懺悔其の三十三 なんでやねーん!
「アンタ、飴ちゃん食べるか?」
「はあ、どうも」
「なんや、元気ないな! 気合いれや!」
何だこの無駄に元気な関西弁のオバちゃん……
パンチパーマに虎ガラのコート着て……流石にまだコートは暑くないか?
てか関西のオバちゃんって飴は必須装備なんだな。
「えーっと、ここが何でも相談所で合ってるんか?」
「いや、ここ懺悔室だから相談事もしてるけど基本的には懺悔するところだから」
「懺悔室ってアレか?神さんやったか、キリストさんやったかの像が懺悔内容にマルかペケだしてペケだと上から水が降ってくるやつやろ?」
「は? なにそれ?」
なにそれ? オバちゃん懺悔室を何と勘違いしてるんだ?
「なんや、アンタ知らんのか? あんなごっつ面白かった番組を」
「しらねーよ」
「あかん……そうか今の若い子は知らんのか……」
オバちゃんは何故かショックを受けている。
それはそうと何しに来たんだ?
「それでここにはどういった用件で?」
ショック受けてたオバちゃんは立ち直ると。
「ああ、そうそう。そうやったここには相談があって来たんやった」
「相談はいいけど内容にもよるぞ」
「ああ、そんな難しい内容やあらへんて」
絶対にこれ関わっちゃダメなパターンだぞ。
「あのなぁ、今度大阪でな素人漫才のコンテストでなS1グランプリってのがあるねん」
「お帰りください」
「なんや! まだ何も言ってないやろ!」
「絶対にロクな話じゃないってわかるんだよ!」
アタシは先制攻撃を仕掛ける。
これは、これ以上聞いちゃいけないような気がしたからだ。
「何言ってんの! 絶対にええ話しやで」
「それ一番信用できないタイプのセリフだろうが!」
「なんでや、コンテストに出る相方探しとるだけやないの!」
「何でそれで懺悔室に来るんだよ!」
「うちが知りたいわ!」
逆切れしだしたぞこのオバちゃん!
質が悪いな!
「適当にネットで募集かけろよ」
「アンタねぇ、オバちゃんにそんな高度なことできるわけないやろが!」
だから何でキレてるんだよ!
「調べるか知ってる人に聞けよ!」
「教えてもろた程度でオバちゃんが使えるわけないやろ、オバちゃんの携帯見てみ!」
「ん? ……携帯?」
オバちゃんが取り出した四角い物体を見る、携帯にしては小さいぞ?
ガラケーでもない、あれは何だ?
四角の小さなケースに電卓のような液晶画面が付いてるぞ……?
まさか、アレって。
「それポケベルじゃねぇか! 実物初めて見たぞ!」
そう携帯電話ですらなかったのだ! 化石だろ化石!
「は? あんた携帯電話見た事無いんか?」
「いや、だからそれポケベルだって、通話機能なんて無いから」
「アホ言うな、これで連絡取れる言われたわ」
「連絡は取れるけど、どうみても電話じゃないだろ! そもそもダイヤルどこだよそれ」
「タッチパネルいうヤツやないんか?」
何でそれを電話と信じてるんだこのオバちゃん!
「ならタッチしてみせろよ!」
「やったるわ!」
オバちゃんは必死で液晶部分を連打する、しかし反応なんてするわけがない。
「なんやねんこれ! 反応ないわ!」
「ポケベルだから仕方ないだろ」
「ほんならこれどうやって連絡とるん?」
確かそれは連絡する機械じゃなくて、受信する機械だったよな?
「確かそれって、電話で送った信号を受けて数字を表示する道具だったような気がしたぞ」
「はぁ? こっちから連絡するなら電話がいるって、電話した方が早いやろが!」
「アタシに言うなよ!」
アタシが渡したんじゃないんだし知るかっての。
「これが最新のスマホですって渡されたのに、全然ちゃうやないか……」
オバちゃんは真実を知りうなだれている、ポケベルをスマホと偽って騙す方も騙す方だが、それを信じる方も流石に無知すぎる気がするぞ。
「これ、二九八〇〇円もしたんやで……」
「たっか!」
「くそ、こうなったらアンタを殺してウチも死んだる!」
なんてぶっ飛んでて迷惑すぎる思考だ……
アレでよく今までやってこれたなぁ。
「いやいや、なんでそれだけの理由で殺されないといかんのだ」
「え? 普通は騙されたらそうせなあかんちゃうの?」
「しねーよ、普通は警察に届けるだろうが。それで切った張ったなんてしてたらもたないわ」
「まあ、そらそうやな」
オバちゃんはポケベルをしまうと。
カーテンを勝手に開けてアタシをマジマジと見る。
「アンタ、ええなぁ。なかなか鋭いツッコミ入れてくるし、オバちゃんほどやないにせよ中々の別嬪さんや」
「断る!」
「なんでや! またなんも言っとらへんやろ」
「アタしゃ漫才なんてしないぞ!」
オバちゃんは完全にアタシをターゲッティングしてるな。
まったく、シスターのアタシが漫才なんてやってどうすんだよ。
「勿体ないなあぁ、アンタとオバちゃんならお笑いの天下取れるで」
「いらないし」
「ほんならオバちゃん誰と組めいうんや」
「知らないから、ネットで募集でもしろよ」
「アンタねぇ、オバちゃんにそんな高度なことできるわけないやろが!」
だから何でキレるんだよ!
「調べるか知ってる人に聞けよ!」
「教えてもろた程度でオバちゃんが使えるわけないやろ、オバちゃんの携帯見てみ!」
オバちゃんは四角い物体を……
「それさっきのポケベルだろ! クソ! しまった天丼てやつか」
「気付かれたか、やっぱアンタええわぁ」
「だーかーらー、アタシの本職はこっち!」
「迷える子羊救おう思わへんのか?」
オバちゃんってなんで、こういう時だけ立場を武器にしやがるんだよ……
「仕方ないな、この動画見てみな」
「ん? なんやの?」
アタシは前にここに来たオバちゃんの動画を見せる、信者獲得のためにピーチューバーになって大人気のオバちゃんだ。
「なんやのこの人? しょっぼい芸でなんでこんな人気なんや?」
「このオバちゃん、人気者なりたくてピーチューバーやってるんだよ」
本当は信者獲得だけどな。
「ほほう、しかし売れてるだけあって光モン持っとるなあ」
「ああ、どうだ? このオバちゃんと組んでオバちゃんユニットなんてどうだい?」
「ああ、これならその人がボケでオバちゃんがツッコミならいけるで! オバちゃんはツッコミも得意やさかいな」
アタシはこのオバちゃんを信者獲得オバちゃんに擦り付ける。
「信者獲得のためにって、説得すれば簡単に組めるはずだぞ」
「なるほどな、動画から見てもそういうキャラ作りなんやな。徹底しとるなぁ」
「アタシよりは適任だ」
「ふむ、わかったで。この人に当たってみるわ」
よし、アタシへの興味をそらすことが出来たぞ。ありがとうゴッデス神代、君の事は多分忘れない!
「ほな、おおきに。オバちゃんこの人にコンタクト取ってみるわ」
「ああ、貴女に神の御加護を」
オバちゃんはそう言うと懺悔室から出て行った。
「おっしゃ!まっとりや、天下とったるでー」
――
――――
後日、二人はちゃんとコンビを組んでいた。
『なにわの神さんズ』というダサイコンビ名のオバちゃん二人組ユニットでS1グランプリの三位になっていたとかなんとか……
「オバちゃんの行動力ってすげーなぁ……」
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