女神様の転移エラー
@yagasaki
第1話 転移エラー
ピシッと何かが割れるような嫌な音が。
「あ、あれ!? なんで!? ちゃんとマニュアル通りやったはずなのに!」
そう言って何やら説明書のようなものを取り出して慌てる目の前の女神。
異世界への転移、というサブカルチャーを嗜む中高生なら誰もが憧れるであろう状況シチュエーションに最悪の事態が起こる。
「はあああああああああ!!! 大丈夫なんだろうな!! ちゃんと転送されるんだろうな!!」
だんだんとヒビが入っていく魔法陣に飲み込まれながら目の前で慌ててる女神に叫ぶ。ああ、嫌な事あったばかりだったからイライラする。
「ご、ごめんなさい! その……多分無理、かと……」
新人だと名乗っていたこの女神は申し訳なさそうにしつつも、もう既に諦め状態に入っている。もう打つ手はありませんとばかりに。
新人にも程があるんじゃないですかねぇ!!
そして、最後にダメ押しかのようにパキリ、と。
そんな不快で不安な音を聞きながら俺は魔法陣の中へと吸い込まれていったーーーー
ーーーーーーー
ーーーー
ーー
「……ふわぁぁぁ」
うるさい音を立てて、無理矢理に意識を覚醒させようとしてくる目覚ましを少々乱暴に叩いて止める。カーテンの隙間からは穏やかな朝の日差しが差し込んでおり、程よい暖かさが二度目の眠りの渦へと誘う。
……何だか懐かしい夢を見た気がするのだが、記憶があやふやだ。
うーん、確か異世界だとか女神だとか……そんな感じの夢だった気がするが、はっきりとは思い出せない。ただ、なんとなくだが、あまり良い夢で無かった事はなんとなく分かる。
先程から絡みついてくるような吐き気がいい証拠だ。
そのまましばらくベッドの上でぼーっとしていたが、やがて起き出す。
本当なら二度寝したい所だがそうもいかないため、のそのそと着替え始める。
不意にコンコンとドアが叩かれる音がする。
こんな朝早くに、と思いながらも入室の許可を出すと、一人の少女がおずおずと入ってきた。
「おはよう、お兄ちゃん。……どうしたの? こんな朝早くに起きて。随分と珍しい」
「……はよー、アリス。それと、俺だってちゃんと朝に起きる事もあるからな?」
欠伸を嚙み殺しながら妹の問いかけに答える。
最近は仕事の関係で昼に起きて、朝日が昇り始めた頃に寝るという生活を繰り返していた為、疑われてしまった……
「で? アリスは何しに俺の部屋へ?」
「そうだった! 私今日から学校行くでしょ? だから制服どうかな? って」
その場でくるくると回りながら制服であるフード付きのローブをこちらへ見せつけてくる。
この里の学校の制服では男子生徒が赤色、女子生徒が青色のローブを着用することが義務づけられているので、当然アリスが現在着ているのは青色だ。
「おお、元引きこもりには到底思えないな!」
「ち、違うから! 完全に引きこもってた訳じゃないから! か、家事とか手伝ってたし、散歩とかで偶には外に出てたから!」
別に普通じゃね? という言葉が一瞬出かけたが、妹の尊厳の為にも黙っておく。
ただ、世の引きこもりも偶には外に出るとは思うんだが。年から年中引きこもってる奴は本当に極々少数だと思うんだ、お兄ちゃん。
だが、妹が引きこもりを脱却出来たのは事実。
うんうん、兄としては喜ばしいことだ。
「それにしても、アリスも随分と大きくなったよなぁ」
「もう、おじいちゃんみたい。私だってもう12歳だよ? 成長期だもん。いつまでも子供もじゃないよ」
そんなアリスの言葉に対して俺は特に深く考えることはせずに。
「胸の方はいつになったら成長期が来るんだろな」
なんとなしに言ってしまった。
言ってしまってからあっ、と気づくが時は既にもう遅い。アリスはそれはそれはもう顔を真っ赤にして、手を振りかざす。
「〜〜〜〜〜ッ! 余計なお世話よ!!!」
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ーーーー
ーー
ここはどうもアウェー感が拭えない、とアリスに叩かれてひりひりする頰を抑えながら学校の廊下を歩きながらぼんやりと思う。
この里では、ある程度の年齢になると学校に入って一般的な知識を学び、十二歳になったら冒険カードを作り、ハイウィザードとして魔法の修行を始めるのが通例だ。
しかし、アリスの事を引きこもりとからかった俺だが、俺も俺で学校にはろくに通うこともなかった。勉強は家で自主的にやったり父さんに教えてもらったりしていた。
両親は最初こそは学校に行くように説得してきたが、俺がとんでもないスピードで読み書きやら算数やらを覚えていくのを見て何も言わなくなっていった。両親の知らない数式をやり始めた時にはそれはもう驚かれた。
俺だって何故知らない筈のものが出来るのかは分からなかったし、今も分からない。
この時は神童などと言われたものだが、それもただ単に早熟だっただけというオチだったようだ。
ただ、読み書きや算数なんかに関しは、『覚える』というよりは『思い出す』というような感覚が強かったような気がしたような、しなかったような……
気のせい、だよな?
そんな風に学校に通っていなかった俺だったが、流石に12歳から始まる魔法の勉強に関しては、ちゃんと学校で学んだ方が良いと両親に強く勧められた為、渋々ながら通うことにした……のだが。
そこで大きな問題が発生した。
別にいじめられたとかそういうわけではない。
もっと根本的な問題だった。
俺は、ハイウィザードになれなかった。
まさに人生真っ逆さま。
神童から落ちこぼれへの転落だ。ステータスが全然足りなかった。この里でハイウィザードにならなかったのなんて過去を含めても俺だけらしい。ハイウィザードでなければ、魔法学校通えないからなぁ。
今でこそ酒の席の笑い話にしていられるけど、当時は本当にショックだった。部屋に引きこもってちょっと泣いた。いや、結構泣いた。
そんな嫌なことを思い返しながら歩いている内に、気付けば目的の教室の前までやって来ていた。
この中にいる生徒達は、俺と違って全員が将来有望なエリートだ。とは言え、この俺が臆することはあってはならないし、ありえない。駄目ならとっておきを使うまでだ。十二歳の子相手ならよく効くだろうな。
俺はおそらく下衆な笑みを浮かべているだろう顔を引き締め、ドアの前へと立つと、勢いよくドアを開け放ち、
「よーし! お前ら席につけー!」
見渡せば、小さな教室だ。男女別クラスということもあって、生徒は十一人しかいない。
俺の言葉を聞いて、いきなり俺に対して因縁をつけてくるやんちゃな子がいることもなく、みんな大人しく席に着いてくれる。
……と思いきや、一人俺の言葉を無視して呆然と突っ立ってる奴がいた。
「お兄ちゃん!? な、何やってるの!?」
ーーー俺の可愛くも憎たらしい妹のアリスがそう叫んだのだった。
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