真実の境界線

流々(るる)

第一話 山奥。洋館。殺人。

 曲がりくねった細い山道を登っていくと連なっていた左右の木々が突然途切れ、左手にその洋館が現れた。

 深みがある赤茶色のレンガは苔むした緑の目地とのコントラストを奏でている。デザインされたアーチ状の窓、勾配の急な屋根には濃灰色の玄昌石スレート、どれもがこの館に風格と趣きを与えていた。

 人里離れた洋館で過ごす非日常――それがこのペンションのキャッチフレーズだった。

 砂利敷きの駐車スペースには側面にペンションのロゴが入った白いワンボックス、そして黒のミニバンとシルバーのワゴンが停まっている。

 正面の車寄せの右にはハーブ園が拡がっていた。標高が高いため、涼しく雨の少ない気候が適しているのだろう。複数種のタイムやミント類、ローズマリーなどがエリアごとに植えられていた。

 レッドオーク材の重厚な玄関扉を開けると、カウベルの軽やかな音が響く。吹き抜けのホールには高窓から日差しが射し込み、右手には二階へと続く階段が伸びている。

 階段の正面にある両開きの扉をあけると、天井の高い食堂となっていた。柱の頂部には木肌をあらわにした梁が組み合わさっている。二十名ほどが座れるテーブルと左奥には黒いグランドピアノがあり、窓からはハーブ園と山頂への散策路を目にすることが出来た。

 そして、ピアノの右手前には白いシーツがに掛けられている。


 この部屋に集められた九人――その内の一人、黒石が何かを語ることは二度とない。

 おそらく、酒に即効性の毒物を入れられたのだろう。シーツの下で苦悶の表情を浮かべたまま静かに横たわっていた。

 警察には通報済だが、すぐに到着できないことも横山からの話で分かっている。街へ降りようとした彼が戻ってきて言うには、山道の途中で倒木があり通行できないというのだ。この状況の中、蝶ネクタイ姿で恰幅の良い中年男性が口を開いた。

「この場に私こと、名探偵・丸田寅之助がいたことはみなさんにとって幸運でしたな。先ほどみなさんからのお話を聞き、黒石さんを殺した犯人が分かりました」

 丸田を見つめる七人の間に緊張が走る。

「黒石さんを殺したのはあなたです!」

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