせようと試みたのだった。メタル大牙海はこのトリックのために、食事療法によって自身の肉体の組成から鉄分を排除した。
両者がぶつかり合う。鈍い金属音が響いた。すかさず天井裏に仕込まれた電磁石が作動する。
メタル岩力山の身体が浮き上がる。しかしメタル大牙海の生身の脳には一つ誤算があった。電磁石の磁力が強すぎたのである。
メタル岩力山は高速で上昇すると両国国技館の吊り天井を、屋根を、突き破った。
メタル岩力山の黒光りするボディは青空の中、陽の光を反射して燦然と輝いた。
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