第12話 恩返し
「はっ形勢逆転だぜ? 降参するなら今の内だぞ。男は大人しく返してやる。ただし、そっちの女は見た目がいいから、後でお楽しみさせてもらうけどな」
アリオだけでも無事に帰れるのなら、と一瞬思いましたけど、たぶん無駄な事です。
そう言われて大人しく退くようなアリオではありません。
案の定……。
「なっ、お嬢をお前たちなんかに渡すもんか。そんな事させないぞ!」
怒ったアリオがそう言い返していました。
その気持ちは嬉しいですが、これからどうしましょう。
不利な状況に冷や汗をかいていると、ふいに上空から羽ばたきの音がしました。
視線を上にあげると、獣使いの里で飼育している飛行獣ワイバーンは空を旋回していました。
「お嬢様ー、ご無事ですかー!」
そして、その飛行獣の方から聞こえてくるのはトールの声。
「今、里では大変な騒ぎになっていますよー!」
そういえば無断で出てきた事を忘れていました。
私達がいなくなってる事に気が付いて、皆は心配したのでしょう
それで、トールが私達が行きそうなところまで様子を見に来たらしいです。
「ガルルッ」
「うわっ、トールだ。あいつに怒られると、説教が長いから面倒なんだよな」
そんな思いがけない援軍を見たアリオは、苦々しそうな表情で呟いていますが、文句を言えるのは無事であるからこそです。
「トール、来てくれてありがとう!」
「状況は何となく分かりました、加勢させてもらいます!」
礼の言葉を受けとったトールは、上空から弓で密猟者たちを攻撃しました。
彼の主な仕事は、獣たちの世話ですが、弓術もたしなんでいるのです。
飛行獣を操る事ができるので、自警団の活動の時に役立てて、無法者達や侵入者への警告や攻撃手段用としているみたいです。
密猟者たちは予想しえない脅威の飛来に、てんやわんや。
あわてて崖を降りていこうとしてます。
「あれ、大丈夫かしら。あわてて降りていって落っこちちゃわないと良いんだけど」
「自業自得だと思うよ。あんな奴等、さすがに放っておいても良いと思う」
一安心。
と思ったけど、思わぬ援軍はトールだけではなかったようです。
何やら巨大な生き物の気配が近づいてきた、と思ったら、大きな羽ばたきの音が聞こえてきました。
まさかと思い視線を上げると、そこには里の外で治療を受けていたはずの竜の姿が。
「――――!」
竜は威嚇するように密猟者たちに一鳴きして、完全に追い払った後、崖の上にふらふらと降りてきました。
体にまかれた包帯は、血でにじんでいます。
無理をしたせいで、傷がひらいてしまったようです。
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