第24話 もう片方の乳首もお願いします!!
気絶した獣人を担ぎ、街道を逸れて木陰に降ろす。
陽のある内に誰も通らなかったんだからこんな時間に通行人は居ないと思うけど、念のためだ。
何故獣人のこいつが居たのかはわからないが、ここは魔女とおっちゃんの村からそう遠くない場所で人間の勢力下だと見た方が良いだろうから、いらぬ争いを産まないよう用心するに越したことは無いだろう。
ペロみたいに耳を隠せば欺けそうな混血と違って、こいつの体毛は誤魔化しようがない。人間に見つかるのはもちろんヤバイし、獣人に見つかったとしてさっきのこいつみたいに勘違いから襲ってくる可能性もゼロじゃあない。
「……そう考えると、文字通り余計な荷物背負っちまったな」
言葉の意図がわからないのか、ペロが不思議そうにこちらを見ている。
……いかんいかん。子供の前で口に出すような事じゃない。
そうは思う物の気分は晴れなくて、俺はなんでも無いよとため息を吐いて夜空を仰ぐ。
「空が良く見える……あっちと違って排ガスとかが無いせいか、ここは星が綺麗だな」
「たくやさまのすんでいたばしょは、そらがみえなかったのですか?」
ひとり言のつもりで零した言葉に、ペロが応える。
「いや、なんていうんだろうか、俺の住んでいた場所は空気が汚くてさ、空はもちろん見えるんだけど、星なんてほとんど見えなかったんだ」
「そらがきたない、ですか?」
「大気汚染っつって……うーん、どう説明したもんかな、空にモヤがかかった感じでぼやけてたっつーか」
「ぼやけて……きりのようなものでしょうか?」
「霧……そうだな、そんな感じかな。空一面にうすーく霧がかかっていて、よく見えないんだ」
「それは……さびしいですね」
「寂しい、か。今までそんな風に考えたこと無かったなあ……」
でも、寂しい……か。
確かに言われてみればそうなんだろうな。
こうしてこっちの世界の綺麗な夜空を眺めていると、それを寂しいと思えていなかった事こそが寂しいのだと、そんな考えに思い至った。
そしてそう思えるのは、何も空にだけってわけじゃないみたいだ。
そんなに未練は無かったはずだけど、こうして前の世界の事を思い返してみると、確かに一抹の寂しさを感じる。
それは、その全てがもう手に入らない、不可逆な物だから、って事だろうか。
「ん……」
またらしくないセンチメンタルに浸っていると、眠っていた獣人が小さく声を漏らした。
横に座るペロがぴくりと震え、俺の裾を掴む。
「私は……、ここは……?」
「ここはどこ私は誰っつーとえらいテンプレだな」
「!? 貴様は……!」
俺の声に驚いたのか、そいつは飛び上がって距離を取る。
「くっ……」
だが着地した瞬間、苦しそうに胸を抑えて膝をついた。あれは狼の時に俺が飛び蹴りを入れたあたりだ。
「別に何もしやしねえよ。今まで気絶してたんだ、動かない方が良いぞ」
「……一度勝ったくらいで、ずいぶん大きく出るものだな」
「うるせえ、自然界ならてめえはもう死んでんだぞ。負けた自覚があるなら大人しくしてろ」
獣人は俺の言葉を聞くと、不承不承といった表情でその場に座り込んだ。
「何故、私を殺さなかった」
「死にたいのか?」
「違う! ……だが、私は貴様を殺そうとした、敵だ」
「お前、元は俺が獣人を奴隷にしてると思ったから襲って来たんだろ? まあペロが混血だからって見逃したっつー事はお前も差別主義者なんだろうけどよ、でも言い換えりゃそれは必要が無いなら人を殺す気は無いって事だろ。無差別に人間を襲おうとするやべえ奴なら俺も考えるけど、そうじゃないなら殺す必要は無いだろ。まあ俺もあの時は頭に血が上って思わず手が出たから、それで手打ちって事で良いんじゃねえか」
というか、ペロを守ると決めた直ぐ後に近い年の子供を殺すのは流石に憚られる。
