第169話

 本当に休みになってしまった。


 クリスマスイブ。なにをすればいいのかも分からず、出灰翠は一人でニューヨークの街を歩く。

 周りは友人や恋人同士の人間ばかり。一人で歩いている者もいるけど、その人たちだってこれからどこかへ向かったり、この日を楽しむための目的を有しているだろう。


 楽しみ方が分からない。姉や友人と一緒にいれば、今日という日をとても楽しめたのだろうけど。残念ながらみんな予定がある。

 スマートフォンに入れたチャットアプリ、その中から朱音と明子、翠の三人によるトーク画面を開く。

 朱音のメリークリスマス、というメッセージから始まって、各々が今日の予定なんかを書き込んでいた。

 本部のパーティーに出席しなければならない明子と、やはり丈瑠と過ごすらしい朱音。文章越しにもめんどくささや楽しさが伝わってきて、翠はつい微笑を漏らす。


 自分は、ただ仕事があると書き込んでいるだけ。嘘を吐いてしまった。

 罪悪感がチクリと胸を刺す。とても小さなものだけど、大切な友達に初めて嘘を吐いた。


 実際の翠は、こうしてアテもなく街をふらついているだけなのに。


「ねえねえ君! もしかして一人?」


 不意に英語で声をかけられ、顔を上げる。視線の先には三人のアメリカ人が。歳は翠の外見年齢と同じくらい、十四、五歳といったところか。当然知らない顔だ。

 この国での翠の知り合いはネザーの関係者しかいないし、その殆どが今日も仕事中。


 怪訝な目を向けていると、三人のうちの一人が肩を竦めながら笑いかけて来る。その口から出てきたのは、意外にも流暢な日本語。


「君、日本人だろ? 一人だったら、俺たちと一緒に来ない? この国でのクリスマスの楽しみ方を教えてあげるからさ!」


 彼の日本語に他二人がヒュー、と口笛を吹いて絶賛する。

 なるほど、こちらの母国語で警戒を解き、ナンバの成功率を上げようという魂胆か。


 そもそも翠は、別に日本人というわけでもないのだけど。

 我慢もせずため息を漏らして、翠は英語で返した。


「申し訳ありませんが、お断りします」

「おっ、英語上手だね!」

「もしかしてこっちに住んで長いのかな?」

「だったら大変だね。世界中変なことになってるし、日本に帰れないじゃん!」


 こちらの返事など聞く気もなく、無理矢理話を進める。

 相手にしていられない。三人を無視して止めていた足を動かすが、ナンパ男たちはしつこく食い下がってきた。日本でこれくらいの年齢の子供なら、ナンパなんぞしないだろうに。日本人が奥手なだけか、アメリカ人が大人すぎるのか。


 ともあれ、翠には関係ない。こちらは昨日のこともあり、ただでさえ気持ちがささくれ立っているのだ。

 未だについて来てなにやら話しかけてくる三人に、鋭い視線を飛ばす。それだけで男たちは怯んで立ち止まり、その隙に適当な路地裏まで転移した。


「緋桜も、今のわたしと同じ気持ちだったのかもしれませんね……」


 力なく笑い、夜の空を見上げる。


 鬱陶しい。ナンパ男どもに抱いた感情はそれ一つのみ。興味がない素ぶりをいくら見せても、しつこく誘いを続ける三人は、本当に鬱陶しかった。

 ともすれば、昨日の翠だって似たようなことをしていたかもしれない。


 緋桜に答える気がないことは分かっていたけど、それでも知りたかったから。

 だから、少し踏み込んで聞いてみた。

 その結果があれだ。のらりくらりとかわされて、最終的にお前には関係ないと一蹴された。挙句翠はその場を逃げ出し、部屋で泣いてしまうのだから。さっきの三人組よりタチが悪い。


