第28話 意外な答え

 あれからすぐに圭人は教室に戻り、授業中以外は全て端末の事件情報とにらめっこしていた。


「・・・・・・・」

「ねぇケート」

「・・・・・・・」

「ケートってば」

「・・・・・・・」

「・・・・ふぅ、ダメだ」


 昼休みに黙々と端末を見つめる圭人にエルメスが何度か声をかける。

 だが、何度かけても真剣に端末を見つめる圭人の姿についに諦めた。


「仕方ないよ……吸血鬼のせいで学園を巻き込む大喧嘩に発展したんだから」

「でもケートは悪くないよね? 」

「それとこれとは別よ。私だってタマノねぇが心配だし……」

「……心配」


 そう言ってイナミも端末でデータを見ている。

 だが、いつまでったっても答えが出ない。


「イナミー。ケートはいるー? 」


 突然教室入り口から声がかかった。


「こっちにいるよー。どうしたのー? 」

「ケートに会いたいって子が来てるよー。ほら入って」


 そう言って教室入り口にいる子が中に入ってきた。


「え? 他校の生徒? 」


 入館証をつけた青髪犬耳の女の子が中に入ってくるのだが……


「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!! 」


 入るなり叫んだ。


「なんだ? 」


 さすがに凄い悲鳴だったので圭人が端末から目をあげる。


「な、なに? 」


 エルメスがいきなりの悲鳴に呆然とする。

 悲鳴をあげた子が震えながらティカを指さす。


「きゅ……吸血鬼! なんでこんなところに! 」


 そこでやっと圭人も気が付いた。


「あの時の被害者か! 」


 顔に見覚えがあったのですぐに気付いた。

 河川敷で助けた少女だ。慌てて女の子に駆け寄る圭人。


「違うよ! 吸血鬼じゃない! 」

「だって! 私見たんです! 」

「よく見て! 吸血鬼は角生えてなかったでしょ! 」

「あ……」


 そう言われてやっと気づく少女。

 照れくさそうに犬耳少女は笑いながらぼやく。


「すみません……襲われた事があるのでつい……」

「知ってるよ。目の前で見たから」

「……え? 」


 言われてようやく少女も気付く。

 目の前の男の子がなんなのかを。


「ひょっとしてケート・クヨウ・セイシュさん? 」

「そうだよ」

「す……すいません! 」


 そう言って謝る少女。


「知り合い? 」

「前に助けた女の子だよ」

「あ~ ……あの時の……」


 あの時の醜態を思い出して苦笑するエルメス。


「その……一度きちんとお礼を言おうと思いまして……どうもありがとううございました! 」

「別にいいのに……」


 がばっと頭をさげる少女とポリポリと頭をかいて居心地悪そうにする圭人。


「それで……今日はちょっと聞きたい事があるんですけど……」

「……なんだい? 」


 ちょっとだけまたかと思いつつ圭人はしぶしぶ答える。

 どうせ吸血鬼についての話しだろうと思っていたが、少女の言葉は思いもよらない事だった。


「その……兄がこちらに来ていないでしょうか? 」

「……お兄さん? 」


 怪訝な顔をする圭人。

 周りにも聞いてみるが誰一人として知らない。


「来てないみたいだけど? 」


 圭人がそう言うとほっとしたように胸をなでおろす少女。


「よかったぁ~ ……兄がシムラーの連中は全員ぶっ殺す! と息巻いていたから何かしたんじゃないかと思って……」

「……ちょっと待って」


 圭人背筋に嫌な汗が出てきた。

 なんだか聞いた事があるような展開だ。


「君のお兄さんの名前は? 」

「オイドって言います。何か知ってますか? 」

「やっぱり! 」


 頭を抱える圭人。

 唖然とするクラスメート。


「吸血鬼よこせって妹の仇打ちかよ! 」

「あのー。ひょっとして迷惑かけてます? 」


 顔を青くして尋ねる妹さん。


「じつはね……」


 エルメスから事情を聞いて青人の青い顔をさらに顔を青くする妹。


「……どうしよう」


 心底困った顔の妹さん。


「兄さんは人の話し聞かない人だから……今から話しても無駄かも……」

「……なんかそんな感じだねぇ……」


 疲れたようにつぶやく圭人。

 おろおろする妹さん。


「どうしましょう? 」

「どうかしてほしい」


 若干投げやりになり机にだらんと突っ伏す圭人。


そこに……


 ぷーん


 蚊が一匹だけ目の前を通った。

 イライラしていた圭人は両手を構えて……


 パン!


