第11話 きれいな乳首してるだろ。ウソみたいだろ。死んでるんだぜ。それで。

 握られた掌をぐっと引き上げ、幼女を立ち上がらせる。

 特に抵抗も無く、幼女はその動きにすんなりと従った。


「んじゃあ、行こうか」


 立ち上がった後にはすぐ離してしまったが、俺の手を取ったという事は付いて来ようという意志はあるのだろう。

 しかし歩く位置が俺の数歩後ろというのは、わかってはいるもののやっぱり距離を感じるなぁ……まだ警戒されてるみたいだし、ちょっと寂しいけどそれは仕方ないか。

 さて、それじゃあこれからどう動こうか。

 そう思案していると、意外な事に幼女の方から声をかけられた。


「あの……」

「ん、どうした?」

「にんげんさんは、どうしてはだかなんですか?」


 ……もっともな疑問だ。俺に怯えていた原因の1つは、もしかしなくてもそれなんじゃないか。

 この子がいくら小さくとも女の子である事に変わりはない。仮にも異性の同行者が露出狂の変態だとすれば、女性からすると安心出来ないだろうし、理由なき全裸はもっとヤバイだろう。

 そして俺の場合は不可抗力と言えど後者で、もっと言うと、こっち来てからずっと全裸だったのでそろそろ肌を晒す事に抵抗を感じなくなってきている。

 唯一の救いは未だ勃っていない事だろうか。

 でも多分、意識しちゃったからもうそろそろ悦びを見出す所まで来ていると思う。そうなるといよいよもって人として終わってしまう気がするが。

 俺は無言で山賊達の死体がある場所まで戻った。

 人間ならさっきの兎と違って解体とかする必要は無いし、剥いてしまえば終わりだ。せっかくだから服のついでに戦利品も頂いていこう。

 これじゃどっちが山賊かわかんねえな……まぁ死人が荷物持っててもしょうがないし、道具だって使われた方が幸せだってよく言うし、うん。そもそもこいつらの荷物のどれだけが、ただしくこいつらの所持品なんだっつー話よ。なんて都合のいい事を考えながら品定めをする。

 まずは着るものだが……やっぱ頭だけあって、こいつが一番良さそうな物を着てるな。服はこれを頂くとしよう。

 そういえば解析した時のステータスって装備品も含まれているんだろうか?

 他の山賊より上等な服装なのと、確認したステータスで防御力の項が高かったことの因果関係は?

 攻撃力に関してはどうだろう。ナイフは見た感じデザインの違いも無かったし、全員同じ物を持っていた。ダメじゃんこっちも全然わかんねえ。

 うーむ、そこら辺は要検証か。とりあえず今は服としての機能を果たしてくれればそれで充分だし、頭の隅に留めておこう。


「はーい、脱ぎ脱ぎしましょうね~」


 おっさんを裸に剥く機会なんて家族も居ないし生涯もう無いと思う。というか有って欲しくない。いや一度でも有るなんて思っていなかったけど。

 無理やりにでもテンションを上げて行かないと気分が悪いので、脳内で可愛い女の子に変換して気分を盛り上げる。

 パチパチとボタンを外し上着をはだけさせると、モジャモジャにまみれた豊満な胸筋バストが露わになった。ふざけんなよ畜生なんでこんな綺麗な乳首してやがるんだこいつは死ねよ。

