第13話 旅立ち

 俺は宿で一晩過ごした。そのあいだメオンは予想通り起きなかった。

 昼になってもまだ起きない。


 もう待つのめんどくさいし、置いて行くかーと思っていた時、


「ぬ……」


 遂にメオンが目覚めた。


「ようやく起きたか」


「ん……? どこじゃ……ここは……お主は………………ぬお!」


 メオンは俺を見た瞬間、驚いて飛び上がった。


「なんだその反応は。寝起き枕元にゴキブリがいたみたいな反応だったぞ」


「なぜ、お主が……いや、そうか……あの時、我ははお主を殺せず気絶して……ここはどこじゃ?」


「宿だ」


「どこの?」


「ベムサカスって町のだ」


「なぜ我はアジトにおらぬ」


「捕まりそうになったから俺が助けてやった」


「助けた? 何故助けた?」


「成功はしなかったが、せっかく殺してくれようとしてくれた者を黙って見捨てるのは薄情だろう。俺はこう見えてそこそこ律義者なのだ」


「……相変わらずお主はよく分からんやつじゃな」


 メオンは眉をひそめながら俺を見る。


「とりあえずお前に伝える事がある。まず、お前の作った組織の名前忘れたけど、何とかって奴は潰されたらしい」


「何と」


「それで、えーと……あれ? もうないか……? とりあえずここは街中だから、気をつけろよ。じゃ」


 俺はそれだけ伝えて行こうとする。


「待て、どこに行く気じゃ」


「不老不死の呪いを解く方法を教えてもらいに行くんだ」


「教えてもらわなくてよいじゃろう。お主はこの我が殺す」


「気持ちは嬉しいけど、無理だったじゃん」


「気持ちを嬉しがるな! 無理じゃったから今後も無理とは限らん。いいか、我はお主を殺すまでは、お主から離れんぞ」


「うーん。困る事ではないから別にいいけど。お前ほかに研究する事とかないのか?」


「あるが、その前にお主を殺さねば先に進めぬような気がする。じゃらかまずはお主を殺すのじゃ」


「そうか。でも俺は賢者に呪いの解き方を聞きに行くから、付いて来るなら勝手にすればいい」


 俺はそう言って宿を出た。メオンも付いて来る。杖も一緒に持ってきていたので、メオンの手には杖が握られている。


「賢者に聞きに行くじゃと?」


「ああ」


「本当にいるか分からんような連中だぞ。そんな奴らに聞きに行くのか?」


「いないのか?」


「我にはわからん。じゃが住んでおると言われている場所は、どこも人間が立ち入ってはいけないとされている危険地帯じゃ。そんな所にいくつもりなのかお主は?」


「大丈夫だろ」


「……まあ、大丈夫ではあるじゃろうがの」


「大丈夫じゃなくあって欲しいが、大丈夫なんだろうな……」


俺はしみじみと呟いた。


「この辺で一番近くにある賢者がいる場所と言えば西の竜王の巣じゃな。これまた近くにいる人間なら聞いただけで震え上がるような場所じゃな」


「竜王の巣ねー……ずいぶん昔に行った記憶があるがなー……しかし、名前からして人間がいるような場所じゃない気がするんだが、本当に賢者がいるのか?」


「黄の賢者はドラゴンと人間のハーフじゃと言う話じゃからな」


「ふーん、そうなんだ。それで、そんな場所に住んでるのか。じゃ、さっそく竜王の巣に行くか」


「そんな軽い感じのノリで行っていいような場所じゃないんじゃがのう」


 よっぽど恐れられている場所らしいな竜王の巣って所は。

 と言っても、手がかりがあるのなら行くがな。


 俺達が都市を出るため歩いていると、何やら視線を感じる。

 視線を感じる方向をチラリと見てみる。

 何やら3人の人間が、少し遠くにある建物の影から、こちらをじっと観察している。


 ……なんか気持ち悪い。

 俺は高速で動いて、その女達の前に行った。


「なんのようだ?」


「「「ひゃあぁ!!」」」


 3人は同時に悲鳴を上げた。


「遠くから人を見つめるなんて趣味が悪いぞ」


「いや……すまないペレス殿……」


「ん? 何故俺の名を知っている? お前ら誰だ」