この世界じゃハチミツみたいに甘い話なんだろうけど、これは俺の信条の問題だ。
「……貴様、名前は?」
「託夜だよ、お前は?」
「ホワイトだ」
ホワイト……毛並みが白いからか? なんつー安直な名前だよ、親は何を考え……いや、ペロの名前を考える時に俺も似たような事を考えてたから人の事を言えやしないか。
まあいい。こいつは今から白だ。
「不思議な奴だ……貴様の様な人間が居るのか」
「俺からすればお前らの方が不思議だよ、人間だの獣人だのクソみたいな理由でよ」
魔女に理由は説明されているが、それでも俺の価値観からすると違和感しかねえ。
「そうか、タクヤ……強いんだな、貴様は」
「そう望んだからな」
「……私の負けだよ。好きにしてくれ」
「殺す気は無いっつっただろうが」
「ああ……それはわかっている」
なんだ……こいつの視線がピンクというか熱を感じるというか。
それまでと違う、いや、今までの人生で向けられた事の無い種類のそれというか。
「人間など、憎いだけの存在だと思っていたはずなのだが、どうやら私は貴様を気に入ったらしい」
……え、マジでそういう流れなのか。
異世界転生でありがちといえばありがちな展開だが、まさか自分の身に、それもこんなレナモンやゾロリ並みに獣度が高い獣人からなんて思いもしなかった。流石にライクの方だとは思うが、倒した結果好意を持たれてしまったらしい。
大事な事なのでもう一度言うが、俺はケモナーでは無いので好きにしてくれと言われても困るだけだ。
問答無用で襲ってくるようなヤツだし、戦闘民族っていうのは強さがイコールで尊敬やら好意に繋がるって事か? それもテンプレっちゃテンプレだが……。
「……襲ってこないっつーなら、何でも良いよもう」
投げやりに答えて、上体を投げ出す。
考えるのも疲れた。こいつとの戦闘の後から妙に身体もだるいし、今は休息が欲しい。
寝首を掻く用なヤツには見えないし、警戒する必要も無いだろう。当面の危機は去ったと判断した俺は瞼を閉じて欠伸をひとつ。
物音がしたので横目で白の方を見やると、立ち上がりペロの方へと近付いて行くようだった。
「混血の子、ペロと言ったな貴様は」
「は、はい」
そのままペロの正面に腰を落とす。見えてはいないが、ペロがブルっと身震いする様が容易に浮かぶ。
その後、唐突に話を振られたペロが再び怯えた風な声で短く答えていた。
「怯えるなと言っても無理があるだろうが、その……突然襲ったりして悪かったな」
正確に言うと襲われたのは俺だけだが、まあ怖い思いをしたのはペロも一緒だ。それを謝ろうと言うのなら無粋な事を言うつもりは無い。しかし思ったより素直なところもあるみたいだな。
「いえ……たくやさまがおゆるしになられたのなら、わたしはきにしていません」
「そうか……信頼しているのだな、あいつの事を」
「そう……なのでしょうか。いえ、きっとそうなんでしょうね」
瞼は閉じたまま、二人の会話に耳を傾ける。
俺はそのまま、いつの間にか眠りについていた。
◇
諸手上げに縛り上げられ、食い込んだ荒縄が手首に赤い痣を作る。
身じろぎする度、手首だけでなく身体中に巻かれたそれはきつく締められていき、吐き出される苦悶の吐息にはなまめかしい響きが混じる。
口元にはギャグボールがハメられ、声にならない声はあさましい呻き声と涎になり頬を垂れ、シーツに染みを作っている事だろう。
両脚は大きく広げて固定され、一切の身動きが許されぬ私は、曝け出された陰茎と肛門を隠す事も出来ずに外気へと晒す。
目隠しとして被せられたお嬢様の下着は頭を動かしてもズレる気配は無く、押し付けられた雌の香りに脳がくらりと揺れている。
嗅覚と聴覚、そして皮膚感覚だけが私に許された全てだ。