 部屋に戻ろう。こうして外を歩いていても、何も変わらないのだから。また変なやつに目をつけられても面倒だし。


「なんだ、緋桜と喧嘩でもしたの? あいつ、あれで結構不器用なところがあるから、あまり勘違いしないであげてね」


 再び転移しようとした矢先に声をかけられ、咄嗟に背後へ振り返る。

 そこから感じられる尋常ならざる魔力に、翼を広げてハルバードを手に持った。


 なぜ、ここまで接近される前に気づけなかったのかが、不思議なほどの存在感。

 路地裏の暗がりから現れたのは、翠の心を乱すもう一人の人物。


「初めまして、出灰翠ちゃん。会えて嬉しいよ」

「桃瀬桃……」


 敵意の感じられない笑顔を見せる、彼にとって大切な人。魔女と呼ばれた少女が、ゆっくりと歩み寄って来た。


「やっぱり、わたしのことは知ってるよね。だったら自己紹介はいらないかな?」

「……なにをしに来たんですか」

「挨拶だよ、挨拶。わたしの力を受け継いだ子が、どんな子なのか。知っておきたかったから」


 翠が桃瀬桃について知っていることと言えば、彼女の過去の略歴程度だ。行動から推察できるものはあれど、具体的にどのような人物なのかは知らない。だから、ここに来た理由が分からない。


「それで? なんで緋桜と喧嘩したの?」

「あなたには……」


 関係ない、と言おうとして、言葉が詰まった。関係ないわけがない。まさしく話の主題にいた人物なのだから。


「あー、その様子だと、わたしが原因だったりする?」


 警戒を解かず、無言で頷いた。

 魔女は思いっきり苦い笑みを浮かべた後で、大きな大きなため息を吐き出す。人間味溢れたその表情の変化に、いささか毒気が抜かれた。


「そっかぁ……まあ、大体察したよ。翠ちゃんがわたしのこと聞いて、あいつがお前には関係ない、とか言ったんでしょ」

「……まるで見ていたかのように言いますね」

「緋桜のことだもん、分かるよ」


 それは、途方もないほどの親愛に満ちた言葉。けれど同時に、彼と同じ寂しさを纏った声。


 わたしよりも、彼のことを知っている。

 それがなぜか、気に食わない。腹立たしさすら覚えてしまう。

 だって翠にとって、桃瀬桃は敵でしかないのだから。例えこの身に宿る力を受け継いだ相手だとしても。朱音たちにとって、大切な人だったとしても。


「関係ない、か。たしかに、あなたは関係ないかもしれないね。これはわたしたちの問題だし、そこに誰かの介入は望んでいない。わたしも、緋桜も。それは分かるでしょ?」

「ええ、不本意ではありますが」

「でも、あなたは知りたいと思った。そして緋桜に拒絶されて、ショックを受けたんだよね。それはどうして?」


 どうしてだろう。

 答えはすぐに出てこない。それでも翠は、まとまらない思考と感情を言葉へ変える。一音一音を大切にして。

 きっと、この人と向き合わなければいけないのは、わたしも同じだから。


「あの日……わたしの手を取ってくれたのは、姉さんと緋桜でした。なにもないわたしが、自分を切り捨てて生きてきたわたしが、未来を向いて歩けるようになったのは、あの二人のおかげです」