「また忘れられてるよ」


 そうすると3人の中で唯一の男がそう言った。


「あのアジトの場所を教えた!」


「あー、アイシャとミナとレミか」


 思い出した。てか、俺の名前を知っている奴はこいつらと、司祭くらいしかいないよな。


「こいつら誰じゃ?」


 メオンが尋ねてくる。


「お前のアジトを潰した冒険者だ」


「ほう」


「ち、違うぞ! 私らは報告しただけで潰してはいないからな!」


 レミが慌てて否定する。いや、お前等が報告したからつぶれたんだろうが。


「で、何で俺を見張ってた? メオンを捕まえたいのか?」


「あーそれもあるが、ペレス殿に用事があるというか……」


「俺に?」


「我々にも色々あってだなぁ……ちょっと付いて来てもらえないか?」


「え? やだ。行く所あるから」


「そこを何とか」


「やだ」


 無駄に時間を延ばしたくはない。


 俺がはっきりと拒絶の意思を示した瞬間、3人が寄り添ってコソコソ話を始めた。

 なお耳の良い俺には内容が全て聞こえていた。


「どうする?」


「あとで待ち合わせをするとか? 終わった後で来てください見たいな感じで」


「この男が守ると思うか? 一度見失えばもう二度と会えんかもしれんぞ?」


「じゃあ、アタシ達も同行してみる? 終わった後、来てくださいってお願いしてみればいい」


「え、え~?」


「ミナって、苦手だよねペレスさんの事」


「や、だって怖いし」


「しかし、同行するというのは悪い手じゃない。長くいればお願いも聞いてもらいやすくなるかもしないし……ここはほかに手がないような気がする」


「うーん……それしかないなら……」


「ペレスさんの許可を得れるか分からないけどね」


「なんだお前らも付いて来る気なのか?」


「「「うわっ!」」」


 俺が声をかけたら3人は大げさに驚く。


「聞いてたのか?」


「聞こえるんだよ。耳がいいから。一緒に行きたいなら別に拒みはしないぞ」


 来ようが来なかろうがどっちでもいいというのが正直なところだ。

 別に俺個人としては、こいつらに特にいい感情も悪い感情も持ち合わせていないからな。


「なんじゃ。我のアジトを潰した奴らが一緒に来るのか? クックックック。寝込みは気をつけるんじゃな」


「ひぃい」


「や、やっぱやめない?」


「冗談じゃ。そもそもあの組織に対して思い入れはない。部下も勝手に集まって崇めてくるようなやつらばかりじゃったからな」


「そ、そう」


「まあ、命令には良く従うから使い勝手は良かったがの。代わりになるものが、おればいいんじゃが……」


 そう言われたとたん、3人はビクッと震えた。


「あーあ。喉が渇いたのうー」


「み、水買ってきまーす」


「わ、私も!」


 アイシャとミナがすかさず動いて水を買ってきて、メオンに渡した。

 メオンはニヤニヤ笑いながら水を受け取る。

 いや、こいつ性格悪いねー。あと、アイシャとミナはかなりビビリだなー、速攻で買って来たぞ。


「お前ら……情けないと思わんか……」


「てへ」


「だって怖いもん……」


レミは2人のビビりっぷりを叱る。


「あー。ところでだが……何処に行くつもりなんだ?」


 レミが尋ねてきた。


「竜王の巣だ」


 俺がそう言った途端、3人の目が点になった。


「へ? 嘘だよねー?」


 ミナがそう聞いてきた。


「本当だ」


「な、何でそんな危険な所いくの?」


「呪いを解く方法を賢者に聞きに行くためだ」


「「「…………」」」


 3人は言葉を失っているようだ。


「別に無理してくる必要はないぞ」


「うっ」


「……い、行くしかないの?」


「……のようだな」


 物凄くしぶしぶといった感じだが、3人は付いてきた。


 こうして俺達の竜王の巣への旅が始まった。




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