―――だから、私と外界を繋ぐ細い糸は、肌を刺す冷たい空気と、お嬢様の声だけで。
「これはお仕置きよ」
おそらくは私の股座(またぐら)に腰を下ろしたお嬢様が、冷たい―――熱を持った声色で、そう宣言する。
おやめください、と声をあげる事も出来ず、その代わりにいやいやと振られた口元からは、ギャグボールの隙間からこぽりと涎が零れた。
「ここも、ここも。ふふっ、こっちもね。こんなに固くしちゃって」
乳首に何か―――おそらくはお嬢様の指先が触れ、それに身悶えする暇さえ与えられずに、ピンッ……と、爪先で乱暴に弾かれる。
―――瞬間、私の頭の中で何かが弾けた。
腰が浮き、惨めに隆起した陰茎は透明な汁を吐き出しながら悦びの涙を流す。拘束具を砕かんばかりの勢いで噛み締められた口元。喉奥からは地鳴りのような絶叫が鳴り響く。
「ふふ……」
お嬢様は私の痴態に満足したのか、太ももに食い込んだ縄をずらし、跡になった部分を撫でまわす。
「こんなにも容易く吐精してしまうなんて、なんて惨めな兄様なのでしょう。とても可愛らしいわ」
蔑み、嘲るような言葉だというのに。
お嬢様の声は、まるで催眠のように私の深いところへと落ちてゆき、その快楽に脳がとろけてしまいそうになる。
「さあ、お兄様。次はどうしてほしい?」
蟻地獄のような言葉に、
◇
「もう片方の乳首もお願いします!!!!!!」
……ん?
「ここは何処、私は誰……?」
あれ、お嬢様は? 何故俺は服を着ているんだ?
「……ってまた夢オチかよォ!」
あの設定、場面こそ飛んでいたが前に見ていた夢と同じじゃねえか。つーかケツを弄られそうになった次は乳首だなんて、もしかして俺はマゾなのか?
それにあのお嬢様、今回は姿こそ見えなかったが、前回と同じなら実年齢はわからないが外見で言うとペロや白と大差ない幼さだったぞ。
ロリコンでマゾとか俺は前世でどんな業を背負ってきたんだ……?
いや、違うぞ、俺は断じてロリでもマゾでも無いはずだ。死に際は乳に埋もれてかアマゾネスの太ももの間で迎えると決めている俺がロリなはずが無い。あれっマゾは否定出来て無いぞ?
「いや……記憶を引き継いで生まれ変わっているんだし、この場合だと前前世になるのか?」
映画のタイトルかよ。
「もう1度寝直して続きを見るのは……くそっ、これだけ明るいと眠れそうに無いぞ」
時計が無いから正確な時間はわからないが、体感的には朝七時くらいだ。これから陽が高くなる事はあったとしても逆は無いだろう。
仕方ない、起きるか……ペロと白はどうしただろうか、と思って眠る前に二人が居た方がを見やると、二人は仲良く抱き合って眠っていた。
羨まし―――
(はっ、俺は今何を……)
寝起き特有の不明瞭な思考から来たのであろう雑念をかぶりを振って追い払う。
これだけ気持ちよさそうだと起こすのもかわいそうな気もするが、放っておくといつまで寝ているかわからないからな……それに、土の上でずっと眠っていても時間に対してそれほど疲れは取れないはずだ。いち早く街へと辿り着き、宿屋なり安眠できる寝床を見つけるべきだろう。
(あ……そうだ。その前に耳を隠せる物を作らないとな)
俺は山賊から奪った巾着袋の1つを短刀で解体し、手早くかぶり物を作った。裁縫道具が無いから本確定な物では無いが、間に合わせとしてはこれで充分だろう。
硬貨が入ってたから少し鉄臭い上に地味な色合いだから可愛くは無いが、これで許して欲しい。
他に何か準備は……オッケーだな。
俺は荷物を纏めてから、ぐっすりと眠っているペロと白を起こしにかかった。
「ほら二人とも。良い朝だ、そろそろ起きような」
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