 あーやっぱこれ無理あるし赤ちゃんプレイは赤ちゃん側に限るわ。

 なんかむかついたので、八つ当たりに乳首をキュっとしてから胸毛をむしる。

 さて、とりあえず上はこれで脱がせたが……次は下か。

 ベルトの金具を外していく。

 ズボンをズリ下げると同時に、むわっとした臭いが鼻を突いた。さてはこいつ尿洩れしてやがるな? これだからおっさんは……。

 後に残ったのは、パンツ一丁で転がる、装備を剥ぎ取られたスカイリムの山賊そのものだ。


「流石におっさんと下着を共通する気にはなれねえわ、間接兜合わせとか狂気だろ」


 狂気の沙汰ほど面白い……! なんて俺の中の悪魔が囁くが、これはフリじゃないよな? マジで嫌だぞ。

 とりあえずさっさと服を着こむとしよう。

 サイズは少し大きいが、まあ大きい分には問題無いっしょ。そして身に纏ってから気付いたが、この服結構収納付いてるな。便利でよろしい。

 パパパッとポケットなどを漁り、アイテムを確認する。

 短刀……さっき使っていたのと同じ物だが、血も付いていないし予備かな。貴重な刃物だし念のため持っておこう。

 巾着袋……中身を確認してみると、硬貨らしき物が数十枚入っていた。どれくらいの価値があるのかわからないが、お金なら無駄になる事は無いだろう。

 種類は……銅色、銀色、金色と正に異世界のテンプレと言うべき三種類が入っていた。意匠も銅、銀、金の順番で豪奢になっているので、価値の順番も同じだと思っていいはずだ。

 どれくらいの金額になるのかはわからないが、ボられないように気を付けて使おう。

 そして小瓶が数個……内容物は全て赤色の液体で、同じ種類だと見てよさそうだ。

 さっき回復がどうとか言っていたから、体力を回復するHPポーションってところかな。これも便利そうだな。

 あとは宝石……価値はわからないけど、換金すれば金になるはずだ。

 あっでも、山賊が持っている宝物って言うと十中八九盗品じゃねえか? 売ろうとしても大丈夫か? カルマ値が上がったとか脳内アナウンス出たりしないよな。

 この世界に来たばかりで盗品を安全に捌くツテなんてあるわけも無いし、これは苦労するかもな……。

 さて、こいつの所持品はこんな所か。

 手下連中がそれ以上に価値のある品を持っているとは思えないが、念のために確認しておこう。

 おっ、こいつは何かリュックみたいなものを背負ってるな、これは期待出来そうだ。

 さてさて何が入ってるかな。

 山賊の背中からそれをひったくり、中身を慎重にひっくり返す。

 中身は……さっき見た物と同じポーションが数本と水筒、それにこれはパンと干し肉か? 食料が有るのは有難え

 あとは巾着袋、これも財布かな。

 開けてみると、予想通り硬貨が入っていた。金は一つの袋にまとめておこう。

 んで他に目立つのは……ん、なんだこれ。


「カンテラ……?」


 いや、違うか。

 カンテラならこんな中に仕舞わず、腰とかにぶら下げるもんな。


「んーでも、そうとしか見えないよなぁ……」


 映画などでよく見るそれよりも少し小型だが、形状としては正しくカンテラだ。

 中身は並々と液体が入っているが、揺れ方からすると油では無さそうだ。


「ん……?」


 視線を感じて振り返ると、それまで以上に、尋常じゃない様子で顔を青ざめた少女がこちらを見ていた。

 いやこれは……俺では無くこのカンテラを見ているのか?


「これ、何かわかるの?」


 答えの代わりに、カチカチとした歯音が聴こえる。

 なんだ……何を怯えている? こいつはそんなにヤバイ物なのか?

 危険な物なら今後のためにも尚更何なのか知っておきたいが……この怯え様では無理に聞こうとしない方が良さそうだな。

 置いて行った方が良い物なのか? いや、こいつらが携帯していたという事は所持している事自体に問題は無さそうだが……。

 とりあえずこの子の眼に入らないよう仕舞っておいて、後々調べてみよう。もしかしたら売れるのかもしれないし、置いておく方がマズいアイテムの可能性もあるだろうし。

 次は空港の手荷物検査の様にポンポンと叩いてみたが、他にめぼしい所持品は無さそうだ。

 後は残りの死体にも同じような確認を繰り返していき、それが終わった後改めて幼女に向き合った。


「よし準備完了っと。待たせて悪かったね、行こうか」

「は、い」


 うむ、服を着たおかげか、今までよりちゃんとこっちを見てくれるぞ。

 だけどそれまで以上に、まるで恐ろしい何かを思い出したかのような怯え方だ。

 状況から考えるに、さっきのカンテラのせいだとは思うが……聞くわけにもいかないし、今考えても仕方がないか。

 不必要に怯えさせるのは本意では無いしな。他に手がかりを得られず、いずれこの子に聞くとなったとしても、それはもっと打ち解けてからで良いだろう。

 相変わらず二人の間には距離が有り、この距離もいずれ詰められたら良いな……と思いながら、俺と少女は連れ立って歩き出した。

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