第32話 逆かよ。
「俺は明日になったら、予定通りギルドまでケイって人に会いに行くけど、2人はどうする?」
「わたしは、おじゃまでなければついていきたいです」
ふむ……。
俺はペロを一人にしておくのと連れて行くの、どちらのリスクが高いかを計算する。
人の装飾品を突然剥ぎ取るような不躾な野郎が居なければペロが混血だとバレる心配も無いだろうが、俺の勝手なイメージだが冒険者なんて荒くれ者の集まりだからな……。
かといって置いて行くと話が長引いて帰るのが遅くなる可能性もあるし、最悪一日中部屋の中に閉じ込めておくことになる。それもかわいそうだ。
「私は行くぞ。ギルドという事は冒険者の集まりだろう。ほれなら
そういや誰かを探して旅をしているって言ってたな。
シロの関係者だから獣人なんだろうが、冒険者から獣人の情報を得られるもんなんだろうか。
「って言うけど、実際聞くのは俺だよな」
「私が直接聞くわけにもいかんからな。頼んだぞ」
「……へいよ」
良いんだけどね、それくらい。
誰かは知らないけど大切な人っぽいし。
「あの、わたしは、だめでしょうか……?」
……本当は置いて行った方がいいんだろうけど。
シロだけ連れて行く、っていうのも何か違うよな。
「良いよ。その代わり約束だ。シロの傍から絶対に離れるんじゃないぞ」
「私か?」
「おう、狼形態のシロは結構威圧感あるからな、よほどの事が無い限りビビって近寄ってこないだろ。もし物珍しさで寄って来る冒険者が居たら威嚇してやってくれ」
「わかった」
「ペロも、それでいいな?」
「わかりました」
よし、決まりだ。
「という事で話し合いは終わり。後は寝て明日を待つだけだ。悪いが布団を三式使ったら不自然だから、ペロとシロは同じ布団で寝てくれ」
「いや、それには及ばない」
「ん、どうしてだ?」
「あまり長く裏庭を空けると、あのユリナルとかいう女が来た時に怪しまれるからな」
窓の方に向かうシロは、窓枠に足をかけるとそのまま外へと飛び出した。
「あぁ……そうか、悪い。そこまで気が回ってなかった」
『何、気にするな』
「おやすみ、シロ」
「おやすみなさい」
『おやすみ、二人とも』
『そうだタクヤ、ペロに変な事をするんじゃないぞ』
「うるせえ早く寝ろ!」
◇
「……んが」
やべ……寝過ぎた気がする……目覚まし時計はどうした役に立たねえな……そういやあの日も鳴らなかったせいで遅刻しそうになって……んあ?
何かがおかしいな……。
俺は時間を確認しようとスマホを手探りで探す。すると何やら生暖かい物に指先が触れた。
なんだこれ……すげえすべすべして柔らかいけど……。
「しまい忘れたオナホとかおぞましいはオチはないよな……?」
部屋の照明を付けるまでの明かりをスマホに依存しているので、そのスマホが見つからないと暗くて仕方ねえな……。
仕方ない、何か踏んでコケたらバカみたいだし、暗闇に目が慣れるまで少し待つか。
俺はあくびをしながら瞼を擦り、先ほど触れた柔らかいものを確かめるために指先でまさぐった。
「んっ……はぁ……ぁ……」
なんだこれ喋るぞ。
いや喘ぐぞ。
「たくやさま……?」
俺の名を呼ぶ声。
これは……
「ペロっ!? うっわごめん寝ぼけてた!」
そうだよ転生したんだ、部屋に居るわけがねえ。
久しぶりに柔らかい布団で寝たから完全に勘違いしていた。
「……? おはようございます……」
ペロも寝ぼけているらしく、身体をまさぐってしまった事はわかっていないらしい。助かった。
……いや、布団の間隔はそれなりに空けていたはずなのに、なんでペロが横に居るんだ?
ははーん。さてはトイレに起きて、寝ぼけて間違えて俺の布団に入ったな、こいつめ。
「あれ……なんでたくやさまがわたしのふとんに……?」
「えっなにそれは」
まさかの逆パターン? 事案じゃねえか。
「ペロがうなされていたから心配でな、大丈夫か?」
「ふぁ……あ、ありがとうございます、すみません」
「イイッテコトヨ」
◇
朝。俺とシロは食堂で朝食を食べた後、ユリナルさんにギルドの場所を教えてもらいペロを合わせた三人で向かっていた。
「昨日は夕方だったからマシだったけど、この時間だとかなり目立つな」
言ってシロの身体を撫でる。
ギルドの建物は一目でそれとわかる形をしていた。
長剣が盾の前で交差するデザインの紋章が刻まれた看板。
ユリナルさんに教えてもらった通りだ。ここで間違いないだろう。
こういうのは最初が肝心だ。
冒険者というのはナメられたら終わりって何かのラノベに書いてあった気がするので、威勢よく行こう。
ドアをバァンと開けガッと勢いよく入って中に居る人たちを一睨みする感じで、そんな流れで、よし。
そうと決まれば。
ドアに手をかけ、ぐっと力を籠めようとして―――反対側からすげえ勢いで開かれ、俺は吹き飛ばされた。
「痛ってええええ!!」
「た、たくやさま、だいじょうぶですか?」
「大丈夫違う! マジで痛い!」
兎に吹き飛ばされた時と同じくらいのダメージがある。あの時と比べてステータスも上がっているのに、どんなバカ力だ!?
「もういい! うち一人で行く! あんたらの力なんか借りんわ!」
「んんっ!!」
倒れている俺の身体が、誰かに踏まれて俺は悲鳴をあげる。
「なんや? なんか踏ん……うわっ! なんやあんた、そんな所で寝とったら危ないで!?」
おぉ、見上げればパンツ……
「あの、とりあえず退いていただけると非常に嬉しいんです、が……っ」
「おわっ、すまんすまん」
ひょいっと足をどけてくれる。
俺は立ち上がった。
「いてて……」
「大丈夫か? せやけどこんな所で寝とったらそら踏まれるで。むしろうちみたいに軽い女の子で良かった思わな」
「ええ、そうですね……」
まあ女の子に踏まれた上にパンツ見えるとか、ご褒美みたいなもんではあるが。素足か二―ソックス越しならそうなんだけど、靴じゃあなあ……。
「焦ってたみたいですけど、どうしたんですか?」
「ン……あ、せや! あんたギルドに何しにきたんや? 依頼か?」
「え? 違いますけど」
「ほなら冒険者やな! 丁度ええわ!」
ちょうどええ? なんか嫌な予感がすんな
「ここで踏んだのも何かの縁、冒険者ならうちの依頼受けたってーな!」
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