第7章 (3)御神鏡と勾玉

鬼塚、角田のふたりに神々の力を授かった勾玉ストラップを手渡した結子。ふたりと別れた結子と朋友は、朋友の自宅である神社の拝殿内にいた。


酒呑童子、茨木童子らとの激闘を経験したことにより、結子と朋友はこれから更に訪れる激動の時代を生き抜き、世界を清らかな空間に正すための道具が必要だと考えていた。


そして、朝日家の先祖伝承である「神人一体、精神一到」というヒントを得たことによって神々と協力して新たな道具を創り出す妙案を思いついたのであった。


結子は朋友に説明しながら、持参したバックの中から2つの水晶玉と勾玉ブレスレットをそれぞれ取り出した。


清らかな女神と一体化している結子は御神器を「もの」に宿すことを朋友に伝えたうえで、今から目の当たりにする現象について心を鎮めて体感するように言い聞かせた。


静かに双眸を閉じ、両手を合わせる結子は空間に意識を広げ神様にお願いをする。清らかな神々を感じながら、結子が蒼く煌めく双眸を開き柏手を打つと拝殿内が清らかな御神気に包まれた幻想的な空間に変化する。


結子の傍らで呼吸を調息し、体の動きを鎮めて集中力を高める朋友。空間に意識を広げる朋友の全身に膨大な量の清らかな情報が降り注いで来た。


それは感情が高ぶった時に起こる高揚感などではなく、曇りのない心身で繊細に空間の変化を捉える身体感覚なのである。


清らかな情報の源を辿る朋友は、その根源を感じ取り神様だと心の中で静かに呟いていた。


結子が更に集中力を高めて柏手を打った次の瞬間、朋友の目前にある水晶玉とブレスレットが神々しい光を放つ。


女神のような佇まいをした結子を見つめる朋友に、結子は御神鏡と御勾玉の武器が完成したことを伝えた。


圧倒的な清らかさを体感できるが故に身震いするほど感動している朋友の前で、結子は光彩を放ちながら神人一体の神業を続ける。


予め用意しておいた酒呑童子と茨木童子の名を書いた小さな半紙を並べた結子は、その上に御神鏡を宿した秀逸しゅういつな水晶玉を静かに置いた。


瞬く間に清らかなものから穢れた存在までを同時に捉え、桁違いの集中力を維持し続ける結子の姿は十代の少女の成し得る芸当とは言い難く、その熟練度と気高さは数千年の刻を超えた法則を可視化した体貌である。


柏手を打ち神々と協力しながら御神鏡の力を活用して結子が酒呑童子と茨木童子の御霊を清め出すと、朋友は空間の雰囲気が更に変化してゆくことを体感した。


自身の体感により得た情報と結子の言葉による説明を精査して理解を深める朋友は、仏教で言うところの成仏の本意を悟った。


それは、すべての存在は死後、現存するものに悪影響を与えない状態まで清まるということである。


本来はそうあるべきなのだが、現状はこの世に未練を遺した状態で死を迎えた者や自身が欲望を振り撒いて生きて来たことを知りもせず、反省すらしていない穢れた未成仏な存在が非常に多いということである。


そのような穢れた未成仏な存在に対しても成仏できる程度まで清い状態に祓い清めることが大切であり、清らかになることこそが空間を乱さなくなるのであって、その変化が正しい方向への進化であることを朋友は理解したのだった。


「穢れを斬り裁く御神剣」「穢れを祓い消滅させる御勾玉」「穢れを清め進化させる御神鏡」という御神宝の力を体感より理解することが出来たふたり。


結子と朋友は、穢れたものを正しい理へと導くための新たな御神宝を手に入れると共に、待ち構えている苛烈な戦いに挑む勇気と重責を果たす揺るぎない決意を胸に互いを見つめ合いながら微笑むのであった。



その頃・・・朋友の家を後にして石畳通りを歩いている鬼塚と角田は、急に体が軽くなったような心地よさを体感した。


酒呑童子と茨木童子が成仏したことにより、人体が受けていた悪影響が解消され変化したのである。


「あのふたり何かやったのか・・・」


身体感覚が変化した原因は、結子と朋友のおかげだと感じる鬼塚に対して、嬉しさのあまり、はしゃぐ角田が鑁◯寺太鼓橋前から大日大門通りに曲がる門で女性と打つかった。


石畳に倒れそうになるが何とか踏ん張った女性に対して、非礼な角田に女性へ詫びるよう強く忠告する鬼塚。怪訝けげんな表情をすることもなく、素直に鬼塚の指示に従う角田なのだが・・・頭を下げて謝る角田の視界に入って来たのはスラッと伸びた美脚、項垂れた頭を上げると見えるくびれた腰、更に上体を起こすと美しいバストと端麗たんれいな容貌・・・


「す、すみませんってか、超美人・・・」


妖艶な立ち姿に魅了される角田に対して、ちゃんと前を見て歩くように角田に注意する妖美な女性は、雨音艶香である!


雨音の体を気遣う鬼塚は角田の代わりに怪我は無いか雨音に訊いた。


雨音に怪我がないことを確認した鬼塚は、勢いよく打つかり迷惑をかけた美女に名前を尋ねる角田の腕を掴み改めて詫びの言葉を伝え、その場を立ち去った。


「見かけない顔ね・・・うちの子たちじゃなさそうだし・・・変わった子たちね」


雨音はそう呟くものの気持ちを切り替え笑顔で歩みを進めた。


そんな雨音の後ろ姿を見返した鬼塚は、雨音から感じた独特な雰囲気を想い返しながら、怪しい予感が脳裏を過るのであった。

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