三の二
「はい、みんな気になってしかたないだろうから、最初に紹介しとくぞ」
開口いちばん、
「今日からお前らの仲間になる、
じゃあ自己紹介どうぞ、と軽い振りに、小町は生徒たちにむかって軽く頭をさげてから語りだした。かたずをのむように見つめる生徒一同。
「今日から、皆さんのお世話になります、音羽です。家族の都合で突然なのですが、この学校で学ばせてもらうことになりました。どうぞ、よろしくお願いします」
ほがらかに、さわやかに、紹介を終える美少女。
ある生徒はそのはちきれんばかりの胸に、ある生徒はその端麗な顔立ちに、すっかり見とれてしまっていたが、話が終わるとともに、誰からともなく拍手が巻き起こった。
いつまでも鳴りやみそうもない拍手の渦に、服部先生が、はいはいもういいだろう、と手を振ってとめにはいる。
続けて服部先生、じゃあ、悪いけどしばらくは、あの一番すみの席でがまんしてくれ、といつの間にか教室後ろの出入り口の前に増えていた机を指さす。
はい、と綺麗な声音で答えて、小町が席に向かう。
彼女の歩行とともに、少し癖のあるポニーテールの金髪が優雅に揺れる。
小町の歩みに同調して、いっせいに首をまわす生徒一同。
小町が席につくのを待って、服部先生は、じゃあいいかげん前向け、お前ら、と生徒たちを叱ってから、今日の連絡事項を伝えて、教室を去っていった。
一限目の授業が始まるまでのあいだ、小町の周りの女子が何か話しかけているのが、あぐりの席からみてとれた。
日頃ナンパな男子生徒さえ、近寄りがたいのか、ながめるだけで声をかけようとしていない。
小町は、どこか、人を寄せつけないような雰囲気をただよわせているが、周りの女子とはにこやかに話しているようだ。
紫は、なにか面白くない顔で小町をみている。
「なにユカちゃん、妬いているの?」
「ちげえよ」
「カワイイし、スタイルもいいし、頭も良さそうだし、妬けるというか、うらやましいよね」
「だから、そんなんじゃねえんだよ」
「じゃあ、なによ」
「なんか、こう、なんかさ」
「なんか?」
「なんか、生理的に気に入らねえんだよ」
「ダメよユカちゃん。生理的に他人を嫌う人は、他人からも生理的に嫌われるわよ」
あぐりがたしなめると、
「へいへい、わかりましたよ」
などと紫はふてくされてしまった。
そんなこんなで、あぐりは終日、転校生に話しかける機会がないまま、放課後をむかえてしまった。
あぐりはずっと間断なく音羽小町という生徒を観察していた。
授業中、教師から質問されても的確に答え、体育の授業でもバツグンの運動神経をみせ、周りの生徒たちともすぐにうちとけるコミュニケーション能力も持ち合わせていて、非の打ちどころのない女の子だった。
これは、紫でなくても嫉妬してしまう人も出てきそうだ。
いつもの帰り道であぐりと紫の会話も、しぜん、音羽小町のことが中心になっていた。
紫はあいかわらず小町にたいして不信感のようなものをいだいているようだが、あぐりは一日観察した結果から、そうは思わなかった。
「だって、あんなにすぐに、みんなと仲良くなれるんだよ。きっといい子だと思うの」
「けっ、コミュニケーション能力の高い悪党なんぞ、この世にははいてすてるほどいらぁ」
「ユカちゃんは、ものごとの悪いところばかりを見すぎ」
「あぐりこそ、物事のホンシツが見えていないね」
「もっと素直な目で、人を見なよ」
「へいへい」
と、また紫は朝に続いてふてくされてしまった。
ふと、あぐりが前に目をやると、金髪の女子高生が歩いている。優雅にゆれるポニーテール、白いブラウスに紺のスカート。間違いなく音羽小町の後ろ姿だ。
不意に視界にはいった彼女の姿に、
――いつの間に前を歩いていたんだろう。
とは疑問に思ったものの、すぐに彼女に対する好奇心にゆさぶられる。
ねえねえ、とあぐりは紫をヒジで小突く。
「ちょっと話しかけてみようよ」
とあぐりが言うのに、
「やめとけよ」
と紫がとめようとしたが、あぐりは聞き流して小町に走りよって、
「音羽さん、音羽さん」
と声をかける。
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