 叩いた。手を開いてみると蚊が死んでいる。


「どうしたの? 」


 不思議そうにエルメスが尋ねる。

 何も言わずに無言で手を見せる。


「ああ~蚊ね」


 エルメスが納得すると同時に圭人はぱっと手に付いた蚊を払う。


「吸血鬼もそうだけど、何でこいつら血を吸うの? 」


 イライラしながらつぶやく圭人。


「産卵のためらしいです。すいません」


 なぜか謝りながら答える犬耳少女。


「なんでも産卵のために雌が血を吸うらしいよ」


 エルメスが苦笑しながら答えてくれる。

 それを聞いてやる気なさそうに答える圭人。


「ふ~ん……ん? 」


 圭人の動きがぴたりと止まる。

 そしてやる気なさそうに端末を操作する。


「どうしたの? 」

「あ~ちょっとだけ気になる事があって」


 そう言って端末を操作して目当ての情報を探り当てる。


 そして圭人は凍りつく。


「……なん……だと? 」 


 圭人はかちりという歯車がかみ合う音が聞こえた気がした。

 端末をめまぐるしく操作する。


「そしたら……」


 かちりかちりとどんどん歯車が合わさる。


「それならこれは……」


 端末のデータがめまぐるしく動く。


「つまり……」


 そして……真実に至る。


「わかった! 」


「きゃ! 」


 急に立ち上がる圭人に驚く少女。


「ど、どうしたの! 」

「なに? 」


 全員が圭人に注目する。


「吸血鬼の正体がわかった! 」

「……本当に? 」

「本当ですか! 」


 エルメスと少女が口ぐちに言う。


「さすがケート! ……で、犯人は誰なの? 」


 イナミが聞く。それに対して自信満々に答える圭人。


「犯人は__________だ! 」


 全員が凍りついた。


「そんなバカな……」


 エルメスが苦笑する。


「さすがにそれはちょっと……」


 イナミも苦笑した。

 それぐらいあり得ない正体だった。


「それはこれから証明する。ちょっと待ってて」


 そう言って端末を操作してすぐに電話をかける。

 かけた先は……


「はいはいオニテ刑事です」


 警察署で会った刑事さんだった。


「刑事さん! 吸血鬼の正体がわかった! 今送ったデータを調べて欲しいんだ」

「ホントかい? 嬉しいねぇ……それで犯人は誰だい」

「____だ! 」

「……ケート君。大人をからかっちゃいけないよ」


 やっぱり信じなかった。


「ダメもとでいいからさ、今送った事調べてよ」

「はいはい……」


 そう言って電話口で操作する音が聞こえる。

 その間も説明を続ける。


「________は_______ために_________が必要だったんだ」

「はいはいなるほどねぇ……ってこれは……」


 電話口で絶句する声が聞こえる。


「これは凄い。君の言った通りだねぇ! 」

「でしょう! 」

「でもこれだと警察は動けないねぇ……」

「どうしてですか! 」

「いまだに仮説の域を超えないからだよ。せめて捕まえてくれると証明できるんだけどねぇ」 

「……わかりました! じゃあ捕まえます! 」


 そう言ってがちゃりと電話を切る。


「どうだった? 」


 エルメスが心配そうに聞いてくる。

 だが、自信満々に答える圭人。


「思った通りだった。これから吸血鬼を捕まえに行くよ! 」

「……これからって……まだ授業あるんだよ! 」

「遅れたらタマノ姉さんが危ういかもしれない! 急がないと! 」


 渋るエルメス。だが……


「私行きます! 」


 妹さんの方が名乗り出た。


「本当かどうかわからないですけど私の責任でもあるので頑張ります! 」


 少しだけ震えながら答える少女。


「……私も行く」


 ティカが手をあげる。


「……ケートの言う事信じる」


 それだけ言って圭人の横に寄り添う。


「あたしも! 」


 イナミが手をあげた。


「まだ信じられないけどタマノねぇが戦ってるのに私だけのんびり出来ない! 」


 そう言って立ちあがる。それを聞いてふっとため息をつくエルメス。


「じゃあ早く行こう。ばれないようにね」


 エルメスがそう言うとガラリと戸が開く。


「はーい。みんな席についてくださーい」


 キナミ先生が入ってきて速攻でバレた。それを見て圭人がすぐに廊下へと飛び出す。


「先生ごめん !ちょっと早退します! 」

「……え? ちょっとまちなさい! 」

「急ぎますんで! 」

「え? 何? どういうこと? 」


 キナミ先生の言葉に答えずに5人は走り去った。

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