夏、花冠を賭す。
朔 伊織
14 二人の願い
いつかのように、又肩を並べることがあるのだろうと。
在りし日のように、笑い合える日が来るのだろうと。
勝手に思い込んでいた。否、信じていた。
だって、友人だから。あれだけの長い時を共に過ごせていたのだ。同程度の年月を会わずとも、つい先日あったかのように、笑って酒を酌み交わすくらいできるはずだった。懐かしい話をして、酔い潰れて、でもそれが気持ちよくて。あの二人も呼びつけてそのうち宴会と化すのだ。どんなに忙しくても必ず来てくれる確証があるから、安心して酒を買い込めた。どれだけ時が過ぎたって話題は尽きない。忘れられない記憶を振り返り今を言葉にする。
そうして二人が先に眠りについた後、二人だけで月見酒をする。縁側で、行灯を灯して、原稿用紙を広げる。額と額をつき合わせて講評をした後、微かに唇に笑みを乗せるんだ。細い指が文字をなぞって、それを追いかける。懐かしいような、沈むような感覚に酔って、互いの言葉を酌み交わせばあとは月だけが知る秘密が生まれる。あの細い線と病的なまでに美しい目にはきっと誰も逆らえないと思うんだ。薄い唇にも。滑るように詩を口にするあの整った赤色は無性に口付けてしまいたくなる。あれが僕のも自分のも唄っている様はなんとも形容しがたい。
背徳の美。それが一番合っているのだろう。右手と左手。どちらのものかわからなくなってしまうくらい強く強く、指を絡ませ、それでも足りないと肩を寄せ合った。恐らく、陶酔していたのだろう。そういう関係に。何人たりとも介入できないあの空間を、何時迄も感じていたかったのだ。何処までも似ていたから、何処までも信じることができた。その、一般からしてみれば可笑しい言葉も、理解してくれると知っている。如何しようも無いこの感情を理解してくれるから、手放せないのだ。限りなく近い目と目を見、溶ける様はなんとも形容しがたいのだから。
依存と依存。絡まってしまえば奈落の底に落ちるばかり。
僕は彼を自分に依存させることで自らの意義を確立させ、だけれどいつしかそれに疲れてしまった。
その罰が、あのこ。
俺は彼に凭れることで自分が限りなく特別に近い存在だと立証して、だがそれが偽証であることに気がつく。
その罰が、一人。
全部知っていたのに。
お互い、お互いがいないと駄目なのに、自ら手放した。
才があるかないかなど気にしなくていい問題だったのだ。
ただ、そこにいてくれるだけでよかったんだ。
そうすれば、幕は上がったままだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます