第6章 (3)寺の仏像
週末
花曇りの午後、松島からの誘いを受けた朋友は町井だけではなく映画の撮影がちょうど休みになった結子とも合流してサークルツアーの下見に来ていた。
意気揚々と先頭を歩く松島が3人を連れて来たのは神社ではなく、お寺である。神様をお祀りする神社と仏様をお祀りする寺院。異なる空間の雰囲気を肌で感じながら4人はお寺の中を観察していた。
清らかな気を全身から発している結子や朋友と一緒にいると、松島と町井の体感力も向上して感度が増してゆく。
何故なら揺るぎない清らかな存在が傍に居れば空間は乱れることが無いために清らかな基準がわかりやすくなる。結子と朋友が人体から穢れた気を撒き散らさないことは言うまでもない。
清らかなものが身近にあれば逆に穢れたものが浮き彫りになることで禍々しい穢れたものを見つけやすくなり、清らかなものと穢れたものを比較しやすくなるのである。
そして、清らかなものと穢れたものの違いがわかりやすくなれば、誤った選択をすることが減少し、正しい選択をすることが容易になる。詰まる所、清らかであることは開運に繫がるということである。
結子や朋友の近くで肉体が清らかな気を浴びるということは、本人が気づいていないだけで自らの体内毒素も抜けやすくなるばかりでなく空間の穢れを繊細に体感する感覚も増すのである。
その恩恵は計り知れないものであり、生命が正しく進化するための最も大切なものを享受しているのだということを松島と町井は鈍いが故にまだ理解していない。
境内の空間に意識を広げ空間の善し悪しを体感している朋友の表情はサークルツアーの下見というよりは、明らかに真剣味を増していた。結子は自分が体感していることを朋友も感じているかどうか確かめるように朋友に尋ねた。
「朋友、わかる?」
「あぁ、よくない奴がいるよなぁ」
真剣な眼差しの朋友は、結子からの問いに即答した。
肌に染み込んで来るような境内に漂う
「何か、ここ、変な臭いがする・・・」
「うん、言われてみれば、確かに・・・」
感度が増している町井や松島もよい感じがしないことは理解出来ている。
「居たわよ! 見える?」
「あぁ、見えるよ!」
結子からの問いに答える朋友は、御神剣がなくても穢れた存在が見るようになるまで清まり進化していた。
結子と朋友が凝視する仏像は、仏様ではなく悪臭を伴う穢れた気を撒き散らしている魔物が入り乗っ取っていたのである。結子と朋友には、その様子がはっきりと見えていた。
結子と相談しながら目の前に居座る魔物をどのように始末するのか、解決策を思案する朋友・・・この日は
朋友が結子の代わりに仏像に入り込んでいる魔物を倒そうと集中力を高めた
右手に鮮やかに輝く澄んだ錫杖を持ち、反対の手には天然石で出来た気品のある数珠を持った男は
清浄な物腰で穢れた異形な存在を
「凄い!」
仏像を見つめて感心する結子の側で何が起こったのか理解できていない松島と町井は、互いに顔を見合わせて呆気に取られている。
その男は・・・なんと源昭心であった。
「源くん、見えるんだね! ありがとう!」
「お前も見えるみたいやなぁ」
昭心に感謝の言葉を伝える結子を見つめながら関西弁で返事をする昭心は、朋友の視線を感じて朋友を見返すものの朋友とは言葉を交わさない。
「みんな、紹介するね、転校生で私と町井さんのクラスメイトの源昭心くん」
結子が朋友と松島に昭心を紹介した。
好かない表情の朋友とは対照的な松島は、いつものノリの良さ全開で昭心に挨拶した。
「将来は仏さんになるの?」
「のぞみちゃん、それを言うならお坊さんだから!」
昭心の実家がお寺だと聞いた町井の問いに対して松島は優しく諭した。
「あっ、そっか!」
松島からの言葉を鵜呑みにする町井の返答に呆れ返りながらも押し黙ったままの昭心ではあるが・・・
「『あっ、そっか!』やあるかい! 坊主と
人知れず心の中で関西人にとって当たり前のツッコミを入れている昭心を必要以上に意識する朋友の対抗心を感じた結子は朋友に視線を送る。
「誰かさんより、ずっとしっかりしていて頼りになりそうね」
「何だよ、その言い方は!」
「何よ!」
結子に褒められても表情を変えることも無く、また魔物を倒しても
今後の人生において心強い仲間との出逢いであることを此の時の朋友はまだ気づいていなかった。
数日後・・・
職場から帰宅した健彦に手料理を振る舞う鏡子。結子は撮影で帰宅が遅くなることから、ふたりでキッチンテーブルに腰を掛け夕食を味わいながら仲睦まじく会話していた。
健彦は混雑した都内での忙しない仕事ではなく、田舎での新しい職場で落ち着いて仕事が出来ることに安堵していた。そして、そんな健彦の嬉しそうな気持ちを感じた鏡子も微笑ましい気持ちになり安心していた。鏡子の気持ちを察しながら職場にもだいぶ馴れて来たことを健彦は偽りの無い笑顔で鏡子に伝え、ふたりの会話が弾む。
結子と同じように健彦も幽霊を見ながら生きて来たことを健彦と出逢ってからの長きにわたり気づくことが出来ずに事実を知らなかった鏡子。健彦の箸が進む中、鏡子は自分には見えない幽霊について健彦に幾つか尋ねてみた。
健彦は鏡子からの問いに対して東京ほどではないにせよ、栃◯でも幽霊を見かけること。幽霊を見るのは視覚だけを駆使して見る訳ではなく全身で感じて捉えること。人の霊以外にも妖怪というか、魔物というのか、穢れが集積している存在がいることを鏡子へ丁寧に伝えた。
「魔物とか幽霊は恐いから、貴方に任せるわ!」
離ればなれになっていた時間を取り戻すように和やかで穏やかな暮らしができていることに感謝するふたりは、互いの顔を見合わせ微笑むのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます