第24話 残留魂

「とりあえずこの町に、バラシアの親父はいないということは分かったな」


「どこにいったんだろーね」


 俺達は一旦集まり話し合いをしていた。


「死ぬかもしれないと言っていたという事は、危険な場所に行ったということでしょうか?」


「そうだろうな」


「でも、死んでいないんだろう? ペレス殿の話では」


「ああ、死んでいたらあの時、蘇生していたはずだからな」


「……私は、あなたが本当に死者蘇生出来ると、信じたわけではないですがね」


 バラシアは疑いのこもった目で俺を見ながら言ってきた。


「まあ、アタシもそんなに信じてないわね」


「私もー。だって、ありえないよね死人が生き返るなんて」


 アイシャとミナも疑ってくる。


「なら、ここでお前らを殺して、生き返らせれば信じてもらえるか?」


「「ごめんなさい、信じます」」


 2人は汗をかきながら謝ってきた。


「別に脅したわけではないんだが。1度死んでみるのもいい経験だと思うぞ」


「「遠慮しておきます」」


 2人は即答してきた。

 死ぬのを経験できるなんてうらやましい限りなのにな。もったいない選択をする奴らだ。


「ん? そういえばメオン殿はどこにいるのだ?」


 レミが周りを見回しながらそう言う。

 俺もキョロキョロと周りを見てみるが、確かにメオンはいない。

 奴は基本俺の後ろについてきている。聞き込みを手伝うわけでもなく、ただただ付いて来る。かなり役に立たない奴だ。

 今も後ろにいると思っていたが、いないようだった。


 どこに行ったのか? そう思っていたとき、


「待つのじゃー! 何をそう暴れておる!」


 女の声が後ろから聞こえてきた。この特徴的な喋り方は、99パーセントメオンだ。俺は振り向いて確認する。予想通りメオンがいた。


 メオンは、何かを追いかけるように走っていた。

 何を追いかけているのか疑問に思う。ぱっと見やつの前には何もない。


 だが、良く見ると、メオンの前を小さな球が地面をコロコロと転がっているのが見えた。


 その球は、意志を持っているかのように勝手に転がっていた。あの球が何かは分からない。ただ、メオンはその球を必死に追いかけているということは分かる。


 その球は俺の方に向かって転がってきた。足元付近まで来たので拾う。


「お! ペレスよ。良く拾ってくれたのじゃ。さあその球を寄越すのじゃ」


「これ何? 大事な物なのか?」


「大事と言うより、珍しく貴重な物じゃ」


「もしかして、竜王の巣で、珍しいものを見つけた、とか言ってたけど、これがそれか」


「そうじゃ。早く返せ」


 珍しいってのは本当なんだろう。なんせ俺が初めてみるくらいだ。

 ……いや、まあ、絶対に初めて見たとも正直言いきれないが。

 長い人生で忘れている事などいくつもある。この球のことを昔は知っていたのかもしれないが、今は記憶に残っていない。


 俺は返そうと思ったが、ふと球から音が出ているような気がした。耳の良い俺でないと絶対に聞こえないくらい小さな音だ。

 球を少し耳に近づけてみる。


 すると、音がはっきりと分かるようになる。これは……もしかして人の声か?


「何をしておる。早く返さぬか」


「ちょっと黙ってろ」


 俺はメオンに黙るように言って、球さらに耳に近づけた。

 すると、


「出してくれー! 頼むから出してくれー!」


 と男が必死に叫ぶような声が聞こえてきた。


「……もしや何か聞こえるのか?」


 メオンが尋ねてきた。


「出してくれーって言ってるけど。なんなんだこれ。何が入ってるんだ?」


「残留魂じゃ」


「何それ」


「この世に未練がある人間は、極々稀に死んだとき、現世に魂を留まらせる時がある。それが残留魂じゃ」


 あー、何か大昔に聞いた事あるきがしてきた。


「そ、それって幽霊がこの中に入ってるってこと?」


「な、何か怖い」


 アイシャとミナの2人は少し怯える。


「魂はいい研究素材になるが、普通の人間から魂だけを抜き出したりするのは難しくての。こうやって残留魂を使うしかないのじゃ。だからそれはかなり貴重な品じゃ」


「メ、メオン殿? 人間の魂を研究材料に使ってしまった場合、その魂は天界にいけるのか?」


 レミが恐る恐るといった感じで尋ねた。


「いけるわけあるまい。魂は消滅する」


「な! か、可哀想だから解放してやるべきだ!」


「駄目に決まっておるじゃろマヌケが!」


 レミとメオンが口喧嘩を始めた。


「あの、その残留魂は私の部屋にあったのですよね? 私はそんなもの一度も見ませんでしたよ?」


「残留魂は霊視眼という魔法を使わねば見れぬのじゃ。お主は使ったのか?」


「いえ」


「じゃあ、見れぬの」


「……しかし、私の部屋にいたとなると、ドラゴンの魂なのでしょうか? ならば実験の材料とやらに使わせるわけにはまいりませんが」


「いや、ドラゴンの魂ではなかったぞ。人間じゃった」


「人間? 人間の魂が何故、私の部屋に」


「知らぬよそんなこと。そういえば捕らえるとき、俺は娘を見守らないといけないんだー! とか言ってたけのう。ま、研究材料の言う事など、どうでもよいがの」


 娘を見守る? いや……それって……


「これ、バラシアの親父の魂じゃね?」


「え?」


「待ってくれ。死者蘇生の魔法を使って生き返らなかったから、バラシア殿の父親は死んでいないとの話だろ?」


「あの術は天界から魂を呼び寄せる術だ。現世に留まっていたんじゃ、発動できなかった可能性がある。まあ、残留魂になった奴を、生き返らせようとしたことはないので、分からないけどな。とにかく魂を一旦解放してみて、話を聞いてみよう」


「何を勝手な事を言っておる! 駄目じゃ! 返せ! だいたい解放しても霊視眼がなければ、見る事は出来ぬし、球から外に出た状態では霊交信という魔法を使わねば、声を聞くことも出来ぬぞ!」


「俺それ使える。忘れてたけど大昔、暇つぶしに残留魂をいっぱい捕獲してたんだった。速攻で飽きたから忘れてたけどな」


「なんじゃと!」


 返せというメオンの声を無視して、俺は残留魂を解放した。



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