ある朝、起きたら……

故水小辰

マスク男の夢

ある朝、起きたら、そこは薄暗い部屋だった。


照明といえば非常口と思しきかすかな緑色の光だけ、おぼろげな視界は何の情報も与えてくれない。唯一分かるのは、自分が寝転んでいるベッドが自分のもの——昨日の夜、確かに身をうずめた柔らかいベッドではないということだ。背中に当たる硬い感触は、家の床で寝落ちした時のあの感覚を思い出させる。俺は部屋をよく見ようと、硬いそれに手をついて身を起そうとした。が。


手が動かせない。


ぼんやりしていた頭が急に覚醒した。まさかと思って動かした脚も何かに阻まれる。どうやら俺は、四肢をベルトか何かで台に拘束されているらしかった。


「何だこれ!!」


暗闇に俺の声が響き渡る。手足をばたつかせる音がさらに反響して、部屋の中は一気に騒々しくなった。


「誰か!誰かいないのか!?助けてくれ!」


ガチャガチャ、ガタガタ、俺は力の限り叫んで暴れた。と、その時。


どこかで、バタン、と重い扉の閉まる音がした。

続いて、何人かがこちらに向かって歩いてくる足音。俺は暴れるのをやめて、唯一動かせる首をねじった。5、6人はいるだろうか、足音が部屋の前で止まったかと思うと、ピッ、ガチャン、ギイイイイイ……と部屋のドアが開いた。


そこに立っていたのは、不思議な形のマスクをかぶった男たちだった。

一人がドアのわきのスイッチを押すと、パッと部屋が明るくなった。そのまぶしさに思わず目を閉じる。俺を囲むように移動する足音を聞きながら目を開けると、見覚えのある光と天井が広がっていた。不思議に思って男たちの間から周りを見ると、そこには見覚えのある光景が広がっていた。


壁際の机。青いカーテンとサボテンの鉢植え。その下のベッド、キッチン、便所と風呂場に続くドア、廊下と玄関のドア——間違いない、ここは俺のアパートだ。


「何だ、これ……」


天井に目線を戻すと、マスク男たちが俺を見つめている。2つの黒いレンズとチューブの伸びた呼吸器のついた濃いカーキ色の袋が、俺の視界を埋めている。


「なあ、これは一体どういうことだ?お前ら俺のアパートで何してる?」


俺はマスク男の1人に問いかけた。

男は答えない。


「誰だお前ら?なんで俺の部屋で俺を縛り付けて眺めてる?こりゃ何かのイタズラか?なあ、何か答えたらどうだ」


返事はない。

男たちは、ただじっと俺を眺めている。俺はため息をつくと、もう一度口を開いた。


「なあ、いい加減に……」


と、その時。

突然、1人が俺の口を塞いだ。続いてもう1人が俺の口に、奴らのと全く同じ呼吸器を取り付けた。チューブの先には革袋のようなものが付いている——なんだかバグパイプの袋みたいだな、とぼんやり思ったその瞬間。


チューブから、何やら気体が吹き込んできた。俺はなすすべもなく気体を吸い込んで、そして……。


次に目が覚めた時、俺は床に寝転がっていた。頭の先が掛け布団にすっぽり埋まっていて、かろうじて開いている隙間からフローリングの木目が見える。

俺は布団から這い出して、部屋を眺めた。カーテン越しに、朝日がうっすら部屋を浮かび上がらせている。目覚まし時計を手に取ると、5時ちょうどを指していた。起きて準備を始めるには早いが、かと言ってもう一度寝る気にもなれない。俺はあくびをして頭をかくと、ベッドによじ登ってカーテンを開けた。なんの変哲もない、午前5時の光が部屋の中に差し込んだ。

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