第25話 不良美少女と読書をする

 ーーとうとう暑かった日差しもだんだんと落ち着きを取り戻しつつあり、

 次の季節へと、僕たちを招こうとしているのか、最近の天気からは、そんな様子が伺える。


「最近、ようやく涼しくなってきましたね、花さん」


「あー、うん。確かにそうだな」


 いつものように、図書館で

 教科書とノートを開くと、早速、勉強を始める。


「えーと、ここは、この文法を使って……」


「あー、なるほど……、そう解くのか」


 暫くして、あらかたの予習は片付いた為、少し休憩に入る。


「やっとここの文法を理解できるようになったな……って昴、何を読んでいるんだ?」


「あぁ、これですか? 最近僕がはまっている小説なんですけど、花さんは小説とか読みますか?」


「小説か……あたしが読んでたのは小学生の頃ぐらいだな……なんか懐かしい感じだ」 


花さんの幼少期か……。一体どんな幼少期をおくっていたのだろうか。

 かなり気になるが確かめようがないので、気にするのをやめ、手元に視線を戻す。


「あの、今読んでるのがミステリー系の小説でオススメなんですけど、息抜きに見ますか?」


「あー、うん?

 もしかして貸してくれるのか?

 なら、是非、読んでみたい」


「はい、どうぞ」


 僕は、そっと手に持っていた小説を花さんに渡した。


「ありがとう、読んだら伝える」


 ──それから1週間後


「昴、貸してもらった小説なんだが……」


「は、はい」


 感想を言おうとしているのだろう花さんを見ながら、

 決して、自分が執筆した訳では

ないのだが、

 何故か自分のことを言われているように

 ドキドキしてしまう。

 オススメしたのが自分だからだろうか。

 なんだか評価されているような、合格発表を待つような、そんな感じだ。


「(ゴクリ……大丈夫かな)」


「……面白かった。これはちなみに一巻だよな? 続きの話があれば貸してくれないか?」


「は、はい! では、2巻、是非、明日持ってきますね!」


 良かった。楽しんでもらえたようだ。

 誰かに、自分の好きなものを提供して

 喜んでもらえるって、こんなに

 嬉しいことなんだな。


 ──そして花さんに渡した2巻目は

 3日後に帰ってきた。


「あー。昴、次の巻をよかったら貸してくれないか?」


「勿論良いですよ……って、ん?」


「どうした? 無理だったら良いんだが……」


「あ、いえそっちではなく……。


 いや気のせいか。

 なんか花さんの雰囲気がおかしいような

 気がしたんだけど。





♢♢♢




そして花さんに、本を貸した当日の夜。


 プルルルルルルル。


「ん……? こんな時間に電話なんて珍しいな」


 誰からだろう。

 とりあえず通話に出る。


「あー、昴か? あたしなんだが」


「花さん!? どうしたんですか! こんな時間に……」


「あー、その、小説の件なんだが、

 次の日、無理でなければ、次の巻を持ってきてもらえないだろうか」


「あぁ、小説のことですか!それだったら

 全然良いですけど……」


 何か、良からぬことでもあったのかと思っていたので、少しホッとする。


「恩に着るよ」


 プープープー。


 通話が切れた。それにしても……あれ?

 本を読むスペースが早くなってるよな。

 これはまさか……。

 やっぱりあれはたまたまじゃなくて……。


♢ ♢ ♢


 翌日、花さんと放課後の図書館。


「……」


僕は、冷静に花さんの顔を確認する。

そして、確信がついた。


「ふわぁ〜あ、昴、じゃあ次の巻を……」


「ストーーーーップ!!」


「?」


 そういうと、花さんはどうしたんだ?

 と言うふうに首を傾げている。


 「花さん、この鏡で自分の顔を見てみてください」


そう言いながら、手鏡を差し出す。


「ん? あたしは、乙女だが?」


「乙女だが? じゃないですよ!!

目のところ! はやく見てください!!」


「なんで鏡なんか持ってるんだ──

ってあれ……。なんか隈ができてる。

なんでだろうな」


「なんでだろうな? って……気付いてないんですか!?

僕は、今日で確信しました……。

 花さん、貴方、夜更かしして本を読んでますね!?」


ハッ。


一瞬息を飲んだ花さんは、

やはり、心当たりが見つかったのか

唐突に黙りこんだ。


 僕は、その間に脳内で、推理ドラマでよく使われるようなbgmを勝手に再生させた。

 そして、犯人を問い詰める時のように、

 花さんにキッとした鋭い眼差しを向ける。


 すると、その目線に気づいたのか、

 花さんは不自然にそっぽをむいた。

そこにすかさず畳み掛ける。

今日の僕は、花さんの身体の心配がかかっているからなのか、なぜか、少し強気に出れた。


「今のが証拠です! その不自然さ!!

 いつもだったらそんな事しません! 図星ですね!!」


確信した僕は、真っ直ぐ花さんを見つめる。


すると、花さんは

少しバツが悪そうに口をゆっくりと

開いた。


「……バレたのなら仕方ない。

 面白くてつい……な。

 バイトがある日は、終わってから読んでるといつも間にか時間が経ってたから……」


 少しモゴモゴしながら弁明を繰り返す、

 花さん。

 いつもの圧は何処かへ

 行ってしまったかのようだ。


「やっぱり……。というわけで、しっかり睡眠を取るまで、

しばらく本は貸しませんからね!!」


「うっ……」


腕を組んで、何やら少し言いたそうに、

悩んでいる様子だったのだが、

一呼吸すると、口を開いた。


「……うん、わかったよ」


(あれ、意外と今日は素直……?)


なんだか子供が好きなお菓子を買えなくて落ち込んでいるような風に肩を落とす

今日の花さんであった。






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