第44話 終わりに見た光
そして今朝、民が
一方、
するとそのときだった。
「ジャヌビアさ――ん、ルセフィさ――ん」
頭上からやけに明るい声が聞こえてきた。ジャヌビアが空を見上げるとそこには上空で翼を広げるテネリアがいた。風の民のテネリア、翼を持つ彼は方法は異なれど光の民同様に空を飛ぶことができる。それならばと考えた光の民たちはオングリザ先生発案の方法で彼への指導を試みた。その結果テネリアは未熟ながらも転移の
「頑張ってみましたがやっぱり付け焼刃だと厳しいですね。ここまで来るのに刻んで刻んで日の出を二回も迎えてしまいましたよ」
「テネリアさん、ついに転移の
「それなら帰りは光の人のお世話にならなくてもテネリアがルセフィとお兄ちゃんを連れてってくれるんでしょ?」
思わぬ知った顔の登場にルセフィもいっしょになってはしゃいでいたが、すぐにリバロが冷めた声で割って入った。
「おいおい、仕事はまだこれからだぜ。そこの
「は、はい、リバロさん」
思わず姿勢を正してそう返事するテネリアの肩にルセフィが腰を下ろして聞こえよがしに声をかけた。
「お高くとまった
そんなルセフィの軽口などどこ吹く風、いよいよリバロが息を整える仕草とともに目を閉じて何かをつぶやき始めた。神殿に待機する光の民の参謀シナールと疎通ができたのだろう、リバロは街区の民の前で声を上げた。
「これから俺とそこの
街区の民から一斉に声が上がる。彼らを挟むようにリバロとテネリアが向かい合わせに立つとリバロが目を閉じて詠唱を始めた。すると街区の民は光に包まれ、その光が消えたとき、そこに全員の姿はなかった。
「よお、お疲れさん、
リバロはその場で光となって飛び立ち、テネリアはジャヌビアとルセフィを服の胸元に押し込むと空高く飛び立ちながらその姿を大気に同化させていった。
神殿の前では二回目の祝砲と時を同じくして突如現れた
その一方で街区の民たちは覚えたての破裂玉を放ってみせる。威力は及ばないものの詠唱なしでのまさかの出来事に兵士たちは混乱した。
「こいつら
「本当に
「だとしたらこれは叛乱だ。
しかし見張り役の衛兵だけでは多勢に無勢、徐々に圧倒され始めてついに神殿の扉が開かれてしまった。なだれ込む街区の民たち、そこにはテネリアとジャヌビア、そしてルセフィもいた。衛兵のひとりが救援を求めて上空に
神殿の壁際には突然の騒乱から我が身を護らんと身をすくめて様子を見守る少女がいた。ウルスラグナの侍女ネシーナである。彼女はウルスラグナが無事に出立できるように、ただそれだけを願って神殿の中心で輝く光の柱に向かって祈るばかりだった。黒髪で黒い瞳のネシーナは侍女とは言えその素性は
ついに暴徒の中から金色の髪を伸ばし放題にした青年が騒乱をかき分けて光の柱の前に立った。その青年こそが街区の民でありながら
「まさか、詠唱?
ネシーナは狼狽した。ウルスラグナの身に危険が迫っている。とにかく青年を止めなければ。彼女は震える足に力を入れて立ち上がる。そして男に駆け寄ろうとした。 しかし時すでに遅し、青年の手には光る水の球が浮かんでいた。
「ダメ、それを放ってはいけない!」
ネシーナもまた右手を目いっぱいに伸ばして叫ぶ。
「神様、どうかウルシャを、ウルシャをお守りください!」
そのときだった、ネシーナの黒い髪が燃えるような
「あれは、ネシーナさん。まさか今ここで加護と祝福が発現したのか?」
「お兄ちゃん、あの人、どうなっちゃうの?」
「わからない。でも二つの種族がせめぎ合うあんな姿を見たのは僕も初めてだ。彼女がどうなるかは神様にしかわからない」
ネシーナが広げる手のひらに小さな炎が浮かぶ。それは高温の火球に収斂してやがては青白い輝きとなった。青年の口元が「
ひび割れる光の柱、同時に後方へと吹き飛ばされる神官たち、ついにウルスラグナを包む青い光の柱は閃光とともに消滅した。そしてジャヌビアもルセフィもこの世界で目にしたそれが最後の光景だった。
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