 特に緋桜は、それ以前から翠の心の中で、少しずつその存在を大きくしていた。

 最初はセクハラじみた言葉を投げられ、自分でも理由が分からないうちに怒りが湧いて執着し始めて。


 朱音の血を摂取して暴走した時、最後に立ち塞がったのも彼だった。

 黒霧が継承した『心』の力。強すぎる想いに呼応して増す力が、光り輝く彼の心が、あまりにも眩しくて。

 その光が邪魔だった。当時の翠にとって、あの輝きが憎かった。


「緋桜が、わたしに光を見せてくれた。想いの、心の持つ光を。眩しくて、憎らしくて。でも、憧れて……わたしもあんな風に、わたしの心を輝かせたくなった」


 そうか、わたしは彼に、憧れていたのか。


 言葉にして初めて気づいた。

 彼の強さや心に、黒霧緋桜という人間に憧れて。だからあの時、彼が本心を押し隠して、心を曇らせている様を見ていると、悲しくなった。そんな自分に苛立ちを覚えた。


 ただの憧れならどれだけよかったか。こんなもの、崇拝しているのと変わらない。

 あの頃と、ミハイルの手駒として生きていた頃と同じだ。心の拠り所が変わっただけ。


 ああ、でも。それでも、違うことはたしかにある。あの時とは明らかに違うことが。


「わたしは、知りたかった。彼を理解したかった。どうして、あんなにも眩しい輝きを放てるのか。その輝きを曇らせているものがなんなのか」


 自分のことはたしかに苛立たしかった。

 けれど、やっぱり緋桜にも腹が立つ。翠ばかりが緋桜のことを見ていて、彼は翠を見ているようで見ていないのだから。


「いつもいつも、わたしを通してあなたを、桃瀬桃を見る。彼がかつて過ごした日常を、わたしの奥に見ている」


 憧れと、崇拝と、好意と。

 色々交わってるけど。執着、というのが最も適しているだろうか。


 きっと翠は、黒霧緋桜という人間に対して、訳の分からないほどに執着しているんだ。


「多分あいつも、自覚はあるんだろうね。だからって、そう簡単にやめられるものじゃない」

「そうでしょうね。わたしも、かつてのことを完全に振り切れたわけではありませんから。今のネザーにいても、あの頃の情景が不意に蘇ります」

「だったら、ちょっとは分かってあげられないかな」

「あなたがそれを言いますか」


 本心を押し隠しているのは、緋桜だけじゃない。目の前に立つ魔女も同じだ。


 織や愛美、朱音たちに抱いているのとは、また違った感情を、緋桜に向けている。

 こうしてわざわざ、翠のもとまで来て彼の話をすることこそが、その証拠。


 魔女は曖昧な笑みを浮かべて誤魔化すのみ。やはりその本心は語ろうともせず、それでもなんとなく、彼女の目的が見えた気がした。

 学院の敵になり、グレイの味方をしてまで翠や緋桜たちの前に立つ、その理由が。


 多分、翠だからこそ理解できる。親友だった桐原愛美にも理解できないことが。


「なるほど……似たもの同士、というわけですか」

「そういうこと。でも、似てるだけ。わたしとあなたじゃ、あいつに向ける感情が決定的に違ってる」

「ええ。わたしはただ、憧れているだけですから。強いて言うなら、家族としては好感の持てる相手ですが。男としては正直どうかと思いますね。あれに惚れる神経がよくわかりません」

