第17話 魔の森開拓
「魔の森を探索する」
俺の宣言に冒険者たちが色めき立った。もともと一獲千金を夢見て命がけの冒険に出ることを夢見ていた連中だ。
ボスが倒されて魔物が減った状態の森は、まさに宝の山だろう。
「おつかれー」
王都から追加の冒険者たちを率いてやってきたチコさんがいつものへにゃっとした声で俺の宣言に応える。
「ねーねー、領主様。ギルドはいくらお納めすればよろしいので?」
「それなんだがな。確認したい。ギルドは王家とは別の独立した組織、だよな?」
「ええ、税は払ってるけど一切支援とかは受けてないわよ」
「じゃあ、そのうえで聞く。クルツバッハだけでも俺の配下にできないか? 俺も元冒険者だ。ギルドの力が及ばないところで領主として支援したい」
「ふむ……」
チコさんはほほに手を当てて考え込む。
文言はともかくとして、ギルドの独立性を差し出せと言っているのだ。仮に支援を求められるとしてもいくら吹っ掛けられるやら……。
「いいでしょ」
「お、おう?」
「クルツバッハだけとかけち臭いことは言わないわ。全ギルドは「勇者ルーク」と盟約を結びます」
そうきたか。って、全ギルド?
「あ、あたし冒険者ギルドの代表権もってるのよね。グラン・マスターってやつ?」
「はい?」
ギルドの上部組織があることはよく言われていた。そして、それが謎に包まれていることもだ。全ギルドを統括するマスターの存在もまことしやかに語られていたが、そもそも実在すら怪しまれていたのだ。
「んー。ルークきゅんのことはよく知ってるし、勇者、だしね。だから、いいよ」
「そんな簡単に決めていいのか……?」
そう問いかけたとき、チコさんの表情が変わった。いつものふにゃりとした笑顔から、冷徹な女王の顔に。その顔を見て、俺の背筋にゾクリとしたものが走った。
これはああれだ。逆らっちゃいかんやつだ。母上と同じ種類の相手だ。
「いいのいいの。だからね、ぜーんぶあげるから受け取ってね? あ、返品は不可でーす」
「……わかり、ました」
「んー、聞き分けのいい子は大好きだよ! いいこいいこ」
なんかへたり込んだ俺の頭をぺしぺしと撫でるというか叩く。子ども扱いされているが、なんというか、格が違った。
「王家に払ってた税はどれだけだったんだ?」
「んー、ギルド収益の1割」
「じゃあその半分でいい。それでも全ギルドから上がる金は膨大だろう」
「まあねー、ちなみに先月の収支表がこれね」
「……ぶはっ!?」
そこで動いている金額はクルツバッハの年間予算より多かった。
「あるとこには、あるんだなあ……」
「あ、それでね。お願いしたいのは税は今まで通りの金額払うから、その半分を冒険者の支援基金として運用してもらいたいの。傷病者や亡くなった人には見舞金を出してるんだけどね……」
「それを肩代わりすればいいんだな。了解だ」
「んじゃ、明日にも告知だすねー」
えらい軽い口調で言われた。そして次の日には国内すべてのギルドに、本当に通達が行っていたらしい。
曰くギルドは勇者と盟約を結び、その指揮下に入ったこと。魔王討伐を全面的にバックアップすること、そして勇者の名で冒険者支援の基金が発足したこと。
魔の森の開放と、同時にギルド管理下に入ったことも告げられた。
さらに採取された素材のサンプルの目録が公開された。
数日で、クルツバッハの宿がパンクした。城門周辺でキャンプしている者も多い。一気に数千の冒険者が集まってきて、その場で仲間を募り森に入って行く。
「ねね、ルーくきゅん。ちょーっとお願いがあるんだけど」
「ん? どうした?」
執務室で膨大な書類と格闘していると、チコさんがやってきた。
「金貨が足りなくなってきたのね。だから公債、出してくれないかな?」
「こうさい??」
「ええ、金貨引き換えの書面といえばいいかなあ」
「偽造されないか?」
「そこなのよね。聖女様の浄化魔法で何とかならないかしらね?」
「できますよ?」
隣で作業していた聖女様がまたなんか電波を受信したようだ。
「できるの!?」
「ええ、判定(ジャッジ)の魔法の応用で何とかなると神様が」
「それだ!」
チコさんがアナスタシアの手をつかんで執務室から出ていく。ドアが閉まった時の衝撃でアナスタシアが見ていた書類が崩れて俺のデスクの上に降り注いだ。
上がってきた報告を見るとえらいことになっていた。そりゃ金貨も枯渇するわ。
銅貨100枚で銀貨、銀貨100枚で金貨というレートで、金貨1枚あれば1か月ほど暮らせる。宿に泊まって食事もできるという感じだ。
兵士一人の月給が金貨1枚銀貨50枚といった感じだ。
そして採取されてきた素材が、これまでは希少でほぼ出回らなかった金属や樹木、薬草などだった。それこそ金貨100枚単位で取引されていたものが、ギルドの素材預り所に山積みされている。
値崩れが心配されるが、そこはギルドがうまく調整するそうだ。まあ、高品位の薬草が出回ることと、その値が下がることで人助けになったらいいなーとは思う。
そして、ついに待っていた報告がもたらされた。
ダンジョンを発見したとの報告だ。
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