第59話 捜査開始
アイナが言っていた幽霊ホテルはケイオンの郊外にある山の中にあった。
山の中と言ってもそこは百万人都市の郊外。
山の周囲にも住宅街があるので山というよりは丘に近いほどであった。
その山自体がちょっとした自然保護区域になっているので特に人の手が入っていない。
それにはちゃんとした理由がある。
「……なんでここだけ自然を残してあんだろ?」
「この山はバルドーをする戦域になっている。ホテルはその戦域外であり、尚且つ住宅街からも外れてる。こういった穴場は居住区にも商業区にも工場区にも適さない。そうなると使い方も限られてくる」
そうハーマが説明する。実際に戦場など使われる強化服「バディル」を着るバルドーは戦争系クラブの中でも最も荒っぽい部であると同時に流れ弾で人死にが出ることもある。
これはバルドーで使われる弾が泡玉という中がスカスカの弾を使うのだが、バディルは貫けなくても人体は貫通する。
当然ながらそんなもんが近くにあるここでは……
「倉庫や資材置き場に使われることが多く、最終的に人目が付きにくくなり、人目を忍ぶ奴が動く絶好のスポットになる」
「つまりはラブホを作りやすいと……」
「そういうことだ。ちなみにもう一つの山の上はデートスポットにもなっていてな。そこの坂は週末の夜になると坂道に止めてある車が増える。一体何をしているのやら……」
「あ~……」
ハーマがにやにや笑いながら説明する。意味がすぐに分かったイナミは顔が赤くなる。
「おや? 何を想像したのかな?」
「な、なにも想像してないもん!」
真っ赤になって答えるイナミ。ティカはきょとんとしていてエルメスは苦笑している。
「……にしても」
圭人はちらりとハーマの姿を見て苦笑する。
「なんつー恰好してるんですか?」
ハーマの姿は一言で言えば白いつなぎに身を包んだゴーストバスターズと言おうか。
後ろにでっかいアンテナがついたリュックサイズの機材を担いで手には大砲みたいなものを持っている。
「これが科学式の除霊方法だ。科学の世界では霊魂は電気と関係していると言われている。そのため、高圧電流を流すと霊が消えると言われているのだ」
「なるほど……」
ハーマの説明に一応納得する圭人。
「ほんでこっちは?」
「魔法式の除霊方法です! 昔から除霊と言えばこれです! 」
髑髏とお祓い棒と数珠を全部乗せした杖を持ったイシュタが答える。
こちらは白い羽織のような上着に同じように白く長いワンピース。
アタマに変なものが無数についた冠を付けている。
除霊というよりは呪いをかけに行くようなスタイルだと圭人は思った。
「調査の依頼だったんだけど……」
アイナが冷や汗を垂らしながらつぶやく。
こちらは普通に登山服のような服を着てアウトドアスタイルになっている。
登山服は地球と大きな差は無く、普通に動きやすい服になっている。
普通はダサくなる登山服もうまく着こなしているためか、かなり決まっている。
「なんか大事になっちゃってすいません」
「え? い、いいのよ! 別に除霊してくれるのなら全然そっちの方がいいし!」
慌てて答えるアイナ。
圭人、エルメス、イナミ。レイは普通にバルシャ(ジャージ)で来ている。
「荷物とかは私の車に乗せておくね」
そう言ってアイナは乗ってきた車を指さす。
この世界では自動運転が当たり前なので早ければ16歳で自動運転限定免許は取れる。
もっとも、車はこの世界でも価格帯はあまり変わらないのでアイナの年齢で車を持てるのは金持ちぐらいである。
(やっぱ金持ちなんだなあ)
持ってる車も10人乗りのでかいワゴンタイプである。
運転席はこの世界の仕様で一人用になっているものの、後部座席が三列になっているでかいワゴンだ。これに加えて単車も持ってるんだから羨ましい。
「準備はいい?」
「無論だ」
「バッチリです!」
元気よく答えるハーマとイシュタ。
「じゃあ、ついてきて」
そう言ってアイナを先頭に幽霊ホテルへと入っていった。
その様子を木陰に隠れて見ている者が居た。
「・・・・・・・・・・・・」
それはにやりといやらしい笑みを浮かべて物陰に隠れながらホテルへと近づいて行った。
ホテルの中は予想通り荒れまくっていた。
そこかしこに壁や天井から剥がれた資材が落ちている。
とはいえ、造り自体はしっかりしているのか足元が揺れたりはしておらず、歩きやすくなっている。
「このホテル……元々はバルドーする際の宿泊施設だったの」
懐中電灯で前を照らしながら先導するアイナ。
「それが戦争の煽りで売却され、そのままホテルとして運用してその後、持ち主を転々として今に至ったみたいなの」
そう言って半分取れかかったドアを開く。中は普通の個室でベッドなどはまだ使えそうだった。
「ふ……」
不敵な笑みを浮かべるハーマ。
「よくある話だな」
「うう、怖いよう……」
明らかに怖そうなイナミは周りにびくびくしながら歩いている。
「どうした? イナミ君?」
「だ、だって! こんなところ幽霊が出そうじゃない!」
それを聞いてハーマはがくりと転びそうになる。
「幽霊を見るためにここに来たのだろう?」
そう言ってハーマは呵々大笑した。
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