「だよねー。本当、いいやつではあるんだけどさ。我ながらどうかしてると思う」


 楽しげに笑う様は、見た目相応の少女にしか見えない。魔女なんて言葉とは程遠い。

 けれど途端に大人びた、憂いを帯びた表情に変わって。夜空を見上げながら、小さく寂しげな声が呟かれた。


「恨めるわけないよ」



 ◆



 魔術学院本部で行われるクリスマスパーティー。その開催時刻である二十時になったので、織と愛美は会場である学院本部の地下七階へ降りていた。


「なあ」

「なに?」

「帰りたくなって来たんだけど……」

「ダメ」


 一歩会場に足を踏み入れれば、なんか偉そうな大人たちがめちゃくちゃこっちを見てくる。二人の顔は既に知れ渡っているのだろう。


 探偵賢者と殺人姫。

 賢者の石が世界中にばら撒かれた際にはその回収に当たり、一時期は首席議会暗殺の嫌疑までかけられ、今では人類側の命運を握る戦力の一端だ。有名になっていて当然である。


 視線を寄越してくるやつらの全員が愛美に見惚れ、その隣の織を見て鼻で笑い、それに気づいた愛美が殺気を飛ばしてビビらせる。

 さっきからそればかり。


 探偵なんぞ殺人姫のおまけ程度にしか思われていないのだろうが、織としてもさすがにイラついてくる。

 悪かったな、こんなのがお姫様の隣にいて。


「Mr.桐生! Ms.桐原!」


 ささくれ立った織の耳に、聞き覚えのある大声が届いた。

 この、馬鹿みたいに馬鹿っぽさ丸出しの大声は、間違ない。振り返った先には、爛々と笑顔を輝かせた級友、アイザック・クリフォードことアイクの姿が。


「おお、アイク! 久しぶりだな!」

「会いたかったぞ友よ!」


 ガバっ、と抱きついてくるアイク。織よりも身長が高いから、どことなく大型犬じみている。織の体を離して今度は愛美に抱きつこうとしたのだが、華麗にかわされていた。


「もうちょい静かにせんかアイク。TPOっちゅうんを弁えや」

「お兄様こそ、もう少しはしゃいでもよろしいのですわよ?」

「誰がはしゃぐか」


 それから遅れてやってきたのは、安倍晴樹と土御門明子の二人だ。

 軽い調子で手を挙げてきた友人に、こちらも軽く返す。


「おう、久しぶりやな」

「だな」


 久しぶりにも関わらず晴樹が騒がないのは、いつものことである。こいつが実際には友達思いなことを、織はよく知っている。


「お久しぶりですわ、お二人とも。朱音さんにはお世話になっております」

「こっちこそ、あいつの友達になってくれて感謝してるよ」


 深々とお辞儀する明子は、朱音の数少ない友達だ。

 三人が来ることは、事前に目を通した出席者リストで知っていた。けれど、こうして無事にまた生きて会えたことに、心底ホッとする。


「しかしお前ら、相変わらず注目の的やな。ここに来とるやつら全員、結構名の知れた家ばっかやぞ」

「当然だろうMr.安倍! 二人はこの世界の命運を握っているのだ! 友人として鼻が高いじゃないか!」

「だから声でかいねん! こんな近くで叫ぶなや!」

「お前も十分声でかいぞ」


 笑い合いながら、かつての日常と同じようなやり取りを繰り広げる。

 場所も、互いの立場も、なにもかもがあの頃とは違うけれど。ただこれだけで、今日ここに来て良かったと思えた。


 程なくしてから、三人ともそれぞれ挨拶回りなりがあるとかで、織と愛美のもとを離れていった。

 一応両家の名代として来ているのだ。ややこしいなにがしかがあったりするのだろう。

 問題は、織もそれとは無縁じゃない、というところで。


 司会らしい顔も見たことのない誰かが、マイクを持って挨拶をしている。それを聞き流しながらも会場を見渡していれば、トン、と肩を叩かれた。


「よっ、二人とも」

「昨日ぶりだね、桐生くん」


 並んでやって来たのは、緋桜と栞だ。

 互いにタキシードとドレスで着飾っており、堂々とした立ち姿は、こういった場所に慣れていることの証拠だろう。


「あら、来てたのね」

「まあな。一応ネザーの代表ってことにされてるし、来ないわけにはいかないだろ」

「私は日本支部代表。兄さんに言われちゃ断れないからね。それより桐原さん、今日は一段と綺麗じゃないか。ますます惚れそうだ。どうだい? この後私と一緒に、一曲踊らないかな?」

