Quinn Bee Syndrome(クインビー・シンドローム)
円間
プロローグ
「見たな」
そう言って、ソレは冷たく笑うと、彼女の方へゆっくりと近づいた。
「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!」
彼女は実に見苦しい表情をして後ずさりをする。
「ほほほほほっ。そんな歩みで逃げられると思うたか? 甘い、甘い。直ぐに捕まってしまうぞ」
冷たい笑みを絶やさずに、ソレは彼女を壁際へと追い詰める。
老朽化が進み、取り壊しが決まった、ある高校の旧校舎の中庭。
下校時刻も過ぎ、暗闇が満ち、彼女達以外に生き物の気配の無いそこに、セーラー服を着た二人の少女が、狩る側、狩られる側に分かれて存在している。
どちらの少女が狩る側か、それは一目瞭然だろう。
「ほら、捕まえた」
ソレは、追い詰めた獲物の頬を両手で優しく包んで、口が裂けそうなほどに、にんまりと笑う。
「ひぃ、た、たたたたたた」
「助けて欲しいか?」
そう聞かれ、彼女は涙で滲んだ目を大きく開けて、ソレを見る。
「大声を上げて、助けを呼ぶか? 新校舎の方には、まだ教師が残っているだろうし、もしかしたらお前の声が届くかもしれないなぁ……」
彼女は小さく、顔を左右に動かす。
「私に助けて欲しいのか?」
「うううっ」
「そうか、そうか。でも……無理だな」
「ひ、ひひひひ」
「見られたからには」
「ひ」
「生かしてはおけぬゆえ」
「ひ……」
『人殺し』
彼女がソレに向けてそう叫ぶ前に、彼女の口は塞がれてしまった。
もがき苦しむ彼女と、彼女のその様子を、笑みを浮かべて眺めているソレとは少し離れた場所で、少年が土の上に横たわっている。
風が吹いた。
サワサワと風が木の葉を揺らす音がする。
どこかから、流れてきた薄紅色の花びらが、ひとひら、少年の胸へ落ちる。
花びらは直ぐに風に飛び、彼女達のいた方へ流れたが、しかし、そこには、もう誰の姿も無かった。
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