第5話

 中間テストが終われば、中学校生活最後の行事の一つの体育大会の練習が本格的にスタート。

 今年の個人競技は八十メートル走に出場する。

 百メートルの記録をもとに選手決めとかをしてたしね。

 なかでも、一番みんなの練習に熱が入るのは――

「みんな、右足引いて~! 一、二、三、四」

 雅……みゃーちゃんの声が聞こえてきた。

 その直後、みんなで声を出す。

「せーの!」

 それは学年種目のムカデ。

 三年生はクラスの半分の十八人で一つ……二つのムカデになってトラックを一周ずつ走っていき、ラストにもう一周するけど、これがクラスで一個のムカデになって走っていくのが大変なんだ。

 合同練習には担任の佐伯先生もいて、ペースとかもわかってくるけれど、クラスで一個に合体したときにどっちかのムカデが速かったりが多い。

 一走と二走のムカデが離れたり、タイミングが合わなくて、前から、真ん中から、後ろから転倒や止まってしまうこともよくある。

 今日も歩幅やスピードの調整がうまくいかなくて、何回も転んでいた。

「うわ! 大丈夫?」

 右の足首に激痛が走っていた。転んだときに、捻ったのかもしれない。


 保健室の先生を診てもらったけど、だんだん腫れてきているみたいだから、母さんに連絡して近くにある整形外科に行くことになった。

 足首を捻ったことは何回かあったけど、いままで以上に痛かった。





「――レントゲンを撮ったんですけど、捻挫ですね」

 捻挫は思ってたよりもひどくて、体育大会はムカデ競争には出場しないことになった。

 最後のムカデには出たかったけど、仕方ない気がする。


 体育大会二週間前を過ぎていたから、中学校ではジャージ登校だ。青い上ジャージを着ているけど、足首には湿布がずれないようにサポーターをつけていた。


 八十メートル走と全員リレーには出場して、まだ痛みがあるけど……悪化させないようにしている。

「はぁ……」

 わたしは少しだけ廊下で立ち尽くす。

「橘」

「あ……悠、あ、櫻庭」

 学校では名字で呼び合うのが小学生くらいからで、それ以来ずっとそのままだった。

「足、大丈夫か? 平津戸ひらつとから聞いた。捻挫してるって」

「みゃーちゃんから、そうなんだ」

 悠里が放課後の図書室に来るのは珍しいし、帰り学活と掃除を終わらせたら部活に直行しているイメージがある。

「無理しないで、いいから」

「ありがとう、櫻庭! 学級対抗リレー、応援してるから」

 そう言うと、悠里は体育館に向かっていった。少しだけ耳が赤かったけど……そんなことは家に帰ってから炊飯するときには、忘れてしまっていた。

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