「嫌よ、絶対嫌。この通り、私はもう織のものだから」


 フフン、と自慢げに掲げた左手。その薬指には、数刻前に織がプレゼントした指輪が嵌められている。

 いや、別に見せてもいいし、栞はそもそも知ってるからいいけど。そんな風に自慢されると、こっちが照れてしまう。


「え、なに、婚約指輪かそれ?」

「緋桜にしては察しがいいじゃない」

「マジで⁉︎ 嘘だろ⁉︎」

「嘘じゃないわよ」

「ははーん、やるねえ桐生くん。まあ、これなら手伝った甲斐があったというものだよ」


 全力で驚く緋桜と、なぜか得意げな栞。互いに対照的な反応だが、周りの注目を再び集めるには十分だった。

 もはや誰も司会の挨拶には耳を貸さず、こちらを見てひそひそと話している。


 いや、司会の人可哀想だろ。ちゃんと聞いてあげろよ。


 そういえば、アイクと晴樹には報告するのを忘れていたか。


「あんま言い触らさないでくださいよ。絶対面倒なことになりますから」

「いやいやいや、これちゃんと祝わないとダメだろ。取り敢えず葵にラインしとくか。朱音には伝えたのか?」

「さっき電話で」

「直接伝えてやれよ! つーか、こんなとこ来てる場合じゃないだろ!」

「なんか緋桜さん、テンション高くないっすか?」


 普段なら絶対見れない、レアな姿だ。

 緋桜は比較的落ち着いている、とも言えないが。クールを気取ってセクハラ発言を飛ばす印象しかないので、こんなあからさまにテンションを上げるとは思わなかった。


 しかし逆に、緋桜の方からすれば当然の反応らしく。


「そりゃお前、可愛がってた後輩の祝い事だぞ? これでも色々心配してたんだからな、俺は」

「あんたに心配されるまでもないわよ。ていうか、卒業してすぐ行方くらましたやつの発言とは思えないんだけど?」

「それは悪かったって」


 ジトっと睨みながらチクチク痛いところを突く愛美に、緋桜は苦笑を返す。


 二年前、桐原愛美が殺人姫と呼ばれるようになった頃。その時に二人の間で色々あったのは、織も話に聞いている。

 織に対するものとは違った、また別の親愛を、愛美も緋桜には向けているのだ。


 だからその口元には、仄かな笑みが。


「しかし、まさか本当にプロポーズしてしまうとはね。そのつもりはない、とか言っていなかったかな?」

「直前で気が変わったんだよ」

「なに、栞は知ってたわけ?」

「いや、私はほんの少し手伝っただけさ。桐生くんから相談されてね」


 相談したか……? 暇そうだったから無理矢理迷宮に連れて行っただけなのだが、栞の中ではあれも相談のうちに入るらしい。

 生徒会長なんてやってるくらいだし、頼られるのは嫌いじゃないのだろう。


「そんじゃ、お邪魔虫は退散するか。おい生徒会長、美人な子に粉かけて回ろうぜ」

「いいね。私も既に、何人か目星はつけてるんだ。今日はいいこともあったし、特別に教えてあげるよ、元風紀委員長」

「あんたたちは……」


 愛美から苦言を呈されるよりも前に、二人は去ってしまった。どうならナンパしにいくみたいだが、魔術世界では名前の通った家ばかりなのに、大丈夫なのだろうか。


 いや、心配するだけ無駄か。これで懲りるよつなら、緋桜はとっくの昔に真っ当な人間になっている。


「え、てか栞も女子に声かけてまわんの?」

「あなた知らないの? うちの会長様は同性愛者よ」

「知らなかったよ……」


 知りたくもなかったよ。

 いや別に、同性愛に対して偏見があるわけでもないが。さまざまな人間がいる魔術世界において、同性愛者など珍しいわけでもないだろうし。


「それにしても、嬉しいものね。誰かから、ああやって祝ってもらえるのは」

「そうだな」


 本当に嬉しそうに、左手の薬指に嵌められた指輪を眺めている。

 誰からでも嬉しいわけではないだろう。恩人でもある先輩や、仲の良い友人だからこそ。培った時間があるからこそだ。

 相手も本気で祝ってくれるから、こちらも嬉しくなる。

 ただ、ほんの少し照れ臭さはあるが。


「さ、私たちも挨拶に回るわよ」

「うげぇ……行きたくねえなぁ」

「安心しなさい。顔見知りのとこだけしか回らないから。クリフォード卿も来てるみたいだし、あとは先生とかも探さないとダメね」

「だったらいいか……そういや、その先生はどこにいんだよ。さっきから見当たらねえんだけど」

「有澄さんと喧嘩したらしいわよ。だから遅れるって。なんでも、今までずっとサンタの存在について騙してたとか」

「マジか……」


 マジか人類最強。十六年間も嫁にサンタがいると信じ込ませてたのか。いや、そんなに長い間疑わなかった有澄もヤバいが。


 蒼の魔術があれば、サンタの存在を信じさせることなんて造作もないのだろうが。最強の力、使い道間違ってないか?


 ともあれ、クリスマスイブの夜は始まったばかり。パーティーはこれからだ。

 平穏無事に恙無く終わるよう、精々心の片隅で祈っておこう。

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